【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず   作:鋼我77

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第82話 ダンジョンの危険な甘味

 さて、皆で地下五階へ向かうことになったわけだが。全員まとめて、という訳にはいかない。なんと言っても人数が多い。いつぞやも言ったが、ダンジョン内で四十名がひとかたまりで活動するのは、多すぎるのだ。

 今回は地下十階で地王カンパニーと戦わなくてはいけない。移動中に、モンスターと戦うのはなるべく避けていきたいのだ。大人数でぞろぞろ移動しては、敵を引きつけてしまう。

 とりあえず一チーム十名として、四つに分けて地下一階から三階まで移動することにした。これは特に問題なく移動することができた。

 普段から業務で頑張っているおかげで、積極的にぶつかりにいかなければこれらの階層で戦闘になることはまれだ。まあ、群れからはぐれた個体とまれに遭遇する場合もあるが、皆の戦闘力なら問題にならない。

 

「問題は、ここからなんだよな……」

 

 大魔神マーク3の兜を脱いで人心地つき、先を考えて唸る。ここは地下三階の下り階段前。皆に休憩を取らせている中、主要メンバーに集まってもらっていた。

 

「地下四階は、間引きも探索も進んでいませんからね」

 

 深刻な顔で、勝則が語る。そう、我が社はつい最近地下四階に進出したばかりだ。階段付近は調査した。戦闘するに丁度良い場所を調べ、ハウルボアを倒した。しかしそこまで。地下五階への階段は、まだ発見していないのだ。

 

「時間をかけるわけにはいかない。さりとて、下手に動くわけにもいかない」

 

 またもや、うなり声が漏れる。分かっていたけど、道中急ぐあまり具体的手段を考えられなかった。少数で分散して探すのが早いが、極めて危険な行為だ。

 うちの社員たちは優秀だが、それでもハウルボア退治には複数人で当たる必要がある。多対一が基本、二匹以上と遭遇したら目も当てられない。安全を確保しつつ、素早く探索する方法。そんな都合の良い話が……。

 

「提案があります。本隊はここで待機。いざという時の戦闘要員を四階階段前で待機。そして身軽な個人を探索に出すというのはどうでしょう」

 

 道明さんが、大変具体的な話を出してくれた。

 

「いや、それはさすがに危険すぎるのでは」

「ハウルボアは突進こそ凄まじいですが、旋回能力は低いです。何度か方向転換を挟めば、振り切るのは難しくありません。もちろん、逃げる側の足の速さと体力は必須ですが」

 

 俺の懸念にも、ハキハキ答えを返してくれる。……そういえば、一樹さんの印象大きすぎてすっかり忘れていた。この人たちもダンジョン十年選手じゃないか。地下五階だって、何度も経験しているはず。それに裏打ちされた情報だ。大変ありがたい。

 

「探索時は隠れながら。見つかってしまったときは一目散に階段へ戻る。振り切れればよし、そうでなければ、里奈がズンバラリンします」

「します!」

「わーお、なんて頼もしい」

 

 シンプル&ストロング。確かにそれならいけそうだ。ただ、里奈さんにばかり負担をかけるのはよろしくない。アビリティの使用はなるべく控えてもらわねば。次もあるし。となればやはり、主戦力を階段に待機させるべきか。

 

「誰かのほかに、いい案あるか? ……うん、ないな。よし、それじゃあ道明さんの案でいこう。問題は、誰が探索に出るかということなんだが」

「とりあえず、発言者である自分が行きます。こう見えて、ドゥームブレイカーズでは探索もこなしていましたからね」

 

 手を上げる道明さん。おー、と社員たちから感嘆の声があがる。そういえばこの人、高速移動して敵をバッサバッサぶった斬るのが戦闘スタイルだった。なるほど、体力と足の速さはあるのか。

 

「一人は道明さん。ほかには……流、いけるか?」

 

 前回ハウルボアと戦った時、ほかのモンスターを引きつける役をやってもらった。こいつの足ならば、この大仕事もこなせるはず。

 

「モチのロンっす」

 

 親指立てて、請け負ってくれる。……まったくびびっていない。コイツにとって、ハウルボアを振り切るなんて楽な事なんだろうな。人の成長というのは、すごいものだ。

 さて、まだ誰かいけないだろうか。二人では探索に時間がかかるだろう。最低でももう一人は出したいが、誰でもいいわけではない。……ここで消耗させたくはないのだが、やはり御影兄妹に頼むか?

