【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず   作:鋼我77

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第38話 汚名と誠意

 スーパー銭湯で汗と疲れを流し、フルーツ牛乳を決めてリフレッシュ。マッサージもしてもらい、こりもほぐした。いやあ、痛かった。火照った体も通常体温に戻ったので、退店。次の目的地へ。

 目指したのはいつものホームセンター……に併設されたデパート。同じ系列企業であり、敷地も共有している。これが出来たため、近隣商店街は壊滅的ダメージを負った……というのが地元民である流の弁である。

 ここで買い物をして、今日のお出かけは終了。会社に戻って解散というのが今日のスケジュールである。休日ということもあり、人通りは多い。ここだけ見れば、ダンジョンやモンスターだのというのがフィクションの話に思える。

 さて、三々五々と散っていく社員を見送ると俺は暇になった。特に何か買う目的はない。生活用品などは社員任せである。本当は自分も付き合おうと思ったが、任せろと言われてしまったのだ。あまり出しゃばるのも良くない。

 となれば時間を潰さなくてはいけない。ホームセンターへ行くのは……ちょっと躊躇われる。会いたいのは間違いないが、話題がない。

 共通の話題はダンジョンしかなく、それにまつわるネタは枯渇気味だ。他所の手伝いをしているんですよ、の一言で終わってしまう。

 いっそ、プライベートについて話題を振るか? いやあ、ダメだろ。所詮俺は客の一人でしかない。そんなのがナンパしてきたら? ウザイだけだ。害悪ですらある。

 そもそも、ほぼ間違いなく彼女はあの店の店員ではない。そのフリをしているだけ。何の目的かもわからないし、それに触れたら姿を見せてくれなくなりそうだ。

 そうなったら非常に悲しい。見るだけ、会話するだけ。それだけでも俺は救われた。ダンジョン管理を始めざるを得なくなったあの当時、彼女に出会えなかったらどうなっていたか。

 御影兄妹がやってくるまで、あの人との会話が俺の支えの一つだった。余裕ができた今でも、気持ちは変わっていない。

 彼女の目的のおかげで続いている関係性。それの邪魔をすればたちまち消滅する。であれば、ここは忍耐の時。会話を重ねて、ゆっくりと関係性を深めていくしかないのだろう。

 なお、魔法の剣に関する契約については考慮しないものとする。あの人の近くで思い出せなくなるという不思議さは、俺の手に余る。どんな地雷が埋まってるかわからん地面の上でタップダンスを踊る趣味はない。

 

「……本屋にでもいくか」

 

 騒がしい店内の中、誰にも聞こえない声でつぶやく。雑誌でも眺めていれば時間もつぶれるだろう。集合時間を携帯のタイマーに入れて、歩き出す。

 店内は、いたって普通のデパートだった。この光景は、今の時代でも変わらない……と考えるのは浅はかなのだろう。見るものが観察すれば、ダンジョン時代の疲弊を感じ取れるという。

 値段、品質、種類、在庫……十年という時間は、確実に一般人の生活に被害を与えている。デパートの経営も、決して楽ではないだろう。仮にこのデパートが潰れてしまったら、地域の生活に大打撃だ。俺たちも困る。

 かといって、救う手立てはさっぱり思い浮かばない。俺の手には余る。個人がどうこうできる話ではない。

 ……思い立って、立ち読みではなく購入することにする。さて、そうすると何を買うか。やはり業界紙か。……おお、断神様が表紙の専門誌があるじゃないか。水着写真付きだと? これは買うしかない。これはラッキー。

 

「ありがとうございましたー」

 

 紙袋を抱えて本屋を出る。そして、暇つぶしの場所を失ったことに気づく。しまったな、どうしよう。いっそのこと、軽食店にでも入るか……? そう思っていたら携帯が呼び出し音を奏でる。

 

「もしもし? 入川ですが」

『先輩、急いで店の入り口に来てください!』

 

 小百合の声は、切羽詰まっていた。

 

「入口って、どこだ。たくさんあるぞ」

『ハンバーガー屋さんがある方です!』

「分かった、すぐ行く」

 

