インフィニット・ストラトス‐Across the Universe‐   作:譲葉松風

13 / 21
第13話 The Brave Decision

 『非常事態発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難してください!繰り返す――』

 

 観覧席の隔壁が閉鎖され、来賓は慌ててその場を去っていく。阿鼻叫喚の絵面の中で、かつてラウラだった黒い粘着質の物質で出来たそれは徐々に形を作っていく。バランスが崩れ、ゲームの雑魚敵よりもグロテスクで嫌悪感を抱かざるを得ないそいつは、辛うじて人間に見えた。そしてその感想は間違っていなかったと知る。

 

 「IS……?」

 

 女性的なフォルムに甲冑を纏ったような見た目でありながら、体長は有にISの2倍程度。以前、一夏と鈴の戦いに水を差した無人機を彷彿とさせる。あれほど無骨な見た目ではなく、シュヴァルツェア・レーゲンの様に勇壮でもない。ただ濡れた様に黒光りする体表が悍ましいだけだ。

 先のアナウンスで通達された通り、鎮圧部隊であろう教師がISを装備して事態を収拾しにやってきた。だが黒いISは微動だにしない。ただじっとその場に硬直していた。

 鎮圧部隊のうち一人ががライフルを構え――そして、壁に叩きつけられた。

 その行動に対し鎮圧部隊が全員、半ば反射的にライフルを構える。鎮圧部隊の装備はライフルであるのに対し、黒いISの装備は日本刀のみ。客観的に見れば数でも武器でも勝る鎮圧部隊が優勢だ。すぐに事態は収拾されると思った。

 

 『待て、武器を捨てろ!』

 

 アナウンスと同じくアリーナに織斑先生の声が響き渡る。敵を前にして武器を捨てるなどという自殺行為をするはずがないと思ったが、彼女を信頼しているのか自暴自棄になったのか、とにかくその声に従って鎮圧部隊は素直に武器を置く。全員が武器を放棄したと同時に黒いISは臨戦体勢を解除、再び状況は膠着状態に戻った。

 逃げるのもいい。ここでじっと時が過ぎるのを待つのもいい。だけど――

 

 「……パートナーを助けるのが、パートナーの役目」

 

 頭の中で誰かがそう言った。聞こえるはずが無い懐かしい声で、だが確かにそう聞こえた。

 その声に従い、仮にもパートナーであるラウラを救い出す手段を考える。

 まず思いつくのは説得。だがラウラがのみ込まれていく状況からして、ラウラがあのISを操っているわけではないことは明白。現に好戦的なラウラの攻撃パターンから外れている。

 だとすれば戦闘不能にして、ラウラをあの中から引っ張り出す。これが単純にして手っ取り早い。それを実行するとして、現在の状況で俺の手持ちカードは――

 

 サブマシンガン――残弾ゼロ。粒子ビームのみ使用可能だが、文字通り自分の命を縮めることになる。

 

 空間転移――移動距離が減少したとは言っても、現在の黒いISと俺の位置関係なら問題なく使用可能。幸い、まだ黒いISは俺を敵として認知していない。問題は接近してたとしてどうするか。

 

 高周波ブレード――刃毀れしかけている。このまま斬り合いに使用するより、強制排除して飛び道具として使うのが最善。

 

 一夏とシャルル――教師連中である鎮圧部隊は一生徒である俺の指示には従わないと推定。となれば協力者としての最有力候補はこの二人。信頼関係に関してはこの際捨て置く。

 

 このくらいか……。黒いISの行動パターンを読むためにも戦闘を仕掛けるのは必須だ。今のところ、鎮圧部隊が一瞬で戦闘不能――その時を振り返れば、攻撃体制を取れば攻撃されるという事しかわかってない。

 投射ディスプレイに映し出される機体出力も安定している。通常戦闘なら問題なくこなせるレベルだ。開放回線で話しかけるにしても、万が一黒いISに自我があり、作戦を悟られては無為となる。一夏とシャルルだけに秘匿回線を送る方法を脳内で検索をかけ、教本にあった手順を反芻しながら静かに設定を終える。

 

 「二人とも、聞こえるか?」

 「――紫苑?」

 「……なんだよ」

 

 驚いたような声を出すシャルルとは対照的に、あからさまな苛立ちを隠さない一夏。流石にラウラと組んだことを未だに根に持っているという事はないだろう。だとすると、何か別の理由で苛立ちを覚えたということになる。――もしや、あのISに心当たりがある?

