血に交われば薔薇になる 作:サンオツボンプ
というワケで、ver2.7 皆さんはもうプレイされましたか?
ストーリー良かったですねぇ、S1のゼンゼロに回帰したような印象があってよかったです。
で、プレイされた方は感じるかもしれませんが...カスギャルの武器が蛇腹剣っぽくて、ロゼが似てしまいました。
まあ、正確には剣と槍という違いがある上、ロゼには二刀流という明確な特徴があるので...不幸中の幸いという事で、そこまで深刻な武器被りにはなっていないと思いたいです。
あと、白ギャルより黒ギャル派です。
スロノス区 フィリップス邸 別館・応接間
再活性により急拡大した邸宅ホロウへと乗り込んだリンダとレミントン。
不気味な静けさを破るように飛び掛かってきたハティを、どこからともなく蛇腹剣が貫いた。
刀身が伸びてきた先には開け放たれた玄関扉、そこに居たのは依頼の重要参考人、フィリップス家の御令嬢〈ロザリンド〉だった。
インパクトばっちりな初対面の最中、現れたのは[双頭のアーマーハティ]。
自己紹介もそこそこに、2人と1匹は協力して難なく変異エーテリアスを撃破。
核が消え、拡大したホロウも邸宅内部まで縮小した。
一先ず危機を収めた一同、ロザリンドは腰を落ち着かせようとリンダ達を生活スペースである別館へと招いた。
ティータイムと軽い食事を交えて、今回の依頼に関する情報交換が行われた。
大まかな行動方針が決まり、仕事の話が和やかな雑談へと変わる。
一戦を経て会話で交流を深める中で、リンダがロザリンドへととある話題を切り出す。
それは、彼女の過去...『フィリップス邸の惨劇』の事だった。
切り込むリンダを諫めるレミントン、しかしロザリンドは己の過去を告白する。
「聞いてくれるかい、僕の過去────僕たちの......罪と罰を」
そう言って彼女は少しだけ顔を伏せると、一息分の沈黙を経てポツリポツリと話し始めるのであった。
10年ほど前、ここ〔スロノス区〕に突如として一つのホロウが発生した。
一切の予兆が無く生まれたそれは瞬く間に湖を越え、森を呑み込み、数十分で港まで達した。
逃げる暇もなかった......犠牲者こそ出なかったものの、多くの人々を恐怖に突き落とした。
コヒーリとイレミアを飲み込みスロノス区を震撼させたホロウ災害の発生源が、この邸宅。
『フィリップス邸の惨劇』、10年ほど前...
────資料にも載ってたけど、マジで一個人がホロウ災害を?
...にわかには信じがたいだろうね、人為的にホロウを生み出すなんて...〈カロ―レ・アルナ〉が首謀者とされている『旧都陥落』くらいしか似た例は無い。
けれど、事実なんだ。
規模は比べるべくも無いけれどあの惨劇は間違いなく人災なんだ。
...僕は、その生き証人というわけさ。
────ンナ? ンンナ...(聞いて良い? なにがあったのか...)
あぁ...良いとも、順を追って話すよ。
...母は、大罪を犯したけれど...決して邪悪なだけの人じゃあなかった。
一般家庭の出だったけれど夫婦仲は円満だったし、祖父母や親戚とも上手くやっていた、使用人たちへも家族の様に接していたよ。
家族3人、水入らずで行くたまのピクニックや海水浴が大好きだった...社交界や研究で忙しくしながらも子煩悩な母親だったよ。
今はもう、失ってしまった幸福さ。
両親の出会いは病院でね、遺伝子治療に携わる母が父の遺伝子性筋疾患を治療したんだ。
父の一目惚れだった、通院から投薬治療に切り替わるタイミングで父から告白して...おおよそ2年弱の交際を経てゴールイン、一年後に僕が生まれた。
幸せの絶頂だったと思う、少なくとも...初めの内は。
異変に気付いたのは母だった、僕が物心ついた頃に突然夜泣きをしたらしくてね。
この年齢にしては珍しいと思った母が起きて様子を見ると...僕の肌に薄っすらと侵食症状が現れていたんだそうだ。
父を起こして病院へ駆け込み、侵食治療と精密検査が行われた。
一切の後遺症無く治療を終えたものの、検査結果の方は残酷だった。
病名は『先天性体エーテル解離症候群』
染色体異常の一種で、簡単に言うと
人間は誰しもが一定量のエーテルを宿して生まれるけれど、だからと言って異化するワケじゃない。
専門じゃないから詳しくは言えないけれど...例えば、自分の血液でHIVにはならないのと同じで、自分の身体に宿るエーテルで異化することもない。
染色体の偶発的な異常がそのルールを捻じ曲げた結果...体内のエーテルは少しずつ身体を侵していって、やがて異化してしまう。
今なお根本的な治療法がない不治の病で、侵食治療という対処療法を取る他ない。
僕は、そんな病を患っていたんだ。
────“いた” ってことは、まさか...完治したのか?