 理由は尋ねない。時間が惜しい。店内を全力疾走するわけにはいかない。絶対に人にぶつかる。なので最大限努力して足を速めた。

 人ごみをかき分け、途中で一度外に出ればもっと早いのではないかと気づくが後の祭り。苛立ちを胸に抱えて足を動かす。ほどなく、飲食店エリアにたどり着いた。油の香りが食欲を刺激するがそれどころではない。

 わずかに聞こえてくる怒鳴り声。それを頼りに進めば、店の入り口にたどり着く。そこには人垣ができていた。

 

「先輩、こっちです、こっち! あ、兄さんも!」

 

 小百合が、俺たちを手招きする。丁度、勝則も別方向から合流した。

 

「何があった」

「黄田さん達が地元の人に絡まれてます! 流さんの同級生とかで!」

 

 居ても立ってもいられず、人垣に飛び込む。かき分けて進めば、酷い光景が俺の意識をぶん殴った。

 

「本当に、申し訳ありませんでした……!」

「もっと大きな声で! 人様にご迷惑かけた犯罪者家族がよお! こんな所にのうのうと顔だしてんだからよお!」

 

 二人が、入り口で土下座させられていた。相手は、流と同い年くらいの男が五名ほど。身なりも体格も平凡だ。どこにでもいが、年の割にはやや派手だ。

 どいつもこいつもにやにや笑って、二人に謝罪を強要している。流たちは、声を張り上げて謝り続けていた。

 沸き上がる怒りが全身を震わせる。今の俺が全力でぶん殴れば、鼻の骨をへし折るくらいは簡単だろう。衝動のまま飛び出そうとしたその寸前、周囲の人間の表情が目に入る。

 薄笑いと嫌悪。同情無し。この光景が当然のものであると、誰もがそう思っているとはっきり分かる。がちり、と俺の中の歯車が音を立てた。かみ合った。いくつかのパーツが組み合わさり、音を立てて回転する。

 使える。

 

「かっつん。奥の手」

「は……は?」

 

 彼もまた、怒りのまま飛び出す寸前だった。そこに俺の言葉をかけられ、意味を理解できず目を見開く。

 携帯と取り出し、振って見せる。

 

「奥の手だ。頼んだぞ。この場は任せろ」

「ちょ、先輩!?」

 

 慌てふためく彼を残し、人垣の前に出た。そのまま、二人と連中の間に入る。

 

「……どちらさん? 部外者はご遠慮願えますー?」

 

 この状況が楽しくて仕方がないのだろう。酔っぱらっているかのような振る舞いだ。それに対して、俺は両手両足を揃え深く頭を下げた。

 

「失礼します。私、ダンジョン屋ミナカタの社長をしております入川です。弊社の社員がご迷惑をおかけした様で申し訳ございません」

 

 初手、謝罪。静かに、丁寧に。連中の楽しさに水をぶっかける。

 

「……はー? 社長? オタク、こんな連中雇ってるの? ヤベーじゃん。ってことは知らねえんだ、こいつらがやらかしたことをさあ!」

 

 ノリを保つため、ことさら大きく騒ぐ。そう、ノリだ。こいつらは今、最高に楽しい時間を過ごしている。正義の棍棒で、悪を一方的に殴りつける。これほど楽しいことはない。この状況を維持したいわけだ。

 そしてこの状況を作っているのは、こいつらだけではない。囲んでいる人垣の連中も同じなのだ。止めるためには、正論ではだめだ。正義に正義をぶつけても争いにしかならない。

 自分たちは、やらかしているのだと気づかせる必要がある。

 

「やらかした、というのはダンジョン管理放棄の件ですか?」

 

 頭を上げて尋ねれば、へらへらとしていた顔は訝し気に歪む。

 

「……は? なんだ知ってんの? だったらなんで雇ってんのよ。犯罪者よ?」

「それについては、関係者全員警察に出頭しました。処罰を受けているわけですので、雇用に問題あるとは考えておりません」

「いやでも、一度やらかした奴なんて信用できねーじゃん。何で雇ってるの、バカなの?」

 

 まあ、そういう意見もある。人は簡単に変わらない。……が、変化しない人間もまたいない。良いも悪いも環境次第だ。

 

