【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず   作:鋼我77

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第21話 実戦検証

「おっしゃこーい!」

 

 声を張り上げて、怪物の前に立つ。ガス状の人型に、表情はない。こっちを見ているかもわからない。しかし、腕を振り上げてくる。それに合わせて力を籠める。

 

「ふんっ!」

 

 腕に伝わる衝撃。やはり、この盾はスペクターの攻撃を防いでくれる。これなら前衛をやれる。正直かなり怖かった。が、二人の前でそれを出すわけにはいかない。びびったら、絶対やらせてくれないからねあいつら。

 振り下ろすようなハンマーパンチ。真っすぐのストレート。不意打ち気味のキック。呼吸していない怪物ならではの連続攻撃。強い振動が何度も両腕に走る。

 だが防げる。対応できる。バカみたいに早いわけでも、とんでもない怪力というわけでもない。勝則たちが調べた通り、爆発攻撃もしてこない。なので耐えられる。

 なにより、一対一という状況がいい。

 

「今回も、ミストが効いてます! 行けます兄さん!」

「先輩、お待たせしました!」

 

 二人の覚えた呪文の中に、ミストというものがある。名前の通り、濃い霧を生み出すものだ。本来は相手の視界を奪うだけのもの。兄妹曰く、簡単で単純な呪文なのだそうだ。

 先ほども言った通り、スペクターに目はない。なので本来ならば意味のない呪文だ。しかし二人は仮説を立てた。魔法でしか干渉できない敵。そんな相手を、魔法で出来た霧で包んだら行動を阻害できないか。

 実験結果は素晴らしいものだった。ミストに包まれたスペクターは動けなくなった。それを利用すれば、一体だけ孤立させるこのような使い方もできる。

 なお残念ながらミストの中にいるスペクターを魔法で袋叩きにする、ということはできないらしい。呪文は、その対象とする相手が見えていないと使えないとのこと。何でもかんでも思い通りにできるわけではないらしい。ファンタジーも存外世知辛い。

 

「カット!」

 

 背後にいた勝則が、風の刃でスペクターを撃つ。あっさり吹き飛ぶ右腕。衝撃で連続攻撃が途切れる。チャンスだ。

 盾からクォータースタッフにチェンジする。長さというアドバンテージはこの状況でも有効だ。相手の腕は届かず、淡く輝く棒は相手に突き刺さる。初の攻撃、効果はいかほどか。

 

「効果、大!」

 

 突っついた部分がごっそり消えた。兄妹の魔法一発分に相当する。ではこれを、振り回したらどうなるか。さらに検証!

 

「効果、極めて大!」

 

 消しゴムで撫でるとでもいえばいいのか。ガス状の身体が、見る見る消滅していく。全くすごいものを貸してくれたぜ、あの人はよ!

 最後に剣に変えて袈裟斬り。体積の大部分が消失。そのまま形を保てず雲散霧消となった。パーフェクト。完全なる勝利。前回のリベンジ達成だ。知識と事前の準備ってすごいな。

 

「お見事です、先輩」

「ばっちりでしたね!」

「おかげさんでな。でもまだ一匹だ。この調子で数を減らして……」

「先輩、あれ!」

 

 慌てる勝則の指さす先には、ミストからゆっくりと姿を現すスペクターの姿。プールの水をかき分けるように、ミストに抵抗を感じているようだ。

 

「完全には動きを止められないってわけだな!」

 

 動きが鈍っている今がチャンスと、剣で斬りかかる。が、腕で防がれクリーンヒットならず。命中した部分は消失したが、まだ大部分が残っている。

 そして、霧の牢獄から解き放たれたスペクターは、なんと俺を無視して一直線に小百合を目指した。ミストを維持しているのは彼女である。呪文解除を狙うとは。知恵は無くてもそういう動きはできる、と。

 

「ウインドッ!」

 

 しかし、妹に迫る危機を見逃す兄ではない。彼の手より突風が吹きだす。真正面から浴びれば身体を持ってかれそうな勢い。それがスペクターに命中すると、勢いが大きく削がれた。

 

「やはり、魔法による妨害には弱い。先輩!」

「任せろ!」

 