 

 「先生たちに任せておくには、先の戦闘から見て些か不安だ。だから俺たちであのISを倒そうと思うが、どうだ?」

 「いや――俺がやる」

 

 一夏はそう呟くと雪片弐式を振りかぶり、黒いIS目掛けて愚直なまでに突進する。一度目の剣戟で刀を取り落とした。

 それを予測できたことは幸いだった。座標指定を神経系バイパス経由の自動入力で行い、一夏の眼前に空間転移を作動。高周波ブレードで黒いISの放った二撃目を防ぐことに成功する。

 

 「ちっ……早く後ろに引け一夏」

 

 想像以上に重い攻撃を鍔迫り合いで耐えながら一夏に通信を送るも、硬い表情のまま動こうとしない。説得するには出力の関係上、猶予がなさすぎる。腕を徐々にずらしながらブレードの向きを変えて受け流すようにして黒いISの攻撃を反らし、一瞬無防備となった瞬間を狙って受け流しの勢いごと体を一回転させる。そうして得られた遠心力との相乗効果で刃毀れした刃で殴りつけ、怯んだ隙に一夏の腕を掴み後退する。スラスターの武器を前方に向けて急速での交代と同時に、ブレードを黒いISに向けて強制排除を行う。

 黒いISはブレードの直撃を防ぐために刀を一振りして弾き飛ばすが、それ以上行動する様子はなかった。あからさまな攻撃体制には先制攻撃、悪あがきには必要最低限の行動しか行わない。つまりはこちらから行動を起こさない限り、エネルギー消費量を節約しているような状態となっている黒いISをエネルギー切れで倒すと言う選択肢は消えうせた。

 

 「一夏。零落白夜が打てる分のシールドエネルギーは残っているか?」

 「……ダメだ」

 

 零落白夜が使えないなら、取れる手段は一斉射撃くらいか。それで止めを刺せるとは思えない。考えろ。この状況でとれる最善手を。

 

 「――シャルル、俺と一緒にあいつを引きつけるぞ。あいつは一体、こちらは三人。数の利を生かす以外に勝ちの目はない」

 「引きつけたって止めを刺せないんじゃ――」

 「止めは一夏が刺すんだ。接触する一瞬だけ零落白夜を発動しろ。それまではこの場を動くなよ。射程圏内まであいつを引きずり出してやる」

 「でも、あの居合は、太刀筋は千冬姉の……千冬姉だけの――!」

 

 千冬姉という言葉で黒いISを再度確認してみるとようやく話がつかめてきた。あの黒いISは見た目や攻撃パターン織斑先生を模倣している。

ラウラは織斑先生を教官と呼んでいることから、以前ドイツで教官を務めていた=ドイツの軍人で織斑先生の教えを受けたものは少なくない。つまりドイツには織斑先生の動きを見たものがいる可能性がある。ドイツ軍は織斑先生という最強の女性の行動パターンを分析し、そのデータでシュヴァルツェア・レーゲンを操らせている。恐らくラウラの意志、もしくは特定の条件下において自動発動する。一夏の言葉を信じるなら太刀筋まで完全に真似ているという。ラウラの脳内に介入して完全な模倣は不可能とすると現在、ラウラの意志はないと言っていい。

だが肝心の一夏が戦意を喪失しているとなると零落白夜で止めを刺すのは難しい。

 

 「お前はどうだ、シャルル。このままずっと睨み合いがしていたいか?」

 「ううん。でも、だからって勝負を仕掛けて勝てるとは限らないでしょ!?」

 

 本能的に技量の差を察しているのか、頑なに勝負を仕掛けると言う道を拒むシャルル。

 

 「そうか……そうか、分かった。お前らはそこで指を咥えて見てろ」

 「ま、待って!紫苑!」

 

