血に交われば薔薇になる   作:サンオツボンプ

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最近、海外のエナジードリンクを個人輸入して飲むのにハマッてます。
おすすめは『NOS ENERGY DRINK』、国内でも自衛隊駐屯地の一般開放の時に買えたりします。
ワイスピでブライアンが愛飲していた他、作中で車のカスタムとして同名の『NOS(Nitrous Oxide System)』というボンベみたいなパーツが組み込まれていますね。

で、ここまで来て思い当たったのです...
燃料でありドリンクでもある『ニトロフューエル』の元ネタって『NOS』っぽくない? って。

それだけ。

P.S.
最後の方、ちょっと閲覧注意です。
あと4月に間に合わなくて申し訳ありません。
スキルを上げても給与は上がらず、部下が増えて手間も増える世知辛さよ...



「時には、ただ立ち去ることも最善の策だよ」

 ヤヌス区 近郊 工業地区

 

 

 

 ホロウ鎮静後、別邸へと招かれたリンダとレミントン。

 当主兼守り人であるロザリンドから感謝と共にささやかな食事が振る舞われた。

 ティータイムを交えた依頼の情報交換の末、まずストーカーから当たる事に決定。

 依頼の話が一段落して、和やか空気で交流を深める3人。

 そんな中、リンダがロザリンドへとある話題を切り出した。

 

 

 それは彼女の過去...『フィリップス邸の惨劇』にまつわる内容だった。

 彼女が語る罪と罰。

 惨劇の全貌を聞いたリンダは、マリアの企てた『第二次親和型異化統制計画(プロジェクト・ヘーミテオス)』をロザリンドが知らない事に違和感を覚える。

 ただ隠しただけなのか、裏で糸を引く者がいたのか...

 

 

 翌日、依頼解決に向けて動き出したリンダとレミントン。

 当主から車を借りた2人は、スロノス区の高級住宅地からヤヌス区近郊の工業地区へ向かう。

 訪れたのは、惨劇後にロザリンドが搬送されたという病院────リンダも通う “()()()()()()()()()()()()()()()()” であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なーるたーきせーんせー! でーておーいでー! でーないーとアーソコーをほーじくーるぞー!」

 

 「ナッ、ンナンナ!? ワタ!(やっ、やめてよリンダ!? 公衆の面前でなにしてるのさ!)」

 

 

 なにって、ノーアポで来たら結構待たされそうだったんで強硬手段取ったんじゃん。

 財団との契約で体質*1に関するデータを提供してる私はちょっとしたVIPみたいなもんだし、ゴネれば通るかなって。

 

 

 「え、なに狼狽えてんのオマエ」

 

 「ンナ...ンナナ! ンナタ!?(なにって...下ネタじゃないか! ヘンなこと言わないでよ!?)」

 

 「いやいや、直接的な事はなんも言ってないじゃん」

 

 「ワタンナッ...(言わずとも物語ってるじゃないかっ...)」

 

 「なーにーがーよぉ?」

 

 「────全く...なにを騒いでいるんだ君達は...」

 

 「お、来た来た。 ナル先、おひさー」

 

 「ン、ンナ!?(き、君()!?)」

 

 

 呆れ声と共に階段を下ってやってきたのは私の体質を診てくれている主治医、ナル先こと〈鳴滝 恵一郎〉Dr.だ。

 財団の上役連中と何度か会ったことあるけど軒並み信用ならない狸爺ってカンジだが、先生は医師としてのプライドなのか単に性格なのか偽りも謀りもしてこないから好きなのよね。

 だが残念なことに妻帯者、JKの一人娘は父の背を追って猛勉強中、誠実そうなナイスミドルに付け入る隙は無いのであった。

 

 そして先生にむかって「ンナッ!(異議ありっ!)」と短いおててをビシッと上げて主張してるレミー、かわいい。

 

 

 「先生、私なんも言ってないからね」

 

 「君の口から出ると行間を読まざるを得ないんだよ...」

 