ああ、そうだ、完治しているよ。
まさにそれが母の犯した罪であり、僕への罰でもある。
...この病気が見つかってから、母は人が変わったように研究にのめり込むようになった。
腹を痛めて産んだ我が子が不治の病じゃあ無理もない話さ。
遺伝子治療に関する研究者兼医師だった母は、フィリップス家のジョナサン財団との繋がりを使って侵食医療センターに通い詰めた。
年を経るにつれ発作が出るようになってね、忙しい父の手を煩わせることもあった......やがて、どこへ行くにも使用人が付きっきりになったよ。
そして僕が10歳になる頃に、数人の研究者を引き連れて邸宅の地下に設けた研究室に場所を移し、定期的な侵食治療や根本的な治療法の研究を全て自宅で行うようになった。
突然の発作にも迅速に対応できるようになって、忙しい父の手を借りなくて済むようになったし母も僕の傍に居れる。
状況は好転しつつある、子供ながらにそう思ったよ。
でもこの頃から、家族の絆に少し亀裂が入っていく。
初めは些細な事だった...「せっかく家にいる時は、ご飯くらい3人で食べないか」と父が言ったんだ、母は忙しそうに「実験で手が離せないから2人で食べて」と言って研究室へ戻っていったよ。
やがて、新たな治療や検査で僕が研究室に居る時間が増えていくにつれて “2人で食べて” は “1人で済ませて” になった。
社交界から遠のいた僕と母は、家がTOPSと近いってのもあって...他の名家の連中からやっかみを受けたりあらぬ噂を立てられるようになってね。
“我が子可愛さに実験動物を非道に扱ってる” とか “未認可の薬物を投与してる” なんとか......家庭からも距離が離れて父方の縁者とも折り合いが悪くなって、父には要らぬ気苦労を掛けてしまったと思う。
そこまでしても相手は不治の病、母の研究はドン詰まりで、
母や家の者をフォローしつつも家の体裁を優先した父は、フィリップスの名を落としめまいと家庭を顧みず寝る間も惜しんで働いた。
僕は度重なる発作と侵食治療で憔悴していくばかり...不和は大きくなる一方で、このままじゃあ家族が壊れてしまうと思った。
他の何でもない、僕の病気のせいで...ってね。
────ンナ...! ナンンナ!(そんなこと...! ロゼは何も悪くないよ!)
あっははは! ありがとうね、レミー。 君は本当にいい子だなぁ...
...でも、そんな中だった。
僕が12歳の頃に開発中の新薬が臨床段階へ到達したんだ、母の研究がようやく実を結び始めた。
『ELIXER type.R』という名の新薬は順調に臨床を進めていき、僕が14歳時点で最終フェーズに到達した。
以降2年に渡って最後の臨床試験が進められ......僕が17の時に『フィリップス邸の惨劇』が起こる。
そしてこの臨床を境に、僕たちは......患者という名の
────臨床か... マリアは家族はおろか、一族や使用人まで被検体にしたらしいけど...ロゼの病気って感染する類のモンなのか?
いいや、しないよ。 でも気になるところだよね。
臨床試験というのは本来なら
当然、合併症を持つ患者も対象に含めるものだけれど、
けれど、体エーテル解離症候群は健常者が後天的に発症するケースの方が多い。
開発段階では『ELIXER type.R』が他の疾患リスクを上げることは無かったし、なによりエーテル適応体質の可否を問わずに発症する病だ。
正常値として健常者への臨床データも採集されていたんだよ。
────「ンナ、ンナナ?(それで、みんな異化しちゃうことに?)」
......そう、だね。
...母は、体裁や家庭を犠牲にしてでも研究を続けた...何度失敗しても、どんな壁に阻まれても諦めず、上からの圧力や周囲のやっかみにも耐えて、辛くて折れそうになる僕を支え続けてくれたんだ。
辛い時に傍に居たのは母親だったから僕はずっとお母さんっ子でね、注射や投薬が増えて今までにない発作や症状が出ようとも...治療だと疑わなかった。
母と一番近い所に居たのは、僕だったのにね...
