10年ぶりに会った鼻垂れ小僧はギャルに進化していた   作:しが

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しがの胎動


1.for faith

話をしよう。

 

それは20XX年の話だ。関東近郊のそこそこの人口がありそこそこの賑わいがあるそこそこの子供達が属している小学校があった。

そんなそこそこの地方都市の小学校にそれはそれなりに仲のいい二人がいました。

 

一人の少年は冬だろうと夏だろうと年がら年中お構い無しにとりあえず半袖短パンで駆け抜ける坊主頭の元気な風の子の少年です。

 

そしてもう一人の少年は海外の血を四分の一引いているためそれはそれは目鼻立ちのよい眉目秀麗な少年でした。しかしクォーターの少年には悩みがありました。横暴な姉たちにより彼はよく似合うからという理由で女の子のカッコをよくさせられていたのでした。それを何の悲劇か、当時のクラスメイトに見られてしまいました。それから子供の純粋な悪意は怖いですね。

彼はあっという間にオンナオトコと言われるようになり囃し立てられるようになってしまいました。本人的にはイジメではないのかもしれませんがそれはもう立派なイジメです。

 

しかしそんなクォーターの少年には常に味方がいました。他ならぬ坊主頭の彼でした。彼は言いました。

 

「お前らだせぇんだよ!たっちゃんはなぁ!絶対にカッコよくなるんだよ!」

 

それはどこから来る言葉かは分かりませんがただひたすらに自信に満ち溢れていた坊主頭少年の言葉は次第にクラスメイトたちの弄りを白けさせていきついには言われることも無くなりました。

それはそれで良いことです。

 

「あ、ありがとう あおいくん…で、でもぼくなんかがなれるかなぁ…かっこよくなんて…」

 

「なれる!たっちゃんは間違いなくイケメンになる!んでもってオレがさらにたっちゃんよりカッコよくなる!」

 

あるいは坊主頭少年…あおいくんの言葉はクォーターの少年…たっちゃんへの対抗心から来ていたものかもしれません。まぁ細かいことはいいです。ただたっちゃんは思いました。

 

(ぼくなんかよりずっとあおいくんのほうがかっこいいよ…)

 

容姿ではなくそれは心のあり方を称賛した言葉でした。そうたっちゃんにとってあおいくんはヒーローとなりました。それから二人は1年間の同じ学年の間によく遊びました。

 

 

しかし別れというのは突然にやってきます。小学校2年生の冬、たっちゃんはお父さんの都合により転校することになってしまったのです。それはそれで仕方ないのことですがあおいくんとの別れはたっちゃんは悲しみました。けれどもあおいくんとは言いました。

 

「約束する!オレは必ずカッコよくなってもう一度おまえと会うよ!たっちゃん!」

 

「…うん、ぼくもカッコよくなってあおいくんにもう一度…約束だよ!」

 

二人の見た目も性格も真反対の少年の友情は実に美しく別れを告げたのでした。

 

それからたっちゃん…これからは彼の名前を呼びましょう。たっちゃん…達也くんはお父さんに連れられておじいちゃんの祖国…つまり外国へ行きました。(父親がハーフで父方の祖父が外人)

達也くんはあまりにも違う環境に戸惑いましたがあおいくんとの約束を胸にカッコよくなるという目標に愚直に打ち込み続けました。

 

体を鍛え、自身の女性的すら抱かせる容姿を磨き、気品を身に着け。そして10個ほど年齢を重ねるころにはそれはそれはどこに出しても恥ずかしくない大変なイケメンに仕上がっておりました。

 

元々眉目秀麗だったこともありストイックに自分を磨き続けた結果、彼は同性すら見惚れさせる青年に成長したのでした。

 

そして達也は10年ぶりに日本へ戻ることになりました。ハイスクールを卒業し、大学は日本のあの街の大学へ行くと昔から決めていたのです。全てはあおいくんとの約束を果たすため───。

 

 

そうして達也は再びあの街に足を踏み入れたのでした。

 

 

─────

 

『十年ぶりか…』

 

すっかりと第二言語となった言葉で呟いてしまいましたが達也はこれはいけないと脳を切り替えます。

 

「…ただいま。煌市」

 

おかえりと誰かが言ってくれたわけでもありませんがそれでも達也はこの街がおかえりと言ってくれた。そんな気がしました。

 

