【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず 作:鋼我77
上からの騒がしい音に、心臓が高鳴っている。いやまあ、この作戦がスタートした時点からこんな感じなのだが。一時は落ち着いたというか慣れたのだが、いよいよ本番となるとどうしても緊張するな。
しかし、それにしてもだ。
「最悪の想定、当たっちゃったなあ……」
ぼそりとつぶやく。俺たちは当初、海田とやらをとっちめればどうにかなると思っていた。しかし道明さんからの連絡により、それが甘い考えかもしれないという疑念がわいた。
曰く、地王カンパニーの主力メンバーが所在不明となっている。その数は百人以上。理由は我が社への襲撃を疑われたからだと思われる。それでどうにかなるのか。東京のパワーゲームは俺たちには分からない。それを考えるより、もっと大事なことがあった。
元々、ハンターの襲撃は予想の内だった。しかしその戦力予想は十名から二十名と言ったもの。もし万が一、その行方不明のハンターが一度に襲撃して来たら。今の準備では到底、太刀打ちできない。最初は一笑に付した。まさか、ありえない。うちのような小さな会社を潰すのに、そんな人員を大量に投入するなんて。
そんな風にひとしきり否定して……みんなの視線が一人に集まった。百人のハンターを投入するに値するかもしれない、規格外の男の存在。
藤ヶ谷一樹。……普通だったらあり得ない。そもそもそんなに強いハンターがいるなんて考えたりしない。でも彼が強いことは、俺たちはよく分かっている。
もしかしたら、本当に大勢で攻撃を仕掛けてくるのではないか。そう考えると、現状のままではいられなかった。急遽会議を開き、最悪を想定した準備を始めた。どうか無駄になってくれと思いながら、過酷な訓練もした。
その結果がこれである。準備をしていなかったら、俺たちは戦う前に負けていただろう。それを思うと、冷や汗が止まらなくなる。絶望感に吐き気も催す。……考えても仕方がない事だ。大きく息を吸い込み、吐く。
事ここに至っては、準備通りに進めるまで。
「リュー、来るぞ。準備はいいか」
「うっす。大丈夫っす。靴紐はばっちりチェック済み」
背後から、頼もしい返事が聞こえてくる。……こいつの言葉に、こんな感情になる日が来るなんてな。
「……ありがとうな、リュー」
嘘偽りない、感謝の言葉をつぶやく。
「それは、全部終わってからもう一回聞かせてください。できれば親の前で」
「絶対泣いちゃうぞ、お二人」
「いいんすよ、それで」
光が、こちらに向けられた。一樹さんの持つ懐中電灯のそれだ。俺たちの姿が、相手側に見えている事だろう。
「はいはい、止まらず進んでくださいね。攻撃はまだ厳禁で。フライングは厳罰を持って対処しますからね。死にたくないならやるんじゃないよ」
一樹さんが、次々と降りてくるハンターたちを整理している。大変な仕事をお願いしてしまった。だけど彼以外、この状況を作れる人はいなかった。というか作戦自体が、一樹さん発案だ。全部織り込み済みだろう。
しかしまあ、多い。上の会話は無線でこちらに伝わっている。三倍? つまり90人のハンターを用意したと? 馬鹿じゃないのかあいつら。そんな数の人間を、犯罪的活動に送り込んだのか?
