「う~ん、次のガンプラは何にしよっかな~」
気の抜けたような声が最近広くなった部屋に響いた。声だけ聞けばどのガンプラを組み立てようか悩むガンプラオタク、もしくは買っただけで満足してしまう積みプラ製造機だが、実はアナハイムホビー部門で商品開発に携わっている男である。そんな男が何を悩んでいるかといえば、もちろん次の新製品のことである。
「最近は旧ジオンのモビルスーツが続いてたからなあ…そろそろティターンズのモビルスーツも出したいんだけど、まだティターンズのイメージが悪いんだよな~」
ティターンズは一年戦争後、ジオン残党に対処するため創設された連邦軍の特殊部隊である。当初こそエリート部隊として認識されていたが、アースノイド主義が過激化した結果堕落し政府や連邦軍への求心力を失い衰退した。グリプス戦役が終わったころにはテロリスト集団扱いされており、今も悪の組織といえばティターンズといった扱いである。
「ガンプラ以外のおもちゃでも作ろうかな…公王庁ロボも結構売れたし…でもあれはなんで売れたかよくわかってないんだよな~」
ホビー部門ではあれがなぜ売れたのか分析しようという動きがあったが、結局何もわかりませんということしか分からなかった。一回の成功に囚われて他の売上に影響があってはいけない、そもそも変わり種も何回も繰り返せば特別感が薄れる。やるとしてももう少し間を開けてからがいいだろう。
「今度の会議でいい案出ないかな~びっくりするぐらいのナイスアイディアが…」
その時、ピンポーンとホビー部門のインターホンを鳴らす音が聞こえてきた。ホビー部門の社員はそんなことはせず勝手気ままに出たり入ったりする。社員証でロックを開けるしくみなので誰もインターホンを鳴らさないのだ。ということは来客だろうか?他の誰かが応対するだろうと放っておいたが、しばらくしてまた電子音が聞こえてきた。どうやら自分以外誰もいないらしい。
「どうして来客の時に限って俺一人なのかな~…ハイハ~イ、今開けま~す」
男は渋々立ち上がり社員証で扉のロックを解除した。ドアの向こうから現れたのは、やはりホビー部門の社員ではなかった。ドアを開ける前にどんな人物か確認すれば良かったと男は後悔した。現れたのは顔面が傷だらけの大男だったからだ。
「どうも初めまして…兵器開発部門の者です」
「は、はじめまして…」
どうして今日に限って俺一人なんだ…
「申し訳ない…部長さんと約束はしていたのですが、早く着きすぎたようです」
大男の声にチラリと予定が書かれたホワイトボードを見ると、確かに今日兵器開発部門から来客があると書かれていた。
「ああいえ、こちらこそ申し訳ありません…丁度担当が席を外しておりまして…」
担当者ー!早く帰ってきてくれー!!
内心でそう叫んでいると目の前の大男が話を切り出してきた。
「今回はですね…モビルスーツのプラモデル化に関する契約についての打ち合わせだったんですが…それ以外にも相談したいことがありまして」
「相談ですか?」
「実は…プラモ化してほしいモビルスーツがあるんです」
プラモ化という言葉に開発部の男は素早く反応した。
「最初に言っていた契約の件とは別でですか?」
「はい、実は実機が作られていない、設計だけで終わってしまったモビルスーツなんです」
「それは…面白そうじゃないですか!ちょっと見せてもらってもいいですか?」
ニヤリと笑った大男は嬉しそうに書類をカバンから取り出した。その書類には極秘と書かれているが、大男はためらいもなく書類を見せてくれた。
「兵器開発部でも泣く泣く制作中止したモビルスーツを立体化させたいという者が大勢いるんですよ。私もこれを見せたくてしょうがなかったんです」
「あの、今極秘って書かれてませんでした?」
「実はまだ偉い人に許可は貰ってないんですけどね…特別ですよ?」
「えっそれ本当に大丈夫なんですか?」
「こちらがそのモデルスーツです」
「すんげえ!」
そこに書かれていたモビルスーツ達は商品開発に携わってきた男でさえ初めて見る、日の目を見ることなく忘れ去られるはずのモビルスーツだった。
「中止になった理由はコストや技術面の問題などいろいろありますが、作られていれば戦況を大きく変えられたかもしれない名機ばかりです」
「こいつは…ロマンがありまくりですよ!」
「そうでしょう!」
「戻りましたー。ってあれ、兵器開発部の人もう来てるの?」
「あっ!遅いですよー!早くこれ見てくださいよ!」
「えっ極秘って書いてあるんだけど………すげえ!」
ホビー部門と兵器開発部は偉い人に怒られたが、こうして忘れ去られるはずだったモビルスーツはプラモデルとして生まれ変わり、世界中で飛ぶように売れた。
続く