とは言え、10年ぶりの街。変わらないところもあるにはあるがやはり大きく変わっているため彼は迷いました。新居となるアパートがどこにあるかわかりません。こういう時は大人しくスマホを利用するかと思いつつ、自分がこの街のことで迷うなんてなとショックを受けつつ地図アプリでアパートの住所を入れていた時でした。そんな彼に声をかけてくる集団がいました。

 

「おにーさん、今一人?」

「どしたん?話聞こか?」

「ていうかカッコいいね モデル?」

「ガイジンさんなら言葉通じる?」

「イケるっしょ」

 

ギャルである。その人種はギャルであって。しかもJKのギャルであった。制服姿でタピ片手に放課後ぶらり遊び途中だったのだろう。そんな中で大変人の目を引く容姿をしている達也は格好の逆ナンの対象となったのでした。全く困った話ではあるが達也はただただグイグイグイグイグイグイ来るギャル集団に押されていました。

 

「…ああ、いえ私は…」 

 

「あ、日本語ペラペラじゃん いけるじゃん」

 

「しかも大人びてる〜カッコいいね〜」

 

「見ない顔だねどこから来たん?」

 

しかしさらにグイグイグイグイグイグイ来ることになってしまいました達也は困ってしまいましたが助け舟は彼女らの集団から一歩引いた一人の少女に助けられました。

 

「ほーらあんたらがっつきすぎ。さすがにうちでも引くし」

 

少女は呆れたような口調でシェイクを飲み切るとギャル仲間を制止しました。どうやら彼女は飢えた獣ではないようです。

 

「えーでもアオイもさー興味ありでしょ?」

 

「あるかないかでいえばあるけどそこまで飢えてない」

 

少女はピシャリと言い放つとギャル仲間三人を達也から引き剥がしました。

 

「悪いねお兄さんも。こいつら絶賛カレシ振られ中だからイケメンに飢えてんの」

 

「は…はぁ…」

 

後ろからギャルどもの抗議が飛んできますが少女は気にせず謝罪を続けます。

 

「ま、あれは気にしないで行っちゃっていいよ。これらはなだめとくから」

 

じゃあねと手を振ると少女は振り返りギャルどもを抑えに行きましたが少女のバッグから学生証が落ちたのでした。達也は落としましたよと言うためにそれを拾い上げ少女に声をかけました。

 

「すいません、落としまし……た……よ………」

 

しかし学生証、記載されてましたその名前を見て達也は固まりました。

 

 

 

その名前は良く知っていました。

 

「お〜、落としてたか。悪いね拾ってもらって……なんかうちの顔についてる?」

 

いえついてません。ついてるなら顔のパーツくらいです。そんなことは関係ないのです。

 

「…片瀬…葵…」

 

その名前は良く知ってました。しかしそんなはずがありません。同姓同名の別人でしょう。しかし達也はどうしてもその疑念を払拭できませんでした。

 

「そろそろ返してくんない?」

 

少女ははてなマークを浮かべながら達也を見ていました。達也はほぼほぼ無意識に呟いてました。意識なんてありません、違ったらとてもシツレイですので言わないのが常識ですから。

 

でも、達也は言ってしまいました。

 

「……あおい…くん……?」

 

そのギャルの姿とかつての鼻垂れ坊主の顔が重なってしまったのです。そんなはずがあるわけないのに。

 

しかし少女は達也の顔を見ると少し驚いたような顔をして言いました。ある意味達也が一番聞きたくない言葉でした。

 

「あ、もしかして…」

 

その瞬間はぶっちゃけ永遠に感じましたが刹那だったんです。

 

「もしかしてたっちゃん?」

 

あの半袖短パンの坊主頭と目の前のカーディガンを着崩したギャルのイメージが完全に一致した瞬間でした。達也は絶叫しそうになったのでした。

 

 

───

 

あの後、少女──葵はギャル仲間を帰らせファミレスに達也と共に入り、着席した瞬間の開口一番でした。

 

 

「10年ぶりくらい?それにしても見違えたねたっちゃん。ホントにカッコよくなった」

 

「──キミがだよ!!!」

 

思わず叫んだ。だが間違いなくこの場で言いたいのはこの言葉だ。見違えた…達也にとってはとんでもなくお前が言うなである。見違えたどころの騒ぎではない。なんなら間違えたレベルである。

 

