ふわふわ森の夢のあと!   作:かんか二見

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迷子とうん

 

「ねええっとる、僕たちは何処へ向かっているのかな」

「うん? もちろん二層よ! また同じこと言ってる、ふふっミモリったら変なの」

「そうだねえっとる、でも僕にはめちゃくちゃ同じ道を歩いてる気がするんだ」

「この森の仕組み的にどうしてもそう見えるのよね。でも大丈夫。道順はちゃんと分かってるわ! ここの星印のある祠を目印に3周、を今やり終わったから今度は後ろ向きに10秒歩く、でしょ……」

「この印のある祠みたいなやつ6回は見てるぞ」

「へっ?」

 

 三層を出ようとしただけなのにどうしてこんなことに。どうしようこれじゃ全部やり直しじゃない! と叫ぶえっとるを見守りつつ、赤みを帯びてきた空を見上げる。きちんと空が暗くなることに安堵を覚えつつ、夜が来るだろうことに頭を抱える。あれから何時間経ったのだろう? はやく帰りたい。クリーム頭とやり合った後、一度スマホで時間は見たのだが電波が届いておらず、時計も狂っていたので多少の操作の後はさっさと電源を落としてしまった。こういう時、腕時計を持っていないことが悔やまれてならない。入学祝いに買ってくれようとしていたのにな。なにがスマホあるからいらないだよ過去の僕。帰りたい。

 

 「えーっとどこからになるのかしら……うーんと、アタシのおうち? あれっそれってつまり最初から?! ううん待って、今ここに祠はある! これがここに「ある」ってことは……希望、あるわね!」

「ねええっとるゥ……えっとるが案内してくれて僕はとっても嬉しいんだけどさ、僕もちょっとは手伝えたらなって思うんだァ……。このままえっとるの負担になり続けるのもどうかなあって思うしさ……せめて出口までの詳細な道順、書き出させてほしいなァーって……ウン……」

 

 この森から出るための道順というのがクセ者で、道順というよりは手順だった。特定の秒数歩く、その場で数回しゃがむ、来た道を後ろ向きのまま歩いて戻る……。しかも何度も同じような手順を踏むうちに、いくらぼんやりしていると評判の僕でも毎回微妙に違う手順を踏んでいるというか、勘違いと手順忘れが発生している可能性に気付いてしまった。そして毎回違うから僕にはどれが正規でどれがエラーなのかが分からない。えっとるが頑張ってくれているのはありがたく、嬉しいのも本当だ。本当なんだ。でもそう、いくら記憶を消しているからって変な位置で気絶していることには変わりなく、つまりいつクリーム頭がやってくるのか分からないのだ。ねっ、クリーム頭。この空間からは少しでも早く脱出できる方がいい。はやく帰りたい。書き出せばなにが間違っているかが少なくとも分かるはず……! かえりたい……!!

 

「というわけでまず書き出すぞ! さてまずはえっとるの住処が開始地点だろ? これは分かる! で、次は――」

「わあっミモリの文字面白いわね! あっこれアタシ?「えっとる」って書くの? くるくるしてるのね!」

「カタカナだとカクカクになるぞ〜」

「本当!? なんでかしら!」

 

「それで、星印のある祠のまわりを……3周?」

「なんで僕に訊く〜? でもさっき3周って言ってたし正解〜! 正解だよな……? あっ目を逸らさないで〜」

 

「よっしゃ書き出し終わり! まず最初はえっとるの住処に向か……えっとる? えっとる!! なんでそっちに行くの!? えっとる!! ねえ! キミのおうち遠ざかってない?! オイ! オーイ!!」

 

「ねえここ本当に合ってる? この煽りダンシングパステル樹木、だいぶん前に目印になってたやつじゃない? どっか手順自体書き漏らしてるとかは……おっ目を逸らしたな〜? もしかしてなんか思い出せたのか〜?」

 

「えっとる、素朴な疑問なんだけどキミはどうやってここで暮らしてたの? ……ウーン目を合わせて微笑んでも返答にはならないな〜」

 

 

 ハイッ! そんなこんなでやってきましたふわふわ森第二層! や、やっと二層……! えっとるは自分の方向感覚と記憶力について「分かって」しまったのか、すっかりしょげかえっていた。しおしおだ。

