血に交われば薔薇になる 作:サンオツボンプ
市長からの依頼がやっと動き出し、フィリップ邸へと向かうリンダとレミー。
当小説のもう一人のメインオリキャラ登場、ここから本格的にリンダ達の物語が始まります。
パンツルックのボーイッシュ僕っ娘キャラすこ。
「初めまして、君がリンダかい?」
ヤヌス区 九分街 リンダ宅
“九分街の英雄” を要とした刀耕作戦の終了から暫くが経ち...
雅とリンダの最後の一撃により、記録更新レベルでニネヴェの活性が下がり零号ホロウも安定、リンダの
更に財団と侵食医療センターの主治医からは「大きな無謀かつ無鉄砲」「明確な自殺行為、運良く賭けに勝っただけ」とこってり絞られた。
久々にぐうの音も出せず怒られたリンダは「流石にマジで大人しくしよ...」と
建物の補修や配達の代行から庭の生垣の整備に子供たちの御守り...その間に都合二十三度目のホロウ災害*1を鎮圧し、検査項目の増えた定期健診を受け、トラブルの無い平和な日々を送っていた。
そんなある日、ガレージで近頃は出番のない愛車のメンテナンスをしていると、散歩から帰ってきたレミントンが黒塗り鍵付きで厳重にプライバシー保護されたファイルケースを差し出す。
そこには
「大将か...やっと来やがったなぁ...!」
凄惨な笑みを浮かべるリンダはケースを開け書類に目を落とす、寄り添うレミントンも真面目な面持ちのまま文字を見つめた。
静けさは去り、新たな復讐の嵐が、吹き始めた────
◇ガレージ2F Barスペース◇
「────なーるほどなぁ...コイツはマジだわ」
「ンナ、ンナナン(同感だね、この詳細だけでも
カウチソファに座ってレミーを抱っこしながら、大将が送ってきた書類に目を通す。
1章ん時にメイフラワーの大将から私の復讐、もとい “フィリップス邸の調査” を請け負って暫く......刀耕作戦やら二十三度目の九分街ホロウ災害やらあったけど、ようやく依頼の詳細資料が届いたわけだ。
...いや、長ぇーよ。 ひと月以上待ったわ。 地雷踏んで思わせぶりにしといてこんだけ音沙汰無しはどうなのよ?
もう、待ちきれずにお宅のワンちゃん締め上げるとこだったぞ。
依頼完了の報告する時はしっかり文句言ってやる────そう考えていた時期が、私にもありました。
「まさか、下請けの連中が...TOPS企業に工作員仕込めるレベルなのは想定外だったわ」
「ンナワタ、ンナナ(変に警戒されちゃ依頼に支障が出るだろうし、どうりで時間が掛かるわけだよ)」
「しかもコレ
「ナナン。 ンナン、ンナ(どうもなにも書いてある通りでしょ。 フィリップス邸のホロウの再活性、その調査)」
「
「ンーナ。 ナ、ンナ、ンナナ(調査ってそういうものでしょ。 あ、分かんないか、される側だから)」
「誰がガチ犯罪者だコラ」
大分失礼なことを言われた気がする。
とはいえ、知らない事は存在しない事と同義...つまりバレなきゃ犯罪じゃないのです。
誰彼構わず殺ってるワケじゃないから大丈夫!
細胞の一欠片も残さず吹っ飛ばしてるから大丈夫!
