血に交われば薔薇になる 作:サンオツボンプ
融雪剤で足回り錆びるンゴォォォ!
地方は車必須なんだからコーティング助成金くらい出すンゴォォォ!
...おっと、これは失敬。
前話でもう一人のメインオリキャラの〈ロザリンド〉が登場しました。
リンダはアウトロー系イケメン美女、ロザリンドは王子様系イケメン美女で想像して頂ければ幸いです。
レミントンはレミントンです。
スロノス区 イレミア・レイクサイド・エステート フィリップス邸
メイフラワー市長から資料が届いたことで依頼兼復讐がようやく動き出した。
同封されていた定期船のチケットはポート・エルピスからのスロノス区行きの便。
港まで向かう道中、複数の交通違反ちょっとしたトラブルが発生するも市長が脅され好意で解決。
通報により容疑者を追跡心配して友人を追い掛けてきた朱鳶にも無事の連絡を入れ、2人は定期船へ無事に乗り込む。
レミントンの船酔いを経て到着したのは、白い家々と水路が美しい閑静な港町〔コヒーリ・ハーバー〕。
腹ごなしがてら地元のレストランで情報収集したところ、暫く前から “24hフル稼働する謎の観光客” の姿が目撃されていた。
依頼との因果関係を感じつつも、一先ずフィリップス邸へと向かい街道を往く。
途中、街道外れの雑木林で不審なエーテル結晶片と注射針を見つけ、一層キナ臭さを感じながらも邸宅のある高級住宅街〔イレミア・レイクサイド・エステート〕に入る。
妙な看板の立つ湖畔で、じゃれ合いから2人がギスり始めたその時、フィリップス邸の方角からエーテル反応と共に爆発音が聞こえてきた。
急行する2人は敷地内いっぱいまで拡大したフィリップス邸ホロウに突入、戦闘音も令嬢の姿も無く現れたのはエーテリアス。
しかし、飛び掛かってきた[ハティ]を貫いたのは拳ではなく刃だった。
開け放たれた扉から現れたのは、プルシャンブルーの男装の麗人。
彼女は、格式張った挨拶と共に〈ロザリンド・グレイブス〉と名乗った────
「ンナナンナ...(ロザリンド...)」
「...
コイツが御令嬢だよな...なんか、名乗る名前が違くねぇか?
フィリップスの当主ならロザリンド・
「うん、君たちの戸惑いを当てて見せよう────僕の名乗った “姓” だろう?」
「ご明察」
「ンナ(うん)」
「安心しておくれ、僕がここの主で間違いないよ。 姓に関しては個人的な心情に因るところが強くてね......込み入った話は落ち着いてからにしようか」
「それもそうだな」
「ナ、ンナナ?(それで、ホロウ拡大の下手人はどこ?)」
「今さっき殺したハティが最後の一体だったから、もう出てくる筈────【Gyiaoooooh !!】...噂をすれば、だ」
御令嬢の言葉に答えるように、どこからともなく一匹のアーマーハティが出てきた。
ドズンッ!! と地面を揺らしながら広い芝生へ降り立ったヤツは、再活性の影響を受けてんのか通常のハティよりもサイズが一回りも二回りも...三回りも......四、回り.........(後略)
「でっか...」
「ン、ナン!(いや、それより!)」
「おや、
「ワタタ!?(リアクション薄くない!?)」
「エーテリアス研究家って訳じゃ無いしね、HIT判定が有利になっただけかな」
「同感、こんなんただの畸形だろ。 鎧ごとブッ潰して終いだ」
「ワタタ、ナン...!(キキカンゼロ・ツインズ、爆誕の予感...!)」
綺麗にお掃除して優雅なティータイムと洒落込もうぜ。
と言ったところでヤツが咆哮と共に突っ込んで来た、前庭に被害が出ないように開けた場所へ蹴り飛ばした────あ、ヤベ、芝生捲れたわ。
「...君......今、なにをやって...?」
「いやマジゴメンて、ちゃんと直すって、ロハで」
「ワタンナ、ンナ...(ごめんなさいロザリンドさん、家のリンダが粗相を...)」
「親ムーブは止せ」
「ンナワタ、ナンナワタ(責任もって直させるから、こう見えても星見家の生垣手入れしてたんだよ)」
「それエレンちゃんのピンチヒッターで行っただけじゃねーか」
まさか場所が星見家とは思わなかったぞ、タイミング悪く辻斬り在宅中だしよ。
アイツずっとポン刀に手ぇ掛けてソワソワこっち見てんのマジ怖かった...未だに恨んでるからね。
妹分の色香にやられて二つ返事でOK出した私も悪いけど。
あぁ、嫌な事思い出しちまったぜ...
