【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず   作:鋼我77

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第55話 ナイトスター

 地上。我が家の居間。時間は夕方。

 

「鑑定結果、全部出ました。……とりあえず一番重要な話を。宏明さんの系統は『超能力』、です」

 

 勝則が、新たな魔法使いの誕生を告げた。そう、超能力は魔法のカテゴリーに入るのだ。何故かといえば、マナを使うから。この辺かなり大雑把な区分けになってるらしいよ。

 それはさておき、見事にレアスキルを手に入れた当人はと言えば。

 

「そんなぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 絶望に崩れ落ちていた。彼がここまで嘆くのは、当然理由がある。まず大前提の話を今一度しておこう。魔法使いはエリートである。ダンジョンのみならず、研究、危険地帯での作業など、活躍の場は多い。

 数が足りていないので、当然雇用のための費用は高くなる。覚醒できれば一発逆転、底辺から夢の高給取りへ。魔法にあこがれるものは数多い。

 しかしそんな魔法使いの中にも、忌避されるものがいくつかある。超能力は、そのひとつだ。物を動かす、空を飛ぶ、火をつけるなどなど、やれることは一般的に知られる論理魔術に似ているものが多い。というか、論理魔術の対応力の幅広さは全ての系統でナンバーワンである。それ故、使いこなすのが最も難しいともいわれているのだが。

 若干話が脇道にそれた。超能力、それが忌避される理由はひとつ。悪名高いのだ、有名な犯罪に使用されたせいで。

 具体例を出せば、ニューヨークの連続殺人事件。殺害方法は超高層ビルの上からの落下。上まで引き上げられて、ぽいと捨てる。犯人が捕まるまでの一か月間、かの街は機能停止状態に追い込まれた。

 ラスベガスのスーパーギャンブラー事件。どんなギャンブルでも大勝する男の正体が超能力者だった。彼は能力を巧みに隠し、数々のカジノで出禁になるまで稼ぎまくった。正体が発覚した後に逃亡。資産の大半が押さえられたらしいが、一部を隠し持ったまま今も行方をくらませている。

 香港の現代後宮事件。これについては、言葉にするのもおぞましい。多くの男女の人生を狂わせた、卑劣で外道の所業。犯人は家族を殺されたハンターによって八つ裂きにされたという。後にその人物が語った言葉が印象的だった。もっと苦しめて殺すべきだった、と。

 かように超能力には、悪名悪評が付きまとう。実際問題として、魔法を悪用すれば似たような事は起こせると専門家は語る。たまたま超能力が目立ったが、この特別な力がもたらす優位性は現代社会で様々な問題を起こしているのだ。

 そういう話は今は置いておくとして。ともあれ、超能力は悪名高い。ハンター界隈でもやや敬遠される。契約にも影響が出ると聞く。だけど我が社にすでに入っている彼には関係がない話……なのだが。

 

「女の子にモテないよおおお! せっかくの魔法! エリート! ウハウハ人生のチケットなのにいいい!」

「こやつめ」

 

 実に彼らしいと言えばそれまでなのだが。ちなみに、女性人気ワーストワンでもある。なにせ物質を透視したり心を読んだりもできてしまうから。いくらでもセクハラやデリカシー無視行動が出来てしまうのだ。

 

「まー、あれだ。資格取ったらお給料弾むから、それでいいお店いってこいよ」

「そういうお店とは別なんですよ! いや、そういうお店はお店でいいんですが、そういう話じゃないんですよ! モテたいんですよ俺は! 社長だってそうでしょう!?」

「いやー……俺の場合は、確実にトラブルだから」

 

 と、真面目に答えたら宏明の表情が変わった。何かを探るかのような感じに。

 

「あの、社長。トラブルとは具体的には?」

「今はまあ、財産目当てかな? このままいけば、我が社は結構な年商になりそうだから」

 

 これは本当に気をつけなくちゃいけない。高給取りになったハンターが、ハニトラに引っかかって人生狂わすとか非常によくある話なのだ。

 

「……ちなみに、昔は?」

「告白ゲーム。姉貴がクソで、一部で恨み買ってたんだよ。そのとばっちりで時々ターゲットにされたもんだった。まー、どう行動しても結局女性陣に嫌われるんだ、あれ」

 

 幸いなことに、最初からバレバレだったので全部断ってたんだが。そのたびにお前ごときが断るなんて何様だ、みたいな感じで罵倒されるの。呼び出し無視してもやっぱりギャアギャア言われるし。高校時代は本当、ろくな思い出がない。

 過去の記憶にうんざりしていると、宏明と御影兄妹が何やら固まって話していた。

 