どれだけのコストがかかっているのか。そんな価値が、この行動にあると? ……地王カンパニーのボスは、そうするべきだと判断したのか。一樹さんを手に入れるために。
「よしよし、まあこんなものか。はい、それじゃあ地王カンパニーの皆さま。焦れているだろうから手短に説明しましょう。まず、あちらに見えます重武装の男。我らがミナカタの社長、入川春夫です。社長ー、手をあげてくださーい」
大魔神マーク3に身を包み、やや窮屈な手を上げて見せる。
「はい、ありがとうございます。さて、ルール説明です。あちらにおります我が社の社長、あれを……」
爆竹じみた、何かの爆ぜる音。連続的に何かが周囲を通り過ぎていく。
「絡め取れ、暁闇の影」
一樹さんの影が伸びる。前列にいた数名のハンターをそれが絡めとり、容赦なく壁に叩きつけていく。容赦なく、何度も。動かなくなったところで、彼の足元に転がされた。
「まだ説明の途中だろう。誰が攻撃していいと言った」
真冬の夜のような声だった。一切合切の命を奪う、容赦など欠片もない強大なナニカの。
「先にペナルティの説明をする。ルールを破ったら俺が出る。貴様らごとき、束になっても傷一つ付けられぬと知れ。信じられぬなら今すぐかかってこい。こいつらのように、あらゆる抵抗も許さず転がしてやる」
淡々と語り続ける一樹さん。マジックアイテムで武装した、ハンターの集団が気圧されている。離れているから、俺たちも平気でいられるが。今の彼の前に立つくらいなら、ハウルボアにケンカを売る方がましだと思える。
「……何故、今やらない」
辛うじて、その言葉が聞こえた。当然の疑問だと俺も思う。幾分か気配を和らげて一樹さんは答える。
「ひとつ。俺が動いたら、お前らは逃げる。流石に手加減した状態でお前らを一度に制圧は無理だ。逃げたお前たちを一人一人捕まえるのも手間だ。その間に被害が出ないとも限らない。ふたつ。俺が動くより賢い方法がある。だからやらない。理解したか?」
「賢い方法、とは?」
「聞きたいか? ではルール説明の続きだ。バカをやらずにしっかり拝聴するように」
転がしたハンターを軽く蹴飛ばしながら、彼は気配を戻して語り出す。でもその前に。
「……フジくんってさ、時々やたらとチンピラだよな」
「あかりんに矯正されるわけっすね」
という感想を流と言い合う。……聞こえてないよな? ワンチャン聞こえてそうで怖い。言われたら謝ろう。俺に土下座の用意あり。
「あそこにいる社長。ゲームがスタートしたらダンジョン内を逃げ回る。制圧したらお前たちの勝ち。そちらの言い分通り、地王カンパニーに入社しようじゃないか。待遇はある程度交渉させてもらうが。流石に奴隷じみたそれだったらなりふり構わず暴れるぞ」
「……お前たちの勝利条件は?」
「そちらの壊滅、または降参だな。武器、呪文、アビリティ、マジックアイテム。好きに使っていい。降参は認めること。捕虜は解放すること。戦闘の結果としての殺傷は咎めないが、意図した殺害行為はルール違反とする。つまり俺が敵になる。はい、他に質問は?」
「ゲームに時間制限はあるのか?」
「流石に夜明けまでに社長を捕まえられなかったら、時間切れとする。後は警察の介入だな。俺たちとしてはお上に逆らう気はない」
スっと罠を仕込む一樹さん。まあ普通は見破れない。割と反則だからな、これについては。案の定相手も気づいていない。思惑通り、話が次へ進んだ。
「妨害はあるのか?」
「当然ある。この地下一階に潜んでいる。何のためにここをゲームフィールドにしたと思っている?」
「モンスターは?」
「地下一階に関しては、ほぼ駆逐した。少しばかり討ち漏らしがあるかもしれんが、ビッグアント如きに負けるようなハンターはいないだろう?」
これらの他にもいくつか細やかな質問がされる。毒の使用、人質についてなど。ちなみに毒はOK、人質はNGである。
「お前の足元に転がったそいつらは、捕虜じゃないのか」
「ああ、忘れていた。回収していいぞ」
というやり取りの後に、フライングで攻撃してきたハンターが仲間に回収された。質疑応答は終わったようだ。
「来るぞ、リュー」
「うっす。いつでも」
緊張が走る。相手側からの敵意が浴びせられる。大量の目が、俺に向けられている。上等。俺たちの目的はまさにそれなのだ。
「準備はいいようだな。それでは、良い狩りを。スタート!」
一樹さんが、用意した新聞紙による紙鉄砲を打ち鳴らす。乾いた音が、ダンジョンに響いた。
「走れ、リュー!」
「イエッサー!」
さて。いくら俺のアビリティが重い装備に適しているとはいえ、身軽な相手との鬼ごっこができるかと言えばNOである。ルールを決めた側である俺たちが、策を弄するのは当然の話。というわけで用意しましたのは、一樹さん提供マジックアイテム。
名前も見た目もズバリそのまま、フライングカーペット。アラビアンナイトでおなじみの空飛ぶ絨毯である。本来なら、それなりに操作を覚える必要があり、その難易度は高い。
しかしただ浮かせて、それをロープで引っ張るだけならたいした手間もない。浮かべる俺は座ってるだけでいいし、引っ張る流はただ走るだけでいい。重さもほぼないというのだからなおさら逃げ回るのに好都合。
というわけで、流は全力で走り出す。俺は相手側を睨みながら、どんと仁王立ちである。全く揺れないのはとても助かる。流石マジックアイテムだ。
「なんだあれは!?」
「驚いている場合か! 撃て、撃てー!」
再びいくつもの爆竹音、銃声が響き渡る。まったく、ここがダンジョンでなおかつ民家が遠くなければどうなっていた事か。……などと余裕をかましていられるのにも、当然理由がある。俺は背中に背負っていた鉄製の大盾を相手側に向けた。
この下手な鉄板よりも分厚い長方形の大盾。正面には立派な獅子が描かれていて、まるで美術品かとも思える逸品。これまた一樹さんからの提供で、その名も雄々しき『獅子の咆哮』。何と複数の能力を持っているという、お値段下手すりゃ億に届くかもと思うような特別な品だ。
その能力の一つが、矢避けの加護。飛来する飛び道具から、所有者のみならず周囲の仲間を守るというとんでもない代物だ。一番最初の銃撃も、これがあったからこそ余裕でいられた。というかダンジョンにおりてきた時、即座に撃たれる可能性も考慮していたのだ俺たちは。
「畜生、何で当たらない!」
「俺に任せろ! 走れ、飛翔剣!」
その叫びと共に、空気を割いて煌めく何かが迫ってきた。ああ、やはり。持っていたか。俺は一瞬で見定める。ドが付くストレート。行ける!