「いや、そうではなく...君、あの巨体を蹴り飛ばしていたよね...? 一体、どうやって...」
「ンナワタナン(ローランドゴリラとデッドエンドブッチャーのハーフだから)」
「それ普通にディスってるだけだからな?」
「あっはは! 君たちは仲良しなんだな。 でも正直、人の身で出来る事じゃないと思うんだけれど...」
「うーん、つってもな......ぶっちゃけ、
「ん、済まない、なんて?」
「ああ、コツだよ、コツがあんだ」
「ほーう、そのコツとは?」
【────Guuuu...Gyiaaaaaaaa !!】
「ン、ナン(あ、起きた)」
「丁度いい、実戦して見せてやるよ」
文字通り一蹴してやった双頭のでかハティが起き上がって咆哮をあげる。
よし時間がねぇから手短に言うぞ。
いいか、まず大事なのは “心構え”だ 、図体じゃあ勝負は決まらねぇからビビんな。
次に大事なのは “セルフイメージ” 、己が想像付く範囲でしか物事は成せねぇモンさ。
そして最後に “後ろを振り返るな” 、燃料入れて地図見たら後は進む道しかねぇんだ。
この3つのコツを踏まえりゃあ...人類にやれないことはねぇんだぜ。
ただデカいだけのワン公なんざ簡単に止めれる────こんな風になぁ!
ドオォンッ!
ガシィッ!
はぁい、つーかまーえたー♡
【Guooo !?】
「ッハ! ざっとこんなもんよ!」
「今のところ、ただの根性論だね」
「ナ、ナンナタ(後、全然大した事言って無いよ)」
「よくもこれだけ適当に喋れるものだよ」
「ンナン(調子こくな)」
「そんな責められなきゃいかんの!?」
私と同じ様な実験を施された
大将は私の事情を伝えなかったらしいし、私もその方向で行きたいし、若干不服ではあるけど誤魔化せそうだからもうこのまま行くわ。
てなワケでぇ、そろそろ本格的に退場願おうかぁ、でかハティくぅん?
...あとテメェ息臭ぇんだよ! 洗ってない三角コーナーみてぇな臭いする! マジ無理!
「えんがちょっ!」ドゴォッ !
【Gyaaooo !?】ゴロゴロゴロ... !
(ン、ンナタ...(あぁ、また芝生がハゲて...))
「あの巨体を難なく受け止めたと思えば、今度は拳の一発でぶっ飛ばすとは......もはやコツとかじゃなく馬鹿力だろう」
「
「ンナンナ...?(フォースって
「違うけど...まぁ別にフォース感応者じゃないんだし、だったとしても低そうだね」
「ワタタ、ンナァ?(ミディ=クロリアン値、どれくらいかなぁ?)」
「5」
「ンナタ(選ばれしクソザコで草)」*1
「ねぇ、待って、さっきからなんでいきなり仲良いのお前ら」
私を除け者にして仲良くなってる件について。
とまあそんな事は置いといて、双頭のアーマーハティを殺っちまおう。
つか、あの野郎...今殴ったカンジだと通常個体より外殻が大分硬ぇぞ。
こりゃ<デストロイヤー>入れれねぇとダルそうだ...でも、頭は2つなんだよなぁ。
ホロウ入ってからずっと吸収してたからパルヴァライザーのチャージ自体は間に合いそう、けど一発分だけだ。
私の腕は2本、ヤツの
しかも、頭同士の距離的に私のリーチじゃギリだ、片手ずつに分けた上にカス当たりになったら壊しきれねぇな。
ホロウが拡大した状態が長引くのはマズい、けど私の過去を明かさない以上は “力” も大っぴらに使えん。
やっぱし、頭がネックだな。 あれさえどうにかなりゃあ...