────それだけの愛情を注がれて親を疑えるガキはいねぇよ。 とはいえ、少しも変だと思わなかったのか? 学校で集団生活してりゃあ、なんかしら比較して気付くこともあったろうに。
それは最もだけれど、病気の事もあって僕はホーム・スクーリングだったんだ、学校には通ってない。
名家というのは割と閉鎖的でね、社交界に出るまで友達が一人もいないのはあり得る話だし、将来は家督を継いだりコネ入社したり内輪で身を立てるのも珍しくない。
まして、僕は早々に社交界から遠のいた...不治の病に苦しむ孤独な名家の娘が過保護に育てられた所で、何かおかしいと思うことはなかった。
“温室育ち” と言えばそれまでなんだけどね。
世話係のメイド長が僕の先生だったんだ、病弱だからって甘やかしてはくれなかったけれどね。
たった一人の跡取り娘として恥ずかしくないように、学問もスポーツも武術も色々と詰め込まれたなぁ。
帝王学を始め文理両立で偏り無く学んだ、語学なんか方言までやらされて...一時期は標準語が喋れなくなったくらいさ。
陸上十種を週替わりにやらされたり、あらゆる武術を総当たりさせられたり...あの頃は本当に辛かったよ。
昔は勉強も運動も苦手でね、出来の悪い娘だったと思う。
不出来な中でも剣術と合気道が一番素質があったんだけど、情けない事に...当時の僕は戦うのがべそをかく程に大嫌いでね、近づかれるとパニックを起こしてへたり込むくらいさ。
そんな時に、父さんの所へ顔を見せに来たセリトさんが自分の獲物 “遠距離攻撃できる近接武器” である蛇腹剣を試しに僕に持たせたんだ。
振るってみたら初手で的に命中、その才能を買って僕を弟子にしてくれたというワケさ。
────ンンナ...ンナンナ、ワタ(セリトさん...虚狩りが師匠だったんだ、道理で強いわけだね)
ああ...セリト、〈セリト・ヴェネナン〉。
元虚狩り〈
最も、彼女はもう故人だけどね...元々御歳を召していた上に肺を悪くしていたから。
もう6年前の話さ。
...話を戻そうか。
臨床で薬の投与が始まってから僕の身体は快方に向かっていたけれど、最終フェーズに入って問題が起きた。
さっき “治療薬・既存薬・偽薬を混ぜて投与する” と説明したね? それぞれグループ分けして投与するのだけれど、治療薬以外のグループで患者の容体がみるみる悪化していったんだ。
特に偽薬グループでは異化寸前まで侵食が進む患者も多かった。
...これは全てが終わった後に治安局の捜査で判明したことだけれど...どうやら母は『
残った治療薬や研究資料が解析されて、僕らに投与されたものが治療薬とは名ばかりの “
急激な変異を抑制し、肉体の侵食と遺伝子へのアプローチを緩やか且つ安全に行う、甘美な劇薬。
症状が改善しているように見えて実際は少しずつ怪物へ近づいていた...対処療法的な既存薬や効果の無い偽薬では悪化して当然だ。
10年以上も進捗無しだったのが急に臨床試験へ到達......研究が上向いたのは努力が報われたわけじゃ無く、悪魔の手を取ったからだったのさ。
────「...ワタンナナ? ナ、ンナタ...(...お母さんはロゼを愛していたんでしょ? なのに、どうしてそんな酷い事...)」
僕に向けてくれた感情は偽り無いものだと信じている、けれど...例え血の繋がりがあろうとも、黒い感情が湧くこともある。
腹を痛めて産んだ我が子を憎く思う事だって...あるものだろう。
母は恥も外聞も捨てて、周りからあらぬ誹りを受けながらも必死に研究しているのに、対する僕は弱音を吐いてベソをかいて...勉強も運動も後れを取って戦う事もままならない。
父も父で、家族の不和を横目にフィリップスの名を落としめまいと必死だった、だから病気持ちで色々と出来も悪い僕を跡取りとして期待しなくなった。
────愛情は有限、か......残酷な話だな...
