【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず   作:鋼我77

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第50話 ファンタジックなお買い物

「こんにちはー。お久しぶりです」

「おお、いつぞやの……今日は商売の話が出来そうだな」

 

 様々なマジックアイテムが並べられた露店。その店主は、迫力のある笑みを浮かべて俺を歓迎してくれた。モノクルをかけた、鷲鼻の男性。洗練された紳士服に身を包んだ、壮年の彼がこの店の主だ。

 

「仕留めたての、弾丸サンマです。こいつとウッドゴーレムを交換していただきたい」

 

 この崑崙マーケットでは、一般的なお金が使えない。理由はここの存在を表の国家や組織に気づかれないようにするため。どんな効果があるかもわからないマジックアイテムが、確認も管理もできない形で流通するなど看過できるはずもない。

 影に隠れて不誠実だが、こちら側にも理由はある。一度表に出てしまうと、値段が際限なく上昇してしまうのだ。マジックアイテムは高い。ダンジョンで使える実用品ともなると、平然と数千万円の値段をつけてくる。

 売る分には、歓迎するべきことだ。しかし自分たちで入手したいとなると、大きな壁となってしまう。そこでここが大いに役立つというわけだ。

 まあ、大変イリーガルであることに間違いない。各国マジックアイテム管理系の法に引っかかる。

 とはいえ今後、ダンジョンでの戦いはさらに厳しくなってくる。一般で販売されている装備では耐えられない状況も出てくるだろう。具体的に言えば、ハウルボアとの戦闘。あの怪物相手に、ホームセンターの装備が役立つとは思えないのだ。

 なのでせっかく紹介してもらった事でもあるし、俺はここを利用することにした。会社の発展と社員の安全を考えれば、選択肢は一つだった。

 もう十分儲けているのだから、これ以上下へ向かわなくてもいいのでは。世間一般ではそう考えるのが普通だが、ダンジョンはこれが通じない。これまた酷い事情があるのだ。

 それはさておき。

 

「よろしい。早速品を拝見しよう」

 

 背負った魚を見せれば、店主は笑顔で指を鳴らした。すると、足元から大柄な骨格標本が立ち上がったではないか。思わずぎょっとして後ずさる。

 

「怯える必要はない。ただの荷運び役だ」

「いやそうはおっしゃいますが……あれ、呪文は許可制だってさっき」

「そのとおり。まったく、細かくて面倒極まる。ちょっと物を動かす術を使っただけでも、あのゴーレムが飛んでくる。なのでこいつをこさえたのだ。死霊術師(ネクロマンサー)の私がゴーレムを、だぞ? アンデッド禁止とか、術の種類で差別など……ほれ青年、一匹よこしなさい」

「あ、はい。かっつん、手伝って」

「……わかりました」

 

 まず俺が後ろを向く。骨格標本……ボーンゴーレム? が、背負子に積まれたサンマの一番上を掴む。勝則がビニールひもを切る。一匹渡すだけだというのに、重量と大きさのせいで一苦労だ。

 なお、御影兄妹は先ほどから緊張しっぱなしである。彼らには店主の実力がどれほどか、分かってしまうのだろう。だから警戒する。俺? 自分の実力は弁えている。ここの人たちが本気になったら逆立ちしても勝てないだろう。できることはせいぜい、二人の盾になって死ぬことくらいだ。なので警戒は最低限。ルールとマナーを守るのが第一だ。

 

「ふむ! 実に新鮮。損傷は脳と神経、あとはエラの……これは血抜きの後か。鮮度を保つ処置だな。できれば血はあった方がよかったが、そこまで求めるのは酷か。結構、結構。よろしい、十分な品だ。ウッドゴーレムとその手引書、もっていくといい」

「ありがとうございます!」

 

 店の片隅にある、木製人形。人と同じ大きさのそれが、俺の目的の品だった。ウッドゴーレム。魔法で動く人形。初めて崑崙マーケットにきてこの店に訪れた時、俺は考えた。こいつで荷運びの補助をさせられないかと。

 戦闘には不向きらしいが、単純作業ならできるらしい。十分だ。階段の上り下りができる、自走する運搬器具。俺たちの仕事には理想的なマジックアイテムだ。

 これほどの道具だが、一般的には使われていない。ダンジョンで発見されることもそこそこあるらしいのに、だ。何故かというと、一般ハンターたちの呪文の使い方が雑だからである。