「うーむ...とりま、レミーは支援でいいや」
「ンーナ、ワタンナ(はーい、ちょっかい掛けて嫌がらせしとくね)」
「...いいか、スラッグ弾*2使えよ? 散弾*3じゃねーからな?」
「ンナワタ、ンナナッ(それ2年前やったミスじゃないか、引きずり過ぎだよっ)」
「対面からドラゴンブレス弾*4が飛んできたんだぞ、引きずりもするだろーが」
「ンナ? ンナ?(避けたのに? 無事だったのに?)」
(近距離焼夷弾を避けきる人類って一体...)
「ったりめーだ! お前アレだぞ、お化け屋敷だって無害って分かってても怖ぇーだろうが」
「ワタンナン、ナン(あーいうのって寧ろ霊を引き寄せてるらしいし、無害とも言えないかも)」
「い・い・か・ら、マガジンチェックしとけ。 このトリガーハッピーが!」
「ンナナ~ン(はいは~い)」
仕方ないなぁ...的な感じで装填されている弾丸を確認し始めるレミー。
...お前ねぇ、死ななかったのは私だからだぞ? 旧都で被検体だった当時から思ってたけど、お前が私じゃなく別の奴に付いてたらとっくにソイツ死んでるわ。
実地試験の時に他の奴ら巻き込みかけて焦ってたの知ってるからな。
たまたま相手がドMのエリオットだったから助かっただけだぞ。
というか武器の管理を本人にやらしてる私も悪いんだよな、多分。
弾薬やら何やらも私のクレカの家族カードで買わせてるし。
...またミスったら、もうコイツに金持たせんのやめようかな。
「年頃の子供の金銭教育って、こんな感じなのかな...?」
「...? リンダ、私たちはどうする? 君は純粋な前衛っぽいし、タンク兼アタッカーは任せたいんだけど」
「ああ、そうだな、それでいい────つか、御令嬢。 一つ頼みがある」
「うん? なんだい?」
「アイツの動き、止めれねぇ? 具体的には頭」
「それは、僕の
「そゆこと。 コアをぶち抜くには外殻が邪魔、破壊にモタついてる時間はねぇし、一撃で済ませるにはお膳立てが必要なんだわ」
「なるほど...手、届かないからね、仕方ないね」
「うん。 ...なんか、お前バカにしてね? 「おてて短いねぇー」みたいな」
「他意はないさ、引き受けたよ」
「おっけ」
ん? なんか私、丸め込まれたか? 流石に気のせいよな。
気を取り直してチャッチャとワン公を締めますか、御令嬢のお手並みも拝見だ。
レミーもチェック終わったみたいだな、マジで頼むぞお前。
【Gruuu...Gyaooooooh !!】
「ン、ナン(あ、起きた)」
「おし、終わらすぞー」
「了解。 君にヘイトが向き次第、ヤツを止めるよ」
「ワタナン、ナンナッ!(サポートは任せて、リンダッ!)」
「あいよ、そんじゃ────行くぞっ!」
「ああっ!」
「ンナッ!(うんっ!)」
【Gyiaaaaah !!】
端的に作戦確認を済ませて気合を入れたら、物騒な調教の始まりだ。
御令嬢を中衛に据えて私が前に出る...すると、でかハティが咆哮と共に大口開けて突進してきた。
学習しねぇなコイツ。 まぁ、畜生以下の怪物なんてこんなもんか。
やりやすくて助かるぜ、懐に潜って前足に組み付いて捕まえた────って...アレ?
これ、前足じゃなくて...?
「...前足(下顎)な件について」
【Grrrrrr !!】
「ワタナ(めっちゃ学習されてるじゃないか)」
「肉を斬らせて骨を断つ、という状況だねぇ」
「こいつ、小癪な」
【Guoooooo !!】
「レミー、殺れ」
「ンナンナー!(アイアイサー!)」
ズガンッ! ズガン! ズガンッ!
と、迫力満点の爆音と共にレミーのショットガンが火を噴いて、私を噛み殺そうとする自由な方の頭に炸裂した。
衝撃に耐えかねて混乱した隙にもう片方もホールドする。
...よしよし、ちゃんとスラッグ弾だな、ひとまず心配事は一つ減ったわ。
でもな、レミー...私 “サー” じゃなくて “マム” だから。
まさか私が前世男だって気付いてないよな? 気付いたからなんだ、って話ではあるけど。
てか、思わず口をついて出るほど男っぽいかな、私...
