Monotone   作:hirag

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14話 手がかり

 

 一時間前、多くの観客で賑やかだったステージが今では私の足音しか聞こえないほど、静まり返っていた。

 ステージの正面に立ち、目を閉じる。脳裏に焼き付けられた情景が脳内で思い浮かべる。

 

 どのバンドも個性があって、聞いているだけで心を揺さぶられるものがあった。

 特に印象が強かったのはRoseliaとPoppin'Party。前者は私が普段作っている曲と同じ類。それに比べて後者は、ポップで明るい曲調。今までやったことがない曲調だけど、偶にはこういう感じの曲を作ってみてもいいかもしれない。

 

「お疲れ~今日はありがとうね。依頼ちゃん」

 

 感傷に浸っていると声が聞こえ、振り返るとまりなの姿があった。いつもと違うのは両手にはハンバーガー店のロゴマークが入った紙袋があった。

 

「お疲れ様です。その紙袋は何ですか?」

「あ、これ? 夜食だよ。もうこんな時間だし、夜遅くまで君を連れまわしていたら律子ちゃんに何て言われるか分からないから出前を頼んだの。はい、どうぞ」

 

 遠慮しようとしたが、私のお腹から情けない音がステージに響くように鳴った。

 

 時間を確認してみると既に午後八時を過ぎていた。

 昼食を摂ってからは水以外は口にしていなかったから、道理でお腹がすく訳だ。

 

「あ、ありがとうございます。お、お金を……」

「あぁ、いいよいいよ。今日はたくさん働いてくれたから、そのお礼」

「そこまで言うのなら、有り難く頂きます」

 

 紙袋を受け取るとまりなは私から一席分だけ空けて座った。

 座る時に彼女の口から「よっ、こいしょ」という言葉が聞こえた気がしたが、それは気のせいだろう。

 

「それで依頼ちゃん。相談って何かな?」

「まりなさんは瑞穂重人(みずほしげと)という人を知っていますか?」

 

 瑞穂重人……私の父が音楽活動をしていたのは十数年前。

 それぐらい前ならば、彼女はちょうど私と同い年。それに加えて音楽活動をしているならば、直接な関わりはなくても、少しぐらいは父の噂を耳にしたことはあるはず。

 

「うん。知っているよ。私と律子ちゃんは彼から音楽を教わったからね」

「音楽を教わったって……二人とも父と知り合いだったのですか?」

 

「そうだよ。確か……彼と初めて会ったのは、私達がバンドを始めてから直ぐだったかな?」

 

 彼女に視線を向けると懐かしむような顔をしながら手元を見つめていた。

 

「ある日、律子ちゃんが連れてきたんだよね。ちょっと待ってね。当時の写真があったはずだから……」

 

 

 まさか、顔見知りだとは思わなかった。

 それに律子が連れてきたってことは、彼女はそれ以前から何処かで父と会った事になる。

 

 

「あ、あったよ」

 

 スマホ画面に表示されたのは、女子生徒5人に囲まれるように天然パーマの若い男性が1人片手をキーボードに乗せたままカメラにピースをしていた。

 

「これが昔のお父さん……」

「それで彼の左隣でピースをしているのが律子ちゃんだよ」

「えっ⁉この人が律子さん?」

 

 父の隣には襟足あたりで切りそろえた髪型をした女性が大事そうに両手でベースを抱えていた。

 律子が音楽をしていたことは少し驚いたが、その驚きを霞むほどのインパクトがあった。

 

「全然違うでしょう? こんな風に見えて彼女、プロも顔負けするほどの実力があったんだよ」

 

 言われてみれば、脳裏によぎるものがあった。

 私と律子さんが一緒に暮らし始めて数ヶ月が経った頃の出来事。

 私が少し席を離している隙に、律子は作曲中を聞いていた。その時の彼女の顔は近づくなと言わんばかりに険しい顔をしていた。

 

 その後、ペースが速いや配分が悪いとか。とにかく駄目だしを受けたことがあった。

 特にベースのコードは事細かく指摘を受けた記憶があった。

 

 それ以外にも日常生活にて、彼女の手を触れる事があるが彼女の右手の指は左手の指に比べて硬かった。

 

 その他にも彼女が退屈な時に右人差し指の腹でテーブルをトントン叩いていたが、まるで爪で叩いているような音が聞こえた。

 

 彼女の様に指弾きをするベーシストは人差し指と中指が弦と擦れて硬くなるとどこかの本で読んだことがあった。

 

「それが本当なら一度だけでも聴いてみたいです」

 

「多分だけど、もう一生聴けないかな。彼が居なくなった噂が広まってから、彼女はベースを辞めちゃったし、昔みたいに音楽に関わろうとしなかった。実は依頼ちゃんがCiRCLEに来る前からライブに誘ってるけど、一回も来なかったからね」

 

 律子がライブに来ない理由はなんとなくだけど分かる気がする。

 彼女にとって、ライブは一番楽しかった日々を思い出させると同時に、辛い記憶かもしれないから。

 

「まりなさんはいつから私が父の娘だと気が付いたのですか?」

「初めて会った時からなんとなくだけど、彼の面影があるからそうなんじゃないかって……」

「そうだったのですね。まりなさんは父とはどんな関係でしたか? その……恋人だったりして?」

 

 昔の写真には父の左隣にギターを持ったまりなの姿があり、親しそうに見えた。

 

「そんなこと関係じゃないよ。これはその場のノリでやっただけで、彼は既婚者だったからね」

 

 言われてみればそうだった。この写真の日付は十一年前、私が既に産まれている時の写真になる。

 翌々、考えてみれば母と子供がいるのに父はまりな達と会っていることになる。

 それについて母は承知していたのか? 

 

「彼の事なら私よりも律子ちゃんの方が詳しいから聞いてみた方がいいよ」

 

 二人の関係も本当に教え子と恩師の関係なのか。

 実はもっと深い関係があったのではないか。例えるならば、恋人関係だったのかもしれない。

 

 それに本当の目的もわからない。律子は何のために、父を探しているのか。

 

「そうしてみます。ありがとうございます」

 

 と言ったとしも、律子が簡単に話すとは思えない。酔わせてしゃべらそうにも、律子は酒にも強く、例え酔ったとしても直ぐに寝てしまう。

 もう、最終手段として催眠術でもかけてみるしかないかもしれない。

 

「あと、これはまた関係ない話になるけど、依頼ちゃん。今後の事だけれど、良かったらこのままCiRCLEでバイト続けてみない?」

 

 あぁ……そうだった。このイベントが終わるまで働くことになっていたことを忘れていた。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 断る理由がなく、私は二つ返事をした。

 律子に入院費を全額返せていないから、バイトを続ける必要がある。それならば、感覚を掴みかけたCiRCLEで働いた方が気楽だと思ったから。

 

 それにしても、今日のライブは少し期待外れなところがあった。それは父が言っていた。音色はみること出来なかったから。

 

 

 二章 完

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