 「そうやって清純派美女に邪なレッテルを張るなんて...けしからん先生だっ」

 

 「はいはい、俺はけしからん医師ですよ...それで、今日は何の様だい? 定期健診はまだ先だし、どうせ厄介ごとなんだろうけどね」

 

 「悪ぃけどその通りなんだ、頼みたい事と聞きたい事が1つずつ」

 

 「ふむ、内容にも依るが...まず頼みから先に聞こうか、一体どうしたんだい?」

 

 「今、依頼受けててさ。 調査の一環で上に取り次いで欲しいんだ、私は連絡先知らねぇからさ」

 

 「上...? というと、このセンターのかい? 所長なら会議中だから少し待たせることになるよ」

 

 「いやそっちじゃなくて、もっと上......特異体質に目を付けて私を()()()()()()したアイツだ」

 

 「〈ディアミド・イーガン〉評議員かい? 取り次ぐのはいいけど...何も無しには無理だ」

 

 

 何を調査しているのか、教えてくれるかい?

 先生はそう言って私たちを応接室へ案内し、依頼の内容を尋ねる。

 

 いくら私がアウトローでも、流石になんの説明も無しに取り次いで貰えるとは思っちゃいない。

 守秘義務に触れるところは端折って説明。

 “市長からの依頼で〔フィリップス邸〕のホロウを調査中で、原因となった『フィリップス邸の惨劇』に関する侵食医療的観点からの情報が欲しい”

 って感じで伝えた。

 

 マリアの情報も出てくると良いんだが...せめて計画の残党共の居場所くらいは欲しい所だ。

 私の復讐のためにも。

 

 

 「...なるほど、そういうことか。 市長直々とは...中々面倒な依頼のようだね」

 

 「そうなんだよ...相手が相手だし、ちゃんとやんなかったら首が飛びそう」

 

 「新エリー都はそこまで世紀末じゃないさ。 とにかく、確かに評議員クラスじゃないとあの事件の情報はアクセスできないだろうし...分かった、引き受けるよ」

 

 「助かるよ先生。 じゃあそっちは良いとして、聞きたい事なんだけど......先生さ、〈ロザリンド・グレイブス〉って知ってる? つか、覚えてる? 惨劇の後ここに搬送されたっぽいんだけど」

 

 

 つーわけで、次はロゼの事を聞かなきゃな。

 事件の情報は無理にしても、患者の事なら話してくれるかもしれない。

 アイツは「目覚めた時には病気が治ってた」とか言ってたが、染色体異常がそんな適当に治るとも思えない。

 母親や研究員(讃頌会)の仕業ってのは確実だと思うが...問題は()()()()()()だ。

 とはいえ “死人に口なし” ってことで、当時に治療を担当したヤツへ話を聞ければと思った次第だ。

 

 そして私の読みは当たった。

 どうやら当時搬送されたロゼを診たのがナル先だったらしく、初老も過ぎて年相応に朧気だろう記憶を掘り起こして話してくれた。

 先生が言うには...

 

 ○ストレッチャーに横たわるロゼに目立った外傷は無かったものの、短時間で大量の高濃度エーテルを浴びた事で侵食性ショック状態に陥っていた。

 ○直ぐに侵食治療を施して命の危機は脱したものの、エーテルに曝露しすぎた事で “高エーテル脳症” を発症、意識障害を起こし昏睡状態に陥る。

 ○手の打ちようが無く時間だけが過ぎる中、数日後に突如としてロゼが目覚める。

 ○検査の末に一切の後遺症が認められず、また『先天性体エーテル解離症候群』の症状も完全に消失......血液検査の結果にて当該染色体に未知の変異が確認されるも、その場で因果関係を判断するまでには至らず。

 ○侵食性ショック状態から高エーテル脳症を発症するも無傷の生還、不治の病『先天性体エーテル解離症候群』も原因不明ではあるものの奇跡的に完治。

 