で、肝心の詳細な内容、要約すると────
〇『フィリップス邸の惨劇』と呼ばれる過去のホロウ災害......当主の妻〈マリア〉の研究の果てに丸ごとホロウと化した邸宅を鎮圧した真の功労者、一族唯一の生存者、そして
彼女に付き纏うキナ臭いストーカー、及びフィリップス邸の内部ホロウの再活性────これらの調査が今回の依頼内容。
〇当主〈ペルヴィス〉の妻〈マリア〉が、一族郎党・関係者全員をモルモットにした研究────
これは〈マリア〉が旧都陥落以前の研究成果を元に立ち上げた計画で、『よりリスクを抑えた異化の実現と普及』を目指したものだそう。
概念実証モデル*2が当時の私であるらしく、よって私の血液細胞や遺伝子データが流用されてるのはほぼ確。
〇ストーカー被害に関しては、防犯カメラの映像記録から身元が割り出せたそうで、とある医療機器メーカーの下請け会社の人間だそう。
しかもなんと、その会社...元を辿ればジョナサン財団に行き着くらしく、内偵の情報では交流関係を洗うと全員から〈マリア〉の名が出てきたとか。
内部ホロウの再活性にしてもこの者たちが関わっていると見て良さそう。
〇再活性以降に出現するエーテリアスは
私の力と似てる、まんま劣化版って感じだ...まぁ、そうじゃないと困るが。
私みたいなヤベーのが量産されたら文字通り、
────ってな所だな。
大将は私の身の上に関しちゃ話してないっぽいし、そっちは明かさない方向で。
ワザワザ話したくもねーしな。
にしても...
「...これさぁ、私ワルくねーよなぁ...?」
「ナ? ンーナ、ワタンナナ...(え? うーん、リンダも被害者だし責任を求めるのは酷だと思うけど...)」
「けど?」
「ンナワタ、ンナナ(怨まれたとしても不思議じゃないよね、リンダが基になった研究だし)」
「だよなぁ......もう令嬢簀巻きにして転がしとくか。 その間にストーカーもホロウも滅ぼしちまってさ」
「ンンナ...ンナナ(キミの道徳観念の低さはなんなんだよ...それじゃ調査じゃなくて制圧でしょ)」
「令嬢をクルッとして、ストーカーとホロウをポックルしちまってさ」
「ンーナ、ンナ(ポックルってなにさ、可愛く言ってもダメ)」
「ぶーぶー」
「ンナンーナ。 ナン...ンナ、ンナ(ぶー垂れてもダメダメ。 っていうか...ノリノリじゃないんだ、復讐なのに)」
「それはソレ、これはコレ。 復讐はするし気分も良いけど、他人の厄ネタに深入りする趣味はねぇのよ」
「ナッ、ンナナ!(あっ、ちょうちょ!)」
「興味失せんの早くねぇ?」
一瞬でちょうちょに興味が移りテラスへと飛び出すレミー。
なんやねんコイツ、お前から振ってきたんやろがい。
ふぅ...お紅茶美味い。 実は最近コーヒーから紅茶に変えてみたけど、心なしかお嬢様属性がついてきた気がする。
エリー人は恋と紅茶には本気でかかるのよ、なんつってな。
にしても、マリアの
“リスクや性能を下げてより広く普及させる” 的なニュアンスを受けるけど、私ん時の “ホロウ世界に先駆ける究極の番を創る” とかいう拗らせマッド具合に比べりゃあ...いくらかマシに思えちまう。
そも、どうやって資料とサンプル手に入れたんだよ、最低限あの旧都陥落の混乱の最中に持ち出した奴いるってことだよなぁ?
───んん? ってことは...私、あんとき研究所内に居たヤツら殺り漏らしてる可能性が微レ存!?
「うーわ...マジ......失望するわ、自分に」
「ンナンナー!(まてまてー!)」
「アイツまだやってんのか」
行きずりのちょうちょに心奪われ過ぎだろ、首ったけじゃねーか。
ま、とにもかくにも、そろそろ行きますか。
スロノス区までは定期船のチケットが同封されてたから、ポート・エルピスまでは車で行こ。
新品オイルに交換したばっかだもんねー、官能的な快音を聞かせておくれ。
レミー、そろそろ行くぞー。
「ナンナー! ンナ! ンナ!(リンダー! やったよ! これっ!)」ピョンッ
「...お前、足ちゃんと拭いた?」半ギレ
「ンナナ―! ワタタ―! ンナタ!(それより見てー! おっきいちょうちょ捕まえたー! 髪飾りみたいっ!)」
「いや、それ蛾じゃねーか!?」
デカッ! キモッ! グロッ!
