【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず   作:鋼我77

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第96話 社員総会inダンジョン0階

 ダンジョンから出てきた。時間は夕方。少し日が落ちつつある。早速成果である牙の実を、倉庫へと持って行く。しかし冷蔵庫には入れない。代わりに、床に敷かれたブルーシートの上に置く。シートには、怪しげな模様……魔方陣が書かれている。それを見て、一緒に運んでいた古志(こし)憲治(けんじ)君が懐疑的な声を上げる。

 

「社長さん、コイツ本当に効果あるのかよ」

「疑いたい気持ちはよく分かる。しかし、作った人への信頼が担保になってるからなあ」

「ああ……ドラゴンキラー」

 

 うん、そう。作ったのは一樹さんなのだ。あの行路飯店の打ち上げの後、何故か彼ってば死霊術士(ネクロマンサー)のおじさんとすっかり意気投合。術やら道具やらのやりとりをしているらしく、これもそれの一環で教えて貰ったらしい。

 本人曰く、術の練習にこさえてみた。せっかくだから使ってほしい、という話だったのだけど。セーター編んだから使って、みたいなノリで渡していいものではない。

 

「防腐の魔法。それが込められた魔方陣……って話だけど、これ多分とんでもない代物だよ」

「……うっすらと、わかる。うっすらとしか分からないけど」

「危機感知ができて偉い。俺たち人類は生ものを腐らせないために、様々な努力をしている。冷蔵庫、防腐剤、冷蔵トラック……。それらは当然、コストがかかっている。もしこれが、一般に流布したらどうなるだろう」

「……ヤベエ?」

「とてもやべえ。少なくとも、そっち関連の企業さんは大打撃になると思う。もちろんそれだけじゃないけど。一体どれだけ世界に変革を生み出すのかさっぱりだ」

 

 軽くイメージしてみよう。例えばそう、臓器移植。ドナーから摘出した後は、時間との勝負だと聞く。そこにこれが投入されたらどうなるか。素人考えだが、時間の枷がなくなって余裕を持って手術ができるようになるだろう。

 

「ソレって、いいことじゃねえの?」

「俺もね、最初はそう思ったんだよ。でも、サッチーが容赦ない話をしてくれてさ」

「あのちっこいのが」

「君より年上だぞ。それでね……」

 

 小百合が言うには、それを悪用する犯罪者の手に渡ったら大変なことになる。人をさらって、金になる臓器を引っこ抜き長期保存。臓器提供を望む金持ちに売りさばく。そんな闇ビジネスが確実に発生する。というか、治安の悪い国では(長期保存はできないが)すでにあるとも言っていた。

 

「……えっぐいな」

「まあどんな道具、技術、善意すらも悪用しようとすればいくらでできる。果物ナイフで人を殺すことも、募金を募るふりをして着服することも。法がないと、裁くことも出来ない。だからこれも、当分表には出せないね。というわけだから、内緒ね?」

「この会社に入ったら、外でできねえ話題がどんどん増えやがる」

「ははは。……そんなつもりはなかったんだ、と社長は発言しており」

「あんただろ」

「俺です。……さて、無駄話してると時間がいくらあっても足りない。さっさと運んでしまおう」

「おう」

 

 牙の実を、シートの上にならべていく。このシート、地味に魔法で守られている。土足で上がっても汚れはおろか傷すらつかない。箒で掃けば、新品同様になる。これはこれで凄いのだが、それなりにコストがかかっているらしい。長く使うこういう品でなければ、とても使えないとのこと。

 まあ、何でもかんでも魔法に頼るというのも健全ではないよな。……だが、一方でその力で頼らざるを得ない問題もある。ほかならぬ、この倉庫についてだ。

 ここには、高級品が詰め込まれている。弾丸サンマは一匹二百万。牙の実は五百万。ハウルボアの肉は部位によって異なるが、それでも同量の弾丸サンマと比べれば倍以上の値段がつく。