 確かに少し空気が変わったような気がする。三層はこの森での血のニオイを希釈したような、甘くて居心地の悪いニオイだったのだが、ここはそれよりも「森」らしい濃密な自然のニオイが強い。森の方が強いだけで嫌なニオイはあるし森らしいニオイが好きというわけでもないのだけれど。うーんやっぱ帰りたい。

 辺りを見渡すと、三層にあったパステルカラーの木に混じって極彩色の木も存在している。極彩色の木ってなんなんだよ。深夜のテレビ画面みたいな色だ。チカチカして現実味が薄い。オレンジ色の花みたいな釣り鐘は相変わらず時折生えており、囁くように時折歌う。ずっと見ていて気分のいいものではない。

 ……ところでえっとるはさっきからなんで石をひっくり返してはかりかりベーコンって魔法の呪文唱えてるの? もしかしてふわふわ森ではそうしたらかりかりベーコンが湧いてくるの? えっ? 知り合いを探している? 精霊の文化って独特だなぁ……。

 

「かりかりべーこん! かりかりべーこん! ――あっ、ここにいたのね、久しぶりべーこん! ミモリ、この子! 彼女がかりかりべーこんよ!」

「かりかりべーこんって名前だったの!?」

 

 精霊の文化って本当独特だなぁとしみじみ思いつつ、かりかりべーこんさん? に挨拶をしようと試みた僕の目に飛び込んできたのは――――――見事な、うんちだった。

 うんちだ。色こそ灰色だが、その形はまごうことなき「うんち」だ。美しさすら感じるとぐろを巻いた、絵に描いたような「うんち」。僕の頭部くらいの大きさがある辺り余程大きな動物の糞だったのだろう。表面が乾いてひび割れてこそいるが、それでも見事なまでの「うんち」だ。

 

「…………よろしく、です……、にんげ」

 

 うんちが喋った! うんちなのに!?

 喉が渇き過ぎてくっ付いてしまったような、か細いかすれた声で喋るうんち。えっとる曰く、彼女も精霊らしく……こんな姿になっているのは精霊の体質、だとか。精霊、奥が深過ぎる。

 

「それで……、えっとる、きょ……なに、です」

「あ、そのね、二つあって……一つはね、ふわふわ森の出口までの行き方を教えてほしいの。その、ニンゲンが出れる出口。アタシ二層からは詳しくないから……」

「わかる、にそう……だけ、いまは」

「一層は看板があるでしょう? それさえあればなんとかなるかなって」

「ん、でも、うわさ……、さいきん、びみょ? です」

「えっそうなの? う、うーん。けどもう行くしかないというか……その、もう一つの方も関わってくるんだけど」

「……も、ひとつ?」

「もう一つは………………その、お別れを、いいに来たの。今までありがとう、べーこん。」

「………………なん、で、」

「えへへ、うっかりね。ほらこれ、穢れ翅……なっちゃったの。だからもう森に居ることは出来ないし、今しかこのニンゲン……ミモリを、彼を外に送り届けられないから……」

 

 ヒュ、と、自分の息の音が聞こえる。血がどこかに行ってしまって、世界に膜が出来たみたいな感覚がする。朧げな記憶が欠けた意識からはみ出してくる。穢れ翅。処分。僕と接した後。モヤがかかったような感情。苦しむえっとる。溶けた身体。黒い翅。

 心臓の音がする。心臓の音しか聞こえない。僕にはなにも聞こえていない。僕にはなんにも――――

 

「………………」

「まあ、その日が来たってだけだものね。べーこんを残していくことになっちゃうのだけは、やっぱり悲しいけれど」

「…………。えっとる、森、出る。わたしも、いっしょ。おねがい、いく、いっしょ、です。」

「べーこん……でもアナタ二層でならまだ長生きできるって言ってたでしょう。それなのに……」

「ない。いみ、ない。えっとる、いない……いらない、そんなの、です。」

「……べーこん」

 

 

 

 気がつくと、僕は頭にうんちを乗っけることになっていた。

 

「ンッ?」

「ありがとうミモリ! アタシだと運べなくって」

「かたじけねーです、ニンゲン。」

「いや、その、ウン。確かに意外と質量あるね……?」

「ふふん。そうですよニンゲン。意外と見る目がありますねニンゲン。」

「ウン……。ウン……?」

 

