【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず 作:鋼我77
とはいえ、約束は約束だ。履行することにためらいは無い。あるけど、ない。酒は偉大だ。酒の神様、俺に力を。
「それはいいんだが、マリアンヌさんの包囲網をどうにかせん事には話もできん」
「しょーがないッスねー。よろしい。ここは俺が一肌脱ぎましょう! レッツ全裸!」
「ご両親が泣くから止めろバカ」
「ふつーに、李アニキの手下が殴って止めそうだなー。ってわけで、ここは俺が」
「どうするんだ?」
「こういうときは、おとりを使うのが一番。……おっほん、はあい皆さんご注目ー!」
宏明が酒瓶をマイク代わりにもって、ふらふらと近づいたのは……一樹さんの所。
「今回のドラゴン退治、MVPへヒーローインタビューしてみたいと思いまーす! はーい、寄ってらっしゃい見てらっしゃい」
「え? ちょっと、聞いてないんだけど?」
「いいぞー、一樹ー、かっこいいところ見せろー」
「何でも、聞いてください」
嫁さんに煽られて、過去一の決めポーズを見せる一樹さん。そんな騒ぎに、周囲から視線が集まる。うむ、今しかないな。
「マリアンヌさん、ちょっとこちらによろしいでしょうか?」
「え? はい、なんでしょう?」
面食らう彼女を手招きして外に連れ出す。まあ、外といっても店の一部。屋根のあるかないかの違いでしかないし、そもそもダンジョンの中なんだが。
騒ぎのおかげか、ここいらに座っていた客は店の中にいるようだ。丁度良い。神様もたまには俺に微笑んでくれるらしい。
ついてきてくれた彼女に振り返る。うん、思えば本当に身の丈の合わない恋をしたものだ。絶世の美女。世界を一人で守り続けた大魔道士。ダンジョンの制作者。それに比べて、俺のなんと矮小なことか。身の程をわきまえないにもほどがある。
だけど俺はそれを自覚してなお、すっぱり諦められるほど賢くない。彼女には迷惑だろうけど、きっちりしないと先に進めない。
「ええと、それで、何のご用でしょう?」
ああ、指輪を用意するべきだったか。いや、時間もなかったし、指のサイズも分からなかったから無理か。せめて花束くらいは……いや、無様だ。なので、誠意だけはしっかり示そう。
さて、告白だ。
「ええと、実は、ですね」
「はい」
「なんといいますか、その……」
「お客……いえ、入川さん。あの、お顔が真っ赤ですよ? お酒、飲み過ぎましたか?」
「それもありますが、その」
いかん。言葉が出てこない。考えていた告白の言葉も、全部吹き飛んだ。どうしよう、どうしたら。このままは不味い。失礼すぎる。せめて、せめて一言……。
「ずっと前から、好きでした。結婚を前提に、お付き合いください」
なんとか絞り出した言葉と共に、頭を下げて右手を差し出していた。……あれ? これでいいんだっけ? 子供の頃、こんな感じに告白していたテレビ番組あったよな? 混乱する俺。時間は進む。一秒、二秒、三秒……伸ばし続けた俺の手を、柔からかな感触が包み込んだ。え!?
「ごめんなさい。結婚は、できません」
……………………だよな! わかってた! 当然だ! 希望なんて持つべきじゃなかった! 明らかな間違いだと誰でも分かる!
「「「ごめんなさいーーー!!!」」」
それはそれとして、外野がやかましい。流や宏明だけでなく、魔法使いたちまで大はしゃぎしている。あいつら殴る。きっと許されるはず。今日の俺は阿修羅を超える。
「だって私、戸籍ありませんし。魔女が神前で式を挙げるというのも、格好がつきませんし」
…………ん?