「...よし、今度セス君でも誘惑してみるか」
「ワタナンナ...?(急になに言ってるのリンダ...?)」
「いやいや、お前のせいだから」
「...どうやら、ヘイトを取るまでもなかったね────リンダ! 双頭を拘束する! 動かないでくれよッ────!」
足りない頭フル回転させた双頭ハティの奇襲も、リンレミ最強コンビの前には児戯同然ってなもんよ。
私が抑えたのを確認した御令嬢がハティへ向かって蛇腹剣を振るう。
鋭く風を斬る刃音と共に飛来する一対の刃が双頭を捉えて拘束する────よし、ガッチリ締め上げてんな。
したら、私は距離取って<デストロイヤー>をば...
...ん?
...んん?
ちょっと待って、
なに、コイツ...ただでさえくっそピーキーな蛇腹剣で二刀流やってんの!?
マゾ過ぎるだろ!?
「うん? どうかしたかい?」
「うん、した」
「聞くよ」
「それ二刀流とか器用通り越してキモいわ」
「ンナナワタ! ンナワタ!(蛇腹剣二刀流なんて見た事ないよ! ロザリンドさんすごいね!)」
「そうかい? やってみると簡単だよ、結局は物理法則に則ってしか動かないんだから」
「ンナ、ワタンナ...(そんな、机上の空論ガチ勢みたいな...)」
「おいおい...アンタ、ものすんげぇテクニシャンじゃねーか」
「...君から言われるとなんかな...」
「なんでよ!」
「さてね、っと────そらっ!」
驚愕する私たちを余所に、御令嬢が双頭を締め上げている剣を振う。
二振りの伸縮する刃で絡め取られたハティの双頭が引き合うように引っ張られて、勢い良くごっつんこする。
しかし、目を回す程度に留まってる...首を落とせず外殻も健在だ。
「ふむ、一応やっては見たものの...やっぱり外殻の上からじゃあ僕には無理だ」
「...マジかよコイツ」
衝突させて目を回すのは分かるが、そんな助走付けられる程の間隔ねぇぞ...? 膂力だけでやったなら普通に私くらいはありそうなんだが。
しかも、この巨体が相手だ...質量的にも重量的にも、体格だって大差付けられてるってのに、剣を引いても自分は一切引き擦られず
まるで根を張った大木だ。
もしくはめっちゃデブか。
「あっ、コルセットってそういう...」
「邪な意図を感じるね」
「んなこと無いって」
「? ンナ? ンナ(? どしたのリンダ? 早く倒しちゃおうよ)」
「おっと、そうだな。 したらば──────喰らえっ! デストロイヤァァァァァァ!」
【Gyuaaaaaaa !?】
(まさかの技名叫ぶ系女子!? あと名前がダサい!?)
目を回すハティの双頭に
...よし、片腕ずつのヒットにはなったが無事に外殻を破壊できたな。
後はコアをブッ壊して終いだ。
「ナン! ンナナ!(やった! 壊れたよ!)」
「御令嬢、これならイケるよな?」
「勿論さ、お膳立てご苦労様。 それじゃあ──────さよならっ!」
【Gyie────】
別れの言葉と共に御令嬢が再び剣を振るう。
拘束する刃が一切の抵抗無く食い込んでいって、瞬時に双頭を斬り落とした。
力なく開いたままの口から覗くコアを踏み潰す、もう片方もレミーがショットガンで粉砕。
邸宅ホロウ拡大の核である[変異種/双頭のアーマーハティ]は粒子となって消滅、敷地いっぱいまで広がっていたホロウも縮小して邸宅内部へと収まった。
「ふぅ...一先ず、前座は無事に終了だな」
「ンナナワタ(ホントに見た目だけだったねアイツ)」
「だから言ったろぉ、大した事ねーって。 お前はもっと自信持てっつの」
「ワタワターナ(自信を持つのと危機感が薄いのは別だと思うけどね)」
「大いに含みを感じますねぇ...」
「ナン(その感覚は正しい)」
「あのなぁ、私は無敵だからいいんだよ」
「ンナ...(よく言うよ...)」
「アッハハハ! 君たちは本当に仲良しなんだねぇ」
ホロウから解放され、青空の下に美しさを取り戻した庭園。
大きな白い噴水、綺麗に整えられた植え込み、花壇を彩る様々な花。
木々に囲まれた落ち着いた雰囲気のガゼボ、アーチの掛かった小道の先はガラス張りの温室へ通じている。
そんな美しい庭園の先...聳え立つ立派な邸宅からは、確かなエーテル反応が発せられていた。
見た目は変哲の無いジョージアン様式の豪邸だが、内部には異様な気配が渦巻いている。
フィリップス邸ホロウの核であろうソレは、過去...フィリップス家を襲った惨劇を生き延びホロウを鎮静させたロザリンドが
自身の身の上や潜ってきた死線の多さから何かと経験豊富なリンダ。
そんな彼女が、目の前のホロウへ潜む気配に...