 頭の上でうんちが喋っている。しかもさっきより元気で流暢だ。声が乾いていない。水でも飲んだ? うんちのくせに臭くはないが、常になにかが頭の上で動いているような、なにかが染み込んでいるような、とにかく頭が変な感じがする。

 

「わたしも残念ながら穢れ翅ですからね、くっつきやすいです。おめーの頭にひっついて、ちょっぴりおめーを吸い出して喋ってます。まあこうなるとありがてーことでもありますね」

「すいだす……?」

「安心するですよ、わたしは「終点」です。そんなに不安にならなくても大丈夫ですよ。ちょっと元気を借りる程度です。今のえっとるみたいに触ったらどっちとも一貫の終わりってわけじゃねー……うぐっ!? はわっ、なんですかこれ苦し――ちょっと落ち着くですニンゲン! これじゃ――――」

 

 バキ、と。突然大きな音がする。

 音の方向を向くと、パステル樹木が倒れた。そこに居たのは――――肌色の、大きな異形の肉塊? 人間の皮膚を貼り付けた粘土細工のようにボコボコとした歪な形で、そこかしこに眼と謎の穴がある。

 

えう い め こぇあす うしぇ ああああ

「うそっ、穢れ肉!? 『止まって』! 『止』――――駄目ッ止まってくれない!」

「ぽあれって……!? っぬかったです、ニンゲン! 走るです!」

「は? なんだこれ……」

「いいからあんまり見るなです! とにかく逃げて! 深く考えんじゃねーです!」

 

 蝿のような翅を広げ、人間の手のような触手をこちらに放ってくる。あれが当たったら、僕もさっきの木みたいに? そうだ。とにかく逃げなくては。

 頭上から降ってくる指示に従い、ひたすら無心に森を駆け抜ける。部活動も入っていないインドア人間にはキツいが、なんとか走り続ける。三層と違って少し道が悪い。せまい。けれどそれは向こうも同じなようで、段々と距離が離れていく。

 

「……でもッ、そろそろ、きっつ……!」

「もういいですよニンゲン、左前の茂みに飛び込んでしゃがむです!」

「えっいけんのこれ!? ――うおりゃ!」

 

 正直限界だったので、倒れ込むように茂みに飛び込む。流石に痛みを覚悟していたが、ふさふさのパステルカラー草木はたいそう柔らかく、怪我をすることもなかった。あと頭のうんちもこんなにも激しく動いたのにまったく落ちる様子がなかった。すごいなうんちって。

 

「良いと言うまで息を潜めるです。あとはわたしがなんとかします――借りますよ」

 

 頼もしい台詞を吐くうんち。次の瞬間疲労感が増す。多分僕から何かを吸い取った、というやつなのだろう。なかなかの緊急事態にも関わらず勢いよくお腹が空いてくる。腹の音が鳴ってしまったので危ないかと思ったが、結局気付かれることはなく、肉粘土細工の化け物はどこかに行ってしまった。

 

「……よし。ではえっとる。わりーですが、空の上から緑色の木を探してもらえますか。ニンゲンが食べられそうな木の実を探したいですよ。ニンゲンはわたしが隠し切るです。」

「わ、分かったわ!なるべくすぐ見つけてくる!」

「目印はここの虹色の木ですよ!」

 

 分かってるわよ! と残すとあっという間に空に飛んで行ってしまった。えっとる、方向音痴疑惑が強い気がするのだが大丈夫なのだろうか……いや本当に大丈夫なのか? なんだかドキドキしてきた。

 

「む、えっとるの心配ですかねこの感じは……空からほんのちょーっと見てきてもらうだけですよ。流石に迷わねーでしょうし……さっきのヤツに会うこともないです」

「――――」

「…………おめーがなにを考えているかは分かりませんよ。わりーですね。吸い出させてもらってるので、ちょっぴしおめーの気持ちが流れ込んでくるです。案内はちゃんとしますから、しばらく我慢してくれるとありがてーです」

「――――――」

「無闇に言ったりしないので安心してほしいですが……それより! 状況を教えて欲しいですよ! おめー、何もんです? えっとると何があったです? 三層にニンゲンが行けるなんて――」