今思えば......臨床が始まる少し前から母さんは人が変わった気がする。
「始まりの主よ、再創を」なんて何かに祈るようになったし、僕や父を見る目も変わったように思う。
...ともあれ、患者の容体の悪化は治療薬の優位性を如実に示すことになり、臨床試験は想定より2年も早く終了。
これまで不治の病とされていた『体エーテル解離症候群』の新薬として異例の速さで承認審査を突破しジョナサン財団の監督下で量産が決定、怖いくらいトントン拍子に進んだ。
────大将の資料には工作員の存在が言及されてたが...こん時から潜り込んでたクサいな。
────ナン、ンナ・ンナ・ンナワタンナ(だとしたら、技術供与・臨床試験・承認審査の全てに絡んでそうだね)
技術供与に関わった讃頌会の奴らも犠牲者に含まれていてね、治安局の捜査で情報が洗い出されたけれど...あくまでも一般企業の社員名簿に名があるだけで直接財団と雇用関係にあるわけじゃあ無かった。
讃頌会についても特に詳しい情報は得られなかったそうだ。
ともかく、新薬が審査を突破した後、関係者全員を招いて開かれた完成披露パーティーで母は事を起こした。
研究施設のエーテル燃料やエーテル物質を爆破し急激にエーテル濃度を上げてから “ELIXER type.R” を散布、邸宅を中心にホロウが生まれてその場に居た全員がみるみる内に異化。
瞬く間に広がったホロウは、イレミアからコヒーリまでをたった数十分で呑み込んだ。
イレミアとコヒーリには直ぐに避難勧告が出されたけれど、ホロウ拡大スピードが速すぎてほとんどの住民が取り残された。
幸い、エーテル濃度と活性率が際立って高いのはフィリップス邸宅だけで他はそうでもなかったから、治安局やH.A.N.D.が投入されて避難が進められたけれど......邸宅内部は酷い有様だった。
母さんの凶行で侵食活動が爆発的に活性化、皆が次々に意識を失い異化していく様を母さんの腕の中で見つめながら、僕も意識を失った。
やがて、資料にある通り当時『虚狩り』で両親とも親交があった師匠が邸宅に派遣された。
師匠に下された指令は “
顔馴染みの守衛を斬り、庭師やシェフやメイドや執事を斬り、僕の祖父母や親戚たちを斬り、患者たちを斬り、そして......父を斬った。
そんな中で僕だけは異化を免れていた。
多分...母が何かしたのだとは思うけれど、未だに原因は解っていない。
僕が意識を取り戻した時、師匠は異形の姿をした母と戦っていた。
憔悴と動揺で動けない僕を庇う師匠は劣勢で、遂には深手を負わされ膝をつく。
────歴戦の虚狩りが成りたてのエーテリアスにやられたのか?
エーテリアス、と呼んで良いのかどうか......あの時の母は意識を保っていたし、姿もただのエーテリアスとはどこか違っていた。
それに虚狩りと言えども寄る年波には勝てない、エーテルへの耐性も老いていくからね。
続けるよ。
僕を庇って崩れ落ちた師匠へ止めを刺そうと迫る母には隙があった...たとえ優位に立とうとも母は戦う人間じゃあなかったから、倒れ伏す病弱な娘への警戒なんてなかった。
ここで止めなければ取り返しがつかなくなる、それにこれ以上...僕のせいで母に罪を重ねて欲しくなかった。
僕は力を振り絞って師匠の剣を取り...母さんを────斬った。
人のそれとは思えない悍ましい悲鳴と共に母だったモノが消滅した。
ホロウの重苦しさが薄れていくのを感じながら師匠の肩を借りて外へ出ると、ホロウは邸宅内部まで縮小していた。
展開していたH.A.N.D.と治安局の方々が駆け寄るのを感じながら意識を失って...数日後、病院で目覚めると事情聴取も兼ねてその後の事を聞いた。
コヒーリとイレミアは侵食被害・物的被害・人的被害ともに軽微、犠牲者は無し。
対してフィリップス邸に居合せた人間は僕以外全員が異化......師匠の手で討伐され、主犯の母は “新エリー都転覆を目論んだ狂った魔女” として大々的に報じられた。
僕の病気やセリトさんとの師弟関係も同時に報じられて、世間には “虚狩りの隠し弟子” や “フィリップス家の悲劇の一人娘” として認知された。
友人の忘れ形見となった僕を世間の批判から守るために...師匠と市長さんが手を回してくれたんだよ。
そして僕の病気にも変化があって、体エーテルによる自己侵食を齎していた染色体異常が正常化していて────つまり、完治していたんだ。
原因は不明だそうだ、治療薬が効いたのか母が何かしたのか......ともかく、母の関わった治療薬は軒並み検閲が入り、中でも『体エーテル解離症候群』に関する物は全数廃棄の後に登録抹消となった。
僕は経過観察に通う傍ら、採取データや血液なんかを治療法の研究へ寄付する事に同意した。
同じ病気に苦しむ方々や...亡くなった患者たちの為にも、ね。
────ンナン......ワタンナ?(原因不明の治癒......惨劇から10年経ったけど病気は不治のままなの?)