 

「社長、私やります!」

 

 次の人選を悩んでいたところで、元気よく手を上げる女性あり。ハガクレ組の乙川とわさんが、身を乗り出してアピールしてきた。

 しかしそれには、難色を示さざるを得ない。

 

「いやー、乙川さん。さすがに地下四階は危ないから。ここは慎重に……」

「いえ、社長。108なら……とわなら、やれると思います」

 

 なんとかして彼女のモチベーションを削ることなく諦めてもらおうと思っていたら、勝則が口を出してきた。

 

「たとえ魔法やプラーナがなくても、彼女は優秀です。疲弊していたころならともかく今は体力も回復、再訓練もこなしました。ダンジョン食材のパワーもありますし、彼女は全盛期を超える性能を得ています。問題ないかと」

「さすが234……勝則。冷静な分析は十八番ね」

 

 褒められて、胸を張ってみせる彼女。ちなみにサイズは一般的。少なくとも小百合より大きい……ということを考えるとセクハラになるので顔に出さないようにする。

 さておき、勝則から太鼓判が押されたわけだが。

 

「さっちー、お前さんの見解は?」

「……そーですねー。マウント大好きだし、上から目線うざったいし、調子に乗り出すと手がつけられませんが。自分のスペックアップに全力尽くすし、実際やるときは絶対やりきる娘です。なのでまあ、やらせてもいいんじゃないですかね。面倒くさいけど」

「ものすごい言い草だけど、今は許してあげるわ」

「それはこっちの台詞ー! 何度も言ってるけど、今は私の方が先輩! 性能も上!」

「すぐに追い抜いてみせるわよ! 背や胸と同じようにね!」

「それを言ったら戦争ー!」

「まてまてまて! ここでケンカするな」

 

 女性陣に手伝ってもらって引き剥がす。実はそこそこ見慣れた光景である。本当、よくケンカするんだこの二人。施設で共に育っていた頃からライバル関係だったとか。とわさんが元気になってからというもの、定期的にこんなやりとりをしている。さっきのように、小百合が身体的特徴で煽られている。

 険悪にはならないので、じゃれ合いとして不問にしているけどね。勝則も、あれは姉妹のコミュニケーションのようなものといっていたし。でも流石にダンジョン内では放置できん。

 

「えー、じゃあ。乙川さんにもお願いしよう。くれぐれも、気をつけて」

「はい、お任せください!」

「さて……それじゃあ、迎撃と待機で組を分けるぞ-」

 

 迎撃は、俺、里奈さん、宏明、歩、三郎くん。残りのメンバーが待機とした(使い魔の猫もこちら)。勝則と小百合がいれば弾丸サンマの群れが来ても対処できる。香さんはアビリティの関係で残ってもらった。人員が多いほど、彼女の能力は輝く。

 振り分けを終えてから、探索組と一緒に階段を下りる。気持ちを引き締める。地下四階に降りた経験は数えるほどしかない。いつも以上に油断ならぬ危険地帯だ……いや、ダンジョンで油断できる場所なんてないけど。地下一階でも事故は起きる。

 階段を降りきった先には、ちょっとした広場になっている。身を潜める場所はないが、戦闘する分には問題ない。

 

「三人とも、こっちへ。前回までの地図がここにある」

 

 広げたのは方眼用紙。鉛筆で枠をなぞり、構造を書いてある。歩の発案で始めたのだが、これが大変役立っている。どう探索したか、一目瞭然になるから。鉛筆なのは、書き直すため。流石に正確な長さを測っているわけではないので、ずれが出るのだ。

 

「おお、意外と見てあるじゃないですか。ほとんど調べてないってお話でしたから、もっと真っ白かと」

 

 道明さんの言葉通り、地下四階の図面にはそれなりの書き込みがある。しかしその言葉に、流が頭をかきながら口を出す。

 

「あー、すんません。これ構造としては大体大丈夫だとおもうんスけど、距離とかは自信ないっす。走り回った時のやつなんで」

「なるほど。でもないより遙かにマシですよ。さて、それでは分担ですが……」

 

 テキパキと、誰がどちらへ向かうのか割り振る道明さん。ベテランの振るまいは、安心感がある。任せる俺としても心強い。

 

「では入川社長、行ってきます」

「よろしく。皆気をつけて」

 

 三人を送り出し、じっと待つ。流石に座るわけにも行かず、壁に背を預ける位しかできない。ダンジョン内は静かだが、時折モンスターの鳴き声が響いてくる。この階だとハウルボアのそれ。地下三階の弾丸サンマは鳴き声なんて上げないので、本当に静か。なので余計に危険だ。接近を気づけない。

 静かに待つ……のだが、一つ気になったことがある。正確には前々から思っていたこと。声を潜めて、三郎くんに聞いてみる。

 