 このチャンスを逃してなるものか。風に逆らわぬよう、流れに任せて水平に振るう。すぱり、と首が飛ぶ。こいつにとって頭は重要器官ではないから、これだけでは倒せない。しかし斬られた部分から一定範囲が消失するダメージは、十分効果を発揮した。

 首を起点に上下の消失。それがパワーダウンを招いたようで、身体が押し流されそうになっている。スペクターは勝則の呪文に抗うので精一杯。つまりまたもや攻撃チャンス。 あとはこっちのものだった。刃を振るうことさらに三回。切られるごとにスペクターは弱まって、最後には風に飛ばされ消え去った。

 一発で倒せなかったのは俺の技量不足である。突風の中に刃を差し込むというのは初の経験だったし、それで攻撃を上手い場所に当てるというのは困難だった。

 

「スペクター、後何体だっけ!?」

「次でラストです!」

「じゃあ、三人で袋叩きだ!」

 

 というわけで、最後はそのようにした。ミストを維持していてストレスだったらしい小百合の稲妻がかなりの威力を発揮。男二人はちょっと手を出すだけという結果になった。

 戦闘終了。結果を見れば、全員怪我なし。魔法の剣が効果を発揮することを確認。呪文による妨害が有効であることも確認。戦闘経験的に、大いに実りのある一戦だった。

 が、疲れた。一度階段まで戻って休憩することにした。そして、歩きながらふと思ったことを口にする。

 

「スペクター、こんなに簡単に拘束できるなら東京のハンターもそんなに苦労しなかったんじゃないか?」

 

 俺の疑問に、兄妹はそろって悩まし気に首を傾げた。

 

「……推測でしかないのですが。多分、ハンター達はこういった手段を試していないと思います」

「なんで?」

「いくつかのグループを目にする機会があったんですけど皆さん何というか、こう……シンプルな行動を好む方々でして」

「つまり脳筋バカだったと?」

「先輩、私オブラートに包んだんですけど」

「こんな所で配慮もあるまい」

 

 シンプルは悪いことではない。行動が単純化されているならば、迷いなく最速でそれを実行する。先手必勝という言葉を、ダンジョンで働くようになってよく理解した。やっぱり、最初にダメージを与えるのは大きい。

 ゲームならば、HPがある限りそのキャラクターは最高のパフォーマンスを維持し続ける。作品によってはダメージによるパワーダウンをゲーム性に取り込んでいるものがあるがそれはさておき。

 現実ではそうはいかない。怪我をすれば痛みが発生する。それによって怯み、行動が阻害される。こちらがそうなれば、相手はその分さらに行動する。そのまま追い込まれれば、ジエンドだ。

 斯様に、初手からダメージを与えるということのアドバンテージは大きい。その為に即断即決、行動の単純化は間違っていないと思う。

 だが、最善でもない。物理無効のモンスター、スペクターの存在がそれを示している。どれだけ早かろうが当てようが、ダメージが通らないんじゃ意味がない。

 なので、プロのハンターとして正しい行動とは……手数を多く持つこと、だろうか? ダンジョン生活三か月弱の俺なので、これが正解と胸を張って言えるわけじゃないが。それでも、速攻脳筋スタイルだけでは生きていけないのは分かる。

 そんな風に考えると、疑念がわいてくるのも仕方がない。

 

「……東京のハンターが苦戦したのってさ。攻撃魔法ばっかりつかって、からめ手を全く考慮しなかったせいじゃない?」

 

 兄妹は、とても渋い表情を浮かべた。それこそ、渋柿を口にしたかのよう。

 

「あまり考えたくありませんが、可能性はあります」

「強い魔法を使えば勝てる。そういう成功体験ばかり積んでいたような人たちでしたから……」

「業界のエリート集団です。そのような単純な者ばかりだったとは言いませんが……そこそこ目立つ程度には、いました」

 

 大きくため息をつく二人。下請けとして、いろいろ苦労があったのだろう。そして振り回してきた相手が脳筋バカだったと受け入れるには、思う所が多すぎると見える。

 

「ダンジョン発生から十年。長くもあり、短くもある。まだまだ、玉石混交なのかもしれないな」

「我々は、彼らを反面教師にしなければいけませんね」

 

 油断なくダンジョンを進みながら、そんな話を続けた。

 

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