僕が治ったからくりは未だ不明のままだけれど、研究の方は前進しているそうだよ。
今では既存薬の改良で副作用が大幅に緩和されて効果も高まっている、根治の目処は経っていないけれど...ほとんど健常者と変わらない生活が出来るようになったそうだ。
とはいえ、完治しようとも...僕一人を残して壊滅したフィリップス家は当然没落した。
師匠は負傷が祟って虚狩りを引退...僕の後見人としてこの別邸に隠居することになり、今から6年前に息を引き取った。
この “惨劇” を経て、フィリップス家の名家としての顔は潰えた。
師匠たちの努力も空しく家は僕共々世間からの非難に晒され、僕にはホロウという爆弾を抱えるだだっ広い邸宅と当主としての重い責任だけが残された。
当主となってからは、不動産や家族名義の特許を始め遺産や私財の殆どを売り払って、亡くなった患者の遺族の方々への賠償と謝罪を続けながら......あのホロウが暴走しないよう『守り人』としてここに留まっている。
“魔女の娘も魔女だ” とか “カルトの手先だ” なんて非難を浴びることもあるけれど、それでもこれは.........母を止められなかった僕に科された────罰だから。
これが、僕の過去。
不出来な一人娘が患った不治の病が、母を狂わせ...家族を引き裂き...惨劇の引き金を引いた。
スロノス区を恐怖に陥れた災い────『フィリップス邸の惨劇』の顛末さ。
まるで告解するかの様な口調で、ロザリンドは過去を話し終える。
生まれながらに患った不治の病。
それが小さな亀裂を生み、続く負の連鎖は亀裂を広げ、やがてマリアは悪魔の手を取り────惨劇を引き起こした。
愛する母親が歪み、狂い、大罪を犯した。
その全ては自分の為。
母親が娘を救わんとする一心が、
故に、惨劇の犠牲者は自分が殺したようなもの。
母親を殺めた事も、自分に責がある。
これは僕の罪で、僕への罰だ。
ロザリンドは噛みしめる様に少しだけ目を伏せる。
そして顔を上げ、冷めきった紅茶を注ぎなおして一口飲むと、「攻守交代だ」とリンダへ話を振った。
「さあ、次は君の話を聞かせてもらおうか、リンダ」
「禁則事項です」*1
「世紀末の荒野に禁則事項なんてあるのかい?」
「いや、誰の未来が北斗の拳だボケが」
「ワタンナ~!!(汚物は消毒だ~!!)」
「乗らんでよろしい」
それからというもの
ロザリンドからのフリを巧みに躱したリンダ。
他人の過去を聞いといて自分のは話さないという中々のクズっぷりを発揮した相棒に、思わずレミントンもジト目を向ける。
(そんな表情も可愛いな...)とモチぷる金属マスコットの愛嬌に目を奪われる御令嬢兼当主、どうやらうまい具合にはぐらかされた様であった。
一方、ロザリンドの過去を聞いたリンダは、市長から齎された情報との差異について考えていた。
それは書類を抜き取ってこの場に開示せず、今しがた話もはぐらかしたリンダ自身の過去にまつわる情報。
マリアが計画したとされる『第二次
「なるほど、なぁ...ふむ────」
若干の食い違い...というよりは視点の違いか?
