【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず 作:鋼我77
「よーし、入川、あの穴を広げろ。竜宮グループの、アンタはコイツの背を守ってくれ。俺は氷使いを押さえる」
「了解ッ!」
「承知しましたわ」
協力を拒む理由はなかった。祭を終わらせるためには、この蛮王達は邪魔だ。そして一人よりも、複数の方がやりやすい。俺は盾を構えて、崩れた戦列に突撃した。まず、真正面の鎧騎士を弾き飛ばす。背後に居たもう一人を巻き込んで、後方に転がっていく。さらにもう一歩、敵陣に踏み込んだところで盛大に蒸気を噴出させる。
「ぎゃぁぁぁっ!?」
「熱い、熱いぃ!」
火傷でもだえる連中に、当たる端から刃をぶち込んでいく。上手く防ぐ相手には、力尽くでねじ込む。そうで無い相手は、盾でも蹴りでも入れて転がしていく。順調だが、必死だった。
再び直感が、危機を知らせる。それに従い、プラーナを全身に溜め込んだ。
「病よ、蝕め!」
呪いだ! 蛮王の一人が放った黒いマナが俺を包み込む。……よし、耐えられる! 一樹さんが使ってるアレより、遙かに薄い! 鎧からのプラーナ供給もあって、呪いが俺を害する事は無かった。
「今のうちに殴り飛ばせぇぇぇ!」
ウォーハンマーを振り回す、背の低いひげもじゃ親父が襲いかかってきた。どうやら彼には蒸気によるダメージが入らないらしい。とんでもない威力で、身の丈よりも長いハンマーをぶち込んでくる。衝撃が俺を揺らすが、先ほどのクワットのそれには及ばない。百脈分散訣もあって、衝撃によるダメージもたいした物になっていない。
殴り返したいところだが、隙が無い。この親父、かなりの手練れだ。まっとうな技じゃ、とてもかなわない。……なのでまっとうじゃ無い手を使う。蒸気瞬発機、作動ッ!
「ぐわぁ!?」
蒸気の爆発と共に、一瞬で相手に体当たりを決めた。熟練の戦士といえど、これは予想できなかったらしい。もろに食らって吹き飛んだ。この鎧には、蒸気圧によるピストンが備わっている。腕と足に装備されたそれにより、強力なパンチや大ジャンプが可能となっていた。ただし名前の通り蒸気が必要なので、先ほどのようにブレスで使い切ると作動不能となる。使いどころの難しい奥の手だ。
「イィィィィヤッ!」
竜宮代表は、俺たちのフォローに奮闘してくれていた。背後に回ろうとした蛮王を、さらに横から蹴り飛ばす。背面の守りがあるだけで、乱戦がどれだけ戦いやすいことか。しかも、彼女はこの祭の景品であり罠だ。うっかり殺した日には覇王を敵に回す。おかげで誰もが、本気で殴りかかれないで居る。そんな奴らは俺らにとっていい的だ。
「
半戸代表のアビリティ、巨大な竜の手が中に浮いている。彼の狙いは先ほどの宣言通り、氷の魔法使いだ。
「おのれぇぇぇぇ!」
笹耳の女性が怨嗟の声をあげた。それも当然、彼女の放つ氷の魔法は全て半戸代表に防がれている。掴まれて、捨てられている。……以前にも思ったが、あのアビリティかなり使い勝手が良いな。
そんな頼もしい手が、不意に消えかけた。慌てて振り向けば、半戸代表が片膝をついている。
「……やべえ、ガス欠だ」
あれほど豊富だったマナとプラーナが、今は見る影も無い。……いや、元々無茶だったのだ。半年以上、牢獄生活だったのにいきなりこんなに暴れたのだ。むしろよく、いままで大はしゃぎできたと思う。流石と言うべきか、呆れるべきか。
とはいえ、不味い。これで氷使いがフリーになってしまった。となれば、その矛先は間違いなく……。
「勝機! 風よ、大地よ、死の眠りを与えたまえ!」
「オラァ!」
判断は一瞬だった。剣を落として、投げ槍を呼び出す。オイルが金属の筋肉を肥大化させる。その力を使い、氷使いへと投げつけた。同時に、全身を突き刺すような冷たさが襲う。鎧が凍り付いていく。竜の心臓が眠りについた。
「ギャッ!」
唯一幸いだったのは、狙い通り氷使いに命中したこと。直撃では無かったが、引っかけただけで十分だ。腕の肉が削れ、血が飛び散った。十分重傷だ。血止めをしなければ命に関わるだろう。それより、俺の方がヤバイ。
「ぐ、う、ううう」
身体の熱が抜けていく。寒い。骨の髄まで凍えてくる。周囲の蛮王が、武器を振り上げている。あれを早く使わなければ。そう焦るせいで、余計に上手くいかない。いよいよ意識が朦朧としてきた。
「アアアアアアッ!」
聞き覚えのある、竜宮代表の咆哮。熱! 強烈な光が俺に叩き付けられている! 護符がそれを俺へと注ぎ込む。プラーナが戻る。心臓が再稼働。加圧機が唸りを上げる!