 そう言い残して踵を返し、ただ直立不動で動かない黒いIS――ラウラの前へと静かに歩いていく。シャルルが呼び止めようとしたが、耳を貸す必要はない。ただただ顔のある部分だけを見つめて歩き続け、目の前で立ち止まる。

 

 「ラウラ聞こえるか?」

 

 開放回線で問いかけるが、黒いISは応答しない。

 

 「あれだけ憎まれ口を叩けたのに、今じゃすっかり利口になったもんだな」

 

 未だ応答はないラウラ。やはり意志を観測するなどというSF染みたことは出来ず、攻撃体制を取るまでは動かないらしい。

 投射ディスプレイでエネルギーを確認。動作用のエネルギーを差し引いて空間転移使用可能回数は、1回。負ける気はしない。負けるわけにはいかない。相棒ひとり助けられないなら、俺が生き残った意味はない。

 

 「じゃあちょっと痛いかもしれないが、我慢しろよ」

 

 サブマシンガンを一丁と左腕のアームユニット及びその両方に繋がっているケーブルを強制排除。メインスラスターの出力も切り、右腕のアームユニットにその分のエネルギーを回し、高周波ブレードがあった部分にビームブレードを展開する。粒子ビームマガジンと同様に、エネルギー効率の悪い最後の武器だ。それを展開したと同時に黒いISが刀を振りかざし、身を屈めることでそれを回避する。

 黒いISの行動はすべてAIが担っていると言う前提なら、技や行動の癖は模倣できても咄嗟の対応に関しては反応できないだろう。

 ビームブレードで斬りかかるも受け流されるが、その隙を狙うようにサブマシンガンを近距離で乱射する。ダメージは入っているはずだが表情を視認できず、損傷度合いを確認できない以上、どれほどの物かは分からない。少なくとも攻撃の手を緩めたらやられるのはこちらだ。サブマシンガンで殴りつけ、ビームブレードで斬りつけ、反撃を回避し、再び一心不乱に攻撃を続ける。幾度となく繰り返される斬り合いの中で蓄積されるダメージと機体出力を見て、勝負に出ることにした。

 居合の構えの様にビームブレードを大きく振りかぶるという大きな隙に反応した黒いISが一撃を加えようと一閃し、それをバックステップにスラスターの勢いを加えることで振りかぶった時と同じ体制で回避。同時に空間転移を発動し、懐に飛び込む。

 

 「うぉぉらぁぁ!!」

 

 鬨の声を上げて右アームユニットのスラスターを点火、ビームブレードが神速の一閃と化して黒いISの胸部を逆袈裟で斬りつける。

 紫電と共に斬りつけた跡が少しずつ割れていき、黒いISの中からパートナーであるラウラ・ボーデヴィッヒが現れた。ゆっくりと倒れ込んでくるラウラを、ISを解除して両腕で抱きとめる。僅かに開いていた紅と金色の瞳は眠る様に再び閉じていった。

 

 それを確認したとき、気付けば俺は宇宙空間のような不思議な場所を漂っていた。体の力が抜け、思うように身動きが取れないその状況下で少女を見つける。

 

 「ラウラ」

 「鳴海……紫苑」

 

 この不思議な空間の中で彼女はなぜか裸で揺蕩っていた。それよりも不可解なのはお互いに口を開いていないにも拘らず、意思の疎通が取れた事だ。

 

 「いったい何をした?この空間はなんなんだ」

 「私にもわからない……」

 

 辺りを見回すが、やはり宇宙のような空間としか言いようがない。一体何が起きているのか知りたいと考えたとき、唐突に脳内に場面がフラッシュバックする。

 戦うために生み出され、育てられ、鍛え上げられた。期待に応え、優秀であり続けた。

 だがそんな栄光はISが登場するまでだった。適合性を向上させるため肉眼へナノマシンが移植された。しかし体が適応しきれず、出来損ないの烙印を押された。

 そんなときに希望に、織斑千冬に出会い、IS専門となった舞台で再び最強の座へと上り詰めた。

 

 「今のは――ラウラの記憶か」

 「そうか……見たのだな」

 