可愛いじゃん! もっと見て!
大きな大きなヘラクレスサン*3をバレッタの様に後頭部へくっ付けたレミーが、キモがりながら後ずさりする私を無邪気に追い掛けてくる。
泣く子も黙る、このリンダ・ブラッド。
何を隠そう、虫が嫌いである。
飼う! ダメ! 嫌! 放してこい! 人でなし! なにがいな!
そんな押し問答の末、依頼が終ったら小動物カフェに連れていくことを条件にちょうちょを解放させた。
「...んん? なんで私が譲歩してんだ? 被害者じゃね?」
「行くぞいいから」
「喋った!?」
「ンナンナナ(チケットの時間決まってるんだからね)」
「き、気のせいか...」
「ンナ、ナナ~! ンナンナ!(もう、早く~! ホントに乗り遅れるって!)」
「遅れません~、ナメてんの私の愛車」
そう言って纏めておいた荷物と共にレミントンを抱えてガレージへ降りる。
そこにあるのは、赤いボディと黒いルーフのツートンカラーに鍛造のブロンズホイールが映える、ちょっとレトロなスポーツクーペ。
助手席のボンプ専用シートに相棒を乗せリンダも乗り込む。
差し込んだキーを回しセルモーターを始動させると、7.2L V10 ツインスクロールターボが神がかったエンジンサウンドを響かせる。
九分街の下町情緒溢れる街並みには似つかわしくない咆哮をあげて、2人を乗せた車はスピード違反をかましながら港へと走り去る。
案の定、治安局のプリケツなオトモダチ*4とも合流(?)しワイスピばりのカーチェイスを繰り広げるアウトローただのアホ、リンダ。
無駄にハイレベルなドラテク*5と一応合法なEMPジャマ―*6で易々と治安局を撒いてポート・エルピスへ到着...乗り過ごす危機から一転、余裕をもって定期船に乗り込んだ。
デッキで潮風を楽しむリンダは、怒り心頭であろうオトモダチに「時間がない、市長閣下に聞け、私を信じろ」と意味深メールを送り誤魔化し、“珍しく真剣な剣幕” でライカンから市長へ繋げさせると「私を庇え────あ、これから令嬢ちゃんと会うから、ヨロ」と脅迫紛いのおねだりをキメる。
虎の威を借り罪をもみ消さんとする新鮮な交通違反者を乗せて......汽笛を上げて海をかき分け、船はスロノス区へと向かう。
「こういう揉み消し、一回やってみたかったんだよ」
「ワタンナナ...(なんて
「なんだよ、私のドラテクはお前も知ってんだろ? だーいじょーぶだーって!」
「ナン...ンナナ(駄目だコイツ...早く何とかしないと)」
それから、数時間後。
ひと時の優雅な船旅は、船酔いでダウンしたレミントンの介抱で潰れた。
「ボンプって船酔いするんだ...」と新たな発見に色んな意味で驚くリンダは、汽笛の音で船の到着に気付く。
手荷物のボストンバックを肩に掛け、相棒を胸に抱いて船を降りる。
白を基調とした建物が立ち並び、その外観の一つ一つはまるで貝殻のように千差万別だ。
至る所に大小様々な石造りの水路が通り、山からの湧き水が住民の生活に欠かせない。
潮風と共に運ばれてくる美味しそうな香り、この町の名物である海鮮料理に観光客や地元の人達が舌鼓を打つ。
ここは、スロノス区 〔
新エリー都屈指の美しさを誇る閑静な港町。
クソ無責任ワイスピと船酔いボンプは情報収集も兼ねて、海鮮がウリな地元のレストランに足を運んだ。
「────ぅぅぅぅぅぅうんまぁっ! ビビるわ、なにこのウマさ!」
「ンナンナンナンナ────!(モグモグモグモグ────!)」←一心不乱
海老ピラフ(大盛),白身魚と香草のホイル焼き,蟹と貝のチャウダー,日変わり貝の酒蒸し,三種の海藻のサラダ,etc...
