ガンプラファイトとは何か…?
あれは数か月前のこと…アナハイムはモビルドールなる新商品を売り出した。
AIを組み込んだ自立型フレームを素体とし、その上にプラスチック製の外骨格を組み合わせた動くガンプラである。走る、掴む、投げる…人間の動きを再現できる素体に、別売りの素体用ガンプラを装着することでモビルドールは完成する。
最初こそ素体が高額─ハロ数台分の金額─なこと、せっかく作ったガンプラを壊したくないというもったいない精神からモビルドールは観賞用のおもちゃとして広まったが、次第に「誰のガンプラが最強か?」「それは自分のガンプラである」というエゴとエゴのぶつかり合いがガノタを中心に渦巻きはじめた。
ビーム兵器の再現までは出来なかったため、ガノタ達はガンプラを鈍器や盾で武装し、相手のガンプラを破壊しあった。そんなことを繰り返しているうちに、ルール無用のデスマッチに少しずつルールが作られ始めた。
一つ、頭部を破壊されたガンプラは敗北とみなす
二つ、対戦相手への直接攻撃をしてはならない(リアルファイトの禁止)
三つ、1対1の闘いが原則である
四つ、素体以外に金属を使ってはならない(プラスチック製品のみ)
五つ、エンジョイ&エキサイティングの精神を忘れてはならない
以上のルールを守れば基本的に何をしてもいい。素体やそのAIをカスタマイズしてもよし、外骨格のガンプラ部分は市販でもフルスクラッチでもいい。ザクでもガンダムでも美プラでも構わない。
そして金と時間をかけたブンドドに過ぎなかったガンプラバトルは、いつの間にか宇宙世紀を巻き来む新たな娯楽となっていたのであった。
アナハイムの本社、その中に極秘に作られた研究室にSFチックな筐体が設置されていた。それはアナハイムが開発した新商品、ガンプラバトル用の闘技場である。モビルドールは本来無人で動けるガンプラだが「自分で操縦してみたい」というニーズと安全面のため急遽作られた筐体である。
非常に高性能で、大人が台パンしても壊れない安心設計だ。
その筐体の中では2体のガンプラが向き合っていた。
一体はパチ組みのRX-78-2…初心者が作ったような普通のガンプラだ。もう一体はザクⅡ…それもシャア専用ザクだ。目を引くのはその完成度の高さである。アンテナのシャープ化、合わせ目消し、スミ入れ、トップコート、デカールなど見れば見るほど手間をかけて作られたのが分かる一級品だ。
『
全塗装ザクⅡがパチ組みガンダムに突撃する。
「見せてもらおうか…パチ組みの性能とやらを…!」
全塗装ザクⅡの製作者…アナハイムの社員はキメ顔でそう言った。
しかしパチ組みのガンダムはそれをひらりと躱し、すれ違いざまにガンダムハンマーを相手の背後にお見舞いした。
「踏み込みが甘いっ!」
パチ組みガンダムの操縦者は華麗なテクニックでザクの攻撃を躱していく。
「そこだ!やっちまえ!お前の勝利に俺たちの昼飯がかかってるんだ!」
「しゃあっガンダムハンマー!」
「ええいヤジがうるさい!しかし所詮は初心者が作ったガンプラ…ゲート処理が甘い!パーツのはめ込みも甘い!目のシールが歪んでいる!貴様を倒して今日のランチは頂いていく!」
ヒートアックスがガンダムハンマーを切り裂き、再びパチ組みガンダムに肉薄した。
「まだだ!まだ終わらんよ!」
ヒートアックスが頭部を切り飛ばそうとしたその瞬間、ガンダムに迫るザクⅡは突如バランスを崩し倒れこんだ。
「あ…あれはっまるで『チェーン・デスマッチ』だっ!」
ザクⅡの足首─そのポリキャップにガンダムハンマーの鎖が巻き付いていた。ガンダムハンマーはこの状況を作り出すための囮に過ぎなかったのだ。ガンダムは自分の足と愛での足を鎖を巻き付けたことを隠すため武器を手放したかのように見せかけたのである。
「くっこんな小細工で…!」
「そおい!」
立ち上がろうとしたザクⅡだったが、そんな隙を与えるほどガンダムは甘くない。すぐさま自分の足を引くことで再び相手のバランスを崩し地面にたたきつけた。それでもザクは立ち上がるため、今度は推力をより上げるが…
「今だ!」
その瞬間をガンダムは見逃さなかった。立ち上がろうとするザクに肘打ちを炸裂させる!勢いをつけた頭部に鋭い打撃を食らわせたことで頭部は破壊され勝敗は決した。
『勝負ありっっ!!!』
「ああ…俺のガンプラがぁぁぁぁぁ!」
「しゃあっ!ゴチになります!」
「テストプレイも慣れてきたな…仕事なのにこんなに楽しくていいのかな…?」
「今まで働きすぎたんだしいいじゃないですか!」
アナハイムの社員たちは研究室で筐体とガンプラのテストプレイを楽しんでいた。ちなみにガンプラの修理代は自費負担である。どれだけデータを蓄積しても給料には反映されない。
「もう少しでビーム兵器も再現できるようになるみたいですよ!」
「マジかよ…またガンプラの組み直しだな…!」
やりがい搾取に今日も気づかない社員たちなのであった。
続く