「それにつきましては、本人たちが反省を示しているので信用しております」

「ばっかじゃねえの? 反省してますー、なんていくらでも言えるじゃねえか」

「いえ。言葉だけでなく態度で示しています。なにせ、我が社の業務はダンジョン管理です。一度逃げ出した場所で、働いている。これ以上の贖罪がありますでしょうか? 加えて、ダンジョン内の仕事です。口だけで誤魔化す人間に、続けられると思いますか?」

 

 男たちの顔が強張る。取り囲む人垣の表情も変化する。空気が変わる。はい、それじゃあ押し返していきましょうねー。

 

「ダンジョンの管理を放棄したのが罪ならば、今一度それをすることで罰とする。今まさに、この二人は贖罪の最中にあるわけです。法的なものは終わっておりますが、世間様に対するものはこの通りというわけで。ご理解いただけますか?」

「は? いや、でも……許せるかよそんなの! なあ!?」

 

 リーダーらしい男が声をかけるが、仲間および周囲の反応は芳しくない。正義の看板がはがれかけている。が、そもそもその看板は大変薄っぺらく粗雑な代物である。ちょっとつつくだけでこの通り、簡単に壊れる。そして、立て直すのは困難極まる。

 これが、もっとしっかりとした土台と骨組み、つまりは法的な根拠などがあればまた話は別だった。だけどこいつらがやってるのはただの私刑。その場の勢いだけでやっている、実際はかなりグレーな行為なのである。犯罪確定とまでは言えないが、少なくとも白では絶対ない。

 

「こいつらがやらかしたせいで、迷惑被った人間は間違いなくいるんだ! それがのうのうとこんな所で買い物とか、許せるはずねーんだよ!」

「具体的には?」

「ああ?」

「具体的に、どのように被害が出て誰が被害者なのでしょう? ああ、誤解を招きそうな発言でした。彼らの行為で被害があった、というお話を否定しているわけではないのです。私が把握していない被害者がいるのでしたら、謝罪や被害の補填などが必要だと判断したのです。もしご存じであるならば、教えていただきたいと。そう申し上げているのです」

 

 ぺらぺらと、自分でも驚くほど言葉が出てくる。社会人時代、ここまで頭と口が回ればもっと成績良かったのにな、などと頭の片隅に思い浮かぶ。これもダンジョン効果なのかしら?

 さて、突っ込まれた相手側は口ごもる。周囲はざわめき、仲間もやや逃げ腰である。目は口ほどに物を言う。人垣から向けられる猜疑と不信の目は、彼の羞恥心を煽るのに十分だった。

 恥をかかされた、と思えば即座に怒りが沸き上がる。その勢いで吠え猛る。

 

「うるせーよいちいち! なんなんだよてめえはよ! 社長だあ? どこの木っ端か知らねぇけどよ! 偉ぶってんじゃねえよ! ああ?」

「ご不快にさせてしまいましたら申し訳ありません。社員についてのお話なので、責任者として把握したいという一心でして」

 

 再び頭を下げる。さーて、ここからどうしようかなー。一発二発ぐらい殴られるぐらいは許容範囲なんだがなー。

 少なくとも、すでに目的は大体達成している。人垣は状況不利を見て空気が変わっている。いまは黄田一家を攻める視線から、事の成り行きを見守る方向だ。少なくとも、こちらが叩かれる流れではない。そうしようとしているのは相手側、しかもリーダー格の男だけ。

 そして、だいぶはしごを外された感のある彼はいよいよ暴走を開始する。

 

「だったらよお! お前も土下座しろや! なあ!」

 

 ……おおっとぉ? よもや、まさか、ここまでとは。

 

「何故、私が土下座しなければならないのですか?」

 

 冷静に、落ち着いて。上手くすればアガリはデカいぞ。

 

「ざっけんなよオイ! 犯罪者雇ってる犯罪会社が、偉そうに説教くれやがってよ! ワビいれるのがスジだろうがよ!」

「我が社は犯罪など犯していません。いわれのない誹謗中傷はお止めください」

 

 いやまあ、探られると痛い腹はあるんだけどね。具体的に言うとこけ玉菜園。

 

「うるせえ! 土下座っつったら土下座だよ! あと損害賠償だ!」

「おい、そろそろやべーよ、止めとけよ」

「うっせえ! ここまでコケにされて黙ってられるかよ!」

 