テーブルに並ぶ料理の数々に舌鼓を打つリンダ、レミントンも港町のボンプ用メニューに夢中の様子。
凝った意匠のカスタムボンプを連れたアウトローな見た目の女はコヒーリでも目立つようで、ちらほらと視線を集めている。
すると、料理を運んできた店員が2人の食べっぷりを見て思わず話しかける。
「あっはっは! 嬢ちゃんたち、良い食いっぷりだねぇ! 気に入ったよ!」
「そりゃこっちのセリフだぜ! コヒーリの海鮮の評判は知ってたけど、ここまでとは...!」
「ンナンナ! ンナ!(美味しすぎて
「その辺にしとけレミー、色々ダメそうだわお前」
回線云々に本気で焦るリンダ。
風呂に入って感電させてきたり、花火大会でテンション上がって空飛んだらクリティカルヒットしたり、実はちょくちょくやらかしているレミントン。
そういう前例からレミントンのこういう発言にはマジ焦りしてしまうのであった。
冷や汗を拭って、到着したスパイシーロブスターロールをパクつく。
「あ、これ一番好き」
「おっ、と! ソースが垂れて服を汚すとこだったよ、気を付けな」
「ん、サンキューおっちゃん!」
「良いってことよ。 アンタ、観光かい? また来るならサービスするよ!」
「来る来る! メニュー制覇したいし! でも、観光じゃなくて仕事なのよねー」
こんなナリしてるけど。
そう言って額のサングラスをかけておどけるリンダ。
ジントニックで料理を流し込むと店員へといくつか問いかけた。
「最近さぁ、この辺で変わったこと無い? なんでもいいんだけど」
「変わったこと、かい? どうだったか...のんびりした港町だから、異変があれば皆すぐに気付くと思うがなぁ」
「てことは平和か...まぁ何かあっても困るけどな」
「違いねぇやな! 嬢ちゃんは何かの調査にでも来たのかい?」
「そんなとこ、市長からの依頼でちょっとな」
「市長、って────まさか...新エリー都の市長さんか!? そいつぁ驚いた...嬢ちゃん、実は大層な身分の人なのかい?」
「いやいや全然! 知り合いってだけ、九分街が地元の下町女だよ。 私が一番身軽そうだから話振ってきたんだろーよ」
「おお、そうかい? 嬢ちゃん綺麗だから、良いとこのお嬢様にも下町の看板娘にも見えちまうよ!」
「サンキュー、奥さん見て無くてよかったな」
「全くだ! ハッハッハ!」
リンダの性格的な軽さと気が合ったようで、2人は軽口を言い合って笑った。
グラスを一息で空にすると、再び話を切り出す。
「でさ、話戻るけど...マジでなんかない? やけに人が増えたとかでも良いんだけど」
「そういわれてもなぁ────ん? そうだ、人と言えば...」
「おっ? なんかキタ?」
「最近...3~4日前の事なんだがな? 食事も寝泊りも買い物もしない妙な観光客がいたんだよ。 観光名所に行くでもなく、町のあちこちで目撃されてんだ。 見なくなったから、もうどっか行ったんだろうが────」
話によると、その妙な観光客は早朝に町の水路のあちこちで水を汲んでいたかと思えば、日中は複数の釣り堀を転々としダイビングする姿も目撃され、夜には明かりもつけずに野草を摘んだり動物を捕まえようとしてたそうだ。
夜に通りがかった住人が声を掛けると、一言も発さずにそそくさとその場を去ったという。
この人物は2か月ほど前から週に1~2回のペースで現れており、町のどの宿泊施設にも止まっておらずこの辺りの人間でもないという。
なんだったんだかなぁ...