 予防的に2か月ほどの入院で経過観察をするも問題無く、そのまま退院の運びとなった...と。

 聞いた限りじゃあ ”高濃度エーテル” ”未知の変異染色体” を当たるべきか。

 エーテルの方は邸宅ホロウへ直に入って調べるしかねぇから後回しだな、先にイーガン評議員に会って染色体の方を当たるか。

 

 

 「ンナ...ンナ、ワタ(なるほど...聞く限りは奇跡の生還、って感じだね)」

 

 「助かって良かったと思う反面、未だに助かった原因が分かっていないのは...医師としては情けない限りさ」

 

 「変異した染色体とやらが怪しいってのは間違いないんだろ? マジで何一つ分かんねーの?」

 

 「マジで何一つ分からないんだ」

 

 「マジでか」

 

 「大マジだよ」

 

 「マジかよぉ」

 

 「ンナタ(それは拙い(マジィ)ね)」

 

 「「.........」」

 

 「ン、ンナナァァァ~!(な、なんで白けるのさぁぁぁ~!)」ポカポカ

 

 

 はぁぁぁぁぁっレミーかわえぇぇぇぇぇ...!

 ウチの相棒が可愛すぎる件っ。

 おーヨシヨシ、恥ずかしかったねー、白けちゃったねー、悔しいねー。

 抱っこしてやるからこっち来な、撫でくり撫でくり。

 

 

 「まあ、冗談は置いておくとして────正確には、未知すぎてどうアプローチしたらいいか分からないんだよ。 既存の手段では存在は確認できても解析が出来なくてね、スタートラインにすら立ててない」

 

 (そりゃそうだろうな......ヘーミテオス関連のアレコレは今となっちゃロステク*2みたいなもんだし...)*3

 

 

 ロゼの染色体変異に関してはマリアの『第2次親和型異化統制計画(プロジェクト・ヘーミテオス)』の産物だろうから、技術的にドン詰まりになるのも当然だ。

 ぶっちゃけ、イーガン評議員がどの程度情報を持ってるかも期待できそうにない。

 染色体に関しては無収穫でも、マリアや “惨劇” の方は情報を引き出したいところだ。

 

 因みに、体エーテル解離症候群に関する医療の発展に関してはロゼの提供してる検査データや血液等が役立っているそうだが、それに謎の変異染色体は全く関与していないそうな。

 なにも解って無いんだし、当然っちゃ当然だ。

 

 というか、進捗があったら、あって()()()()()

 最後に行きつくところは、私の────

 

 

 「...」

 

 「...ナンナ?(...リンダ?)」

 

 「...なあ、先生。 もういっこ聞いても良いか?」

 

 「? なんだい、リンダ君?」

 

 「単刀直入に聞くんだけどさぁ...

 

 

 

 

 

 親和型異化統制計画(プロジェクト・ヘーミテオス)

 

 

 

 

 

 ────聞き覚え、ないよな?」

 

 

 「ナッ...!?(えっ...!?)」

 

 「プロジェクト...ヘーミテオス、かい? 何がしかの研究プロジェクトなんだとは思うが...俺の覚えてる限りじゃあ検討がつかないな」

 

 「ナッ...(ホッ...)」

 

 「...ナル先でも、知らねー事あんだな」

 

 「当り前だろう、この仕事は生涯勉強だよ。 それで、そのヘーミテオスとやらがどうかしたのかい? 財団からの依頼かい?」

 

 「財団は関係ねーんだ、知らんならそれでいいし。 忘れて欲しい」

 

 「...そうかい? 力になれず済まないね」

 

 「いやいや、全然。 そんじゃ、イーガン評議員へのアポ、頼んでいい?」

 

 「ああ、いいとも。 今、連絡を取るから待っていてくれ」

 

 「りょ。 ...っと、私ちょいトイレ行ってくるわ。 おいでレミー」

 

 

 ボンプと連れションなんて聞いたこと無いよ...

