ホビー部門のオフィスには黄緑色のロボットがいる。名前はハロ、一年戦争前にサン社が開発した丸い形の小型ロボであり、現在はアナハイムが権利を買い取り様々なバージョンで販売している。
色を変えたもの、猫耳を付けたもの、プロジェクター機能を付けたもの、3Dプリンターになるもの、ゲーミングPCになるものまで幅広い商品が人々の手に渡ったのである。あのアムロ・レイが所持していたことが判明した後爆発的なブームが起こり、ガンプラが発売されるまではアナハイムの人気商品筆頭であった。
ハロは元々跳んで跳ねたり、蓋のようなカバーを羽のように動かし無重力下で飛んだりする程度の動きができたが、ヒットした要因はそこではなかった。
ハロがヒットした最大の要因は改造のしやすさである。アムロ・レイはホース上の手足を取り付け移動以外の動きを実現し、AIを組み込み簡単な会話や思考ができるようにした。この改造ハロがとても優秀で、マスコットとしてのデザインを保ったまま軽作業や子守りまでなんでもできるスーパーサブとしての需要が生まれたのだ。
民間ではハロ同士の計算速度や走行能力を競わせたり、軍事面では人が入れないとことまで進むことができる探索ロボに改造されたり、生活に必要不可欠なアイテムとしてはガンプラ以上に身近になっている。
『充電 完了!』
ホビー部門のハロが起動し、多忙な社員に代わって掃除や書類整理、請求書の送付やメールの返信、お茶くみを開始した。このハロは私生活が終わっているホビー部門の社員にとって無くてはならない存在だ。もし故障でもしたらホビー部門のオフィスは書類と積みプラに埋もれてなくなるだろう。
「いやあ、ハロは働き者だなあ!」
「お前も働け!」
「フヒヒwサーセンww」
ハロが働いている横では社員がパソコンとにらみ合いを繰り広げていた。実のところ社員たちはサボっているわけではない。ただ仕事が膨大で終わらないだけである。
「いやあでもマジに人手が足りません。そろそろ人員を補充してもらわないと…あと予算」
「アナハイムはブラックなんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ」
「希望はないんですか!?」
「無い」
現実は非常である。夢を売っている裏では社員たちが終わらない残業をしているのだ。夜景は残業で出来ている…月にあるアナハイムから明かりが消えることは無い!
「いや…もしあるとすれば新たなヒット商品を生み出すことかな…そして偉いヤツから金と休暇をむしり取ってやる!」
「今の俺たちにとってはか細すぎる希望ですね…そんなポンポンアイディアが浮かんで来たら苦労はしませんよ…一旦休憩しましょう!ゲームもガンプラも積みすぎて山みたいになってますよ!」
「ハロにやってもらえよ」
「自分でやらなきゃ意味ないんですよ!」
もう駄目だ…こんな仕事してたら頭がおかしくなる…というか上司はもうおかしくなってるんじゃないか?なんでもハロにやってもらえなんて…ん?
「ああああああああ!」
「どうした!?ついに気が触れたか?」
「そうですよ!ハロにやってもらえばいいんです!」
「やっぱり気が触れてるじゃないか!」
「違います!ハロを人型にするんです!ハロは自分で学習して動きますよね!?ガンプラの中身をハロにすれば自分で動くガンプラができる!」
「ええ…?」
「ボール型の時点で飛んだり跳ねたりできるんですよ!人型ならもっと自由に動けます!」
確かに…動くガンプラというのは夢がある…。自分が作ったガンプラを動かせるというのは男なら誰もが想像したことがあるだろう。ビームライフルやサーベルは再現できないだろうが実体剣なら持たせることができる。
「できる気がしてきたな…」
「そうでしょ!早速技術開発部門に連絡してみましょう!」
「わかった…では商品名は…」
「モビルドールにしましょう!」
こうしてモビルドールの簡単な説明と共に、ホビー部門のハロのAIを株分けしたものが技術開発部門に送付された。このアイディアが形になればガンプラはより優れたものに生まれ変わるだろう。
それから数日後…
『ククク…出来ましたよモビルドールが!』
ホビー部門のオフィスに一本の電話がかかってきた。電話先はバイオマスプラスチックの件から親交を深めた技術開発部門からである。
「ええっ!?随分早いですね!?」
『ホビー部門さんにはお世話になりましたからね…まだ試作品の段階ですが形にはなりました…それに私にとっても実に興味をそそられる提案でしたのでね…』
「ありがとうございます…!早速そちらに向かいます!」
『ククク…お待ちしていますよ…多少大きくなった彼女とね…』
「…?」
なんだか会話に違和感があった気がするが…まあ気のせいだろう。そんなことより動くガンプラが大事だ!
「準備はできたか!それでは行くぞ!」
「ヒャッハー!待ちきれないぜ!」
「「ホビー部門、いっきまーす!!」」
「ククク…待っていましたよ…生まれ変わった彼女とね!!」
「ホビー部門の皆さま…お久しぶりです」
「えっ誰?」
そこにいたのは想像していたモビルドールではなかった。
明るい黄緑色の髪、そこから生えた猫耳、そしてメイド服…よく見ると機械のパーツがあるため人ではないことがわかるが、この美少女がモビルドールとなんの関係があるのだろうか?
「あの、モビルドールはどこに…?」
「…? 目の前にいるじゃないですか」
「中身をハロにした自立稼働するガンプラは…?」
「えっハロをメイドロボに改造するんじゃなかったんですか?」
「……?」
どうやら両者の間ですれ違いがあったらしい…。
「ククク…私としたことが確認不足だったようですね……いや、ドールとつくから女の子なのかなって…」
「そんな…ガンプラを動かす男の夢は…?」
「いや…これもある意味男の夢なんじゃないか?」
「これ商品化できます?」
「私はいらない子なんですか?」
ハロ(メイドロボ)がきょとんと首を傾げた。なぜだか途轍もなく自分たちが悪人のような気がしてくる…。中身がハロとはいえ見た目は女の子である…絵面的にはとてもマズい、第三者に見られたら通報不可避である。
「いや!そんなこと無いよ!ちょっと驚いただけっていうか…丁度人手も足りなかったしさ~めちゃ助かる~!」
「よっ!美少女!ハロ最高!」
まあ中身はハロだし簡単な入力事務もできるだろう…それだけでもかなりの戦力だ。それに美少女である。オッサンは罪だが美少女は無罪なのだ。
「ククク…そう言ってもらえるとありがたい…この肌や髪、人工筋肉なんてバイオプラスチックをつかった最新技術でしてね…おかげで上層部からの予算もがっぽがぽ…」
「うらやましい…こっちなんてカスみたいな労働環境なのに…」
「マジすみません、要望通りのモビルドールも作りますので…」
こうしてホビー部門に新たな仲間が加わった。そしてモビルドール─自立型ガンプラ─も作成され、予算も下りた。それにより人手不足も解消される…ことはなかった。
『ハロハロ~!今回は新作ガンプラ、ガンダムゼフィランサスを作っていきま~す!』
「うわあああ!ハロが配信者としてネットを練り歩いてる!」
上層部の「こんな可愛いメイドロボをお茶くみさせとくのもったいなくね?」という鶴の一声により、ハロはホビー部門の雑務をやめ配信者デビューを果たしたのだ。それだけではない、配信者としてのスケジュール管理やグッズ販売など、さらに仕事が増えていったのである。
モビルドールの成功で予算も人員も増えたが、仕事の過酷さは更に増していくのであった…。
続く