「だあぁっ!」
跳ね起きた。群がっていた連中を、片っ端から殴りつける。……いや、数が少ないな。立っているのはもう僅かだ。
「危ないところでしたね、入川社長」
「竜宮代表……ああ、ブレスで助けてくれたんですね」
彼女は、その場に座り込んでいた。身体の鱗も消え失せて、元に戻っている。どうやら限界のようだ。危険は……ないな。
「起きたか、イリカワ」
身体に刺さった槍を、ただの棘を抜くかのように処理するクワット。あちこちから血を流しているが、倒れる様子は無い。
「おかげさまで、なんとか。他は……居ないようですね」
「俺はリタイアだー。お後はお前ら、好きにやれよ」
半戸代表も、ひっくり返っている。とりあえずあちらも、無事のようだ。と言うことは、残ったのは二人だけ。
「これで邪魔は入らない。さて、覚悟はいいか?」
クワットが武器を構え尋ねてくる。身体の傷は少なくない。いくら回復するとはいえ、完全にコンディションが復活する物でもないだろう。かといって、不調を期待するのも間違いだ。戦士クワットは、生半可な男では無い。
対して俺自身はどうだろう。正直だいぶ厳しい。特に凍らされたのがきつかった。熱エネルギーで治療されていくが、疲労はどうしても残る。念のために飲んできたハウルボアとファングツリーの実。あれのおかげでなんとか気絶せずに済んでいるが、完全に栄養として取り込むには時間がかかる。
つまり、正念場だ。幸い、彼が最後の一人。後先考えなくていい。全てを出し尽くして勝負に挑むまでだ。
「戦士クワット。……いざ尋常に、勝負!」
そうして俺は、盾を捨てて一本のグレートソードを呼び出した。それは、サイズこそ違うが形は里奈さんが持つそれと瓜二つ。これが宝物庫の奥から出てきた時の驚きといったら。ちょっとした騒ぎになったもの当然だろう。
スティールドラゴン材使用、専用両手剣『タツジン』。達人ではなく断人。命名、俺。かかっている魔法は……あえて語るまい。ただこの一言だけあれば良い。断神の加護ぞある。
「オオオッ!」
先手、クワット。右の巨大な片手剣が地を這うように俺に迫る。
「オラァッ!」
全力で、それに合わせて振り上げる。鎧の力のおかげで、トロールの筋力と互角に打ち合える。火花が飛び散る。
「イヤァァッ!」
今度は両肩のメイス! 鉄塊が二つ、頭上から振り下ろされる。大丈夫、これも行ける!
「シャァァッ!」
斬るというよりは、打ち上げる。剣というよりはベースボールバッドを振るように、メイス二つをまとめて弾き飛ばす。上体が僅かに浮いた。今ッ!
「フンッ!」
横一文字に、剣を振る。分厚い皮が裂ける。血が飛び散る。だが、浅い!