「ねえ二人とも。社長って大学時代、女性とお付き合いは?」

「ありませんでした。女性自体は普通に興味があるようだったのですが、アプローチは全く」

「たった今、草食を通りこした絶食系だった理由が判明しましたけどねー。なんていうか、納得しかないです」

「聞こえてるぞお前らー」

 

 大学時代に恋人作らなかった理由は、単純に金と時間が無かったからだ。あの頃は学業と生活で手いっぱいだったからな。友達とちょっと遊ぶ程度の余裕しかなかった。

 高校時代は先ほどの通り、姉のせいで敵だらけ。とても作れたものじゃなかった。はい、年齢イコール彼女いない歴です。

 

「俺のことはほうっておけ。それよりヒロっちは資格勉強がんばるよーに。かっつん、さっちー、見てやってくれ」

「優しくよろしく!」

「では、一樹さんと同じくらいで」

「それってスパルタっていってるー!」

 

 嘆く宏明。そして話に出された当人はこちらを眺めながらにこやかに親指立てていらっしゃる。

 

「ヒロっちの方はこれで良しとして。かっつん、マジックアイテムの鑑定について聞かせてもらおうか」

「はい、それでは宏明さんが持ち上げた例の鉄球から行きましょうか」

 

 俺らの話を聞いていた歩が、気を利かせてくれてた。頑丈なプラスチック箱(農家のおばさんからのもらい物)に入った三つの鉄球が床に置かれる。

 

「こちら、名前をナイトスター。超能力のサイコキネシスで操作する武器です。使用方法は見ての通り、速く動かして敵にぶつけます。今回見つかったマジックアイテムで最も質が高く、高威力で、ニッチな武装になっています」

「ニッチ」

「超能力使い専用武装ですから。宏明さんがいたからこそよかったですが、そうでなければ持ち帰るのも苦労しましたよ」

 

 ダンジョンの帰り道、この物騒な鉄球三つが常に宙に浮いていたからな……。シュールというか、ホラーというか。

 

「まあ、俺が頑張ればなんとかなったと思うけどな」

「社長のパワーも成長しておりますからね。ついでに、アイテムを売りに出すかどうかも判断していただきたいのですが、どうされますか?」

「もちろん残す。ヒロっち専用武器、ゲットだぜ」

「ううう……超能力ごしに触ってて分かる。こいつ絶対強い……でも、かっこ悪い……えぐい……もてない……」

 

 使用者が深く懊悩し悶えているが、放っておく。

 

「続いては、ロングソード。頑丈さと切断力を向上させる魔法がかかっています」

 

 テーブルの上に置かれる西洋剣。もちろん、傷つかないようにテーブルにはタオルがかけられている。

 

「うーん。これは……フジくーん、ちょっと専門家の知識を借りたい」

「はい、ではしばしお借りします」

 

 そういて彼は、一度刃をタオルで包むと庭へと足を運んだ。俺たちの見える位置までくると、剣を正眼に構える。止まる。一息で振り上げ、下ろす。切り上げる。突く。薙ぐ。また振り下ろす。

 流れるような剣舞に、皆が見入る。ただ見せるためのものでなく、使えるかどうかの確認作業。効率を求めた先にある美しさ、というやつだった。

 

「なるほど。大体わかりました。よい鍛冶職人の作品に、実用的なエンチャント。お手本のような+1ロングソードですね。高品質だから+2かな」

「なにその+1って」

「誰が言い出したのか、そういう俗称があるんですよ。普通より強いなら+1。それより強ければ……みたいな大雑把な」

 

 なるほど。ハンター界隈だけに通じるものさし、と考えればいいのかな?

 

「しつもーん。それってどんくらいすごいんすかー?」

 

 おそらく多くの者が思っていた疑問を口にしたのは、いつも通り流だった。

 

「なかなかいいですよ。ハンターならば、お金を出して買う価値がある。ケイブチキンあたりなら一刀両断。弾丸サンマも横合いからなら十分仕留められる。正面から……というのは論外。まあ皆さんには語るまでもないでしょうが」

 

 まあね。伊達に弾丸なんて形容されてないから、あれ。あの群れが一斉に突撃した後には惨状しか残らない。最初期のダンジョン探索でどれだけ犠牲者がでたのやら……。

 

「じゃあそれも残し、か?」

「いえ。売ることを提案いたします」

 

 刃を再びタオルでくるみながら、一樹さんがそう語ってくる。

 

「良いものですが、特別でもありません。売りに出せばいい値段が付きますし、剣は人気なのですぐ売れます。何より、話題になりやすい。我々の目的を考えれば、これは手ごろな品です」

