病院にて検査が終わった二日後、ましろの様子がいつもと違うように感じた。
普段は私に対しておしゃべりなのだが、今日は打って変わって私が話を振っても生返事をするばかりで授業中も担任に当てられていても上手く答えられず、どこか上の空だった。
短い休み時間にこの前のライブについて話を切り出したとき、走って何処かへ逃げて行った。やはり今日のましろは何か変だ。いったいこの間のライブで何があった可能性が高いとように思えた。
だが、その謎以外にも簡単に分かった。私が昼休みに考え事をしているとクラスメイト三人がツキノモリ(仮)というバンドの話を小耳に挟んだ。
話をしていた三人の内、一人を捕まえて話を詳しく聞くと、三人はバンドメンバーの一人である桐ヶ谷の誘いを受けてライブに行ったのだか、肝心な演奏はイマイチでその後のバンドの方が良かったとクスクスと笑っていた。
話の中で一番に私の耳に残っているのは「もっと歌える子がいるはずなのにどうしてあの子なのだろう」と、心の無いような言葉だった。それを聞いた時は怒り感じたがその場では我慢した。
「はぁ……」
放課後、学校内の中庭にてクラスメイトや他の教室から聞いた話を整理しているとよくない事ばかり耳に入り、ため息ばかりが口から出る。
SNSで調べてみたが、そのどれもがクラスメイトから聞いた話と同じような内容がそこに書かれていた。ましろのあの様子からして、もうこの事を知っているかもしれない……
養護しようと思ったが、実際に聞いたわけではないから動くわけにはいかない。それに、下手に書き込みをすれば住所を特定される可能性がある。
頭を抱えていると私から見て右側にある木陰から視線を感じた。その方向に目を向けると頭に二つのお団子頭をした生徒と目が合った。
「そんなところで何をしているのですか?」
私が声を掛けると木陰に隠れていた女子生徒は「見つかった」と声を漏らすとすごすごと姿を現した。
「あはは……こんなところで何しているのかなーって気になって……」
見覚えのない生徒。他のクラスかそれとも上級生……どの道、言葉使いには気を付けた方がいいかもしれない。
「お気になさらず、少し考え事をしていたところです。すみませんがあなたにも聞きたいことがあるので、出来ればこっちに来て話を聞かせていだけますでしょうか?」
彼女に向けて私が座っているベンチの横を手の平で軽く叩くと、彼女は警戒をする様子もなくは私の横に座った。
「何が聞きたいのー?」
「最近、この学校にツキノモリ(仮)っていうバンドが結成されたと聞いていますが何か知っていますか?」
「うーん……知っているっていうか。私。そのバンドの関係者なんだけどねー」
彼女の名前は広町七深。先日、二葉が登校中に言っていた同級生のベーシストだった。
「それならば話が早い。あの日、演奏が終わった後はそのまま帰りましたか?」
「ううん。みんな、会場方が気になって見に行ったよー」
会場に見に行ったのなら、クラスメイト……いや、観客の反応を直に目にしているはずだ。それならば、今日のましろのあの様子なのは理解が出来た。
「もし、差し支えなければ練習風景を知りたいのですが、教えてくれますか?」
「いいよ。あ、これを見た方が早いかも」
彼女は自身のスマホを取り出すと一つの動画を画面に表示させた。
「これは?」
「とーこちゃんが撮影した動画。SNSで投稿する用って」
「少し借りますね。失礼……」
制服のポケットから愛用のイヤホンを取り出して、彼女のスマホに接続をした。
スマホから聞いたことがない曲が流れ始めた。その曲を聞いていると少しづつだが音がズレているように聞こえた。何度か同じ場所を見直しているが、やはり音がズレていた。
「どうかな?」
広町は首を傾げながら尋ねてきた。
「もう少し待って下さい。あと、音を上げてください」
「え、でも、これ以上あげたら……」
画面に警告が表示されたがそれを直ぐに消して、耳を澄ませた。爆音の中やはり、口は動いているがましろの声は聞こえなかった。
「この動画、私にも頂きたいのですが……」
「いいよ。ちょっと待って」
もう少しこの動画を調べようと思い、広町と連絡先を交換を済ませると先の動画が転送された。
「聞こうと思っていたけど聞いていいかなー?」
広町は先ほどとは打って変わって、表情を引き締めると先ほどと変わらないトーンで言った。
「なんですか?」
「どうして、私達のことを調べているの?」
彼女から見て、私は自分の素性も明かさずにずけずけ踏み込んでくる野次馬とそう変わらないのだろう。今更だが素性を明かしていなかった事に気が付いた。
「私はあなたたちのボーカル。もとい、倉田ましろは私の友達です。友達が悲しい顔をしていたり苦しんでいたら、手を貸すのが友達とは思いませんか?」
私の言葉に何か引っかかることがあるのだろう。彼女は「友達……」と小さくつぶやく声が聞こえた。
「広町さん。どうなされましたか?」
「あ、ううん。なんでもないよ。こっちの話。そっか……しろちゃんにも友達がいたんだね。それなら、しろちゃんが普段どこにいるか知っているかな? 休み時間に探しに行っても見つからないし、メッセージを送っても返信がなくて……」
普段のましろなら、休み時間中は私の所に足を運んでいたが今日に限っては足早に何処かに姿を消していた。万全の私ならば足の遅い彼女を捕まえる事は容易なのだが、今は治療中の身。それすら不可能に近い状況。
メッセージに関しても、彼女と同じだ。電源を落としているのかそれとも無視しているのか分からないが、昨日から既読が付かない状況になっている。
「彼女がどうしてそうなったか心当たりありますか?」
「さっき言っていたライブの事が原因で少し前にケンカしちゃって……依頼ちゃんは私達の演奏を聞いてどう思ったの?」
広町は私の意見を求めていたが、なんて言い返せばいいのか私は少し頭を悩ませていた。
「あの映像では少しだけ違和感を感じましたが、イベント当時はさっきの映像と全く同じ演奏とは限りません。それに私はイベントの当日にその場にいなかったので、何とも言えないですね」
「……そっか」
なんとか頭に思いついた言葉を話し、その場を凌ぐことが出来た。
それに私はただの部外者。彼女達の演奏に口出しが出来る程に偉くもないし、助言をしたところで余計なお節介になる事は目に見えている。
「あなた達こんな所で何をしているの?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向くと私達に声を掛けてきた正体は八潮瑠唯だった。
「あ、るいるい。じゃなかった八潮さん」
「瑞穂さん。あなたアルバイトをしていたわよね。時間は大丈夫なのかしら?」
八潮に言われ、スマホで時間を確認すると既にシフトの時間になっていた。スマホをポケットに仕舞おうとした瞬間に着信が入った。画面にはまりなの名前が表示されていた。私は嫌な予感がしながら電話に出た。
『もしもし、依頼ちゃん? もう時間だけど何かあった?』
「いえ、なんでもありません。今からそっちに向かいます」
一方的に電話を切るとスマホを仕舞い、二人に向き直る。
「では、私はバイトの時間なので先に失礼します。広町さん、ましろの件は少し時間を下さい。機会があれば話してみます」
「うん。ありがとう」
私は彼女達に向けて頭を軽く下げた後、急ぎ足でCiRCLEに向かった。
「全く、中学の時から思っていたが本当に手がかかる困ったお人だ」