【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず   作:鋼我77

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第97話 あっち側どうすんの?

「あちらの塔をここしばらく調査団を結成して調べております。非常に多くの発見があったのですが……長くなりますので皆様に関わりそうな部分だけお伝えさせていただきます。まず結論から申しますと、あれこそ時間竜クロック・ブラックが用意した異世界侵攻兵器。異なる世界を移動するのに使用する、くさびなのです」

 

 魔女が指を鳴らす。すると塔の上に大きな魔方陣が描かれた。

 

「単純にご説明しますと、あれを起点にしますとその後の転移が容易になります。沢山の兵を送り込むのに、便利になると言うことですね。皆様が今日通ってきたあのアーチ。あれのもっと凄いモノであるとご理解ください」

 

 ここで手を上げる人の姿あり。地王カンパニーからの移籍組、実質的なまとめ役をやっている事務の田中一さんである。

 

「失礼します。……つまり我々が夢に見たあれは、異世界からの侵攻だったと?」

「本来なら起こりえていた事象、でしょうね。時間竜が実際に侵攻をしていたら、という。何故そんな夢を見たのか。私にもわからないのですけど」

 

 大魔導士ですら、あの夢の理由はわからない、か。まあ実害はないのだけど……ショックはある。これまで、あれはただの悪夢だった。しかしそれは説明の付く事象と絡んでいた。現実と繋がっていたとなると、笑えなくなる。

 俺は一度しか見てないので詳細は知らないのだが、悪夢の中で多くの人が犠牲になっていた。時間竜が本当に侵攻していれば、そうなっていたのだ。皆の顔色が悪くなるのも当然だった。

 

「で、準備されていた兵器ということは、まだ沢山あると取れるわけで。ソレについての情報を……一樹さん」

「はーい。失礼します」

 

 呼ばれて前に出てくる我が社の最強ハンター。足取り軽く、雰囲気はもっと軽く。重くなったそれを蹴飛ばしながら話し出す。

 

「さて実は私、数年前までちょっと向こう側に攻め込んでおりまして。その関係であっちに伝手やコネがあるんですが」

 

 社員達の表情が変わる。驚愕(マジか)納得(やっぱり)、の両方。彼の戦闘力は飛び抜けている。その理由が、向こう側での戦闘だというのなら理解できる。あちら側はこっちよりマナが濃いという。そんな場所なら成長が早まってもおかしくない。

 さらに言えば、あちらは魔法技術が大変発達しているらしい。あのとんでもない魔法の数々も、そちらの技術が取り入れられているならば……。

 

「それで、時間竜の残したあの塔。ぶっちゃけますと、大半が壊れております。ヤツがくたばったときの戦闘が原因という話ですね。なので夢のように大規模な侵攻は基本的にはないと考えて大丈夫かと」

 

 その言葉に、皆が大きく息を吐く。マリアンヌさんの顔色も、気持ちよくなったように見えた。

 

「ただまあ、あれは技術の産物です。残骸を持ち帰って研究し、自己生産する蛮王も中にはいるようですね。この間攻めてきた、あの竜のように」

 

 彼が平原の向こうにまなざしを向ける。そこにあるのは、背丈が高くなった雑草地帯。あの竜、蛮王グラニードが倒れた場所。聞いた話によれば、魔法使い達が集まって徹底的に解体。血の一滴に至るまで回収されたとのこと(ついでに部下の怪物たちも)。

 一樹さんの魔法でいろいろえらいことになっていたから、素材的価値はないんじゃないかなと思っていたがそうでもないようで。実際、素材の売却金額は凄まじいものだった。……解体から売却まで、全部事後承諾だったのはちょっと思うところがある。

 確かに、素材の鮮度を考えれば一分一秒を争う所だったのは分かる。戦闘後、俺たちは疲れ切って対応出来ない状態だったことも。しかし話を聞いたときはすでに全部売却済だったのはちょっと物を申したかった。あちらの方が強いし、マリアンヌさんの知り合いだし、まだ忙しい状態だったから揉めたくなかったので黙ったけど。後から思い返すと失敗だったなとは思っている。

 ドラゴンの売却金額については、後々マジックアイテムで納品して貰うという形で落ち着いた。いくら崑崙マーケットの金に税金がかからないとはいえ、あれはちょっと財布に入れたくない金額だった。せっかくだからそれに見合う珍しいものをと、という形で落ち着いた。魔法使い達としても、金より物のほうがよいらしい。それぐらいの金額だったのだ。

 話が逸れた。竜からこぼれた血は土壌を肥えさせて、あのように一角だけやたらと雑草が伸びる状態になっている。試しに刈り取ったら、数日でまた生えてきたとか。状況が落ち着いたらマリアンヌさんはあそこを薬草の栽培地にすると言っていた。

 