 そうボヤく相棒と共に部屋を後にしてトイレへ。

 行きがけに飲んできた新発売のエナドリが効いてきたわ、短時間でカフェイン300㎎はエグすぎたか。

 スッキリしながら午後の予定でも詰めますかねー。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 「────忘れて欲しい、か...」

 

 

 鳴滝Dr.はリンダたちが出ていった扉に視線を向けたままそう呟く。

 ある種の失望にも近い感情が滲んだ声音で、彼女をどこか見透かすように。

 

 

 「主治医になってからもう何年だ......ディアミドに直電で頼まれて君を診た時、俺がどれだけ驚いたか」

 

 

 リンダの特異体質 “あらゆる毒性に対する強力な自浄作用を持つ白血球” 、それはエーテルの毒性ともいえる “侵食” にすら効果を発揮する。

 

 ジョナサン財団肝入りの侵食医療センターで『最上級専門医』にまで上り詰めた、新エリー都でも指折りの侵食治療専門医〈鳴滝 恵一郎〉。

 侵食医療一筋で20年以上のキャリアを積み上げてきた彼でも、彼女の特異性には驚愕を禁じえなかった。

 そして、リンダ・ブラッドの他者との相違点がそれだけで無い事も、知っていた。

 

 

 「君の身体の()()()には、とっくのとうに気付いているんだよ? リンダ君...」

 

 

 それはエーテルに対する肉体の親和性の高さ。

 本来、この世の道理として絶対に相容れない筈のエーテルが、リンダ・ブラッドにとってはまるで己が血肉同然なのだ。

 かつてのアルゴスホロウ暴走で孤立した九分街を守った時や、ついこの間の『刀耕作戦』で[ニネヴェ]を撃退した時の様に、重度の侵食を受けても後遺症無く回復してしまう程だ。

 

 本来、常人では確実に手遅れなレベルの侵食だった。

 そしてそれは彼女自身の体質を以ってしても尚.........というのが鳴滝Dr.の所感であった。

 主治医として侵食医療センターに搬送されたリンダを治療した彼は、他の患者との()()に言い様の無い違和感を抱いた。

 

 そのデータがまるで、()()()()()()を表している様で────。

 

 

 「リンダ君......いつか、君自身の口から告白してくれる時が来ると......信じているよ」

 

 

 他の何でもない、リンダ・ブラッドの主治医として、彼はそう願う。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 「────オメーよぉ、そこかしこで充電しようとすんなよなぁ、毎日ウチでしてんだろーが」 

 

 「ン~ナ、ナン。 ナナン!(え~良いじゃん、違う味も愉しみたいもん。 ここのは丸味があって美味しいよ!)」

 

 「味って...お前そんな食べ歩きじゃねーんだからよ...」

 

 

 そもそも電気に味ってあんのか? こいつ等なら分かんのかね?

 ...そういや、コイツの為にマルセルグループの最高級充電スタンド設置したけど、偶に居ねーときあんだよな。

 なのに満タンになってんの。

 ホラーかな? とか思いつつあんま気にして無かったけど...

 

 

 「お前、アレどこ行ってんの?」

 

 「ナ? ンナン(え? ウチの格安充電ステーションだけど)」

 

 「それ絶対私のサイフから出してるよなぁ!?」

 

 

 確かにウチの敷地には格安充電ステーション設置してるけども。

 あくまでも恵まれないボンプへ向けて慈善的にやってる事で、お前の味変の為に使うもんじゃねーの。

 

 ちなみに、収益が貯まると充電1回無料になるぞ!

 ディニ―が無い子に譲ってあげてね! 

