【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず 作:鋼我77
祭りの日の夜。身内による慰労会が開かれることとなった。……が、その前に話をしなければいけない人たちがいる。
「あれは、ちょいと前のことじゃ。新しい世界が観測されて、そちらからの来訪者が現れた。なのでワシは早速へ意識を飛ばし、その世界の観測をすることにした」
さらっと凄いことを語っているのはガタイのよいおじいさん、覇王にして竜王の
「しばしそうしていると同族の、竜の魂を感じ取った。この世界の竜はいかなるものかと見に行くと、そこには人の赤子が泣いているではないか。入る器を間違えた娘、それが
隣に居る養女を見ながらそう語る。その目には確かに慈愛の光が見て取れた。しかしその空気を読まず手を上げる男あり。今回の調査を一番楽しんでいる男、歩である。
「質問よろしいでしょうか竜王様。魂の入り間違いというのは、よくあることなのでしょうか?」
「稀じゃな、稀。そこまで世の中の理は乱れておらん。かといってきっちりしすぎてもいないわけじゃが。世に不思議がなかったらこの
「はい、申し訳ありません。ありがとうございます」
「うむ。さて……いかに親が愛情を注いでも、竜と人は違うもの。その齟齬に耐えられなくなったとき、親子の縁も絶ち切られる。案の定、結衣の親はこの子を手放した。そこでワシはあらかじめ手を回していた連中に命じて、この子を引き取らせたんじゃ」
「……ほかにも義両親がいらっしゃると?」
「いいえ。ちょっと違うんですよね。家族みたいでしたけど、具体的に誰が父親、母親というのはありませんでした」
俺の疑問に答えたのは竜宮代表だった。
「竜は挑まれてこそ、というのがお爺さまの信条でして。なので自分に挑む気骨がありそうな人々を日本へ思念を飛ばせるようになってから集めていらっしゃったのです」
「……貴女が赤子ということは二十年近く前でしょう? その頃からすでに自在に移動できたと?」
マリアンヌさんが静かに問うが、内心穏やかじゃないだろう。大物がひょいひょい移動してきたんじゃ、壁の意味がなくなるからな。
「いやいや。その頃は全然じゃ。でもまあ、待っていればその内どうにかなるもんじゃから」
「ドラゴン的時間感覚……!」
「ウォーカー、ちょっと静かにしていろ」
「まあそんなわけで、そういった方々に育てていただいたのが私というわけです」
竜宮代表はそう笑顔で語っているが、また一つ謎が明らかになってしまった。ヤクザな方々が、ある時を境に次々と解散した事件。その裏には異世界の竜王がいた……そんなの分かるか。怪しいオカルト雑誌でも書いてないよこんなこと。
今回、こんな話が多すぎる。しかもそれに関わっているのが身内や友人ってどういうこと? ……いや、逆なのか? この人達は集まるべくして集まって、俺はその中に紛れ込んだだけなのか? 運命とか宿命とか、そういう物が本当にあるのか? ……止めた止めた。考えたって答えなんか出るものかよ。
「竜宮グループがダンジョンカンパニーとして大成した理由の一端が垣間見えましたね」
「マナやプラーナの知識が、そういうルートでもたらされていたわけですね-」
勝則と小百合がそんなことを言っている。あとは元ヤクザ屋さんの中で見繕ったんだろうな、バリバリ戦える人たちを。
「まー、そんなわけで、じゃ。結衣の夫に求められるハードルはアホほど高い! 一般的日本男児じゃまず無理。しかしお主はそれを飛び越えたので、遠慮無く持っていくと良いぞ」
「いやいやいやいや。そんな簡単な話じゃないでしょう玄覧様。兎にも角にも本人の意思が第一だと思うんですよ」
まるで犬猫を渡すかのように軽く言ってのける竜王様。本当勘弁してほしい。
「あら、私の意思は先ほどあの場で表明しましたけど」
「そう。それが不思議だったんですよ。何故あの発言を? あとは一言、俺を選ばないと言えば終わったじゃないですか」
そう。それで丸く収まった。一件落着となるはずだった。俺は間違ったことを言っていないはずなんだが。竜宮代表が、目をすがめてこちらを見てくる。責められているように感じるのは気のせいなのだろうか。