 

 目的。ダンジョンカンパニーとしての格を上げること。いい品を出品すればそれだけ名が通る、というわけか。

 

「もったいない気もするなあ」

「剣もったハンターならモテそうだから?」

「それもあるけどさあ! それだけじゃないからね!?」

「そこで認めるあたりは潔いっすね」

「ご安心を。これより良い品なら私がいくらでもコレクションしております。皆さんの技量が十分となりましたら、ほどほどの値段でお譲りしますとも」

「ぜひ、一樹のコレクション量減少にご協力ください」

 

 一樹さんのアイテムコレクション、そんなに多いのか……流石は十年選手というべきか。

 

「じゃあロングソードは売り、と。次は……なんだっけ?」

「投げナイフです。性能はシンプルに、投げた後持ち主の元に戻ってきます」

 

 テーブルに置かれた一本のナイフ。苦無みたいだ、という印象の通り投げて使うものだったか。これも売りでいいか? 特に使える人間いないし、と思っていると横から手が伸びてきた。

 

「社長、こちら試してもよろしいでしょうか」

「使えるのか、ウォーカー」

「ダーツは何度か。あとはまあ、少年野球をやっていたこともありました。……当時母親が野球漫画にはまっていたことありまして」

「……そうか」

 

 微妙に、マイナスの思い出っぽい。あえて触れないでおく。彼も庭に出ると、要らないボール箱を的として用意した。そして離れること5m。近いが、初めて投げるナイフを当てられるかというと不安が出る。俺がやったら無理だと思う。

 歩は刃の方を指で挟み、狙いを定めている。前にテレビで見たな。あの投げ方をすると、重みで刃が前に向いて結果的に刺さりやすくなるとかなんとか。

 

「ふっ」

 

 全力ではない、極めて軽い一投。ナイフは宙を滑るように進み、見事段ボールに命中。社員たちが拍手する中、段ボールの中に吸い込まれたそれが動画の逆回しのように動く。宙を舞ったナイフが、再び歩の手の中に戻った。

 

「なるほど、こういうものですか。いいですね」

「使いたいか?」

「はい。自分にはプラーナも魔法もありません。わずかでも、いざという時の備えがあると心の支えになります。あと、この大きさなら邪魔にならないというのも良いですね」

「そうか。じゃあ、それも残しで」

 

 売ってもあまり高値が付きそうにない、という本音は隠しておく。歩はそのまま、投げナイフの練習を始めた。楽しそうなのでそのままにしておく。

 さて、のこりは西洋茶器と宝石類だが。

 

「残念ながら、残りは大した品ではありませんでした。わずかに保護用の魔法がかかっておりましたが、大したものではありません。普段使いで傷はつかないでしょうが、大きなハンマーで殴れば壊れます」

「じゃあ、それも売りで」

 

 枯れ木も山の賑わい。我が社の名声の足しになってもらう。……と、思ってたら広げられた宝石類をじっと見る視線あり。小百合だった。

 

「なんかほしいものあるか? 取っておくか?」

「い、いえそんな! ちょっと見てただけですから!」

「気になるなら、付けてもいいぞ? 呪われた品とかはなかったんだろ?」

「はい、社長」

「かっつんもこういってる。試しに身に付けたりしてもいいんじゃないか?」

 

 思えば、小百合も飾りっ気がない。化粧などはしているが、装飾品の類はほとんどない。髪留めぐらいなものだ。学生時代は当然だし、社会人になっても縁がなかっただろう。魔法で守られているなら触るぐらいどうってことないだろう。

 

「……いいんですか?」

 

 おずおずと言う彼女に、強くうなづく。

 

「好きにするといい。気に入ったものがあったら改めて言うのだぞ」

 

 おっかなびっくり宝飾品に手を伸ばす彼女を眺めていたい気持ちもあるが、仕事をせねば。男衆で集まって話を続ける。

 

「とりあえず、剣と茶器を売るので確定か。これは公営オークションに出す……のだよな?」

「ええ。利益はさておき、日本の関係団体に名を知らせるのならそれが正解です」

 

 一樹さんの古巣、稲森貿易との提携はまだ先の話。何よりそっちに流しては名前が売れないという話もある。

 

「剣と茶器だけじゃあ、イマイチかな?」

「目的には足りません。ですがこういったものは継続が大事です。一発屋で終わらなければ、覚えられていくものですよ」

 

 一樹さんの話に頷く。こういう場面でも、継続が力になるということか。最初の一歩は良い出だし、かな。この後がどう続くか……。やってみない事には分からんか。

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