 彼ら彼女らにとって、呪文とはお手軽な破壊力。とりあえず強い魔法ブッパしていればいい、というのが一般的なのだそうな。補助魔法を覚えるものは少なく、真面目に勉強する者はもっと稀。

 なので、ゴーレムの使い方を調べようなどと思うものは本当に少ないと聞いた。一般ハンターにとってウッドゴーレムは、魔法がかかっているだけの木製人形なのである。

 しかし。うちの御影兄妹は違う。日々勉強をかかさないし、一樹さんからの指導も受けている。

 

「どうだ、分かりそうな感じか?」

 

 マニュアルを渡された二人は、食い入るようにそれを読み込んでいる。

 

「ええ、何とかなりそうです。少なくとも、歩いて帰るくらいはやってみせます」

「おおー」

 

 流石の返答に一安心である。よかった、これ担いで帰ることになったらどうしようかと思ってた。

 

「ふむ。そこいらの呪文いじり共とは違うようだ。しっかりと精進するように。……そういえば、魚はまだあるようだな? どうかね、若き学徒たちにさらなる学びの機会を与えては」

「拝見させていただきます。あいつらのステップアップにいいものないですかね。論理魔術基礎知識って本は読みこんでるんですが」

 

 魔法の事はさっぱりわからぬ。なのでこういう時は店員さんのお勧めに任せるに限る。多少お高い買い物でも構うものか。二人のレベルアップにはそれだけの価値があるのだ。

 

「ふっふっふ。大変結構。それではこちらの本などは……」

「ちょっとまった! その新鮮な弾丸サンマ、こっちで引き取らせて頂戴な!」

 

 声をかけてきたのは、うら若い女性だった。長い髪を三つ編みしている。大きなエプロンには見覚えのあるマーク……。

 

「は! ビッグアント肉まん屋さん!?」

 

 以前訪れた時に、衝撃を覚えた店。干したビッグアントを粉にして、生地に練りこんだ肉まんを店頭販売していたお店。そこのマークと同じだった。

 ちなみにその肉まん、大変栄養が豊富らしいよ。

 

「とても不本意な覚え方をされている! たしかにそういう商品も売ってるけど、うちは由緒正しい料理店よ! そして本業は練丹師!」

「練炭?」

 

 炭屋さんだったのか? 今の時代には合わないな。だから料理店を営んでいると。なるほど。

 

「また勘違いをしているよね。よろしい、ついていらっしゃい」

「待ちたまえよ君。私の客を横からかっさらっていくとは、マナーが悪いとは思わんのかね?」

「マーケットにろくに足を運んでいない素人さんに、アコギな商売しようとしているアンタに言われたくはないわ! 今手にしている本の相場、言ってあげましょうか?」

「ぐむ……勘違いしてもらっては困るな。これ一冊で交換するとは一言もいってないではないか」

「へー。じゃあ、後はどれだけサービスするつもりだったのかしら?」

 

 なにやら、店主二人による静かなバトルが開始されてしまった模様。マリアンヌさんは、そのやり取りを笑顔で見守っている。……さっきの剣士には見えていて、この二人には見えていない。どうも、見せる相手を選んでいるようだな。

 あの剣士は彼女を老師と呼んだ。この崑崙マーケットの警備を任されているらしい彼が、だ。あの大男の振る舞いから、敬意を受けている人物のようだ。そんな彼が更に尊重するのがマリアンヌさん。また一つ彼女を知り、不思議が増えたな。

 そんなことを考えていたら、気が付けば本と道具が小山を作っていた。

 

「どうかね青年。先に立つ者としての教示を示せるだけの度量が、私にあるとは思わんかね?」

「見栄っ張りかつドケチ。ここぞとばかりに要らないものを押し付けているわね」

「本当に好き勝手言ってくれるな君は! どれも若人には有用なものばかりだよ!」

「でも需要が無くて全然売れないものばかりじゃない」

「あ。それじゃあいただきます。かっつん、もう一匹下ろすぞー」

 

 即断即決。すっぱりと決めて、取引を確定させる。

 