「マリアンヌさん、里奈さん。これは一体どういうことですか」
あげく、こっちの二人にまで問い詰めてくる始末である。
「春夫さんは、ご自分を客観視するのが苦手でして……」
「良いことをして貰ったら、そのあとは嬉しい位にしか考えてないんですよねー」
「いい加減に、自己評価が低いところ直してほしいんですけどね」
「大変酷い言われよう。遺憾である。後さりげに混ざってくるなサッチー」
抗議の言葉は届かない。俺が何をしたと言うんだ。そう思っていると、竜宮代表がこれ見よがしに大きくため息をついた後に問うてきた。
「はぁ……あのですね入川社長。普通の人は危険極まる大会へ飛び込んで、一人の女の幸せのために命を危険に晒したりしないんですよ。そんなのは物語の中だけです」
「いやまあ、それはあくまで普通の話であって。ハンターとして活動して、特別な装備を貸与してもらえる環境にあればこれくらいするのでは」
「……社員および同道した皆様、社長より強い人ばかりでしたけど助けるって言い出した人いましたか?」
「いやまあそれは、立場や何やらで言い出せないというのもあるかと思いますし……たまたま、俺はいろんな条件をクリアーできたので」
蛮王しか出られない云々とかね。このように俺は何も間違ったことを言っていないはずなのだが、またも竜宮代表の顔は別方向に向けられた。
「マリアンヌさん。この人いつもこうなんですか?」
「わかりました、わかりました。ここは私にお任せください。……いいですか、春夫さん」
「なんでございましょう」
「端的に伺いますが結衣さんの事、お好きですか?」
「二人も恋人がいるろくでなしでも、お答えするには難しい質問なんですがそれ」
この状況で何を聞いてくるんだ。俺たちだけじゃ無いんだぞ居るの。家の社員に覇王に悪い魔法使いと武仙がセットになってるんだぞ。
「では私たち二人への遠慮を排除して、お答えください。もちろん、相手に失礼の無い限りは怒りませんよ?」
「……そうおっしゃるなら、まあ。えー、好ましい女性だとは思っていますよ? 社交性のある方ですし、現場に出る度胸と実力もある。自分を含めて、多くの男性が魅力的だと判断するでしょう」
マリアンヌさんの後ろで小百合が『はっきり言えー』と口を動かしているが無視する。かっつん、お前の妹兼嫁なんとかしろよ。
「ではもし、お嫁さんにできるとしたら?」
「……嫌という男は居ないんじゃないですかねえ」
「いけませんよ春夫さん、そんな嫌そうな顔をしては。ではなぜ、やったぜ三人目の美人嫁ゲットだ! とならないのですか?」
「すでに二人も恋人がいるのに、それをやるのはあまりにも女性に対して失礼過ぎるでしょう。俺が他人だったら迷わずドラゴンアーマーで踏み潰しています」
ぐしゃっとね、迷わずに。
「でも、この間私も里奈ちゃんも受け入れどんとこい! とお伝えしましたよね?」
「うん、それがわからんのです。何故そんなことを仰るのです?」
普通は嫌だろう。少なくとも俺だったら嫌だ。好きな人を他の男とシェアしろとか言われた死ぬ。絶対に死ぬ。死因はあれだ、三国志で言うところの憤死ってやつ。
「なるほど。そこが引っかかっていましたか。確かに大事なところですね、はっきりお答えしましょう。……もし春夫さんが私たちに隠れて他の女性と遊びと性欲で肉体関係をもっていたら、流石に私も怒ります」
「そんなことをした時点で殺していいと思いますよ俺は。かっつん、そんときはバッサリ頼むわ!」
「はい。その傾向が見られたときは容赦なく。ですが、端的に言って無理では? いつでも魔女殿に心が読まれる状態なのですよね?」
「うん、そう。フリーパス」
隠し事とか無理だよ。隠す方法分からないし、知りたくないよ。竜王様やオステアさんがものすごいものを見る表情を向けてきたけど気にしない。今更今更。
「はい。春夫さんは常に、私たちの幸せを考えてくれています。だからこそ、ここからさらに一人増やすという非常識に耐えられない。私たちを不幸にすると考えていらっしゃる」
「そーです」
「そこの勘違いを正しましょう……一人増えた程度で、私たちは不幸になったりしません! 世間一般の小娘共と一緒にしないでいただきたい!」
