Monotone   作:hirag

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15話 アトリエから響く音

 

「そろそろ休憩にしないー?」

「さんせー。あ、瑞穂さっきの演奏結構よかったんじゃね?」

「え、あ、うん。初めに比べたら良くなったと思うよ」

 

 どうしてこんなことになってしまったんだ……

 私はただ、店の入口前にある花壇に水やりをしていただけなのに、偶然通りかかった桐ヶ谷に広町家のアトリエに連行された。

 

 案の定、練習を始める前に八潮から「部外者を連れてくるのはよくない」と苦言を呈する始末。

 そこからは二人の口論が始まった。二人の話を聞いてられずに帰ろうとしていた矢先。返す言葉を詰まらせた桐ヶ谷にその場にいた二葉や広町が助け舟を出すと、『ここで聞いたことを口外しない』という条件でその場にいる事を許可された。

 私的には図書館に行きたい気持ちがあったが、結果が出た後に中々言い出せずに渋々、ここに残ることになった。

 

「私、ちょっとだけ外の空気を吸ってくる」

 

 アトリエを出て、深呼吸をする。絵具やその他の匂いから解放されてあくびを噛み殺しながら誰かが近くにいるのを感じ、横眼で見てみるとましろは大事そうにノート抱えている姿があった。

 

「ましろ。どうかした?」

「依頼ちゃん。歌詞について相談だけどいいかな?」

 

 少し興味が湧いて、開かれたページに目を通すと走り書きがびっしりと書かれており、かなり悩んだことが分かった。その隣のページには歌詞らしき文章が書かれていた。

 

「自分の気持ちを書いたのだけど、これでいいのかなって……」

「はぁーましろはまた他人の意見でころころ変えるつもり?」

「あ、えっと……そんなつもりはないけど……」

 

 しまった……つい、いつもの癖で語気を強めてしまった。その所為でましろは委縮してしまった。

 

「歌詞に正解も不正解もない。だから、ましろが思い描いた言葉を歌詞にすればいい」

「でも、ちょっと思い浮かばない言葉があって……」

「別に難しい言葉を考えなくても、その曲のテーマに合う言葉を選んだらいいと思う。例えば、ここは─」

 

 正体がバレないように私なりの歌詞の作り方を分かりやすいように説明をすると、ましろは段々と安心してきたのか。積極的に色々と聞いてきた。

 

「これでワンフレーズが出来る感じ。少し注意するのがワンフレーズに言葉を詰め込みすぎない事。どうしてか分かる?」

「歌いづらくなるから?」

「そう。だから、どうしても入れたい言葉とかは……えっと、桐ヶ谷さん。なにか?」

 

 適当なフレーズを作って、ましろの方に目を向けるとましろの後ろに立っていた桐ヶ谷が驚いた顔をしていた。

 

「いやぁ~瑞穂って歌詞作れたんだな~って思ってさ」

「歌詞っていうよりも言葉遊びに近い感じ、だから桐ヶ谷さんでも簡単に作れるはず」

 

 ここに来る道中で桐ヶ谷が「あたし達友達なんだし、敬語なんていらないから」と話していた。

 

「あ~あたし的にはそういうのあまり得意じゃないんだよね。あ、そうそう、歌詞といえば二人に聞いてほしい曲があるんだけど……」

 

 桐ヶ谷は苦笑をしながら、ある動画を再生した。それは私が今朝投稿した新曲だった。その新曲の中で彼女はサビの部分がなんて言っているのか分からない。と私達に聞いてきた。

 

「……さぁ? 私にも何て言っているのかわからないかな」

 

 作者だからこの部分の歌詞はわかる。敢えて、しらを切る事にした。

 

「これって、透子ちゃんが言っていたMonotoneさんの曲だよね?」

「そうそう。二人とも聴いたことあるっしょ?」

 

「うん。この前に初めて聞いたけど、なんだか圧倒されるっていうのか……なんていったらいいのか……聞いているだけで引きずり込まれる感じがした」

 

 引きずり込まれる感じ……

 

『この曲作った奴、狂ってる。一体何を食べたらこんなことを思い浮かぶんだ?』

『変な中毒性がある。仕事中にこの曲が頭から離れない』

 

 ましろの感想を聞いて、過去に投稿した曲につけられたコメントが頭に浮かんできた。

 いつもアイディアが浮かぶとどうしても似たような曲調になってしまう。途中で歌詞を変えたり、試行錯誤をしてみたが結局は元通りになってしまう。

 

「くだらない」

 

誰もこの曲に込められた本当の意味を理解しようとしていない。

 

「え?」

 

無意識にそんな言葉を口にしていた。それを聞いたましろが驚いた顔をしていた。

 

「ううん。何でもないよ」

「三人ともそろそろ練習を再開しない?」

 

 頭に脈を打つようなズキンズキンとした痛みを感じ、こめかみを押えているとアトリエの入り口から二葉は顔だけを覗かせていた。腕時計を確認すると既に十分は過ぎていた。

 

「ゴメン。ちょっとだけ頭が痛いから先に再開してて……落ち着いたらまた戻るから」

「依頼ちゃん。大丈夫」

「多分、大丈夫。しばらくの間はここに座って休むだけだから、心配はない」

 

 不安そうな顔をしながら、ましろ達はアトリエの中に入っていった。そして、しばらくすると新曲らしき音が聞こえてきた。その中には私が提案したワンフレーズが含まれていた。

 

 

 

 

「じゃあ、倉田さん。瑞穂さん。また明日学校で」

「うん。また明日ね」

 

 練習を終えてから二葉と別れると私達はゆっくりと帰路に着いていた。

 

「依頼ちゃん。今日はいろいろ相談に乗ってくれてありがとう」

「別に気にしなくていい。今日は偶々時間があったから」

「最後に依頼ちゃんが考えてくれた歌詞で歌ってみたけど、歌いやすかったよ」

「そう。それならよかった。もし、気に入らなかったらなかった事にしてくれてもいい。私も──」

 

 勉強になるって言いかけそうになったが、言葉を飲み込んだ。

 

「なに?」

「ううん。なんでもない。また機会があったら遠慮なく呼んでくれてもいい」

「うん。ありがとう。でも、どうして依頼ちゃんは歌詞の作り方を知っていたの?」

 

 さっきは桐ヶ谷がいたから話を逸らすことが出来たけど、今はそうはいかないみたい。

 

「ちょっと前にバイトの先輩から話を聞いて、試しに作ってみたことがあるから」

 

 それっぽい事を話すとましろは納得した様子を見せた。その様子を見ているとなんだか罪悪感を感じた。でも、いつかは正体を明かさないといけないかもしれない。

 

「そういえば、CiRCLEでアルバイトしていたね」

「あー、うん。知人の紹介でなんとなく面接を受けたら採用された」

「アルバイトってことは何か欲しいものがあるの?」

「別に……欲しい物はこれと言ってなにもない。敢えて言うならば律子さんに今回の治療費を返すために働いている事か」

 

 遊ぶ金も欲しいけどね……と後付けをすると互いにほほを緩ませた。そんな話をしていると、見飽きた建物が見えてきた。

 

「今度演奏を聴くのは音楽祭。それまでどこまで仕上がっているのか楽しみにしているから、頑張って」

「うん。ありがとう。今日は人がいても全然気にならなかったし、今度は自信をもって歌ってみるね」

 

 帰路に着くましろの姿が見えなくなると一匹のモンシロチョウが目の前を横切った。

 

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