「……青年。本当にいいのかね? 私が言うのも何だが、少々考え無しではないかね?」

「ええ。確かに、賢いとは言えないのでしょうね。例えば、一度ここを回って値段を調べるだけでもずいぶん変わりそうです。でもその分、別のものが失われる。たとえば、サンマの鮮度」

「とっても大事よね! 貴方にとっては財布の中身が減るのと一緒」

「はい。あと、そちらの料理屋さんにとっては材料の価値が減る。時間をかけるのは得策じゃない。だったら、今一番価値がある時に売るのがいい」

「ふむ。……それなりに考えているようだね。ならば私は何も言わんよ」

 

 納得したようで、鷲鼻の店主は椅子に座り直した。露店に見合わぬ豪華な椅子だ。

 

「あとまあ、損するのって結局は自分のリサーチ不足が原因なんで。品を持ち込む前にしっかり調べておけば、こんな事にはなってない。今回は勉強代を支払ったってことで」

「格好付きませんねー先輩」

「やかましいよサッチー」

 

 後輩のツッコミが心に刺さる。まあ、こんなものはじゃれ合いだ。

 

「さーて。ソレじゃあ今度は私の番。我が店にどうぞお越しあれ」

 

 炭屋さん……じゃなくて、おさげの店主に促され俺たちは良い香りが漂ってくる方へと足を運ぶ。

 

「って、なんで付いてくるんですか。死霊術士」

 

 何故か、鷲鼻の店主が付いてきた。彼はにやりと笑いながらモノクルをいじる。

 

「何、私にあれほどのご高説をたれてくれたのだ。ご自分も若人への援助を惜しまぬであろうなと見物させてもらおうと思ってな」

「ぐわー! 商売の邪魔ですよ! 店に帰って下さい! っていうか店番いいんですか」

「結界の許可はとってある。ゴーレムもおいてきたしな。仮に盗人が現れたら……楽しいことになるだろうよ」

「うわー。どれだけえげつないトラップを仕込んだんですか」

「何、愚か者には良い薬になる程度だとも。命があればだがね」

 

 まるで雑談をするかのように、えげつない話をしているな。そう思っていると、彼は俺の方を見て、実にチャーミングなウィンクをしてみせた。紳士がきめると、キザな仕草も様になるものだ。

 

「気になるかね? お得意様になってくれそうな若人への、ささやかなアフターサービスだよ。まあそれが名目で、本題は彼女への嫌がらせであることは素直に認めよう」

「最悪!」

 

 悪態をつくおさげ店主。ははは、と笑ってみせる紳士。うーん、いいなあ。俺も年取ったらこんなおっさんになりたいなあ。

 件の料理店にはすぐたどり着いた。あいかわらず、茶色い生地の肉まんが店頭販売されている。香りは良いんだ、本当。……そういえばそろそろ昼か。腹が減ったなあ。プラーナ使ってると、空腹になるのが早いし。

 

「ぐぅっ!?」

 

 などと思っていたら、唐突に肩が砕けそうな重さがのしかかってきた。

 

「うわあ!? すみません先輩! 呪文の効果時間限界を忘れていました! すぐにかけ直します!」

「だい……じょうぶ……大君(タイクーン)が、守ってくれた」

 

 フルパワーを発揮して、200kgの重量に耐える。そんな俺を、店主二人が興味深そうに眺めてくる。

 

「ほーう。ダンジョン食材と基礎訓練でここまで。ここ10年いろんなハンター見てきましたけど、なかなかの変わり種ですね」

「言ってる場合かね。早く品を受け取ってやりたまえよ。身体を壊したら、修理が面倒だぞ。できんとは言わんが」

「貴方に任せたら、ネクロゴーレムにされそうですね。おーい、手の空いてるの出てきなさーい」

 

 ドタバタした後に、最後の一匹が俺の背より離れた。もちろんその時は、重量軽減の術が再びかけられていたが。

 

「いやあ、死ぬかと思ったよね」

 

 肩を回しながら、感想を述べる。背負子を下ろして雨合羽も脱いだ。やっと人心地付いた気分である。俺たちがいるのは、料理店の中。テーブルに案内されて、お茶も出してもらった。

 

「普通の人だったら間違いなく重大事故でしたよ。そろそろ本当に人間からゴリラに成ってきたんじゃないですか、先輩」

「ふ。俺の野生の力におののいたか、サッチー」

「普通に呆れているんですよー」

 