「梧桐くん、ちょっといいかしら。……君らさ、自分の能力のことを性能っていうけど、あれなんで?」

「あー……たいしたことじゃないんですけどね。俺らを教育していた連中が、そんな感じだったんですよ。もっと性能をあげろ、そんな性能じゃ話にならない、って。……最近、俺らもちょっと疑問に思って話あったんですよ。なんで? って」

「結論……は、でないか。どんな推論が出たの?」

 

 聞いてみれば、三郎くんは自嘲気味に鼻で笑った。

 

「俺らは、製品だったんじゃないか。俺たちの育て方をモデルにして、もっと量産するつもりだったんじゃないか。勝則のやつが、そんな風にいってましたよ。まったく、あいつは目の付け所が違う」

 

 ……彼らの扱いについては、あくまで聞いたことのみしか分からない。だが聞けば聞くほど、許しがたい扱いばかりだ。本当、機会があれば責任者ぶん殴ってやりたい。

 

「……その言い回し、止めちゃうのはどうだ?」

「染みついちまって、無理ですよ。ま、いまさらです。気にせんでください」

「そうか」

 

 むやみやたらとする話題じゃなかった。反省だ。口を閉じて、じっと待つ。……が、気持ちはやはりはやる。腕時計に視線を落とすが、三人を送り出して五分程度しか経っていない。

 皆の手前弱音は吐けないが、これはなかなか辛いぞ……?

 

「社長、あれ、あれ」

 

 眉根にしわを寄せて耐えていると、宏明が通路の方を指さした。遠方、多分軽く百メートルは離れた先をゆっくり歩く大きな影があった。それを一言で言えば、おおきな木である。

 高さは二階建ての家を超えるくらいだが、枝が太い。根も太く、それが足のようにうごめいて移動している。最大の特徴は、一抱えもある実だ。リンゴのような形をしているが、口がついている。舌はなく、漫画じみたギザキザした歯が並んでいる。

 ハウルボアの凶悪さに隠れて騒がれないが、あれもまた地下四階の恐るべき怪物。ファングツリーである。……海外の正式名称はバイトツリー。噛みつき木なのだが、日本人的感覚だと変に聞こえるためローカルでこう呼ばれている。

 名前はさておきこのファングツリー、何が危険かといえばやはりまずその実が危ない。ビッグアントでは比較にならないほどの噛みつき力がある。魔法で作った壁すら、噛みついて砕くといえばどれほど凶悪か分かるだろう。

 ダンジョンブレイクの時にこれが初めて外に出たときの被害はひどいものだった。逃げ遅れた一般人、ボランティアのハンター、避難誘導する警察官、そして軍人。数多くがこれによって命を落とした。ファングツリーはたった一本だけだったにもかかわらず、である。

 被害が広がった理由は、実の能力にある。まずこいつは、自分で移動ができる。鞠のように跳ねて、最大三十メートルほど離れられる。しかもそこそこ機敏なのでたちが悪い。それに反応できないと、あっという間に近づかれてガブリとなる。

 これと、先ほど上げた噛みつき力。車の車体など易々食いちぎるため、被害は大きなものとなった。そんな凶悪極まるファングツリーだが、防御力はそれほどでもない。実も本体も、兵士が装備できる火器でダメージを入れられる。

 さらに本体の移動力も速くない。一般人の歩行速度くらいだ。なので発見時に三十メートル以上離れていれば、逃げることができる。探索に出ている三人も、うまくやれるだろう。

 このように地下四階にふさわしい凶悪さをもっているわけだが、それだけではない。

 

「……あいつの実、美味いらしいですね」

 

 ぼそりと、三郎くんがつぶやく。そうなのだ。ファングツリーは、二重の意味で美味しい。味覚的にも金銭的にも。まず頭のてっぺんからつま先まで、全部買い取り対象となっている。

 葉っぱは茶葉にできる。手間はかかるが、味と香りが最高級品に引けを取らないんだとか。根の先端部分は、様々な薬効が確認されているらしい。オークションにかけられると、薬品系の大企業が目の色を変える。

 本体の木材も、非常に人気がある。これで作った家具がひとつでもあれば、家の格が上がるとかなんとか。上流階級のブームらしい。まあ、高く買ってくれるなら(思うところはあるけど)生産者として文句はない。

 そして先ほどの話に出た実については。

 

「美味しいですよー。甘くて、それでいてくどくなくて。いくらでも食べられるって感じです。わたしもダンジョン入っているとき余裕があれば、一つは確保しますね」

 