「あ、」

「うぎゃっ!? ちょ、ちょっとおちつくですおめー!ぐっ、べつに責めてねーですから! とにかくおちついてくれないと気配消せなくなるですこの気持ちいやですむねがくるしいですうぎゅうううううう」

 

 うんちの胸ってどこにあるんだろう。

 

「あっ、落ち着きましたね。ううーん、おめー、精霊がどんなものかとか穢れ翅がなにかとか、えっとるから説明聞いて――――ないですねこれは……。むむむ、どこから説明したらいいんでしょう……うんと、えっと…………むーん」

 

 むんむんとうんちが唸る度、頭上でなにかが動く感触がする。むずむずする。しばらくするとひときわ大きな感触が頭に伝わり、うんちが言った。

 

「よし! ではまずお互い、改めて自己紹介をしましょう、です!」

 

 

 わたしの名前はかりかりべーこんです。ちょっぴり名前が長いので、よく話すヤツにはべーこんって呼ばれることが多くて……ん? なにか引っ掛かることが? まあ、いいです。おめーもべーこんと呼ぶと良いですよ。見ての通りの精霊、終点の穢れ翅なのでほとんど死体……むむ。またこの気持ち……うーん。むむーん、ひとまず続けさせてもらいますね。わたしは元第二層管理者で、こうやって気配を誤魔化したり……気配を探したりするのが得意でした。今は残り滓程度ですが、それでも結構やれちゃうくらいにはとっても優秀だったですよ。えっへん。好きなものは動物の(フン)で……うんと、そんなに面白いことですか? 素晴らしいじゃねーですか。いい機能だと思うです。排泄。精霊にはねーものですよ!

 えっとるはわたしの……オトモダチってやつですかね、ニンゲン風に言うと。こっそりしか会えませんが――階層越えも話すのも本当は禁忌なので――少なくともわたしは、いちばんのナカヨシだと、そう思ってます。

 はい。ひとまずこのくらいで……訊きたいことがあればあとからいくらでも話しますので、ニンゲン、おめーのことも教えてくれるとうれしーですよ!

 

「僕、は…………」

 

 深森葵という氏名。葵の部分が名前だが、ほとんどの人には深森の方で呼ばれてるし、その方が本当は気楽なこと。こことはまったく異なる、精霊も、さっきみたいな化け物もいない場所で暮らしていて、柳合高校という学校に通っていること。コンビニで買う肉まん類が好きなこと。

 まったく異なる場所に居たはずなのに、なんの前触れもなく、気がついたら森の第三層にいて、えっとると出会ったこと。

 精霊と勘違いされていたらしく遊んだこと。まったく殺す気があるように見えない殺害宣告。不思議なチカラ。ごまあんまん。もう一つのえっとるの能力を見たこと。溶けるえっとる。僕の中に入る液体のような身体。元に戻ったこと。クリーム色頭。――黒く染まった翅――――。

 後半になるにつれ要領を得なくなっていく話も、べーこんは適宜相槌を打ちながら聴いていた。

 

 

「…………。分かったです、ミモリ。改めましてよろしくです。話してくれてかんしゃですよ。」

「――――」

「うんと。まずですね、先に言っちゃいますね……おめーのせいじゃねーと思うですよ」

「え?」

「穢れ翅の話すると、おめーの気持ちが尋常じゃないくらい大荒れの、ぎゅーって感じになります……えっとるの翅のこと、よく分かってねーですが自分のせいだって思ってますね? ……思ってるですよね。むーん、なんでしょう。どう説明しましょう……どっから……うむむ」

 

 べーこんがまたうんうん悩んでいる。頭上がくすぐったい。

 

「うんとですね、精霊ってよくわかんねー存在でして。ふわふわ森にあるモノ以外にあんまり興味を持つと、翅が黒く染まるですよ。そうなるともう、興味あるナシ関わらず、ふわふわ森にあるモノ以外なら溶けてくっつくようになっちゃうんです。む? ああ、翅で食べることだけはなんでか出来るです。不思議です。……まあ、こうなると他の精霊ともくっつくようになるもんですからそれはもう嫌がられるわけで……これが穢れ翅ってやつです。わたしの先代の二層管理者はニンゲンの鼻の穴に興味を持ってたんですが、ある日ナマの鼻ちょうちんを見てその興奮で穢れたそうですよ。あと以前、ニンゲンがものすごく大きなくしゃみをしたのを聞いて穢れたヤツがいました。ニンゲンに興味なかったって言ってたですがね」