 今のは彼女の記憶、彼女の闇。何故、織斑先生に執着し続けるのか。何故、強さを追い求め続けるのか。その一端を垣間見た。

 

 「何の慰めにもならないだろうが、お前の気持ちは俺にも理解できる」

 「分かっている。お前がどのように育ってきたのか、私にも見えた」

 「だったら話は早い。変わろうなんて思うなよ。ただ立ち直れ、立ち直って俺にリベンジさせろ」

 

 俺の過去を知る者が増えたのは計算外だったが、今はただ目の前の少女を救いたい。そう思う自分がいた。

 

 「……私には」

 「出来るだろ。俺に綾乃がいたように、お前には織斑先生がいる。なんなら俺も手伝ってやる。パートナーを助けるのが、パートナーの役目だからな」

 「強いんだな、お前は」

 「強くなんてない。俺はただ恩を返したい、守りたい一心で生きてるだけ。そしてお前を救うのは俺の為だ。その方が割り切りやすいだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 ――IS学園・医務室 ラウラ・ボーデヴィッヒ

 眠りから覚醒したラウラは医務室のベッドで体を横たえていた。完璧なまで鍛え上げられたはずの体の節々が、不思議なほどに痛む。ここまで疲弊するとは思ってもみなかった。

 

 「……何が起きたのですか?」

 

 ベッドの傍らに置かれた椅子へ腰かけている千冬にラウラは問いかける。持ち前の固い表情はそのままに、千冬は静かに答えた。

 

 「――重要案件であり機密事項なのだが、VTシステムを知っているか?」

 「ヴァルキリー・トレース・システム……」

 「そうだ。条約において研究、開発、使用、それら全てが禁止されている。……それがお前のISに積まれていた。ダメージの蓄積、パイロットの最新状態及び意志――いや、願望か。それらの条件がそろうと発動する設定だったらしい」

 「……私が、望んだからですね」

 

 自分を恥じるようにシーツの端を握るラウラへ、千冬は声をかける。まるで弱った心を持ちなおさせるように。

 

 「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 「はっ……はい!」

 「お前は誰だ」

 「私は……」

 

 一体どのような意図で質問したのか量りかねて、思わず口をつぐむ。だが千冬は構わずに続けた。

 

 「誰でもないなら丁度いい。お前はこれから、ラウラ・ボーデヴィッヒだ――それから、お前は私にはなれないぞ」

 

 そう言い残して千冬は医務室から出て行った。残されたラウラは力なく天井を見つめ、笑った。

 その笑いはかつての冷たい笑みとは程遠い、腹の底からの笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――IS学園・大浴場 鳴海紫苑

 騒動からしばらくして、俺は大浴場の浴槽の中で疲れた体を癒していた。今日まで大浴場は女子専用、男である俺は入ることなど許されるはずもない場所だったのだが、労いの場として解禁されたと山田先生から言われ、部屋から荷物を取るなり電光石火でやってきたのだった。

 

 「あぁー、生き返るー」

 「同感だー」

 

 同様に大浴場へと来ていた一夏が腕を伸ばして湯船に浸かっていた。ラウラとの戦闘で見せた動揺はもう消し飛んでいるようだ。

 

 「お、お邪魔します……」

 

 唐突に第三者が浴場の中へ声を響き渡らせる。銭湯によくいると言われる、掃除のおばちゃんではない。番台さんがいるわけでもない。なら――

 

 「シャルル?驚いた。まさかお前に痴女の気があるとは」

 「ち、違うよ!」

 

 まあ男装する趣味もあるくらいだし、多少は見られて興奮するような性癖も持ち合わせているのだろうが。

 

 「ど、どどどどうしてだ!?」

 「僕が一緒だと嫌?」

 「疲れた体を癒しているところに異性が入ってくれば、当然一夏のような反応になる」

 「……紫苑は驚いてないみたいだけど」

 「驚いてる。驚いてるけど顔に出してないだけだ。純情少年なめんな。……まぁシャルルは書類上男子生徒だから、湯船に浸かる機会は今しかないのか。だったら、俺は上がろう」

 「あぁ、待って!話があるんだ……二人に、聞いてほしくて」

 