「なので、再び円錐の塔があちらから送り込まれてくる可能性は十分にあると思うのですが……いかがですか、魔女殿」

「はい。なので大急ぎで解析を致しました。そして調整を施した結果、アレと同じまたは似たものであれば結界で弾けます。とりあえず、あれ自体は脅威にならないかと」

 

 それを聞いて、社員の三分の一ほどが緊張を和らげた。……残りは硬い表情のまま。流石に、簡単に楽観できないか。分かるよ。

 俺たちの考えを理解したのか違うのか、一樹さんは軽い口調のまま続ける。

 

「とはいえ、あちらの方がマナが多く魔法使いも沢山います。魔女殿の作ったあの魔方陣よりも大規模な何かを作って破ってくる、という可能性は当然ありますけどね」

 

 若干軽くなった空気を容赦なく底へと突き落とした。うーん、容赦なし。そこへおずおずと手を上げる男の姿あり。宏明だった。

 

「すんません、いいですか? ……いつもは、禁じ手みたいな感じで避けてましたけど。今回ばっかりは、流石に言わせてください。ぶっちゃけ、一樹さんに向こう側で暴れて貰って地球を救って貰う事って無理ですかね?」

 

 言ったーーー! 言いにくいことをド直球! おお、社員の視線が宏明に集まる。マジかよ言いやがったよ、という驚愕の感情が集中している。

 対する一樹さん、怒ることもなく深く頷いてみせた。

 

「いつかは言及されると思っていました。ありがとうございます。さて、ご質問の件ですが正直に申し上げますと、難しいです。まず、戦力が足りません。確かに自分は強いです。そんじょそこらのお山の大将、蛮王なんかには負けません。ですが所詮個人の強さなんです。私の魔法には多数に影響を与えるものが沢山あります。それをもってしても、大勢力を誇る蛮王や覇王を相手取るのは大変厳しいです。勝ちきれません。押しつぶされます。さらにいえばそうやって一つ二つ倒すと、連鎖的にほかを刺激しかねないということです」

「一樹さんが暗殺テロしても、解決にはならないってことですか」

「はい。宏明さんの仰るとおりです。制度が整った国家は、トップが倒れてもすぐにつぎのリーダーが立ちます。あっちは蛮王、そして覇王になりたいヤツが山ほど居ます。クロック・ブラックのような、さあ攻めるぞというヤツを叩くのは効果的ですがそれ以外となるととても手に負えません。数が多すぎます」

「なるほど……一樹さんが百人ぐらいいないと、武力で解決は無理ってことですね?」

「うーん……蛮族の楽園(サベージ・パラダイス)の広さを考えるとゼロが足りないって感じますね。あそこは本当、果てがあるのかすら分からない」

「ありがとうございます。図々しいお願いと発言でした、ごめんなさい」

「いえ、こちらこそ。ご理解いただきありがとうございます」

 

 宏明が意気消沈して座る。ここで俺が手を上げる。

 

「フジくん。俺からも一つ質問が。そちらの伝手やコネで、時間竜みたいにこっちに攻めてくるみたいな動きをしている組織は確認できているの?」

「現在、大規模な侵攻を企てている勢力はいません。これはかなりの自信を持って言えます。何せ私も一番気を配っていることですから。異世界侵略なんてしようとしたら、大量の物資が必要です。そんなのは、あちら側では大変目立つんですよ。隠れてなんてとても出来ない」

 

 実はこのやりとり、事前の打ち合わせをしてある。この辺の話をすれば皆が不安に思って当然だ。わざわざ怯えさせる必要は無い。……しかし、だからといって何も言わないわけにも行かない。何せ俺たちは大人だ。少しでも知ってしまえば、推測の一つや二つして当然。それに思い悩むのもまた当然。

 しかしそもそも、それに巻き込んだのはこの俺。社長として、責任を取らなくてはいけない。両手を打ち合わせて、全員の注意を集めた。

 

「さて以上のことを踏まえて今後、蛮族の楽園への対策をどうするのか。我が社の方針を語ります」

 

 全員の視線が集まったのを確認して、大きく声を張り上げる。

 

「基本的に! 何も! しません!」

 

 ……おお、ずっこけてる。かなりの人数が肩透かしを食らったように上体を傾けている。そしていち早く立ち直り、立ち上がったのは小百合だった。

 

「社長、真面目にやってください」

「大真面目だ。いいか? 我が社はダンジョンカンパニーだ。ダンジョンの管理をしつつ、その成果物で利益を上げる企業だ。間違っても世界を守る組織じゃない。定款にそんなのは一行だって書いてない。君たちとの雇用契約書にだってそうだ。俺は社長として、皆に支払う給料を稼ぐために会社を回していかなければならない。利益にならないことに、会社を動かしたりはしないんだ」

 