そしてそういった感覚は経験上、毎回自身にまつわる厄ネタ絡みであった。
────この
リンダは内心で腹を括る。 レミントンは相棒の様子に何かを察し。 ロザリンドは腰を落ち着けようと2人を離れの別館へと誘うのであった。
「ところで御令嬢、コルセットに巻き付いてるソレって?」
「ああ、蛇腹剣の刀身だよ。 セパレート式でね、柄は脚のホルスターだ」
「ンナワタタ(ひっぱったら胴体輪切りになりそ)」
それからというもの
ホロウの残る本館から離れてフィリップス邸の別館へと招かれたリンダとレミントン。
見えてきたのは、3階建ての本館よりは全体的にコンパクトな2階建ての洋館。
使用人に案内され、両開きの門扉をくぐりエントランスから階段を上って応接間へと通された。
天井の高さも相まって殊更広く感じる空間は、上品なアンティークの調度品で統一されたクラシカルな雰囲気の部屋。
ハイバックの猫脚ソファに並んで腰かける1人と1匹...リンダは部屋の隅のオルガンに興味を惹かれ、レミントンは信じられない程フカフカなソファを存分に楽しんでいる。
程なくして、身を整えたロザリンドが使用人と共にやってきた。
「流石は名家......ジルベルト・バウエルの最高級リードオルガンにお目に掛かれるとは...」
「ンナッ、ンナッ、ンナ―!(すごっ、めっちゃ、フカフカー!)」ポヨンッ、ポヨンッ!
「やあ、2人とも、待たせたかな?(あのボンプ可愛すぎないか)」
はしゃぐレミントンの愛くるしさに思わず目を奪われるロザリンド。
ボーイッシュなイケメン女子だが実は可愛い物好きな彼女、思い切り抱き締めたくなる衝動を抑えつつ席へ着いた。
使用人が押してきたワゴンには、軽食やスコーンにケーキ等が乗った三段スタンドやティーカップにポット、カトラリーにボンプ用のバッテリーも載っている。
それらがテーブルへ配膳され始める中、ロザリンドがリンダ達へ向かって口を開いた。
「まずは、改めて御礼を言わせておくれ。 リンダさん、レミントンさん、ホロウの鎮静に力を貸してくれて本当にありがとう。 僕一人じゃあ、もっと時間が掛かっていただろう...助かったよ」
「いいよ」
「ンナ(いいよ)」
「...そ、それだけかい?」
「まぁ、雑魚だったし」
「ンナ、ンナワタ、ナンナッ!(それに、ロザリンドさんの力になるのが、今回のボクらの役目だからねっ!)」
「それも、そう...かなぁ?」
「ナン、ナンンナ! ナンナタ!(そうそう、依頼中はコキ使っていいんだよ! リンダの事!)」
「それは聞いてねーぞ?」
すっかりテンションが上がったレミントンにより仕事を増やされそうになるリンダ。
芝生をやった手前もありあまり強く出れない為(余計な事言うな)と相棒へ目配せする。
ロザリンドはそんな2人の様子に少し苦笑いを浮かべると、話題を変えるように口を開いた。
「改めて自己紹介をしよう。 僕が、このフィリップス家の現当主で邸宅の主────ロザリンドだ、ロゼでいい」
「(ボクはレミントン! 木目柄フードがトレードマークのプリチーボンプ! レミーでいいよ!)」
「メイフラワーの大将から聞いてるだろうが、依頼を受けたリンダ・ブラッドだ。 私の事はマスター・ブラッドでいいぞ」
「リンダ、ダークサイドへ堕ちた癖にジェダイマスターを名乗るんじゃないよ」
「オイコラァ、誰のカイバ―クリスタルが出血したって?」
「ンナワタ、ナンナ(似合ってるよ、リンダ)」
「黙ってろR2-D2」
「(失敬な!? あんなのよりボクの方が高性能だもん! 酷いよリンダ!)」
「いやいや、R2-D2呼ばわりを “酷い事” と認識してるお前はR2-D2をサゲているも同然。 つまり、酷いのは私じゃなくお前なんだよレミー」
「ワタンナナ!(屁理屈と揚げ足取りのダブルパンチじゃないか!)」
「屁理屈でも理屈は理屈、隙を見せる方が悪ぃのさ、クックック...!」
「(ロゼ! どっちがクロだと思う!?)」
リンダの煽りに物申すレミントン、前者は小賢しく立ち回り、後者は正々堂々と立ち向かう。
唐突に始まった人とボンプの小さな口論...埒が明かないとレミントンが第三者に判定を委ねる。
2人の視線を受けたロザリンドの答えはもう決まっていた。
「シンプルに心証が悪い、リンダがクロでFAだ」
「ダニィ!?」
「ッナア! ナンワタッ!(っしゃあ! ロゼ好きっ!)」ピョン!
