(ついに……ついにここまできた!)
ゆっくりと開く巨大な扉を前に、鬼札勝利は固く拳を握った。
幼い頃から世界王者の父や日本女王の母と共に慣れ親しんだデュエル&ヴィクトリー。そのデュエル&ヴィクトリーで両親が心を失って早五年。それだけの月日を勝利は今日という日のために費やしてきた。
何が起こったのかは分からない。だが、丁度五年前の今日、両親はこの扉の先の主である男に挑み……そして、敗北した。その代償があの日の両親なのだろう。帰宅と同時にいつもの如くデュエルをせがんだ勝利に、二人は一言も言葉を返すことなく、ただ死人の様な目で寝室へと消えていったのだった。
一体どんな凄惨な闘いが行われたのかは分からない。ただ、この部屋へと辿り着くまでの間に、幾人もの闇のデュエリスト達との命を賭けたデュエルを潜り抜けてきた勝利に一つ言えることがあるとしたら、この部屋の闘いこそが最も苦しく、最も残酷で、そして最も過酷な闘いになるという予感めいた事実だけだった。
「来たか……」
昏く閉ざされた一室その先に居たのは静かに読書に興じる一人の男だった。
部屋中央に置かれた不自然に巨大な玉座の内で、ピクリとも動かなかったその男は勝利の出現に気が付くと、パタリとその手に持った本を閉じてゆっくりと立ち上がったのだった。
意外にも身長はそれほど高くはない。ただ、不衛生に伸ばされた長い癖毛と、どこか死人を思わせる青白い肌が異様な存在感として男の姿を二倍にも三倍にも肥大させている様に見えた。
「お前がMr.Dだな?」
「ふん。またそれか」
自身の恐怖を振り払うように尋ねた勝利に、男は不機嫌そうに吐き捨てると「どいつもこいつも」と恨み言を連ねる。
「否定も肯定も最早意味は成さん。さっさと始めるぞ」
代わりにポケットから取り出した
「そうこなくっちゃ! いくぜ、闇の帝王!!! お前を倒して、俺はもう一度! 父ちゃんや母ちゃんの笑顔を! デュエルを取り戻すんだ!!!」
「その言葉、俺のデッキに勝ってからほざくことだ」
「「デュエル!!!!!」」
昏い帳の降りた一室で、二人のデュエリストの開戦宣言が上がった。そして、
「俺のターン。俺は手札から『ジュース大好きリリンちゃんのお買物券』をプレイする」
「……うん?」
先手を取った男の見せたカードに、勝利はピタリと硬直した。
男の手の内にあるのは銀色で縁取られた一枚のカード。そのイラストには男の雰囲気とは全く相応しくない、可愛らしい少女が一枚のカードを差し出している姿が描き込まれていた。
「え? え?」
「対応が無ければ貴様を対象に即起動! 貴様はこのターン、俺が宣言したジュースを手に入れなければならない! 俺が宣言するのは『沖縄バヤリース 南国グァバ』だ!」
男が宣言した瞬間、勝利の両足が本人の意志とは無関係にカツ……カツ……と足踏みを始める。そのテンポは初めこそゆったりとしたものだったが、次第に感覚が狭まりとうとうカカカカッというスタッカートもかくやというものになっていった。そして、
「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」
突然地面を蹴り、一瞬で部屋の外へと飛び出す勝利。眼前にあった固い扉もぶち破り、一目散に元来た廊下を駆け抜けていく。
「と、止め、止めてくれえええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?」
「今日中に戻らなかったら貴様の負けだからな。気を付けることだ」
悲鳴と共に走り去る勝利の姿に頓着することなく、小さくなる勝利の背中に一声かけると、再び玉座の上に座り込んで手に持った書物……「絵札王」の漫画を熟読し始めたのだった。
後日、勝利は筋肉痛と共にデュエルをやめた。