そう言って首をかしげる店員を余所に、(早速 “当たり” を引いたかも)と幸先の良さを感じるリンダ。
これ以上は望めなそうだと判断し、店員と別れテーブルの料理を平らげて2人は店を出た。
「さてと...そんじゃ、フィリップス邸に行きますか」
「ンナ、ナナン。 ンナンナ(うん、まずは合流して話を聞こう。 観光客の件は情報をすり合わせた方が良いね)」
「お前、話聞いてたんだ」
「ワタ、ナンナッ(失敬な、食べながら聞いてたよっ)」
「いや、そうは思えねぇくらい一心不乱だったし」
「ンナワタァ...(侮られたものだねぇ...)」
「ほっぺにソースくっ付けて店出てきたヤツなんて侮るだろ」
ハッ、としたレミントンが水路の水で少し恥ずかしそうに頬を洗う。
そんな様子を見ていたリンダは何かを思い出し、ハンカチで頬を拭ってやりつつ相棒へと問いかけた。
「あのさぁ、いっこ聞いても良い?」
「ナ? (なに?)」
「お前らってさぁ、どうやってモノ食ってんの......?」
「......(......)」
「......ぇ...?」
「......ンナ?(......聞きたいの?)」
「......ぃゃぁ...」
「ナァ、ナンナン...ワタ(まぁ、ボンプのブラックボックス...ってことで)」
「う、うん...」
なんか、聞かなきゃよかったかも...
謎のうすら寒さを背筋に感じながらそう思うリンダなのであった。
やがて、コヒーリの町を抜けて小川の通る石畳の街道へ出る。
気持ちのいい潮風を背に受けて、雑談と共に邸宅への道のりを往く2人。
清流を泳ぐ川魚や食料を蓄えるリスを見かけては度々足を止めるレミントン、痺れを切らしたリンダは「ハイハイ、終わったらなー」と抱き上げて再び歩き始める。
「ホント動物好きだよなぁ」
「ナンナワタ(リンダの事も好きだよ)」
「え? あぁ、そう」
「ンナタッ(なんでツレないんだよっ)」
「なんでもなにも、複雑だろーが普通によぉ」
私は
微妙な顔でそう呟くリンダ、相棒をコツンと小突くと胸元から「ンナッ」と小さな抗議の声が上がる。
それを華麗にスルーされたレミントンは(後で蛾持ってってやろ)と小さな復讐を企む。
しかし、この時......リンダの視線と意識は別の所へ向いていた。
街道から外れた雑木林の木の根元────そこに、本来あるはずの無い不自然なモノが落ちていた。
(エーテル結晶...? どうしてあんな所に)
「...ナンナ? ンナナ?(...リンダ? どうかしたの?)」
「ああ...悪い、ちょっち気になるモンがな」
そう言うと街道を逸れて雑木林へと入っていき、直ぐに木の根元まで辿り着く。
地面に降ろされたレミントンも直ぐに結晶へ違和感を覚える。
「ンナナン、ナ? ナンナ、ンナ...(こんなところにエーテル結晶の、欠片? リンダ、この辺りのホロウって...)」
「ああ、
「ンナワタタ?(御令嬢がお出かけする時に服にくっついてたとか?)」
「無くは無いだろーけど、街道逸れて雑木林に入る理由が分かんねーしなぁ。 ほとんど没落したとはいえ名家のお嬢様だぜ?」
「ワタンナワタタ(馬で遠乗りしたり銃でハンティングするのが趣味のアクティブ系お嬢様かもよ?)」
「そっちの方が気は合いそうだな」
「ンナ(ボク無理かも)」
「あん? なしてよ?」
「ンナナッ!(
「さいですか...」
まぁ、害獣被害とかもあるし...多少はね?