 この値段、そしてこんなご時世だ。人生の逆転を狙って、強盗に入ろうとする輩は確実に出るだろう。当然、防犯への対策は取ってある。鍵はかかるし、セキュリティ会社による警報装置もついている。監視カメラもつけた。一般企業的には、十分防犯に気を遣っているレベルだ。

 しかしプロの犯罪組織や、ハンター相手では全く足りない。物理的な頑丈さには限界がある。それこそ銀行の金庫みたいな分厚い壁と蓋が必要になるだろう。それではとても倉庫としての役目を果たせない。仕事に支障が出る。

 なので御影兄妹(監修:マリアンヌさん)で強力な守りの魔法をかけて貰った。『要塞』とかいう物々しい魔法で、入り口、壁、窓にいたるまでバッチリ守ってくれるのだとか。破るにはソレこそ、プラーナやマナを使うしかない。

 そしてそれが使えるハンターは、そもそも強盗なんかせずとも稼げる。だからめったなことでは破られない、という話だった。社長としては一安心である。

 

「よし、おしまい。お疲れ様」

 

 牙の実がシートの上に並べ終わった。……口がとじてあるとはいえ、正直少々不気味である。もう動かないと分かっていても、これがいきなり襲ってきたらと思うと背筋が寒くなる。

 これの出荷は明日。とりあえず今日の仕事はここまでだ。

 

「倉庫を閉めるぞー。目視確認だ」

「うーっす」

 

 冷蔵庫の中、その上、壁際……人が居そうな場所はチェックする。声をかければ、皆が外に出ると考えるのは浅はかだ。世の中、予想も付かない事故は起きる。考えたくはないが、隠れていて後でここの物を持ち出そうと企むものもいないとは限らない。こういうあからさまなチェックが、そういう考えをへし折るのだ。

 

「倉庫内に、人員なし!」

「よーし、閉めよう」

 

 という訳で、鍵をかける。この鍵にも魔法がかかっている。頑丈にするものと、専用の鍵でなければ開かなくするもの。なんと二重がけだ。うっかり鍵をなくしたらどうするか? その時は魔法そのものを解除するんだってさ。安心。

 倉庫への搬入は終わった。俺たちは社屋へと足を運ぶ。そう、ついにミナカタ社の社屋が完成したのだ。待ち望んだソレは、俺たちに便利さを与えてくれている。

 真新しい三階建ての社屋。一階は主にハンター用だ。装備品(刀剣含む)を保管するロッカー部屋。シャワールーム。休憩室。そして、事務員も使う社員食堂。ここが一番広い訳だが、働いてくれている料理人については一エピソードある。

 例によって、人員確保は難航した。ハローワークに一応相談したが、窓口ですでに職員が苦笑するレベル。それはもう我が社としても分かっているので、いつも通り方々の伝手を頼った。……こう言うと、頼ってばかりに聞こえるがこちらとしても出来ることはしている。

 地域の清掃活動、市への貢献、ご近所さんのお手伝い。ダンジョン食材を渡すだけでなく、そういった行動で出来ることはやらせて貰っている。タカリ屋と思われては、それでなくても悪い印象がさらに落ちるから。

 さてその結果、意外な所から料理人を紹介してもらえた。昨年の夏、俺たちは隣の市で起きたダンジョンブレイクの対処に参加した。その時、老人ホームの避難を手伝ったのだが……どこをどう伝わったのかそこから連絡が届いた。

 曰く、入所している方の息子さんが働き口を探している。店を構えていたのだが、ダンジョン発生による避難で周囲に人が居なくなってしまった。客入りも減り、経営が立ち行かなくなった。店を立ち上げたときの借金も残っているし、料理人として働けるならどこでもやらせて貰う、と。

 なんとも身につまされる話だった。何故ダンジョンが発生するのか。その必要性を知った俺たちであっても、犠牲が許されるとは思っていない。かといってよりよい方法など思い浮かばず、どうしよもないと言うしかないのだが。