 シャルルに呼び止められて俺は再び浴槽へ沈んだ。一応の気遣いとしてシャルルの横に腰掛け、直視しないようにする。一夏は顔を真っ赤にしてシャルルとは別の方向を向いていた。

 

 「あのね、前に話した事なんだけど……僕ね、ここに残ろうと思う。一夏がいるから、紫苑がいるから、僕はここにいたいと思うんだ」

 

 以前話したときと同じようにポツリポツリと言葉を紡いでいくシャルル。

 

 「それから……この三人の時だけでいいから、僕の事をシャルロットって呼んでくれる?お母さんがくれた、本当の名前」

 

 本当の名前。本当の名前など知らない俺にとって、その存在は羨ましくもあった。

 

 「シャルロット……」

 「良い名前だ。学園にいるという事は長い付き合いになる。これからもよろしく」

 「……うん」

 

 シャルロットは小さな声で静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……今日は皆さんに、転校生を紹介します」

 

 翌日、早朝のHRで山田先生が死んだ目でそんなことを言っていた。だがそれよりも大きな問題に直面していた俺は、いい加減に多すぎる転校生という存在を無視して問題解決の為に対策をノートに箇条書きしていく。

 

 「シャルロット・デュノアです。改めて皆さんよろしくお願いします!」

 

 そんな聞きなれた声を耳にしてちらりと教壇を見ると、女子生徒用の制服に着替えたシャルル――シャルロットがにこやかな笑みを浮かべて立っていた。クラスメイトが当惑の声を上げる中、山田先生が困ったように声を絞り出す。

 

 「えっとぉ……デュノア君は、デュノアさん、ということでした……」

 

 事態を収拾するべくそう発言した山田先生を余所に、ノートに箇条書きされたうちの一つ『ISコアの修復方法及びドイツ軍への弁明』という分をペンで何度も囲む。

 ラウラを助けるべく高出力での稼働を行った結果、不完全だったスノー・アスタータタリクスのISコアは完全に再起不能状態に陥った。各部スラスターからの異常負荷、その状態で行った空間転移によりコアの演算処理能力が限界を迎えたという。通常時ならまだしも、綾乃によって辛うじて稼働していたスノーは二度と起動することはなくなった。

 

 「……つまりデュノアくんって女?」

「可笑しいと思った。美少年じゃなくて、美少女だったって訳ね」

 「ちょっと待って。確か昨日って男子が大浴場使ったわよね!?」

 

 一人の生徒がそう言ったことでクラス内が騒乱の時代へ突入する。肘をつき、ペンでノートを等間隔で叩きながら、僅かにその状況を把握するも脳の処理は殆どが愛機の事で一杯だった。

 

 だからこそ唐突に砕かれた教室の壁にも反応が遅れ。

 状況を判断した時には既に破片が目の前にあり。

 咄嗟に腕で頭を防ごうとするが、重傷を覚悟する。

 

 が、いつまで経っても衝撃が来ない。ゆっくりと目を開けるとそこに立っていたのはラウラ。ISを身に纏った彼女が発動しているのは、慣性停止結界。

 

 「……ラウラ?」

 

 怪我の度合いが高く、面会謝絶と言われたのだが見た目からはとてもそうは見えない。内面的問題だったのだろうか。

 ともあれ命を救われたことに礼を言おうとするが、その前にラウラが俺の胸元に手を伸ばし掴む。

 

 「……悪いようにはしない。じっとしていろ」

 

 口調こそ強めだが、普段の威圧的な口調ではないその声に押されて頷く。

 それを見たラウラがゆっくりと俺を引き寄せ――キスされた。

 

 突然の事で永遠に引き延ばされたようなその時が終わり、勢いよく顔を離したラウラが頬を染めて言い放つ。

 

「ぱっ、パートナーを助けるのが、パートナーの役目だ!お前は私の嫁にする。決定事項だ。異論は認めん!」

 

 その言葉の意味を理解するのに時間がかかり、やがてクラス中――俺も含めて――が同時に叫んだ。

 




 『The Brave Decision』:勇敢な選択。正体不明の敵に挑むのだから、それなりに勇気はあります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。