「ですから、ええ。それ以外でしたら、いくらでも。人生を添い遂げるくらいは、喜んでといいますか……」
気になって、顔を上げてみた。俺の手を掴んだまま、顔を赤らめているマリアンヌさんがいた。……え? 酒が回りすぎて夢でも見ているのか俺。
「ええと、つまり、それって」
「「ちょっとまったーーー!」」
「ここでちょっと待ったコールだー!」
状況を理解しようとする俺の前に飛び出してきた二人……いや三人。道明さん、香さん、そして里奈さん。あと、ウキウキで合いの手入れてるのは歩。おじさん達がヤンヤと喜んでいる。……これもなんか、テレビでみたような。詳細は本当に思い出せないけど。
「社長、しばしお待ちを!」
「人の告白に割り込むとか流石にどうなの」
「お言葉はごもっとも! でも言います! 里奈ちゃんをもらってやってください!」
「…………は?」
何言ってるのこの日本の英雄カップル。
「何故この流れでそれが出る。そもそも、本人の意思は?」
「里奈ちゃん! 一番気になる人は誰!?」
「えーと、社長さん、です」
「ほら!」
「ほらじゃないが。それは里奈さんのライバルランキングでしょうに。っていうか、最近李大兄と勝負したし、その順位変動してない?」
野次馬席に視線を向けると、梅花剣士は腕で大きくバツを作って見せている。残念、我らが日本の華は彼のお眼鏡にはかなわなかったか。
「あの人はライバルじゃなくて目標ですねー。いつか斬りたいと思います」
「左様で。ともかく、そういう冗談は余所でやってくださいな。今日は酒が回ってるから……」
「酒は飲んでますが! 冗談じゃ無くて本気です!」
「なお悪い。どうしちゃったんですか道明さん」
そういうキャラじゃ無かったでしょう。そう言いたいのだが、彼の顔はどこまでも真剣だった。
「聞いてください社長。里奈を任せられるのは貴方しかいないのです」
「寝言は寝てからいってくださいな。いっぱいいるでしょう。イケメンも金持ちも」
「確かに、入川社長よりもイケメンでお金もってて足の長い人はいくらでもいます!」
「一言余計だよ香さん」
「だけど、里奈ちゃんを真っ正面から受け止められる男の人は本気で社長さんくらいなんです! なのでどうか! これはほかのメンバーとも話し合って決めたことで!」
「何を話し合っているんですか」
いやまあ確かに。里奈さんを受け止めきれる男は本当に少ないだろう。だからってよりにもよって俺を、しかもこのタイミングで頼むとか。本人も好いた惚れたを理解しているか怪しいし、これは流石に笑えない……と思っていたら右手を引かれた。
「マリアンヌさん?」
「入川社長……いえ、春夫さん。そういうお話なら、この子私たちで貰ってあげましょうよ」
「マリアンヌさん!?」
何言い出しているのこの魔女様。面食らっている俺の前で、彼女は里奈さんを抱き寄せてしまった。
「ちょっと見ましたけど、この娘は一般社会で生きられぬ
「いやいやいやいや! そんな、簡単に人を貰うとかいわんでくださいよ!?」
「この子、戸籍あるでしょうし結婚相手としてぴったりでは?」
「話が飛躍しないでください!?」
いい加減、声に悲鳴が混じり始めた。英雄カップルは互いに手を取り合って喜んでいるし、里奈さんはすげー笑顔だし。頭がクラクラしてきたぞ。酒のせいもあるだろうけど。
「どこの世界に、告白したら即愛人を入れようとか言う恋人がいるんですか!」
「ここに。なにせ魔女ですし」
「畜生常識通じねえ! ええい、仮にそうなったとして子供になんて言うんですか! 世間一般にも顔向けできませんよ!」
「あー……社長、子供関連で一言。何をどうしても、世の中から子供達は浮きます」
すっと手を上げ来たのは一樹さん。彼は大変不穏なことを語り出す。