 

 

 「小銭減ってんのは把握してたけど、そんなことに使ってたのか...」

 

 「ワタタ(すっきりして角の取れた塩味が美味しいんだ)」

 

 「レミントンさん、アナタ出禁です」

 

 「ナーナー(ブーブー)」

 

 「ブー垂れてもダメダメ。 お前は恵まれた側のボンプなんだから、与える側なんだぞ?」

 

 「ナ...ンーナ(むぅ...はーい)」

 

 「はい、よろしい」

 

 

 そんなわけで戻ってきたぞ、この無敵美女が。

 素直に評議員を出してもらおうかっ。

 

 

 「戻ったぜぇ、ナルせーん」

 

 「ンナッ(ただいまっ)」

 

 「────ああ...たった今戻りました。  リンダ君、イーガン評議員が御多忙でね...電話でなら今少し話せるが、どうかな?」

 

 「モチ! 全然良いぜ先生、ありがとな」

 

 「────問題無いようですが、宜しいですか? ええ...はい、では代わります。  ほら、リンダ君」

 

 

 先生からスマホを受け取る。

 電話口の相手は、私が身を寄せているジョナサン財団の上役である〈ディアミド・イーガン〉評議員。

 侵食医療の発展という名目で、私の体質に目を付けてヘッドハントした胡散臭い中年。

 ナル先とは大違いだ。

 

 

 「もしもし、お電話代わってリンダでーす」

 

 〚────久しいな、ミス・リンダ。 息災かね? 先の『刀耕作戦』では随分と無茶をしたようだな〛

 

 「あー、その節はどうも...」

 

 〚人の口に戸は立てられん、と言う諺がある。 秘匿するのも骨が折れるのだが...はてさて、何本残るのだろうな? んん?〛

 

 「ありがとうございました。 助かりました。 次からはバレない様にやります」

 

 〚是非、そうしてくれたまえ〛

 

 

 くっそ~、やっぱ詰められたか~。

 刀耕作戦で私が異化したヤツ、あれに関する緘口令や映像記録の廃棄に情報統制......全部イーガン評議員が手回ししたっぽいんだよ。

 雅のエピソード「虚狩りが生まれた日」のアルゴスホロウ暴走に巻き込まれた時、あの時も異化使ったけど今回みたいに誤魔化してくれたし、その他にも...アレとか...コレとか...

 ぶっちゃけこの人にはあんまし頭上がんない、そもそも刀耕作戦に私をねじ込んだのもこの人なんじゃねーか?

 全く気にして無かったけど。

 朱鳶ちゃんのお願いだから頷いたまでだし。

 

 

 〚さて...予定が立て込んでいてね、早速本題に入らせて貰うが...私に何を聞きたいのかね?〛

 

 「今、市長からの依頼で『フィリップス邸の惨劇』について調査中で...薬剤と患者に関して侵食医療的観t〚違う、そうではない〛 ...はい?」

 

 〚立て込んでいると言った筈だな? ミス・リンダ。 彼に伝えたのが建前だという事は察している、単刀直入に言いなさい〛

 

 

 私たちの間に腹の探り合いなど必要ない、そうだろう?

 イーガン評議員はそう言って私にターンを回す。

 

 

 「.........まずは、マリア・()()()()()に関して、現存する全情報が知りたいっす」

 

 〚ふむ、“フィリップス” でなく “グレイブス” か......独身時代の情報となると然程多くは無い。 直ぐに君の自宅へ資料を送らせよう〛

 

 「あ、今フィリップス邸に滞在中なんでそっちにオナシャス」

 

 〚ああ、なら信書で送らせよう。 そして薬剤『ELIXER type.R』に関しては、全数廃棄の上に登録抹消となって久しい......精々、製造禁忌薬として名簿に名と効果の記載があるくらいだ〛

 

 「そうっすよねぇ~......じゃなきゃ存在を抹消した意味無いっすもん」

 

 〚そういう事だ。 マリア・フィリップスと協力関係にあった讃頌会を当たるべきだろうが、そちらに関しても力にはなれん〛

 

 「マリアの情報だけでも有難いっすよ、全然前進してるんで。 後は私の方でなんとかするっす」

 

 

 

 

 

 リンダはマリアの情報を得る為、侵食医療センターへ訪れ主治医である鳴滝Dr.を頼った。

 彼を通じてアポを取った人物は、その特異体質を見込んでリンダを財団へスカウトした張本人〈ディアミド・イーガン〉評議員。

 