 仲間が形勢不利を悟って諫めようとするが、頭に血が上ってそれどころじゃない。もう少しだが……。

 

「すみませんお客様方。お話を聞かせていただいてよろしいですか?」

 

 タイムアップ。警備員が数名こちらにやってきた。

 

「やべえ、行くぞ!」

「くそ、てめえらの面覚えたからな! 黄田! このままじゃ済まさねえぞ!」

 

 そして、連中も逃げ出していく。巻き込まれてはたまらないと、人垣も解散の流れ。残されたのは俺たちだけだ。

 

「先輩、すんません。本当、スンマセン。俺のせいで」

「いいから、立て。よっちゃんさんも」

「すみません社長さん。本当に、本当に……」

 

 謝り倒す二人を立ち上がらせ、警備員に連れられその場を離れる。事情を話し、こちら側に非がないことを伝える。この時、流達がどうして絡まれたかも聞けた。といっても、特別な話ではなかった。

 買い物中に偶然遭遇し、逃げた一件で騒がれた。母親が責められた流は頭を下げ、さらに足りないと言われて土下座までした。息子のその姿にたまらず、母親までも続き連中は調子に乗った。そんな状況で俺が到着したというわけだ。

 ……まあ、俺も悪い。地元民が溢れるデパートに二人を連れてきたのだから。顔見知りがいるのも当然だし、その中に連中のようなアホがいても不思議はない。

 ともあれ、俺たちが問題を起こしたわけでもなかったので説明後に開放された。車まで戻ると、社員たちがエンジンかけて待っていた。エアコンの利いた社内に二人を押し込む。

 

「先輩、本当に、すみませんでした。俺のせいで、あんな連中に頭を下げさせて」

 

 流が、謝ってきた。目に涙を浮かべ、声を濁らせて。深く頭を下げて、全身は震えていた。

 

「全部、俺が悪いんです。俺が逃げようなんて言い出さなければ、親父が捕まる事も無かった。先輩を騙して、ダンジョン押し付けたのも……本当、全部俺が悪いんです。本当に、本当に、すみませんでした……」

 

 きつくこぶしを握り締め、頭を上げようとしない。今回の事は、相当にこたえるものがあったようだ。しょげきりながら、謝罪ばかりを口にする。

 俺は、大きく息を吐いた。やっと聞きたい言葉が出た。その思いと同時に、こいつの運について改めて思う所もできた。

 俺は流を運を持つ男と認識していた。言葉が足りていなかった。こいつがただのラッキーマンなら、こんな目には遭っていない。実家にダンジョンが湧いたりしない。正確に表現するなら、運命に翻弄されている男、とするべきだった。

 今回もまたそう。まさか、銭湯であんな話をして一時間かそこらでこんなことになろうとは。幸運悪運では語り切れない。運命の女神様は、よほどこいつをおもちゃにしたいらしい。

 気になって勝則を見れば、彼もまた俺と同じだった。その表情に、もはや剣呑な物はない。

 

「社長さん。またご迷惑をおかけしまして。やはり、私たちは離れた方が……もちろん、借りたものは必ずお返ししますので……」

「気にしないでくださいよ。今のままで十分ですって。今回の事も、こっちが迂闊だった部分もあるので」

 

 息子と同じく彼女もまた、ずいぶんとまいっているようだ。まあ、衆目の中土下座をさせられれば、さもありなん。

 

「でも先輩、俺……」

「リュー。大学の頃、反省と後悔の違いについて教えたよな。覚えているか?」

 

 学生時代から、ミスって迷惑をかけられていた。そして思いっきり凹んでいるときにに教えた話。かくいう俺も、調子に乗っていた中学時代に教師から教えられたのがこの話。

 彼はしばし黙り、頷いた。

 

「後悔は、自分のミスに凹むこと。マイナスをかぶるのが分かってるから、それが嫌で苦しくなる。反省は、二度と同じ間違いをしないという自分へ誓うこと。後悔から学ぶこと……」

「反省、できるか?」

 

 流はゆっくりと呼吸を繰り返す。そのたびに、気合を入れ直すようだった。

 

「……うっす。ご迷惑、おかけしました」

「よし。ちょっと休んでろ」

 

 二号車のドアを閉める。開けっぱなしでずいぶん冷気が逃げてしまったし。振り返れば、険しい表情の社員たちがいた。

 