そう相棒を宥めつつ欠片を懐へしまうと、街道へ戻るべく立ち上がるリンダ。
すると、視界の端がキラリと光ったので何かと思い確認すると、結晶よりも更に不自然なものを見つけた。
「なんだぁ? 針...?」
「ナン...ンナナワタ(コレって...折れちゃあいるけど
「エーテル結晶に注射針...大将からの情報を考慮すりゃあ───」
────ガチで、キナ臭ぇかもな...
あちこちに出没した妙な観光客、不自然なエーテル結晶と注射針、御令嬢のストーカー被害に第二次計画の残党と思わしき人物。
現時点でも、これらが “邸宅ホロウの再活性” に関わっている可能性はかなり高そうだと、リンダは考えていた。
とはいえ、まずは邸宅で御令嬢と合流し話を聞かねば始まらない。
針も回収して2人は再び街道を往く。
暫くすると景色が変わり、いかにもな高級住宅地の風景が目に入る。
立派な門に高い壁、噴水付きの広い庭に自家用ヘリ、モダンなものから小さな城のようなものまで様々な建築様式の家が立ち並ぶ。
ここはスロノス区の高級住宅地 〔
(ウチのコンテナハウスとはえらい違いだなぁ...)と、何か言いたげなレミントンにリンダは無言の圧を飛ばし黙らせた。
やがて、家々が過ぎ去り整った並木林を少し歩くと地名の由来にもなった〔イレミア湖〕にやってきた。
「ナァ...! ンナ! ンナン!(うわぁ...! すごい綺麗な湖! 魚がハッキリ見えるよ!)」
「お前の視覚センサーなら泥水も清水みてぇに見えるじゃん」
「ワタタ! ンナワタンナナ!(ちょっと!? そんな味音痴みたいに言わないでよ!)」
「あ、見て見てレミー、看板」
「ン、ンナ? ンナ! ンナワタ!(いや、どこ見てんの? 話逸らすな! ボクは違いの分かるボンプだぞ!)」
愛着のある自宅を暗にディスられた恨みも兼ねて相棒の抗議の声はスルー。
道の横に現れた手作り味のある看板を見る。
それは、どうやら注意書きやモニュメント看板ではなく、迷わないよう道案内をするものでもないようだ。
黒い背景色に赤いペンキでおどろおどろしい文字で何かが書いてあった。
「────【魔女の家、こちら】...? なんだコレ?」
「ナンナナ、ワタ(リンダ並みのセンスだね、可哀想に)」
「なぁ、私... 争いが終る時ってのはな、どちらかが先に殴る手を収めてるモンなんだよ... それ自体に貴賤は無ぇ...抑えろ私」イラッ
「ンナナ、ンナンンナァ(敗北の惨めさって、いつの時代も受け入れがたいものだよねぇ)」ニヤァ
「ンンンンンンンンンッバルスッッッ!!!」ブチギレ
レミントンの口から放たれた腹いせの毒舌で一瞬ピキるも、我慢して火種を消すことにしたリンダ。
しかし、普通に根に持っていた相棒の追撃により導火線へ引火、滅びの呪文が湖畔でこだまする。
人間とボンプが同列でマジ喧嘩するという珍妙な光景が繰り広げられようとした、その時。
看板の向こう......丁度、目的地である〔フィリップス邸〕がある方向から、急に
ドガァァァァァァァンッ!!
「!? 爆発音...? しかもこれ、エーテル性っぽいぞ...!」
「ンナナ! ナ...ッ!? ナンナ、ンナンナ!(微弱なエーテル反応を検知! 場所は...っ!? リンダ、フィリップス邸だ!)」
「クソッ! 急展開過ぎるっつーの────!」
リンダがバルスとか言うからだよ!
んなワケあるかアホっ!
