【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず   作:鋼我77

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第45話 ダンジョン屋ミナカタ営業中

 目が覚めたら、病院だった。点滴を受けて、ベッドに寝かされていた。丸一日寝ていたらしい。怪我は身体のあちこちに打撲と擦り傷のみ。ただし熱中症の症状があったとか。ろくに水が飲めてなかったのがやはり不味かったか。

 一樹さんの言葉によればそれに加えてもう一つ要因があったとか。聞いて、感じて、考えて。今はとりあえず納得している。まあ、それについては後回しとしよう。

 俺が寝ている間に、ダンジョンブレイクは無事終息したそうだ。安全が確認され次第、避難地域を解除していくという話。中心地以外は、どんどん人が戻っているとか。とりあえず一安心である。

 あの老人ホームから避難した人たちも無事だったらしく、話を聞いた時は胸をなでおろした。まあ、一通り片付いて俺の体調が回復したと分かるや否や社員たちから山盛りの説教を食らったが。

 必要だったとはいえ、危ない橋を渡りすぎた。もう少し運が悪ければほぼ間違いなく死んでいたか大怪我をしていただろう。反省しなければならない。まあ、もうしないとは言い切れないので、もっと実力をつける方向で一つ。

 ちなみに、説教は小百合、あかりさん、ダニエラさんのトリプルコンボで頂戴した。先生、もう勘弁してください……。

 そんな入院生活は二日で終了。あっという間に、ダンジョンブレイクから二週間が経過した。我が社には、いくつかの変化があった。

 一つ目。市役所から受けたダンジョン管理補助の依頼が終了した。これでしばらく、市内のダンジョンが溢れることはないだろう。

 今回の事で、ダンジョンブレイクを身近に感じた人も多かったようだ。市にはボランティアについての問い合わせもぼちぼちあったとか。当事者としての自覚が、多少なりとも芽生えたのならいいのだが。

 二つ目。ダンジョンブレイクへの対処に尽力した事を、お隣の市から表彰された。避難の補助、つまり老人ホームでの一件も高く評価されたらしい。地元の新聞社も来て、記事にもなった。

 まあ、なんというか。ダンジョンブレイクはもう終わりましたよ、というアピールをしたい思惑が透けて見えたりもするのだが。ともあれ、僅かでも世間様からの評価が良くなるのはいい事だ。社員たちの生活にも影響するし。

 三つ目。東松達の出向が終わった。で、翌日彼らの職場にお邪魔して、その仕事ぶりをお伝えした。ついでに、弾丸サンマの切り身をこれでもかと置いてきた。

 彼らの評価は、(社内やご近所では)すっかり回復した。やはり、ダンジョンブレイクの対処に参加したのが非常に大きかったようだ。新聞には載らなかったが、その分は俺が伝えたし。

 さて、なんでわざわざこんな事をしたのか。理由はいくつかある。まず、純粋に本人たちの働きを評価したため。しっかり反省して、心を入れ替えていた。ダンジョンで真面目に働いた。老人ホームで人助けした。ここまでやったのだから、十分だと考えたのだ。なにより、流達も許したしな。

 うん。最終日にそろって頭下げてた。二人が許したのだから、俺は言うべきことはない。なのでアフターフォローを行った。連中が仕事場で気まずい思いをしなくて良いように。……まあ、ダンジョン食材をばらまいて興味と評判を稼ぐという下心があった事はこっそり述べておく。

 まだまだある変化。訓練について。

 

「これから社長には、プラーナの制御を重点的に学んでいただきます。じゃないと危険なので」

「え?」

 

 退院後、笑顔で一樹さんがそういった。そう、俺は自分でプラーナを生み出すコツをつかんだのだ。きっかけは間違いなく、断神様のあの一撃。あれから逃れる時に全力を振り絞った。自分の出せる全部を使った。

 それがきっかけ。病院で目を覚まし、しばらくしたらプラーナを感じ取れることに気が付いた。いやもう、本当に驚いた。説教終わった後、皆に自慢してしまったものな。……それで説教追加コースになりかけたのは焦ったが。

 そういえば歩が『見事なイヤボーンだと感心するがどこもおかしくはない』などと言っていた。なんじゃそりゃと聞いてみたら、物語のキャラが追い込まれて能力覚醒することを指すのだとか。イヤー! と叫んでボーンと覚醒。なるほど。

 そんなものになった覚えはないが、ともあれコツを掴めたのは喜ばしい。これでダンジョン管理が楽になる。そう思っていたのだけど。

 

「実は断神が、一刀を防がれたことに大変関心を持たれておりまして。秋口にでも、我が社に来訪されると申しておりました。目的はもちろん、社長真っ二つ再チャレンジです」

「……嘘でしょ?」

「本当です。まあ、もちろん大事故を起こさせる気はありませんが。とはいえ何しろ、相手は断神。簡単に倒されては納得してくれません。ご満足いただけるよう、しっかり鍛えませんと」

「待って。待って。そもそもなんで断神様が俺を斬りに来るの!? ご機嫌損ねることをした俺!?」

「一刀、防いだではありませんか」

「ああああああ…………」

 

 がっくりと膝をつく。地面に伏せる。なんたる事だ。ド素人の俺が防いだから、プライドを傷つけた。そういう話なんだろう、たぶん。

 で、それに折り合いをつけるためには、俺にある程度の『斬りごたえ』が必要と。なんとなくそんな感じに思える。

 