「っしゃおらあ!」
この盾は、両端が内側に曲がっている。これの方が防御力があるという話で、使い方もさんざん叩き込まれた。真っすぐ突っ込んでくる刃に対して、少しだけ斜めに盾を構えた。衝撃が腕に伝わり、飛んできた魔法の剣はコースを逸れてダンジョンの壁にぶつかった。
流石は日本最大規模のダンジョンカンパニー。ハンターのあこがれ装備を持っているとは予想していた。だから俺も今日の為に訓練を重ねていたのだ。実際に飛翔剣を使ったわけじゃない。飛んでくる剣ならなんでもいいわけなので、宏明のテレキネシスで代用したのだ。
さっさと慣れるためとはいえ、最初から真剣だったのは本当怖かったなあ……。
「リュー、手近な所で曲がれ!」
「あいあいさーいえっさ!」
流石の飛翔剣といえども、見えない場所は狙えない……らしい。一樹さん情報だから間違いはあるまい。視線から逃れれば、この攻撃は止まる。……それまで無事でいられるかは、俺のど根性にかかっている。
「ふんっ! はっ! そいっ!」
飛翔剣は一本だけじゃなかった。流石は日本トップ。何たるブルジョア。弾いても弾いても、次の剣が襲ってくる。一度は跳ね飛ばした剣も、使用者が無事なのでまた攻撃を再開してくる。
普通の剣なら、刃が潰れたりかけたりするもの。だけどそこはマジックアイテム。常識を超えた頑丈さで、刃こぼれ一つしていない。
まあ、その反則は俺にも言える。これがいつも使っている強化プラスチックの盾ならば、とっくの昔に破損しているか貫かれている。しかしこの『獅子の咆哮』は損壊どころか傷一つついていない。凄まじい頑丈さだ。
……だが、この盾も無敵のアイテムではない。俺も防御の達人とは到底言い難い。ミスはある。受け損ねた刃が暴れて身体をかすめる。
しかし、怪我はない。大魔神3の表面がざっくりと傷付くが、俺には届かない。頑丈に作ってくれてありがとう、メーカーさん。
「曲がりまっす! ご注意くださいっ!」
新品の鎧にいくつもの切り傷を作ったが、何とか逃げ切れた。角を曲がった途端、飛翔剣の追撃はピタリと止まった。
「リュー、一旦停止」
「ういーっす。ふーーー……」
「息整えておけよ。すぐまた走ってもらうかも」
俺自身も深呼吸をしつつ、耳を澄ませる。相手側は追ってきてくれるだろうか。そうであればプランAが使えるんだが……。
「社長。あちらが追ってくる様子がありません。プランAはダメかと」
いつの間にやら近くに来ていた勝則から報告を受ける。プランAは、追いかけてきた敵部隊を奇襲するというもの。脇道に潜んだハガクレ隊が、バラけた敵戦力を削っていくという予定だった。
ただ、このプランはあまり期待できないだろうとも予想されていた。
「ベテランぞろいだものな。間抜けに追いかけてはくれないか」
「じゃあ、プランBっすね」
「そうなるな。リュー、微速前進」
「よーそろー」
それは船で使う掛け声じゃないか? というツッコミは今はしない。それよりプランBだ。こちらはしんどいことになる。頑張って耐えなきゃいけないからな。
それから待つこと十分少々。
「相手側、動き出しました。想定通りです」
「沢山チームを作って、分散。ダンジョン探索か」
相手はベテランのハンターたち。見知らぬダンジョンに入ったのだから、最も経験のある方法で攻め上げてくる。つまりダンジョン探索。予想通りだ。
「一チーム6名。それを10個作って動かしています」
「相手は約90名。……本隊はそれでも30名いるってわけだ。堅実だよなあ」
勝則の報告にため息が出そうになる。これじゃあ本陣奇襲して大将首を取るのも難しそうだ。……戦国武将みたいな発言だが、冗談で言っているわけじゃない。相手側にはリーダーがいる。あの
彼らはハンターであって軍隊ではない。リーダーが倒れた場合、動揺は大きいはずだ。戦力の少ない俺たちとしては、相手の弱体化を積極的に狙っていきたい。……が、それも相手の隙が無いのでチャレンジできない。