 などと軽口を叩いていたら、奥から先ほどの女性がもどってきた。さらに鷲鼻の店主だけでなく、数名の店員も。ごろごろと音を立ててカートが押され、台の上にはさまざな品が並べられていた。

 

「お待たせしたわ。いやー、とてもよい品だったわ。あれなら薬にも料理にも使える。今後も良い取引をさせてもらいたい所ね」

「頭骨からヒレの先まで使いきる気だぞ、この女士は」

「それはそちらも同じでしょう。そのうち、弾丸サンマの骨が空を舞いそうね」

「ここではやらんよ。あの剣士に絡まれてはかなわん」

「えーと……」

「おっとごめんなさいね。……そういえば名乗っていなかったわ。私は李明珠(リーミンジュ)。この行路飯店の店主をしているわ」

 

 椅子から立ち上がって一礼。しまった、名刺を持ってきていない。

 

「ダンジョン屋ミナカタ 社長の入川春夫と申します。すみません、本日はダンジョン内ということもあり名刺を持ってきておりませんで……」

「名刺? あー……あるみたいね、そういうの。貿易の仕事している親戚が、デジタル名刺とかをつかってるって言ってたわ。まあ、私も持ってないし気にしないで」

「ありがとうございます……先ほど、同じ苗字の方とお会いしたのですが。李大兄と呼ばれていましたが」

「親戚よ。こっち側じゃ名の知れた梅花剣法(ばいかけんぽう)の使い手なんだから」

 

 胸を張ってそうおっしゃる李女士。梅花剣法というのはよく分からないが、この人外魔境のマーケットを仕切っているのだ。当然、相応の能力はあるのだろう。

 

「さてそれじゃあ、商売の話よ。ここのお金でそのまま買い取ってもいいけど、我が飯店ではこういった品も取り扱っているの」

 

 店員さんたちが押してきたカートの上を改めてみる。漢字表記のタイトルがつづられた古い本が十冊ばかり。いかにも中華な剣、ナイフ、お札、判別不能なマジックアイテム。あとは丸薬らしきものも多く並べられていた。

 うむ。降参だ。

 

「大変申し訳ありません。こういった品々についても素人でして、どういうものなのかさっぱり……」

「ええ、そうでしょうね。安心して。しっかりと説明するから」

「そうあってほしいものだな」

 

 混ぜっ返してくる鷲鼻の店主を無言で睨む李女士。いっそすがすがしいと言える笑みを浮かべる紳士。

 

「おっほん。えーまずはこちら、武功書(ぶこうしょ)ね。貴方は素人にしてはマシな内功(ないこう)を備えている。でもその運用が全然なっていない。正しい技術を学べば、その能力は大きく飛躍することでしょう。そのための手引書ね」

「内功、というのは……プラーナのことでいいのでしょうか?」

「ハンターの間ではそんな風に呼ばれているらしいわね」

 

 ふーむ。俺の先生は一樹さんである。彼のおかげで、ハンター世界の不思議にいろいろと触れられている。プラーナの鍛え方もその一つ。

 しかし彼の本分は魔法にある。本人も、基礎的な鍛え方しか知らないと言っていた。であるならば、こういった技術書を手に入れるのは十分にあり……いや、望外の幸運なのではないだろうか。

 

「次は武具。やはり優れた武者には優れた装備が必要よ。うちは伝手が広いから、大抵の需要には応えられるわ。霊符、術具もご覧のとおりよ」

「ただし、青年も見てきた通りこの崑崙マーケットでその手のものを扱う店は多い。これに関しては早々に決めるべきではないだろうね」

 

 紳士に言われるまでもなく、こちらに関してはすぐ手を伸ばそうとは思わない。剣については、やっと振り回し始めたばかりだ。いまだ自分を傷つけかねない危なっかしさ。変に刃を握るなら、ライトメイスやクォータースタッフの方がマシというものだ。

 マジックアイテムについても同様。使い方が分からん。勝則達の領分だが、二人の顔を見るに芳しくない。なんとなく、ジャンルが違うというのは分かる。やはり見送りだな

 