 ともあれそういう事情であれば、こちらとしてもありがたく雇わせていただくわけで。厨房を任せる方に入って貰うことが出来た。お名前は島本(しまもと)恒平(こうへい)さん。年齢三十五才。妻子あり。……面接して就職が決まったとき、心底ほっとした顔をしていたのが印象に残っている。

 なお、お手伝いの方は割とあっさり都合が付いた。農家の太田さんの親戚やらご友人で都合の付く方がそれなりにいらっしゃった。ありがたくパートで雇用させていただいた。助かった。本当に助かった。持つべきものは地元のコネである。

 そんなこんなで、我が社は新たな人員を迎え新年度を始めている訳なのだが。

 

「お、集まってるな」

 

 一階付近に、荷物を片付けたハンター達が集まっている。さらに、事務方の面々と陽子さんたちパートも。いないのは食堂の島本さんたちなのだが、今回は留守番とさせていただいた。これからのことは新規さんには刺激が強すぎるから。

 

「社長、全体会議の準備できてます」

「お疲れさん。それじゃあ、移動を始めてくれ」

「はーい。それじゃあハンターチーム、移動開始でーす」

 

 小百合の号令に従い、全員がぞろぞろとダンジョンへと降りていく。彼らとしてはいつも通りなので普通の振る舞いだ。事務方やパートの面々には、若干緊張が見える。それでも地下一、二階くらいであれば、すでに皆が経験済みである。

 ハンターが先に入ったと言うことは、周辺のモンスターは全滅を意味している。安全は確保されているのだ。そうとは分かっていても、やはり常識の通用しない場所。仕方が無い面もあるか。

 全員が降りたのを確認して、俺も御影兄妹を引き連れてダンジョンへと入る。地下一階階段前、こけ玉トラップが壁に貼り付けてある場所。そこに、いつもとは違うオブジェがあった。木が絡み合ってできたアーチ。その向こうには、青空が見える。こちらとは時差が6時間ほどある。あっちはまだ昼だ。

 アーチの左右には、二人の女性が立っていた。片方はメイド服で、もう一人は執事服。背の高さは同じ、ついでに言えば身体のスタイルも一緒。そしてそれは、マリアンヌさんとも同じである。二人の美女を労う。

 

「お疲れ様、猫さん、カラスさん。俺らが最後だよ」

「はい。転移の方も滞りありませんでした。どうぞお通りくださいませ」

「ごゆっくりどうぞ」

 

 礼儀正しく礼をする二人に送られ、三人でアーチをくぐる。そこに広がっているのは、かつて見た光景……に変化が加わった物。まず目に入るのは、天を突く光の塔。世界中に発生しているダンジョンの基部にして、異世界の侵略を阻む壁。巨大積層魔方陣。

 そこから少し視線をそらすと、円錐型の塔が地面に突き刺さっている。サイズとしてはこちらの方が大分小さい。五分の一、いやもっと小さいかな? その周囲には工事現場よろしく足場が組まれ、複数人が今も作業を続けている。

 また別へ視線を向けると、巨大な屋敷が目に映る。重厚な西洋風のそれは、歴史を感じさせると同時に手間暇をかけた威風と財を感じさせる。

 ここは、ダンジョン地下九階の先にある場所。地下十階にして地上階。北ヨーロッパのどこからしいが、詳しいことは分からない。元はマリアンヌさんが正式に取得した場所らしいが、今は魔法で隔離している。そのため、彼女自身正確な場所は思い出せなくなっているらしい。そうすることで、この場の秘匿性を高めているのだとか。

 強固な結界のおかげで、地上からこの場にたどり着くことはない。衛星写真にも写らず、侵入にはマリアンヌさんの許可が必要なんだとか。いやはや、魔女の住処とは凄まじいものである。……その強固なセキュリティも、合鍵を盗まれると抜かれてしまう。この間の事件が、果たしてどのような教訓を生んだのやら。

 

「あそこのようですね」

 

 勝則の指さす先は、ちょっとした丘になっていた。ここからは下り坂なので、楽に行ける……膝に負担が若干あるけど。その丘には天幕が張ってあり、皆はそこに集まっている。

 