「キミ…ほ、本当にあおいくん…片瀬葵くんなんだよね!?」

 

「いや、さっきから何回も言ってるじゃん。小2ん時同クラで良くツルんでたでしょ」

 

ジーザスオーマイゴッド。坊主頭は制服の着崩したファッションも似合うギャルになってました。んなアホな。

 

「…ちょっと待って、一つだけとりあえず一つだけ確認したいんだが…」

 

「ドーゾ」

 

「…男の子じゃなかったの!?」

 

「オトコだったよ。ま、過去形だけど」

 

ドリンクバーを飲みながら葵は間違いなく10年ぶりに再会したあのあおいくんであると肯定したのでした。

 

「転性病って知ってるでしょ」

 

それはここ20年ほどで流行り始めた病気の名前だった。理由は不明、原因も不明。ただ一つ言えるのは性別の変わる病──それだけということだ。色々と学説があるが主に男から女へ転じる確率が高いそうだ。

 

あたし(・・・)がこうなったのはたっちゃんが転校してって一月もしない頃だったよ。体育の授業中に急に倒れて緊急搬送されて1日経ったらもうこの通り。性別変わったワケ」

 

あっけらかんと言うが彼女は苦しくはなかったのだろうか。

 

「…あおいくん…なんかこの呼び方はもう慣れないな…」

 

「好きに呼べし。たっちゃんの呼びたいようでいいよ」

 

「…じゃあ今はとりあえずアオイで。…ていうかまだたっちゃん呼びなのか…」

 

「たっちゃんはたっちゃんだから。んーどこまで話したっけ」

 

「アオイは辛くなかったの?急に性別が変わって…」

 

「うーんどうだろ。正直あたしがなった時は第二次性徴とかまだ無縁の時期。性差ってのもあんま無くて特にホルモンどうこうはなかったって聞くけど…」

 

そういう問題なのだろうか。単純に男として生きたアイデンティティは大丈夫なのだろうか。 しかし葵は否定気味に言うのでした。

 

「そうは言うけどあたしこの体になってからのほうが長く生きてるしあんま感じないかなぁ」

 

年齢から計算すれば単純に男として生きた時より女として生きた時間のほうが長い。人とは慣れの生き物である。かつての半袖短パン坊主頭はもういない。ここにいるのはダウナーなギャルである。ギャルである。

 

3度言うがギャルである。しつこいようであるがギャルである。

 

 

「…どういう進化の仕方でそうなったの?」

 

女の体になってしまったていうのスゲーよくわかる。そういう事例があるかなァ…

 

だが、ギャルになるってのはどういう事だああ~~~っ!?

あの鼻垂れから結びつくかぁーーーーーッ!

しかもそれが美少女だから超イラつくぜェ~~~ッ!!

 

「…それで…アオイはなんでそういう人種になっちゃったの?」

 

「う〜ん…」

 

アオイは特に深くも考えずに言った。

 

「あたしが可愛かったから?」

 

……確かに!

 

達也、納得!!

 

確かに自分の容姿が優れているのなら磨きたくなるのよくわかる。スゲーよくわかる。なんたって達也も自分磨きした結果だからなぁ。

 

そして達也はいよいよ聞くのが怖い話題に触れることにした。

 

「アオイはさ…男が好きなの?女が好きなの?」

 

ヒジョーにデリケートな話題である。触れるには超慎重が必要だ。だがアオイは割とあっさりと言った。

 

「あたし今フリーだよ。去年のカレシとは今切れてるし」

 

ずごーっと達也はずっこけそうになった。ヒジョーにデリケートな話題であるはずなのにしれっと言った葵もそうだが発言も爆弾である。

 

「…恋愛対象なの?男の人」

 

「それがよくわかんない。あたしさ付き合ったことあるんだよね。男とも女とも」

 

人はそれを両刀と呼ぶ。

 

「けどわかんない。恋ってのよくさ」

 

そして付け足すように言った。まだヴァージンのままだと。聞きたくない情報である。

 

「でもさこれだけは言えるよ。たっちゃん」

 

急にマジマジと見られて達也はものすごくドキッとした。それこそはなたれ小僧と分かっていてもときめくほどにアオイは穏やかに笑ったのだった。

 

「ホント、かっこよくなった。うん、それは間違いない」

 

…何度も言うがこれは元坊主頭の年中無休半袖短パンだったのである。

 

 

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