「ぬぅ」
……確かに、普通の女性で無いことは間違いない。広大な土地と資産をもつ、魔法世界の第一人者。モデル業界で今だ引っ張りだこの、日本の英雄。そして西日本最大のダンジョンカンパニーの主にして竜王の養女。
うーん、一般人が一人も居ない。
「むしろ普通に扱われた方が不幸になります。……春夫さんは時々こう考えていますね? 私たちにふさわしいイケメン、高学歴、高身長、外資系エリートサラリーマンがいるはずだと」
「……まあ、時々」
「この際はっきり申し上げますが、大きな間違いです。その程度の男が私たちについてこれると思いますか? そんな星の数ほど居る一般人、三日と持たずに潰れますよ?」
「ぬぅぅん」
ぐうの音も出ない。確かに、いかにハイスペック男子といえど一般人では無理だ。
「私とお付き合いできる条件は、剣を受けられるかどうかでーす」
「こっちはお爺さまが認めるかどうかですね」
「社長。かぐや姫もびっくりの無理ゲー、なんでクリアーしちゃったんです?」
「なんでだろうなあ……」
宏明が真顔で聞いてきた。そんなことを言われても困る。なるべく誠実にやっていこうとした結果なんだけどな。
「まあ私は色々アレですから例外としますけど。里奈ちゃんと結衣ちゃん、下手すると本気で誰ともお付き合いできずに一生過ごしていた可能性が……」
「ぴぃ」
「マリアンヌさん、真実は人を傷つけるんですよ? ほら、里奈さん泣いてます」
よよよ、と美女三人が抱き合っている。とても華があるんだけど、残念さも感じたり。
「と言うわけで、私たちとしては春夫さんで全く問題ないわけです。ご理解いただけましたか?」
「とりあえず理解はしました」
多分一生納得はできない気がするんだけどね。これはもう性分かもしれない。そんなことを思っていたらずい、と竜宮代表が身を乗り出してきた。
「入川社長……いえ、春夫さん。結局の所、私たちの気持ちが気になるんですね?」
「まあ、はい。そうですね、嫌いな相手と結婚なんて酷い、というのが今回飛び込んだ理由ですし」
そう答えたら彼女はこれ以上のない、極上の笑みを浮かべた。
「それなら簡単です。……私を、私たちを思いっきり、惚れさせてください。メロメロに」
……心を打ち抜かれるような一言だった。うん、まあ、そうだ。甲斐性なら、そこそこある。彼女達もそれぞれ稼いでいる。一般人以上の幸せは、自分で手に入る。あとは心の問題。そして恋人、夫婦の間を繋げるのも心だろう。
つまり俺が頑張るだけで、三人の女性が問題なく幸せになれるわけだ。……極めて非常識な話だ。しかし全員、常識の外にいるのだからそういう事もあるのだろう。いやはや、とんでもないことになってしまった。
「そういうことでしたら、はい、頑張ります。責任を取ります。よろしくおねがいします」
「わーい、可愛い女の子、また一人ゲットー」
「師匠、そこでそれを言うのはあまりにも欲望に正直すぎませんか」
「ほほほ。皆で仲良くやっていこうと言うだけです。……さて、暴走卿、竜王玄覧。間接的ですが政略結婚が成るわけですが、よろしいですか?」
マリアンヌさんが、上座に座る二人に声を掛ける。まず口を開いたのは一樹さんだった。
「あー……じゃあちょっとだけ、個人として語ります。こっちとしては、一時的にでも敵が減るのは歓迎です。いつほかの覇王がケンカ売ってくるかわからないのでね。なので中立でも助かるって感じです」
「うむ。結衣と良くやってくれる限り、ワシから動くことはないと約束しよう。……ああ、個人でケンカしたいっていう話ならいつでも歓迎じゃ!」
ニコニコ笑顔で物騒なこと言ってるよこのマッチョじいさん。絶対やらない。ドラゴンアーマー着てても、勝てるビジョンが見えないもの。
「まー、細かいことはあとで配下を寄越すからそいつらと良くやっておくれ。商売できると嬉しいのう。やっぱ銭は大事じゃ」
「はいはい、それはもう! しっかりよろしくやらせていただきますとも!」
わあ、あの悪い魔法使い、目がお金マークになってるよ。それを呆れてみていると、ぐいと背を押された。振り返れば小百合がふくれっ面をしていた。
「これでお話は終わりですよね社長? じゃあさっさとお酒です」