「そん……?」

「個人差はあるですが、わりとさくっと、おやつ感覚でなりますね。蓄積もするらしいので……。ちなみにわたしは見ての通りです! わはは。いやはや、あんまりにも見事なうんちだったです……。結構な割合で興味あるモノに触ってるときになるので、まあこの通り、翅が黒くなったと気付く前にわたしみたいになります。わたしはとんでもなく優秀なのでまだ意識があるですけれど、くっつき終わると……くっつく力が弱まると、普通はあっという間に意識も消えるです。これが終点です。なのでわたしもほとんど死んでるようなモノですね!」

 

 僕は死体を頭の上に乗っけていた……?

 

「そうでなくても穢れ翅になるとそういう係の精霊に物理的に消されますから、穢れることと死がおんなじようなモノなわけですね。精霊はみんな儚いいのちです。ミモリがどう気を付けてたところで、精霊が気になったら勝手に翅が黒くなるのでどうしようもないです」

「でもその、えっとる、翅が黒くなる前に多分僕の記憶読み取ってて、それで、あんまり覚えてなくて……けどさっき少し思い出して……やめてって言われた気がしたんだ……なのに……」

「うーんと。そうですね、精霊はみんななにかしら特技があるです。わたしは生き物の気配を勘違いさせるとか探すとかですね。えっとるは他の生き物に命令して身体を操るのと……心を読めるんですが、これが精霊の体質と相性が悪すぎましてね、心や記憶を読むとどうしても影響を受けるというか、興味が湧いてしまうというか。心を読むこと即ち穢れ翅になること、くらいのシロモノなんですね。しかも穢れ翅になった後も得技を使って来られるとなるとまあ困ったことになるというか……だからこの特技持ちが出ると、誰とも会わないように「三層に任命」されてしまうというか……。しかもえっとるの場合、真面目なので建前みてーな役割でもまっとうしようとしてしまうですし……むーん」

 

 えっとるが入ってきたときに流れてきた記憶の断片。ずっと独りの場所。ごく稀に様子を見に来る冷たい眼。たった一人の友人。会うための障害が大きすぎる、なかなか会えない、ただ一人の。気が触れそうな程の寂しさ。

 

「えっとるもずっと心掛けてたです。だから余程じゃないと――記憶を読まなくても、そのうち穢れ翅になりそうなくらいの興味でもなけりゃ、記憶なんて読もうとしないはずですよ。どれだけ保険掛けても、記憶を読むってのはほとんど穢れる前提です。穢れたところでおめーに触りさえしなけりゃおめーのことは守れますからね。おそらく侵入者じゃないって正当性の保証になれるならって――うぐっ! うんと、はい。おめーが思うよりも多分ずっと、精霊にとって、精霊のいのちって軽いです。ふわふわ森の、ふわふわのいのちです」

「……でも僕は、」

「うーんと、あとですね。この森、入ると呪われるです」

「んっ?」

「わたしは途方もなく優秀なので一層の状況とかニンゲンにも詳しかったんですが、ニンゲンどもいわくこの森に入ると精神が狂うそうですよ」

「えっなにそれ」

「一層でもおかしくなっているって自己申告してました。精神が異様に不安定になるらしいです。急にかえりたいと呟きながら同士討ち始める個体もいて、終わったら誰がこんなことを!? って一人で叫んでたらしいです。二層まで来るとニンゲン、自分のお肉を掻きむしりながらかえりたいって叫んで泣いてるヤツばっかりですよ」

「ワッ……」

「層が進むと呪いも深刻になるんじゃないかと個人的には思ってるです。つまり三層にいたミモリがえっとるの言うことを聞かなかったかもーとかあんまり覚えてないかもーとかあったとしても、むしろよくそんなので済みましたねって感じです! えらいですよミモリ!」

「褒められちゃった……」

 

 色々な思いが彼方にすっ飛んで行く。なんなんだこの森。どうなってるんだこの森。すっごい帰りたい。ハチャメチャに帰りたい!

 

 






かりかりべーこんさんの絵です

【挿絵表示】



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