「……最後に、丹薬。私の本業ね。こちらは各種取り揃えているわ。定番の内功を増加させるものに、耐毒薬。骨や肉、皮膚を鍛える外功薬。用途に合わせて各種用意してあるわ。貴方がこの先ダンジョンから持ち帰る素材によっては、より効果的なものも作ってあげる。もちろん、お代はしっかり頂戴するわ」

 

 自信満々に、丸薬が入った小瓶を見せてくる。先ほど語っていた練丹師とは、こういうものを作る仕事だったのか。なるほど。

 それにしても薬、かあ……。もちろん麻薬などであることを疑っているわけじゃないが。それでもちょっと怖いものがある。

 

「あまりこういう話はしたくないのだが……人体強化技術というジャンルにおいて、大陸が蓄積研鑽した技術というのは世界でも屈指のものだ。そして特別な立場でないものが手を伸ばせるという点においては間違いなく一番であろう。これ以上となると、神だの竜だのの血が必要になってくる。ああ、私のような死霊術師による霊的手術強化というのもあるぞ。青年、手軽に筋肉を追加したり腕を増やしたりしてみないかね?」

「お気持ちだけ頂いておきます」

 

 おっかない話からは逃げるとして。自己強化、か。訓練は今までもしてきた。これからもさぼるつもりはない。だけど、ここまでするべきだろうかと疑問を覚える。ちょっと判断が付かない。

 

「……どう思う?」

 

 なので、御影兄妹に話を振ってみた。

 

「社長が強く頑強になることに、否はありません。今回だけでなく、定期的に取引するべきかと」

「さんせーです」

「いや……お前ら、大変だぞ? それに、コストだってかかるんだ」

 

 あっさりそう言ってくる二人に再確認する。もうちょっと考えて?

 

「社長。よくお考え下さい。我が社にとって、社長がどれほど重要な存在であるかということを」

「……そうかー?」

 

 レア能力持ちならば、この二人のほかに一樹さんというビックネームがいるじゃないかと思うのだが。

 

「サンマ一度に四匹以上運搬できるの、社長しかいないんですよ!」

「……そうだなー」

 

 ぐうの音もでなかった。ワンチャン、一樹さんが奥の手持ってそうではあるが普段は出さないしな。

 

「不安に思うのであれば、まずは初心者用のものを買うのはどうでしょう」

「……そうだな。正直よく分からないし。というわけですみません、おすすめを包んでいただけますでしょうか」

「はーい、毎度ありがとうございまーす」

 

 というやり取りの後に、三冊の武功書と複数の丹薬をサンマと引き換えに頂戴した。なお、李女士が品物を選ぶたびに横でモノクルさんが『ふーん、へー、ほー』って煽ってて。若干変更が加えられていたが。

 で、受け取る時にちょっと気になったので伺ってみた。

 

「すみません。回復アイテムとかって、こっち側でもやっぱりないんでしょうか」

 

 俺の問いかけに二人はそろってあー、と何とも言えない唸り声をあげた。ゲームなどではおなじみの回復アイテム。いわゆるポーションとか言われるそれらは、今のところ発見されていない。

 怪我の治りが早くなるマジックアイテムは、そこそこの数発見されている。目が飛び出るような値段で取引されている。

 

「まず。薬などでぱっぱと重傷が直るようなものは、ないわ。そんなのがあったら私たちも苦労してないもの」

「あったら私などはどれだけ研究が進む事か……」

 

 死霊術師の研究がどう進むのか。怖くて聞けないな。

 

「ただ内功……プラーナの量で傷の治りが早くなるのは普通にあるわ。貴方たちなら、ダンジョン食材を食べるのが一番手っ取り早いかしら」

「あー……経験がありますねそれ」

 

 ダンジョン入ってからいままで、そこそこの経験をしている。怪我の数なら、我が社でトップだ。

 

「あとはまあ、術具や霊符といった物品でプラーナを刺激するとか。傷の治りは加速するけど、前提として本人のプラーナが必要ね」

「それって、一般人には効果ないんでしょうか」

「生きている限り、僅かであっても誰もがプラーナを持っている。だから一応効果はあるわ。ただし、場合によっては悪影響になりかねないから、お勧めはしないわ」

「あー……回復アイテム詐欺って、それのせいなんですね」

 

 大枚はたいて買った回復能力のついたマジックアイテムが効果なかった。そんな騒ぎが時折表で起きる。原因はそれなのだろう。

 