 味を思い出したのか、笑顔で里奈さんがそう話をしてくれる。超高級スイーツとしてファングツリーの実は時折テレビで紹介されている。ひとつウン十万円。それでいて、具材はちょっぴりしか入っていない。そんなスイーツなのに、高級品に慣れているはずの一流芸能人が大はしゃぎするのだ。

 そんなにいいものなのか? と見ていたときは首をかしげたものだが、彼女が言うなら間違いないだろう。何せ、ファングツリーくらい簡単にぶった斬れるお方だし。

 

「あれを商品にするなら、なるべく傷つけずに確保しなきゃいかんのだが……無理だよなあ」

 

 言うまでもないが、実には筋肉も心臓もない。百パーセント魔法的な何かで動いている。その魔法が切れるまで拘束し続ける、というのは現実的ではない。その方法を編み出すだけでも一苦労だろう。

 魔法を消し去るマリアンヌさんの剣を使えばいけると思うが、これは一本しかない。これに頼った方法はダメだ。俺がいなくては捕まえられないのでは、商品を安定して供給できない。

 勝則たちにジャミングフィールド使ってもらえば、変化が起きるとは思う。そこから解決方法を探っていくしかないだろう。しかし相手は地下四階のモンスター。間違いなく危険な相手。それをやるとしたら、もっと実力がついてからに……。

 

「傷つけずに確保したいんですか? だったら、実から伸びている茎の部分を切ればいいんですよ。そーすると、全く動かなくなりますから」

 

 うんうんと悩んでいたところに、するっと解決策が提示された。……うう、む。すごくありがたい、ありがたいが。

 

「里奈さん、それしゃべっていい話なんです?」

 

 これは、大金に換えられる情報だ。それをできるのは限られているが、実行したときの金額はとんでもない。ファングツリーの実、まるまる一個で五百万位だったはず。

 心配になって尋ねると、笑顔だった彼女の表情が固まった。そしてへの字口になって悩み出す。

 

「えーっと、えーっと……? だ、大丈夫、な、はず。お役人さんの悪い話じゃ、ない。芸能界の悪い話、でもない。外国の工作員……の、話でもない。大丈夫……たぶん!」

「普段どんなことを口止めされているか全部ゲロってるんすけど、いいんですか社長」

「梧桐くん、しっ」

 

 口の前に指一本立てる。この場には我が社の社員と彼女しかいないのだ。黙っていればばれない。というか、黙っていないとまずい気がする。内容は聞いていないが、里奈さんがそれらを知っているということが分かってしまった。

 でっかいセキュリティホールが目の前にあるわけで、それを覗けると第三者に知られた日には……くわばらくわばら。

 

「大丈夫なら、よかった。大変ありがたい情報です。後でお礼をさせてください」

「あ。じゃあどこかご飯美味しいところ連れて行ってくださいね」

「その程度ならよろこんで」

 

 実際はその程度じゃ返しきれないビックな情報なんだよなあ。ダンジョンモンスターは金になる。だが、金に換えるまでが大変なんだ。ハウルボアでそれがよーく分かった。

 ……そういえば、崑崙マーケットでもファングツリーは需要あるって話だったな。行路飯店の明珠店長が『どの部位でも買う!』って言ってたし。うむむ。また計画を立てなくては……いや、性急か。

 ハウルボアの商売が軌道に乗ってから、改めて考えるべきだ。労働力の分配とか色々あるものな。儲かりそうだからとあれもこれも手を出して、処理が追いつかず破綻するとかよく聞く話だ。

 だけど飯の種は多い方がいい。今後に繋がるいいお話だった。

 

「あ、そうだ。ご飯で思い出しました。皆さん気をつけてくださいね。この階層からあいつが出ますから」

「あいつ?」

「ダンジョンのモンスターって、基本的に決まった階層から動かないじゃないですか。スタンピードの時以外」

「そうですね。どの階層にもいるこけ玉は例外として、だいたいそうです」

 

 ビッグアントが下に降りることはないし、ハウルボアが地下一階を徘徊することもない。もしそうだったら、一般人のダンジョン管理など荒唐無稽の夢物語だっただろう。

 

「でも地下五階には例外的に上と下、四階と六階を移動するモンスターがいるんです。聞いたことあります?」

「あー……そういえば、管理講習のときにさらっと紹介されたような。たしか……」

「ブギィィィィィ!」

 

 話している途中で、ハウルボアの怒声が響いてきた。まだ遠方で、姿は見えない。しかしそれに続いて、足音が盛大に聞こえてきた。こちらに近づいてくる。誰か追われているのか?

 

「戦闘準備! 里奈さん、お願いします!」

 

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汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず

明日(1/23)発売です。

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