「何故……どうして……」

「嘆いた所で始まりません。さあ、訓練です」

 

 と。割とノリノリな一樹さんに促され毎日訓練をしている。前に比べれば、格段の進歩をしているのは間違いない。プラーナを体に巡らせると、なんというか力が湧いてくる。早く走れたり、軽々飛び跳ねられたり。

 一樹さんに言わせれば、この効果は初歩にすぎない。コントロールが上手くなれば、効果は大きくなり消耗は減るそうな。間違いなく、これからのダンジョン管理に役立つ。……のだが。

 怖い。断神様の襲来が怖い。あの一刀を思い出すと体に震えが走る。寝てても時々思い出して夜中に起きる。どうすればいいと一樹さんに相談したら訓練が一番、と答えが返って来た。意外と脳筋だこの人。

 そして最後の変化。

 

「社長。配送車が到着しました」

「おお、来たか」

 

 勝則に呼ばれて外に出る。時間は9時、今日も元気にセミが鳴いている。家の隣には、広々とした駐車場があった。そう、ついに業務用駐車場が完成したのだ。大型冷蔵庫を設置した小屋と、シャワールームももちろんある。

 早速流たちが、台車に乗せて弾丸サンマを運んでいる。先日、地下三階からとってきたものだ。一樹さんの呪文で血抜きをして、一晩冷蔵庫に入れておいた。

 出荷が朝なのは、加工場の都合だ。これほど大きな品なので、作業にはそれなり時間がかかる。夕方渡したのでは残業になってしまうからな。

 出荷用のスロープも問題ない。バックして駐車した配送車に、荷物を運び込むのを助けてくれる。これで腰を壊す心配もなくなった。死活問題だからな。

 積み込まれたサンマの数、四匹。お値段およそ800万円なり。もちろん、ここから人件費をはじめ各種経費が引かれるわけだから純利益ではない。それでも、ケイブチキンとは雲泥の差である。あと、即金ではなく翌月振り込みとなる。金額が大きいからこれは仕方がない。翌々月とかもあり得るのだから、十分早いとすら言える。

 そしてケイブチキンだが、取引は継続していく。移動の関係で、倒さないといけないのは変わらないし。主力商品が変わるだけだ。

 

「ありがとうございましたー」

「よろしくお願いしまーす」

 

 配送車を見送る。これより、我が社は大きな飛躍を開始する。利益は増える。スタッフはダンジョンに適応する。運搬力と戦闘力の強化は、更なる増収に繋がる。そうやって増えた分はもちろん、社員たちに還元する。

 もっとも、支出も増えたので全部渡してやるわけにもいかないが。借金の返済、設備の維持費、備品の補充等々だ。冷蔵庫の為に、業務用電源も引くことになった。電気代がこれからどうなるか、今更ながらちょっと怖い。もちろん、支払えないような額ではないはずだが。

 俺たちがある程度地下二階に慣れたら、また人員を増やすつもりである。人手が増えればそれだけ運べる量が増えるのだから。ダンジョン管理補助のような仕事も、簡単に片づけて行けるようにもなる。

 まあ、その人員確保についてはまた苦労しそうなのだが。今回いろいろ手を尽くしたが、ダンジョンへの忌避感は根深い。何せ十年間で育て上げられた代物だ。気長にやっていくしかないだろう。また、伝手を駆使するしかないのかもしれない。……俺以外の。

 

「シャチョー、片付け終わりましたー」

「装備、持ってきましたよっと」

「おお、ありがとう」

 

 いけない、感慨にふけってしまった。今日もこれから仕事だというのに。さっさと身に着けていく。

 

「今日も二匹ずつにするんですか?」

「重いですし、安全性を考えるとどうしても。運搬用の呪文、作った方がいいですかねー?」

 

 歩と小百合が、今日の作業を確認している。一匹の単価がデカいから、できれば多く持ち帰りたい。しかし重さの問題がある。まあ、そこはこれから対応していこう。サンマを食べ始めた効果は、確実に出てきているし。

 

「呪文の配分はどうしますか」

「先日と同じように。余裕があるのは大事です。イレギュラーは常に起こりうる」

 

 勝則と一樹さんの打ち合わせ。ダンジョンブレイクの時もそうだったが、やはり魔法の力はすさまじい。腕力でどうにもならない時も、これさえあれば道が開ける。もちろん、過信するべきではないのだろうけど。

 プラーナでも、ああいう便利な事が出来ればいいのになあ。アビリティが手に入れば違うのだろうか。

 

「今から出発ですか。行ってらっしゃいませ」

「お気をつけて。無茶をなさらないように」

「一樹ー。大きいの取ってきてねー。あとお夕飯の材料もー」

 

 陽子さん、ダニエラさん、あかりさんが見送ってくれる。賑やかになったものである。来月からは、流の父親である健平が加わる。裁判が早めに片付くらしいと連絡が来たのだ。年齢の事を考えて、彼には雑務と事務仕事をやってもらうことにしている。

 いや本当、色々机仕事が増えてきたのだ。そちらの専門家を必要としていたから助かった。

 社員、パートが揃った。準備も整った。なので宣言する。

 

「はい。今日も暑いですが、熱中症には気を付けて。水分補給をこまめに。体調不良があったら申し出る事。仲間の状態も気を配ってください。そしてもちろん、いつも通りモンスター相手には気を抜かないように。それでは、ご安全に!」

 

 今日も俺たちはダンジョンに潜る。

 

第二章 了

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