やいのやいのと言い合いながらも、喧嘩の事など忘れて一瞬でスイッチを切り替えて走り出す。
レミントンを抱えたリンダは素のフィジカルだけで200㎞/hを越える速度に到達する。
相棒の誘導と共に木々の合間を縫って駆け、1分もかからずに反応のあった〔フィリップス邸〕に到着した。
しかし、高級住宅地に相応しい広大な庭や立派な邸宅は何処にも見えない。
そこにあるのは丁度、
再活性により、フィリップス邸の内部ホロウが既に外まで広がっていたのだ。
中からは戦闘音が鳴り響く...リンダは即座に四肢の “
「クッソ、いねぇな...何処だっ! 御令嬢ぉ!」
「戦闘音はしてたのに...誰もいn────ッリンダ! 前方から[ハティ・蓄エネ型]! アルファ個体だ!」
「あ"あ"? んだよ邪魔だなぁ───!」
ホロウへ入り前庭の中ほどまでやって来た2人。
辺りに人影は見当たらず、代わりに敵意剝き出しのエーテリアスが向かって来る。
これまで単騎で鎮圧出来ていたホロウが急拡大する程の異常な再活性...件の令嬢の姿は見えず、邸宅からは彼女ではなくエーテリアスが出てくると来た。
リンダとレミントンは少しの焦りを募らせ、[ハティアルファ・蓄エネ型]は突っ込んでくる勢いそのままに飛び上がり2人へ襲い掛かる。
すると、その時。
開け放たれたままの玄関扉、その暗闇の奥から...刹那の閃きと共に何かが飛び出してきた。
それは凄まじい勢いで飛来するとハティを宙で
勢いを殺され地面に叩きつけられるハティの身体を股から脳天まで貫通するのは、鈍色に光る連なった鋭利な刃───
「───こいつは.........蛇腹剣?」
「ンナ、ンナナン...(そんなニッチな武器を、あの距離から放ってこの制度って...)」
「...すんげぇテクニシャン、ってことか」
「ナンンナァ...(リンダが言うと何かなぁ...)」
剣の技術に加えて鞭の技術まで求められる蛇腹剣は、その扱いのピーキーさがネックで使い手が極めて少ない。
単に振るうだけでも難しいのに、距離がある中で宙に飛び上がっている対象の股から脳天を的確に貫くなど至難の業だ。
それほどまでにこの武器を習熟したのはかつての虚狩り、依頼を受ける際に市長が友だと言っていた〈
「おい、待てよ...ってことはコイツ...」
「ナンナ、ナンナ、ンナワタ(リンダ、リンダ、これってもしかしてさ)」
「───初めまして、君がリンダかい?」
2人が何かに思い当たったその時、玄関扉の奥で誰かが声を掛けてきた。
騒がしくして申し訳ない。
声の主はそう一言詫びを入れると、エーテリアスを串刺しにしていた蛇腹剣の刃を縮めて引き戻す。
コアを破壊された[ハティアルファ・蓄エネ型]が消滅し、散っていく粒子の向こうから背の高い一人の女性が現れた。
ミドルヒールにロングフレアパンツ。
袖口の絞られた暗色のステンカラーブラウスに胸元まで覆うコルセット。
綺麗なプルシャンブルーのショートウルフからチラリと除くのは、宝石のあしらわれた金のイヤリング。
陶器の様な素肌が覗く首筋から胸元にかけて上品なフリルタイが映える。
そんな、王子様の様な印象を受けるボーイッシュな美女は剣を腰に据えると、少しの乱れも無い美しいボウ・アンド・スクレープで2人を出迎えた。
ようこそ我が家へ、と頭を下げる蛇腹剣を操る美女...2人は直ぐにとある人物へ思い当たった。
邸宅のホロウを今なお鎮圧し続ける “フィリップス邸の惨劇” の唯一の生き残り。
フィリップス家の一人娘にして現当主。
市長からの情報にも載っていた、彼女の名は────
「ナァ...ンナナ...(うわぁ...すごく綺麗な人...)」
「アンタ、もしや...?」
「ああ、僕がこの幽霊屋敷の主───── ロザリンド・グレイブスだ」