「手間をかけてしまったなあ」

「魔女殿が言い出したことですし、気にしなくていいのでは?」

「そういうわけにはいかないの」

 

 小百合とそんなやりとりをしながら、足を運ぶ。近づくと社員達のほかに、全く違う姿の者達が働いている。全身にはきれいな毛並み。大きな耳に、長い尻尾。背丈は150cmほど。服を着た、二足歩行する大ネズミ人。種族名は直球そのまま、ラットマンという。マリアンヌさんを助けにここに来たあのとき、屋敷から見えたあれだ。ついでに言えば、この前のパーティで、チンピラハンターを化けさせた姿の元ネタでもある。

 このラットマン達は向こう側、蛮族の楽園(サベージ・パラダイス)から連れてきたと聞く。より正確にいうならマリアンヌさん達が昔、あちら側を探索したときに、サンプルとして30匹ほどの小部族を連れ帰ったとのこと。

 当時の写真を見せて貰ったが、今とは似ても似つかぬ姿だった。ガリガリに痩せて、目は血走り、毛並みも汚い。理性もあるようには見えず、モンスターそのものといえた。実際当時はそのように扱っていて、隔離空間(今あるダンジョンの原型の一つ)で飼育していたとのこと。

 しかし、生活環境が変わったおかげでラットマン達の姿はみるみる変わっていった。痩せていた身体はふっくらと丸みを帯びた。清潔にしていたおかげで毛並みもつやが出るほどに。何より、凶暴極まりなく、本能のまま暴れていたのがどんどんおとなしくなった。

 ここまで変わるなら、と魔法使いたちは従僕化実験を行った。結果的に、今のように知性と理性を持つ種族になったそうな。

 ……この是非について、正しく判じる知識を俺は持ち合わせない。知性をもつ種族を一つ作り出したようなものでは? これって大丈夫? 分からん、としか言えないのだ。

 ともあれ、その後追加で連れてきたラットマンも同じ処置を施して技術をより洗練。現在、いくつかの魔法使いの住処で奉仕させているとか。自由意志は……と、倫理観がささやくが、この地球上で彼らが住める場所はない。間違いなくモンスターとして狩られる。

 これが最良か……まあ、殺処分していないだけマシなのだろう。ソレも酷い話なんだが。そんな状況であるが、当の本人達は幸せそうだ。ちょこまか歩きながらせっせと仕事をこなしている。

 

「お疲れ様、ありがとうね」

「ヂュ」

 

 ラットマンは頷いてみせる。言葉は話せないが、理解は出来る。一部のラットマンは発言用のマジックアイテムを持っているので、意思疎通に問題は無い。

 すでに到着していた社員達を見れば、ここの光景に目を丸くしていた。さもありなん。ダンジョン内ですら見ることのない、ワンダーに溢れているからな。

 

「おまたせー。それじゃあ席に着いてくれ-」

 

 そう声をかければ、皆が慌てて天幕の中に入ってくる。そこにはなんと、草で編まれた椅子が人数分そろっていた。そういう工芸品、というわけではない。地面から生えた草が、その形になっている。童話じみた魔法の姿だった。手触りも良いらしく、社員達からも好評のようだ。

 俺は全員の前に立つ。そこには、会社の会議室からも持ち込まれたホワイトボード。さらに、艶やかな魔女服姿のマリアンヌさんがスタンバイしていた。

 

「はい、今日もお仕事お疲れ様でした」

「「「お疲れ様でした」」」

「うん。で、疲れているところ悪いのだけど、事前の周知通り、今日は全体会議……社員総会というやつです。現状と今後について、周知していきたいと思います。まずは、アレについて」

 

 俺は、円錐型の塔を指さす。皆の顔に緊張が浮かぶ。それはそう、だってあれは特別すぎる。かつて世界中の人が見た悪夢。それに出てきたものにそっくりなのだから。

 視線を送ると、魔女は一つ頷いて語り始めた。

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