元凶となった病の娘、惨劇を起こした母親......ロゼの話聞く限りマリアが最初の計画に関わってるとは知らねぇっぽいし、何なら第二次計画の存在すら知らなそうだ。
あくまでもロゼの認識は、「自分のせいでおかしくなった母親が讃頌会の手を取って大勢を手に掛けた」って感じだ。
マリアはフィリップスに嫁いでからは過去を隠してた、んで讃頌会からのコンタクトを切っ掛けに第二次計画が発足... “惨劇” は研究のお披露目会ってところか?
でも、なんかマリアの独断っぽいんだよな。
お披露目するにしちゃかなりお粗末っつーか、
人体実験上等のマッドサイエンティスト共が逃げ道も用意してないのは不自然だ。
最悪、マリアや手を組んでた讃頌会の奴らの裏で糸を引いてたヤツがいる可能性も...
う~む、悩ましい。
「ナンナ...ンナワタ? ンナ?(リンダ...ガラにもなく泣いてるの? 大丈夫?)」
「泣いてねーし、そこはかとなく馬鹿にしてねーか? ......考え事してたんだよ」
「なっ、なら! 僕と向こうで遊んでようか...! フルアニメーションARチェス なんてどうかな?」
「ンナナワタ! ナン?( “DogStar-Games.” のヤツだ! 世紀末バージョンある?)」
「勿論あるさ! さっ、行こうレミー!(激カワ...!)」
...まあ、とりあえず、大将が言ってた情報と合わせると...
フィリップス夫人となったマリアは最初こそ幸せな家庭を築いた様だが、ロゼの病気発覚を機に歯車が狂い始めた。
治療薬開発が行き詰った所にどっからか嗅ぎ付けてきた『讃頌会』の手を取り、“治療薬開発への技術供与” って体で『
優秀な研究者の側面を持つヤツは “家庭・育児・研究を両立する” なんて尤もらしい理由で邸宅地下に研究拠点を移して、ジョナサン財団傘下企業(讃頌会)との協業で
名家らしく教育ママ的な所もあったみてぇだが、私たちに携わってた時ほど順調にはいかなかったらしいな。
不出来な娘に対する苛立ちは、夫との些細な価値観の違いや周りの中傷によるストレスと共に計画へ向けて吐き出された。
第二次計画の研究、治療薬の開発、フィリップス家という所帯、長い三重生活は表裏を隔てる壁を少しずつ削り......いつしか簡単に跨げるほどになる。
親を慕う子の純真さに付け入って被検体に使い始め...遂には
で、計画を完成させる為の最後の一押しとして起こしたのが件のホロウ災害。
...ってな所かね。
んで失敗して鎮静化されました...と、ザマァ。
まあ...失敗っつっても不治の病は治ってるらしいし、被検体に共通する特徴も見られるのよね。
ロゼは双頭ハティの巨体を一方的に引き倒してた、恐らく素の身体能力は私並み。
エーテル吸収による回復能力は見れなかったが、身体能力は強化されている筈。
それに、ハティを構成するエーテルが分解されながら斬り裂かれていくのが分かった、これは私が使ってる “エーテル操作能力” に該当する。
マリアの起こした『第二次
だが、それでもアイツは
『
よかった。
大将もこれで一安心ってワケだ。
ロゼは、私のキルリストには、入らない。
(......計画の関係者で殺らなくていいヤツは初めてだな...)
「────リンダ?」
「...ん? ああ、ごめん聞いてなかった、なに?」
「いや、なんと言うか......そんなに考え込まれると、寧ろ気が重いというか...」
「...いや、内容考えりゃ正しい反応だろコレ」
「そうかもしれないけれど...君に期待してた反応じゃないというか...」
「ナンナワタ(リンダって気落ちすることあるんだ)」
「それどういう意味だコラ」
「ンナナ(鬼の目にも涙)」
「こんな爆イケ美女に対して鬼はねぇだろーよ」
「ごめん、なんていうか...底抜けにポジティブな印象を持っていたから」
「それもう暗に私をただのバカだと思ってるだろ」
コイツ...早速レミーの悪影響を受けてやがる。
いくらなんでもこのレベルのエピソード聞かされてポジティブ保ってたらヤバいわ、KYどころか情緒逝ってるだろ。
実に心外ですねぇ...!