「とりあえず、近くのチームと合流だな」
「お気をつけて。こちらは持ち場に戻ります」
勝則と別れて、ダンジョン内を進む。この日の為にモンスターは徹底的に排除した。コケ玉を時々見かけるが、ビッグアントは一匹も見えない。恐るべきは一樹さんの呪いブッパである。
「あ。いたっすよ」
小声で流が報告してくる。たしかに、通路の先に待機していたメンバーが見える。人数は五名。特に目立つのは背の高い彼だ。
「梧桐くん、どんな感じだい?」
カーペットから降りて尋ねれば、彼は眉根に皺を寄せて見せる。
「あんま良くねぇ感じだ。隣のチームとの距離が近い。速攻で片づけないと、すぐ応援が来る感じだな」
「まあ。攻撃を仕掛けるのは俺たちだけじゃない。始まったばかりだし、嫌がらせをきっちり成功させることからいこう」
こっちは数が少ないのだ。戦力の低下はなるべく避けなくてはいけない。一人ダウンさせられるくらいなら、さっさと逃げる方を選ぶ。最悪、俺が囮になればいいのだしね。
「敵チーム、来ます」
「よーし。それじゃあ予定通りに」
俺の一言で、ハガクレの面々がこの場を離れる。残ったのは俺とリュー、そしてもう一人。
「この攻撃は君が頼りだ。頑張ってくれよヒロっち」
肩を叩いたが、当人は大きく息を吐いた。
「俺、何でここにいるんだろう……」
「もしもしヒロっちさん? 唐突に人生反省されても困るんだけど」
「銃もった集団に襲撃されてて、圧倒的不利な状況で逃げることもできない。そんな状況にいれば、こうもなるってもんですよ」
はははははー、と乾いた笑いを浮かべる元会社員。いかん、土壇場の特訓やら何やらでメンタルすり減りすぎたか。本番の緊張に耐えられず現実逃避始めている。こんな時どうするべきか。平和な時なら酒なんだがそうも言ってられないぞ。
俺が悩んでいると、彼の肩を叩くものひとりありけり。
「ここで活躍すれば、きっと女の子たちから評判上がるっすよ!」
「……そんな見え透いた話には乗らないぞ!」
だったら何でちょっと考え込んだ。あと、あからさまに元気になってるぞ? 顔色に血の気がもどったもの。さっきまで真っ青だったのに。
「でも、ハガクレの人たちってみんな実力主義じゃない。ここで活躍すればワンチャンありますって」
「……あるかな?」
「あるある。絶対ある」
流が根拠なく煽っていく。もてたい一心の宏明は、徐々にその根拠のない言葉に乗せられていく。見え透いた話に乗らないとは何だったのか。
「よーし、それじゃあちょっと頑張ってみちゃおうっかな! 社長、頼んますよ!」
「はいはい、しっかり守るからそっちもミスるなよ。リュー、隠れてろ」
「うっす」
というわけで、俺たちも配置につく。そんなに難しいことはしない。対人戦闘、しかもチーム戦とかほぼ素人なのだ。難しい事をしてしくじっては目も当てられない。
待つ場所は、ある程度長い通路。その端から、俺たちが登場する。前衛は俺、その後ろに宏明という立ち位置だ。
「いたぞ! ターゲット発見!」
「よーし。やれ、ヒロっち」
「行ったれ、ナイトスター!」
彼の気合の入った声と共に、棘付き鉄球がひとつ相手に向かって飛び出していく。狙いは相手チームの一番前。そいつもしっかり、盾を構えていた。おそらくはマジックアイテム。羽を広げた鳥が描かれたカイトシールドだ。
そのど真ん中に、鉄球がぶち当たる。凄まじい音がダンジョンに響き渡った。
「ストラーイク、バッターダウン」
「うっへえ。やっぱヤバイっすよこれ」
「我が社が持つ最強武器だからな。フジくんのお墨付きは伊達じゃない」
つい最近、無事に魔法資格及び武器所持資格をとれた宏明。そんな彼が使うこのナイトスターという鉄球は、大変強力なマジックアイテムだ。超能力者のサイコキネシスでしか動かせないのだが、その最高速度はかなりのもの。