「かっつん。映像、取れたか」

「はい、しっかりと。連中の顔と声、発言もできる限り」

 

 スマホの動画再生ボタンを押す。勝則の言う通り、あの連中の顔がそれぞれしっかり写っている。かなりアップのものもあるから、見間違えることはまずない。

 

「……これ、どうやってとったの?」

「呪文の中には、姿を消すものがある。それを使えば、相手に気づかれず近寄るのも簡単だ。丁度、あの時は人垣のおかげでそこそこのスペースも開いていたしな」

 

 これぞ、奥の手。呪文の優位性を使い、決定的な証拠を気づかれずに記録する。市役所でもスマホだけ呪文で隠すという方法を取っていた。あの時は無駄になったが、今回はこの通りである。

 

「その呪文、教えてもらえない?」

「ヒロっちさん? いかがわしいことに使おうと思っていらっしゃる?」

「ないです! これっぽっちも思ってないです!」

 

 大変シリアスな表情でアホを抜かす宏明に、小百合が突っ込む。そもそも、魔法使えんだろうにと指摘したかったが話が進まなくなるので流す。

 

「よし。小百合、よっちゃんさんのお友達ネットワークと接触できるな?」

「はい。お野菜関係で連絡先を交換しています」

「動画を見てもらって、連中を特定しろ。……二人が落ち着いたら、心当たりがないか聞きだすんだ」

「わかりました」

「それで。その後はどうなさるおつもりで?」

 

 事の成り行きを黙って見ていたダニエラさんが問いかけてくる。流石年長者。頭に血が上っている若人とは違って冷静だ。

 

「社会人として、お話をしにいきます。相手も会社勤めでしょうし、これを上の人に見ていただいて今回の件をどうするのか伺おうかと」

「……なるほど。そういうことであれば、私からは何もありません。てっきり、若い衆で襲撃をするものかと思ってしまいましたよ」

「ははは、何をおっしゃるやら。俺は社長で、社員の生活を預かっているんですよ。人の道を外れたことはできません。なあ?」

 

 と、話を振れば仲間たちも笑いだす。目も声も全く笑ってないのだけどね。でも、俺の意図するところは伝わったようで何よりだ。いつまでも、学生気分ではいけないね。社会人として責任を取ってもらおうね。

 

「よし。他のメンツは買い物終わらせて撤収。長居しないようにな」

 

 号令をかけて、離れる。一号車は離れた所に止めてあるので、そちらに向かう。今回、メンバー多くて社用車だけでは全員移動できない。幸い、一樹が自家用車持っていたの一部メンバーはそちらに乗車してもらった。

 足早に歩いていると、物陰から見知った女性が現れた。何やらとても上機嫌で。

 

「それで、一体何を企んでいらっしゃるので?」

「……マリアンヌさん。これは、どうも。企むとか、そんな大それたことは全然」

「あら、ご謙遜を。顔に書いてありますよ? タダじゃ済まさないって。ああ、相手も言ってたからこの場合は『それはこっちのセリフ』と読むべきですか?」

「ははは……」

 

 笑うしかない。どこから見てたのか、聞かれていたのか。ぐらぐらと煮え立っていたはらわたが急速冷凍される。

 

「いやまあ、そこまでひどいことをするつもりはないんですよ? 正式にアポイントとってお話させてもらうだけですし。……結果、相手側の社会的地位は思いっきり死ぬことになると思いますけど」

「でも、それだけではないんでしょう?」

 

 なんだか、彼女は未だかつて見たことが無いほど楽しそうだ。あれほど暑そうな服装なのだが、汗一つかいていない。というか、気が付けば炎天下の中なのに暑さを感じない。これも魔法か。

 

「まあその……別件というか、大本に腹を立てていまして。いっそ連中をそれに利用してやろうかと」

「まあ素敵。社会的に一度殺してからさらに使うなんて、まるでネクロマンシー。魔女的に高評価ですよ」

「ははは……」

 

 本当、笑うしかない。何でこんな楽しそうなんだ? やり返すのを楽しみにしている……ようでは無いんだよなあ。

 

「面白いことになりそうですわね」

 

 酷いことになるのに、彼女の笑顔は夏の太陽より輝いていた。

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