「っ! よ、よ~しよし...!(激カワ...!)」
「ぐぬぬ...!」
と、そんなこんなでテーブルメイクと配膳が済んだ。
2人と1匹はささやかなティータイムと共に、今回の依頼に関する情報交換と擦り合わせを始める。
“フィリップス邸の内部ホロウ” に “ロザリンドに付きまとうストーカーらしき影” 。
ホロウに関してロザリンドが話した情報は、リンダが市長から受け取ったものと概ね同じであった。
〇邸宅に収まるまで縮小したホロウは、エーテリアスを何体倒しても完全な鎮圧には至らず、どころか一定周期でエーテリアスの個体数が復活してしまう。
恐らくは核となるエーテリアスが潜伏している筈だが、その場所が全く分からず定期的な掃討による一時鎮静に留まっている。
ロザリンドが “守り人” として邸宅に留まっている理由だ。
一方で、ストーカーに関しては緊急性を要する情報があった。
〇現れ始めたのが4か月程前から、邸宅近辺をウロチョロしたり近所でフィリップス家の事を訪ねたりしていたそう。
それがここ1~2か月でごみ置き場から勝手に生活ごみを持ち去ったり、庭園にやって来る小鳥や小動物が謎の液体入りの小瓶を括りつけてくるようになったという。
つい先日、防犯カメラの映像から身元が判明...とある医療機器メーカーの下請け会社の人間だそうだ。
「ンナ...ンナナッ(酷いね...許せないっ)」
「ホロウは兎も角、ストーカーに関しちゃシンプルにキメェな...」
「モテる女の辛いところかな...」
TS転生者とはいえリンダの女歴はもう20年以上...気丈にしつつも身体を固くして気味悪そうに話すロザリンドを前に、リンダは自分の事の様に気の毒に感じていた。
解決する以外は気休めだと理解しつつも心から励ましの言葉をかけると、リンダもスロノス区で知り得た事を話す。
コヒーリの港で聞いた謎の観光客の事を話し、街道外れの雑木林で見つけた異物をハンカチ越しにテーブルへ置く。
すると、ハンカチの上の異物を見たロザリンドが驚いた様子で口を開いた。
「ちょっと待ってくれ...! この針、まさか...?」
「どうしたロゼ?」
「ンナナ?(なにか思い当たったの?)」
「ああ...欠片は兎も角、こっちの折れた注射針。 偶然かもしれないが、ウチで使われてた注射器のものとそっくりなんだ...」
「...注射針なんて、見た触れただけで違い分かるモンか? 穴多いとか、はっきりと形状が違うならともかくよぉ」
「うん、普通なら分からない。 でも、邸宅内の研究施設では...刺し傷からの侵食リスクを考慮して特別なコーティングを施された侵食医療用の専用針を使っていたんだ。 触感と光沢が特徴的だったから覚えているよ」
「なるほどなぁ...(全然気づかなかった...)」
過去の被検体時代から現在の定期健診に至るまで、自分も同じ針を刺されてきたにもかかわらず全くそれだと気付けなかった事に若干の悔しさを覚えるリンダ。
ロザリンドの御令嬢らしい優雅で洗練された所作や細かな特徴に気付く繊細さを前に、何故か自分がガサツだと言われている様に錯覚していた。
御令嬢とアウトロー、邸宅とコンテナハウス、流麗な二刀流と無骨な喧嘩殺法。
(いやいや、これは優劣じゃない、棲み分けだ)
こっちが負けたワケじゃあ断じてないんだ、と自分に言い聞かせて不服さが顔に出るのを回避するリンダ。
なんとか取り繕うと、ストーカーに関して今ある情報を試しに繋ぎ合わせた。