「じゃあ、次回はそういう品を取引させていただければ。来週またお伺いします」

「大歓迎。弾丸サンマもケイブチキンもお客さん喜んでくれるし」

「フーム。では、私もその手のものを準備しておこう。今後ともよろしくな」

「はい。是非に」

 

 というわけで、品物を受け取って店から出た。ここで食事をとっていく、という選択肢に若干心が揺れたが今回は止めた。何が出てくるか若干怖いものがあったし、待たせている相手もいたからだ。

 

「お待たせしてすみません」

「いえいえ。いい縁が結べたようで何よりです。……あの死霊術師については、油断できない所ですが」

 

 店の外で、魔女と合流する。待っていたというか、その場に現れたというか。

 

「このアイテムなんですが……大丈夫なんですかね」

 

 あの人たちが騙してくるような人物と疑っているわけではない。ただ、何といっても今まで見聞きした事のない品々だ。それを自分の体に使うわけで、不安を覚えるのが普通だと思う。

 

「ざっと確認した所、特に問題のある品はないようです。ただし、用法用量はしっかり守ること。特に丹薬は、効果が劇的ですから。くれぐれも注意してください。渡されたメモをしっかり読む事です」

「はい、わかりました」

 

 彼女のお墨付きがあるなら、とりあえずは安心か。しかし……思いのほか不思議な世界に足を突っ込むことになったな。ダンジョン管理し始めた頃は、こんな状況になるなんて考えもしなかった。

 これからどうなってしまうのか。恐ろしくもあり、楽しみでもあり。

 

「先輩、そろそろお暇しませんか」

「そうだな。腹も減ったし……あ、そうだ」

 

 一つ、ここを紹介してくれた人に聞きたい事を思いついた。

 

「すみませんマリアンヌさん。……うちの一樹さんなんですが、ここのこと教えても大丈夫だと思いますか?」

「んんん……」

 

 珍しく、魔女が悩み始めた。新鮮な姿で、不謹慎にもときめきを感じる。かわいい。

 

「私の紹介であると、伝えてみてください。それである程度は、自重すると思います。……敵が現れない限り」

「敵、ですか」

「ここは色々な人物が使いますから。中には、ガラの悪いものもいます。そんなのとエンカウントした日には……。お客様、しっかりと手綱を握ってくださいね」

 

 にっこりと笑顔で責任を取れと言われてしまった。ひぇ。

 

「無茶をおっしゃる。彼を止められるわけないじゃないですか」

「物理以外で何とか努力してください。ならず者は、李飛龍に押し付けるとかして」

「……なるほど。そうします」

「くれぐれも、よろしくおねがいしますね。それでは、また」

 

 彼女はやや圧のある笑顔を浮かべて去って行った。より具体的に言えば、背を向けたとたんに姿を消した。

 

「ありがとうございましたー……珍しく、見送れたな」

 

 大抵いつも、挨拶する前に居なくなってしまっていたからな。

 

「では、先輩」

「おう。二人とも近寄れよ。帰るぞー」

 

 木札を取り出し、目を閉じて念じる。帰る、帰る、うちのダンジョンに帰る……。

 

「帰ってきたー。あー、肩こりましたよ」

 

 小百合の声で瞼を開けば、見慣れた地下三階の光景が広がっている。無事に帰れたようだ。御影兄妹が大きく深呼吸していた。

 

「あの李とかいう剣士といい、道行く連中といい。一人残らず曲者だらけ……あんな場所、生まれて初めて行きましたよ」

「そんなにか」

「めちゃくちゃ有用だけど、できればもう行きたくないですー。あーでも、気になるアイテムは本当一杯だったしー。うあー」

 

 懊悩する小百合。彼女はしっかりと、今日の戦利品を抱えている。勝則は手引書を使いながら、ウッドゴーレムを歩かせていた。

 

「まあ油断せず、気を引き締めていこう。あそこもダンジョンだしな」

「ハードなショッピングですねー……。うう、今日は流石にお昼作るの楽したい……」

「よし。そういうことなら何か取ろうぜ。……ピザとかどうだ」

「いいですね! そうと決まればさっそく帰りましょうそうしましょう!」

 

 元気よく歩き出す小百合。俺たちは苦笑しながらも、その後に続いた。

 

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