私はどっちかってーとインテリ系だぞ。
“便利屋” って表家業の都合上、乗り物系・土木系・危険物系・IT系・ソムリエ系と潰し利かせる為に色々資格取ったけど、全部ストレートで合格してっからな?
まあ、それでも物理的にゴリ押すことの方が何故か多いけどな。
「ならもう無用の長物じゃないか」
「バッカ、お前なぁ? 無駄な資格何て一つもねぇから、マジで」
「へぇ~? なにか実体験があるような節だね?」
「あるともさ! アレだ、パーティスタッフの依頼で生ハム切ってたんだけど、マッチング聞かれたときにワインや日本酒ソムリエの資格が生きたんだ」
「おお...それはナイスだね。 パーティで生ハムというと “ハモンセラーノ” かな? コルタドールの資格まで持っているのか君は」
「そ、因みに使ったナイフも私の目利きだ」
「ナイフまで? それも資格かい? ナイフマイスターとか」
「いや別に? 刃物とか銃とか趣味で集めてるんだよね」
「急に説得力が落ちたな...」
なんだか微妙な顔に変わったロゼ。
コイツ疑ってやがんなぁ...
よし、この件が落ち着いたら記念にパーティでも開いてやるか。
ロゼにも私の有能っぷりを思い知らせてやる。
ついでに、依頼の報告も兼ねてヴィクトリア家政の連中も呼んでもてなしてやろ、リナさんの喜ぶ顔みれるかな~、結婚してくんねぇかな~。
「私様の美技に酔いな」
「君は自分に酔ってないかい?」
「何を言う、数々のレビューを踏まえた末の自己評価だぜ」
「ふふっ、そうかい? なら、気持ちよく酔えるのを期待しているよ」
「おう、期待しとけ」
「ああ。 それじゃあ...食休みも済んだし、敷地内を案内するよ。 もういい時間だし動くのは明日からにするといい、部屋も余ってるから使ってくれて構わないよ」
「ん...良いのか? 私はその方が楽だけどよ、色々と気色悪ぃだろうしさっさと解決して欲しいだろ?」
「それはそうだけれど “急いては事を仕損じる” と言うだろう? エージェントとして同性の君が来てくれただけで結構気が楽になったし、大丈夫さ」
今日の所は英気を養ってくれ。
その言葉に甘えることにしたリンダ、腹パン+戦い・遊び疲れでスヤスヤタイムのレミントンを抱えて当主の案内で邸宅内を見て回る。
幼いころ泳ぎの練習をしたという噴水、名前の由来にもなった色とりどりの
「華やかな香りを運ぶ小風を感じながらのティータイムが最高なんだ」というガゼボ、緑のアーチを抜けた先にある自家菜園も兼ねた植物園。
敷地を一回りしたところでスヤスヤボンプが目を覚まし、「ンナナ!(ボクも見たかった!)」と起こされなかった事にヘソを曲げた為、邸宅ツアー2周目に突入。
没落名家にしては豪勢なディナーに舌鼓を打ち、食休みの際にリンダが披露したオルガンの以外な腕前に一同は驚愕。
その後は2人と1匹で裸の付き合い、西洋風の大浴場にテンション爆上げのレミントンがプラグの防水キャップを付け忘れ、湯舟に一番乗りしたリンダを感電させるお茶目も披露。
治安局とのカーチェイスから船酔いボンプの介抱を経て到着したコヒーリ。
謎の不審な観光客の噂に街道外れの不自然な結晶と注射針。
イレミア到着早々のホロウ拡大とその鎮静、ロザリンドとの邂逅...そして彼女の過去。
刺激強めの電気風呂で疲れを癒した(?)リンダは「中々に濃い一日だったな」と雑に一日を締めくくる。
お尻からシッポのように延長コードを伸ばした相棒と共に、天蓋付きの大きなベッドへと入るのであった。
「そういやさ、惨劇の後にロゼが運ばれた病院ってよ...」
「ンナナン、ン...ナンナワタ...(繋がりを考えれば、十中八九...リンダの通ってる “財団の侵食医療センター” だろうね...)」
「だよなぁ......