「妊婦が酒やたばこを控えるのはおなかの子供に悪影響がでるから。では、ダンジョン食材を常日頃から食べていた母親から生まれる子供はどうなるか。実はすでに結果が出ています。簡単に言うと、スーパーベイビーです。病気知らず、健康、健やかな成長! ……そして幼少期から、周囲の子供とはどんどん能力に差が現れ始めるのです」
うんうん、とうなずく魔法使いのみなさん。そういえば、そんな話をテレビで見たな。ダンジョン発生から十年もたてば、そんな子供も増えてくると。
「母親が多いなど些細なこと。そもそも、ダンジョン管理者という立場だけで世間からの目がどうなっているか。今更語るまでもないでしょう」
「それは……そうだが」
結婚なんて全く考えてこなかったから、その辺意識したこと無かったが。そうかこれから先、俺だけでなく子供もいわれの無い誹謗中傷の的になるのか。流石にやりきれんな。
「ですが幸いなことに我々は同じ地域にいて、年齢も近い。これから子供も増えるでしょう。一人だと浮きますが、集団ならそれも和らぎます。むしろ、立場は上となるでしょう」
「やだなあ、そういうマウント合戦。でも、子供の安全のためなら致し方ないのか」
……いや、なんかごまかされそうになったけど、ともあれ駄目だろう。ここはもっと常識的な発言をしてくれる人に話を振ろう。
「先生ー! この常識なしどもに一言お願いしますー!」
俺の呼びかけに銀髪の老婦、氷川ダニエラさんはジョッキ片手に頷いた。……ジョッキ片手?
「人の形、生き方、性格は千差万別です。中には一般の人との違いに苦しむ者も少なくありません。そんな人たちを、周囲の人間がフォローする。それが人間社会の良いところです。なので社長、どーんと男を見せてるのも上の立場の人間のすることかと」
「酔ってますね先生!?」
「嫁さん公認なら、愛人作るのも甲斐性だよ社長くん!」
「おい! お二人に水飲ませろ!」
旦那である正吉さんまで愉快なことを言い出した。社員に命じて引っ込ませる。ああ、もう、味方がいない! ……嘆いていたら、里奈さんから袖を引かれた。
「駄目、ですか?」
「駄目かと聞かれると、だめじゃないのだけれど……」
上目遣いですがられると、流石に強く拒否はできない。……彼女とそれなりに交流してきたが、そこに男女の下心が無かったかと言われると否定はできない。そりゃそうだ。日本男子の憧れが目の前にいたのだから。
そんな彼女が恋人になるなら、そりゃ嬉しいに決まっている。だけど俺は社会人で社長だ。馬鹿なことはできない。たとえ周囲も嫁(恋人?)が良いといっても、超えてはならんものがあるだろう。
だが一方で、皆の言うところも分かる。彼女を受け止めきれる男など、そうそういない。俺がそうだと胸を張っていえるわけではないが、そこいらの男よりはマシだと思う。
……マリアンヌさんを見る。素晴らしい笑顔を返してくれた。大きく、ため息を吐く。
「分かった。降参だ。面倒見るよ。責任取るよ」
わあ、と拍手が巻き起こる。本当に祝福するの? この状況を? 皆さん酒が脳に回りすぎでは?
「うらやましいーーー! 先輩ばっかりずるいいいいい!」
「妬みで人を殺せたら……ッ!」
どんぐり共の反応が、いっそすがすがしく感じる。肩を落としていると、左右から麗しき恋人達に挟まれた。
「それじゃあ、末永くよろしくおねがいしますね?」
「おねがいしまーす」
柔らかな膨らみを合計四つも押し当てられているのに、眩暈がする。
「これから一体、どうなるんだ……」
俺の嘆きは歓声にかき消され、誰にも届くことは無かった。
四章を読んでいただきありがとうございます。書籍一巻への反応もこの場にてお礼申し上げます。購入報告もいただいており、大変嬉しく思っています。
次章もよろしくおねがいします。……さて、最後になりましたが一つ喜ばしいご報告があります。第二巻の作成が決定致しました。これも皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。詳細についてはまた後日にお伝えしたく思います。
それではまた。