 きっぱりはっきり、そう言い切る。皆の反応は……曖昧だ。安堵はある。それはそうだろう。世界の危機に立ち上がろう、なんて言われたらたまったものではない。俺だっていやだ。

 しかし同時に、こうも思っている。これを放置してもいいのか? と。それは俺も同じ気持ちだ。なので続ける。

 

「しかし、一方で放置できない問題であるというのもよく分かる。あの夢のように、蛮族の楽園からモンスターがわんさかやってきて、大暴れされたらたまったものじゃない。日本経済が混乱したらどうなるか。生活が苦しくなるだけじゃない。そもそも我が社の品を買ってもらえなくなる。給料が払えない。ソレは大いに困るわけだ」

 

 一拍置く。皆の理解度を確認する。……うん、否定的な感じではないな。微妙に苦笑を浮かべているのも居るけど。お前だぞ勝則。

 

「なので、基本的には我が社は普段通り仕事を続ける。でも、向こう側のことで何かしらの情報が入った場合、そしてそれが我が社でどうにかなるならば……社会貢献の一環として、介入することもやぶさかではない。つまり、ご近所のゴミ拾いと同じだ」

 

 ぶ、と吹き出す音が少々聞こえた。幾人か、肩をふるわせている。

 

「で、仕事という形で依頼されたら、できる範囲で対応する。そんな感じで行こうと思っています。これに異議のある方、挙手を」

 

 ぱっと手を上げたのは流だった。

 

「質問っス! その仕事は、どんだけ頑張りますか! 世界のため命がけで全力ですか!」

「そんなわけが無い。あくまで依頼料分、会社組織としてできる範囲までだ」

「ウッス!」

 

 ぐるりと見渡す。ほかに手が上がる気配はない。それを確認して、隣の魔女殿に向き直る。

 

「……というのが我が社がこっち側に関われるラインになります。よろしいですかね?」

 

 魔女はまず俺に頭を下げ、さらに皆に向かって深く礼をして見せた。

 

「皆様の誠意ある対応、まことに感謝致します。お手を借りたい事態になりましたら、ご依頼させていただきます。その時はどうぞよろしく」

 

 ……でまあ、これも一通り事前に打ち合わせしていたわけである。蛮族の楽園を知った以上、何もしないわけには行かない。しかし会社組織である以上、なあなあで関わるわけにも行かない。生活がかかっている。だから、しっかりと線を引いたというわけだ。

 もし大きく反対意見がでたら、俺個人のみ関わるつもりでいた。その関わりだって、マリアンヌさんへの義理を通すに止めるくらいにするつもりだった。……まあ、そうはならなかったからいいのだが。ともあれ、これで方針の一つが通った。では次だ。

 

「あ。済みません。丁度良いのでここでちょっと報告させてください」

 

 ……の、つもりだったのだが一樹さんが手を上げた。

 

「えー、今日の総会のために向こうと情報交換しまして。それで分かったことを一つ。結論から申し上げます。あのドラゴンと戦った日、あちらで半戸(はんど)大輔(だいすけ)氏の生存が確認されています」

 

 その報告で、十数人が一度に立ち上がった。言うまでも無い、元地王カンパニー組だ。一人が叫ぶ。倉庫で話した彼だ。

 

「代表は無事なのか!?」

「連れ去られました。誰の手によるかはまだ不明です。大きな組織なのは間違いないと聞いています。そもそも、あのドラゴンがこっちに来たのとほぼ同時に他組織から襲撃されたようなので。多分前々から狙われていたんでしょうね。なので痕跡が残っているらしく追跡ができそうだ、という情報はもらえました。それ以上については、またお時間をいただくと言うことで」

 

 ざわつく。地王でなくても、彼については我が社のハンターも気にしていた。かくいう俺だってそうだ。助けに行ける物なら動いていた。立場上、無理だったけど。

 実は地王組も、助けに行けないかという申し出はあったのだ。しかしマリアンヌさんは情報がないのでと断っていた。後々こっそり、素人が行っても場を混乱させるだけとも教えてくれた。確かに、あちら側のルールもマナーも分からない。素人では救出作業もままならない。

 幸いにもあちらに詳しい伝手はある。ならその方々にお願いするのが一番だ。もちろん、資金援助は惜しまない。なあに、最後に半戸代表に請求すればいいのだ。

 

「連れ去ったということは生かされている可能性は高い、と考えられるかな?」

「そうですね。あっちはもうかなり野蛮人だらけなので、なんとなくで捕まえたりしませんから。今も生存している可能性は十分にあるかと」

「……という話だ。辛いだろうけど、続報を待ってくれ」

 

 と声をかけると、地王組はしぶしぶといった感じで座ってくれた。……うむ、ちょっと衝撃的な話だったな。疲れも見える。

 

「よし、ちょっと休憩。十分後に再開としよう」

 

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