「
ここで、クワットは切り札を出してきた。プラーナが身体から吹き上がる。渾身の、左の大剣が振り抜かれる。
「
アビリティの名を叫びながら迎撃した。衝撃が、全身を駆け抜ける。攻撃は、一回で終わらなかった。乱撃だ。もはや形もクソもない。トロールの筋力とプラーナに物を言わせ、武器を何度も叩き付けてくる。
だがしかし、防御は俺の十八番だ。こんな攻撃、断神の剣に比べればなんともない。読みやすく、捌きやすい。そしてこの手にはタツジンがある。しのげないはずも無い!
「オオオオオオッ!」
吠えた。魂から全力で。抗うために吠えた。払って、払って、打ち払った。百脈分散訣があってなお、臓器に大きく響く。喉元まで、鉄の味がこみ上げてきた。それでも根性で、それを飲み込む。耐えた!
一瞬、右手を剣から放す。この距離だ、外しはしない。右手に現れたのは、陶器の大壺。無地で、安っぽく、中には
「ガァァァァァァ!?」
トロールが吠える。これが最後の奥の手。相手の弱点は前回で分かっている。そして彼が出ると知っていたのだから、準備をしておくのは当然のこと。いざというときの回復アイテムをかねて、作っておいたのだ。
炎が俺を癒やすが、全快にはほど遠い。かまわない、あとの行動は簡単だ。まずグレートソードを逆手に握り、クワットの足の甲へ突き刺す。
「グッ!? 何を……」
地面と縫い止めることに成功。一歩離れる。竜の心臓、全力運転。脚部クロー、対衝撃固定。吸気スロット、全解放。加圧器、限界稼働。蒸気圧力、臨界!
「これでもくらえ! スチームブレスキャノン!」
全身から放たれる灼熱の蒸気が、炎に巻かれたクワットに襲いかかった。
「グワァァァァァァァァァァァ!?」
水が含まれているのだから消火される、というのは素人の考え。燃料があるのだからそう簡単に消えやしない。むしろ風で油が飛散し、炎上面積が増える。酸素も送り込まれるから、炎の勢いも加速する。
蒸気放出が終了するころには、クワットの姿はその場になかった。足を引き上げ、地面を転げ回っている。まあ、剣で刺しただけだしな。返しも無かったし、縫い止め続ける力は無かったか。
「半戸代表ー、まだ動けますー?」
「おー。ちっとなら。お前、えげつないことしたなあ」
「自分でもそう思います。とりあえず、土で窒息消火お願いできませんか?」
「あーあーあー。なんかやったなあ、そういうの。ビル管理だか防火だかの研修で」
そんなことを呟きながら、彼が手を伸ばす。クワットの身体に、次々と土が張り付いていく。燃え上がっていた炎はやがてその姿がみえなくなり、煙と悪臭が漂うようになった。……うん、自分でやった事ながら、罪悪感が酷い!
俺は金属製のタッパーを呼び出すと、それを手にクワットに近寄った。ひっくり返り、浅い息を続けている彼の口に、中身をぶち込む。使うことは無いと思っていたが、念のためと用意したハウルボアの干し肉である。
「ゲホッゴホ!?」
……警告も無く無理矢理口の中に放り込まれたから、普通にむせてた。でも直ぐに咀嚼を始めた。多分香りで分かったんだろうな。以前の例もある。これ食べておけば、死ぬことは無いだろう。
終わったと気を緩めると、途端に疲労を感じた。立ちくらみもする。鎧の力で立ち続けることはできるが、できれば座って休みたい。タッパーを仕舞って周囲を見渡す。蛮王達は、倒れるか退場するかしている。立っているのは俺と……こちらに歩いて来た竜宮代表のみ。
「お疲れ様でした、入川社長。見事な戦いぶりでしたね」
「ほぼほぼ、鎧のおかげです。竜宮代表もお疲れ様でした。ご助力感謝します」
これで終わり……あ、だめだ。先に彼女へ降参しなきゃいけないんだ。それで祭りをノーゲームにできる。俺は両手を挙げて降参のポーズをとる。後は一言……と思ったら、彼女が鎧の腕にてを添えた。そして声を張り上げる。
「覇王
歓声が、コロシアムに湧き上がる。ファンファーレも響き渡る。覇王二人が拍手している。……え? ええー?