「ストーカー被害が4か月前...謎の観光客は、おっちゃんの話だと2か月前......同一人物と考えりゃあ、結晶や注射針も “あちこちで姿を見かけた” っつー謎の観光客の痕跡と言えなくもねぇな」
「ンナンナナ...ワタタ(姿を見せるまでの2か月間が気にはなるけど...調べてみないとなんとも言えないね)」
「だとしたら、結晶はどう考えるんだい? コヒーリやイレミアにはウチ以外にホロウは無いし...外部から持ち込まれたとしたら流通経路を辿るのは厳しいと思う」
「それなんだよなぁ......なぁ、ロゼ? あんま言いたかねぇが...お前ん家に侵入されたって事はねぇよな?」
「それは...本館内部のホロウに、という事だね? あっちには基本的に定期鎮静の時以外は入らないけれど、敷地内には防犯カメラがあるし...何かあったら分かるよ。 警備員も駐在しているしね」
「だよなぁ~、結晶に関しちゃ保留にするしかねぇか」
「ナン、ワタタン(とりあえず、ストーカーの方から当たっていくしかなさそうだね)」
「済まないね2人共、感謝するよ────さあっ! 一先ず、依頼の話はここまでにして食べようか。 ディナーまでは時間があるし、後で館中や庭園を案内しよう」
依頼の情報交換に一区切りつけた一同は、テーブルに並ぶ美味しそうなサンドウィッチやスイーツに手を伸ばし始める。
これまでの真面目な空気から一転、和気藹々とした雰囲気が広がっていく。
和やかな雑談を交えて交流を深めていく中で、リンダがタイミングをみて話題を変える。
緩んだ表情を正し、少し張り詰めた様子で口を開いた。
「────それはそうと、ロゼ。 聞かなきゃならねぇことがあるんだ」
「うん? なんだい? 改まって」
「決まってんだろ? ロゼ、お前の過去.........
「ナンナ...ンナ...(リンダ...それは...)」
「...そうだね。 依頼を受けて貰うんだ、ちゃんと話しておかなきゃいけないな...」
リンダは自分の妹分であるという御令嬢の過去、その生い立ちや研究内容を知るべく切り込んだ。
それは依頼の遂行に当たって知っておく必要がある...という事もあるが、彼女にとっては自分の復讐の為という理由が強かった。
自分の存在が基になった第二次計画、それが生んだ
紅茶、もう一杯いかが?
くれ、マーマレード別添えで頼むわ
ロシアンティーだね、本場のスタイルとは通じゃないか
ところで “ロシア” って何の事なんだろうな?
知らね
えっ
えっ
あ......いや、なんでも?
そうかい? はい、どうぞ
おぉ...サンキュ...
ロザリンドはスプーンにジャムを添えて紅茶のお替りを渡す。
自分のカップに口を付けながら、対面でジャムを舐めているガラの悪い美女に思いを巡らせる。
亡き師の友人である市長が手配してくれた凄腕の調査員、信頼がおける女性だというその人はまさかの “九分街の英雄” という大物だった。
先程の一戦だけでも分かる尋常ならざる強さ、気さくな性分、見た目に反し所作からは高い教養を感じる。
そしてなにより、初めて会った時から何故か────他人の気がしない。
その妙な感情の正体をひとまず胸にしまったロザリンドは、何かを噛みしめる様にポツリポツリと話し始めるのであった。
「ちなみにリンダ。 君、意外と可愛いハンカチ持ってるね( *´艸`)」
「ハッキリ言えよ、ガサツっぽいから意外だったってな(#^ω^)」
「ワタタ(自覚ありそうで草)m9(^Д^)」