「だいぶ主語を飛ばしたなお前。そんなに飲兵衛じゃないのにどうしたの?」
「今日は! 飲まないと! やってられないんですよ! 本当はもっと早く酔い潰れたかった! だって母親がアレですよ!?」
小百合が半泣きになりながら、オステアさんを指さす。あ、早速笑顔でピースサインしてる。ブレねぇなあ……。
「私だって、母親には色々と夢や願望があったんです! 絶望を突きつけられたときの気持ちが分かりますか!?」
「ぶん殴ってやりたいって気持ちはよーく見せて貰ったが。……っていうか、よく母親だって信じたな?」
知っている人間とはいえ、恨み重なる相手がいきなり自分が母親だと言っても信じられないと思うのだが。……歩が今ぼそっと『あいあむゆあマザー。ごーっぱー』とか呟いて、小百合に猫のような威嚇をされているのは正直ちょっと面白かった。
「……正直、昔から変だなとは思っていたんですよ。私を見る目とか。あと、成長するにつれて似てきた事とか。まあそれは、ずっと否定し続けていたんですが。ですが、最大の理由はやっぱりあの時に言われたという点です」
「タイミングが、信じる理由になるのか?」
「ええ! だって、あのタイミングで言われたら、絶対頭に血が上るじゃないですか! その後の振る舞いもぜーんぶ、私から余裕を失わせる為だったんです! 私は分かるんですよ! そういう最悪なタイミングに最悪の真実をぶちまけてくる! 特別顧問はそういう女です!」
オステアさんを見る。舌べらだして両手でピースサインしてきた。あ、三郎君がドロップキックを! 当然魔法の盾で止められたけど、オステアさん顔が引きつってら。
「510! なんだいその雑なキックは! そんな技、教育されて無いはずだよ!?」
「どうせ当たらねえなら、ビビらせる方が得だろうがよ。いくらてめぇでも、でかいもんが突っ込んで来たら肝を冷やすよなぁ?」
「くそ! いい心理攻撃だ!」
「……感謝します三郎。まあそんなわけで、あれが遺伝子上の母なのは多分間違いないです……間違いないんですが、だからこそ余計に腹立たしく」
「まあ、さもありなん」
悪い魔法使いが自分の親。確かに辛いだろう。俺は……俺の親は、駄目な凡人でしかない。俺にとっては最悪だが、人様に迷惑掛けていないだけマシなのかな。どっちにしたってもう家族とは思いたくないが。
そんな風に思っていたのが、小百合の爆発はまだ収まっていなかった。
「何より! なんであっちの方がスタイルいいんですか! 血が繋がってるなら、私の方だってボリューム増えて良いじゃないですか!」
一瞬、空気が固まった。それが解除されると、残ったのは憐憫の気配である。多くの人が、小百合とオステアさんを見比べた。かろうじて女性のラインを取っている方と、外見不相応にスタイルが良い方を。
が、一人だけ違う反応をした。他ならぬもう一人の当人、オステアさんである。
「シェンシア、ちょっと200……小百合の身体を見てもらえます?」
「いいよ」
「え、なんですか……ちょっと?」
武仙様に遠慮は無かった。小百合の身体のあちこちを触っていく。その手つきには一切の嫌らしさがない。スポーツ選手の身体をチェックするトレーナーのそれと同じだった。一分弱、それを繰り返してからシェンシアさんは一つ頷いた。
「なるほど」
「わかりましたか。どうなんです?」
「理想的。無駄がない。
「そう言うことですか。高いマナ適性が、不老化に近い状態を起こしていると。よかったですね小百合。貴女ダンジョンに関わっている限りずっと若いままですよってうわぁ!」
「キィィィィーーー!」
「止めろ! 小百合を止めろ! ありゃ不味い!」
慌てて社員総出で小百合を止める。この間よりもキレてる。半泣きだし。魔法の盾に張り付いて殴り続ける彼女を何とか引き剥がした。うーん、マジで力が強い。
「殺す! この女殺して火山に放り込んで悪役みたいにカーッカッカッカ! って笑ってやるー!」
「悪役は止めようね。オステアさん見たいになっちゃうから」
「キィィィーーー!」
「先輩、これ以上刺激しないでください!」
「すまん。今のはマジで失言だった! とりあえずもう酒飲ませて寝かせよう! 全員移動!」