一樹さん曰く、最高速度で人間の頭部に当たれば即死。手足に当たれば開放骨折。胸部及び腹部に当たれば致命傷。対人で全力使用は危険極まる武装である。
とはいえ、相手もマジックアイテムで武装したハンター軍団。生半可な攻撃では倒しきれない。事実、盾を構えていた男はひっくり返ったが手足は動いている。気絶もしていないということだ。
「手筈通り、転がしていけ」
「恐怖、転がる棘鉄球の巻!」
音を立てて床を転がるナイトスター。イメージしてほしい。貴方の足元を、凶悪な見た目の棘鉄球が転がっていたとしたら。意識は間違いなくそちらへ行くだろう。ベテランハンターであっても、それは同じだった。……いや、これに関してはハンターとか関係ないか。
よくは聞こえないが、ぎゃあぎゃあと何か叫びながら対応しようと必死になっている。これ以上なく隙だらけであり、だからこそ奇襲は当たり前のように成功した。
「おお……すげえ梧桐くん。いつの間に近づいたんだろう」
「あの巨体でよくもまあ……」
俺と宏明の視線の先で、ハガクレ組がハンターに一撃を加えていた。今回、我々が用意した近接武器はブラックジャック。メジャーではないもので、俺自身今回初めて知った装備だ。皮でできた棒状の袋に砂を詰めたもので、端的に言えば棍棒である。
手に持ってみるとこれがまたずっしりと重く、叩かれれば確実に痛い。いつぞやの繰り返しになるが、いくら相手が銃器で武装した犯罪者であっても刀剣を叩き込むのは色々問題がある。なのでこのチョイスなのだ。
棍棒と侮ることなかれ。人間を制圧するには十分な武器だ。今も梧桐くんがフルスイングで顔面に叩き込んだ。二mの大男の一発だ。案の定、相手はひざから崩れ落ちた。他のメンバーも上手くやり、初撃で3ダウンを取った。お見事。
残り三名、数はこちらが有利。これなら全滅させられると思いきや、そうは問屋が卸さない。
「まずい、増援だ。ヒロっち!」
「アイアイサー!」
合図に答えて、のこり二つのナイトスターが空を舞う。一つは合流しようと走ってくる相手へ。もう一つは残存する敵へ。倒すことが目的じゃない。安全に撤退するためのアクションだ。
それでなくても数の上では俺たちが不利なのだ。一人行動不能にされるだけでも辛い。ナポレオン曰く、三倍の数に勝つには敵を三つに分けるのだとか。真似しようとして失敗した者は多いとも聞く。
俺がかの皇帝と肩を並べるなどありえない。せいぜい背の低さくらいしか……と思っていた時もありました。へー、ナポレオンって背が低いんだー、どれくらーい? ……え、169cmあったらしい? おれより4cm高いじゃん、と凹んだ高校時代の思い出。
思考が脇道に逸れた。とにかく倒すのとその逆、どちらを取るかと言えば絶対的に後者である。なのでナイトスターもそのために動かす。
棘付き鉄球という、ビジュアル的に分かりやすい脅威が飛来すればベテランハンターと言えど対応に一手使わざるを得ない。梧桐くんたちが離脱するには十分な時間を稼げる。実際に、盾で防いだり剣で振り払ったりと対応に追われている。
「よし、いいぞ。このまま……ぐわっ」
「社長!?」
咄嗟に掲げた盾に、衝撃。放物線を描いて飛来した斧が俺に命中した。なんとか防いだものの、跳ねた斧が肩に当たった。刃こそ立っていなかったが、重量物だ。衝撃はどうしてもある。だけど泣き言を漏らしている暇はない。
「大丈夫、移動するぞ。リュー!」
「はーい。お次はどちらまで?」
「次のチームと合流する! ヒロっち、梧桐くんの方へ!」
「お気をつけて!」
俺は移動し続けなくてはいけない。倒されるとゲームオーバーになってしまう。だからこそ相手は俺に群がってくるし、それを逆手に取って攻撃を仕掛けることもできる。
戦いは始まったばかり。盤面を固められてはこっちが負ける。引っ掻き回さねば。流が引っ張ってきた絨毯に乗って、俺は次の場所へ移動を開始した。