 

 刀耕作戦で冒した無茶を詰められつつ事情を話し、マリアの結婚前...グレイブスの姓を名乗っていた頃の情報を得る事に成功。

 ロザリンドの母の独身時代の名、マリア・グレイブス。

 市長によると、リンダを産んだ『親和型異化統制計画(プロジェクト・ヘーミテオス)』の技術協賛企業にその名があるという。

 

 

 イーガン評議員が齎す情報と彼女がこれまでの人生で集めてきた情報。

 それらを合わせれば、依頼は勿論きっと自分の復讐にも進展が生まれるハズ。

 (誰一人逃がさねぇ......3()()()なんて冗談じゃないからな)

 瞳の奥に炎を燃やすリンダは、この依頼の結末がロザリンドにとって少しでもポジティブなものになる事を願うのであった。

 

 

 〚ところで...ミス・リンダ、先程から気になっていたのだが〛

 

 「はい?」

 

 〚その人を嘗めたような敬語はどうにかならんのかね?〛

 

 「なんないっすねー」

 

 

 

*1
エーテルを含む毒性に対する強力な自浄能力

*2
ロストテクノロジー

*3
旧都陥落時にリンダが研究施設ごとブッ潰(殺)した




 それからというもの



 “未知の変異染色体” についても特に情報を得られなかったリンダとレミントン。
 ロザリンドの身辺にチラつくストーカーが属する医療機器メーカーについて尋ねた後、侵食医療センターを後にした。
 マリアへ技術供与した讃頌会の者たちとストーカーに因果関係があると踏んでいるリンダは、イーガン評議員からの資料を待って対処する事に決め、先んじて邸宅ホロウを調査する旨をロザリンドへ電話で伝えた。


 車を走らせフィリップス邸へと戻ってきた2人。
 小休止も兼ねたティータイムを挟み、戦闘準備を済ませてロザリンドと共に庭園へ出ると一同の足は本館に向かう。
 近づくにつれ、初めて見た時と同様の異様な不快感を感じるリンダ。
 一筋縄ではいかなそうだとニネヴェ戦以上に警戒を強め、邸宅ホロウへと挑む。



 「────んで、確認だけど...地上階は無視でいいんだな?」

 「ああ。 再活性が始まってから入る頻度は上がっていてね、地上階はチェックし尽くしたけれど代わり映えはなかったよ。 エーテルの活性率や濃度すらもね」

 「ンナ...ンナナ?(ってことは...再活性って地下の話なの?)」

 「そうだよ、原因が潜んでいるとすれば地下だろうけど...茨の様な触手で閉ざされていて中々入れなくてね」

 「閉ざされてる割に変異エーテリアスは出てくる、ってのが気なるが......とりあえず、入ってみますか」


 行くぞレミー、ロゼ。
 リンダの掛け声に2人が応じ、フィリップス邸本館の大きな門扉を潜ろうとした時。
 ロザリンドがリンダを呼び止め、一言...意味深な忠告を与えた。


 「────リンダ」

 「ん? どした?」

 「......時には、ただ立ち去ることも最善の策だよ」

 「...? ああ、肝に銘じとくぜ」


 そうしてホロウ内部へと侵入する。
 空間を満たすエーテルが肌を撫でる独特の感覚と共に、ジョージアン様式の古典的な美しさと重厚感のある内装が目に入る。
 大理石の床や一対のサーキュラー階段、ベルベットやエキゾチックウッドのインテリア、天井には大きなシャンデリア。
 そんな、かつての栄華を感じさせる光景は約10年にも渡る長い侵食と経年劣化、そして戦闘によって見るも無残な状態を晒していた。


 「ンナ、ンナ...(仕方ないとはいえ、かなり滅茶苦茶だね...)」

 「初めの内は無意識に家を庇ってしまってね、上手く戦えずに隙が出来て...生傷が絶えなかったよ」

 「想像するとちょい間抜けな話だな」

 「ワタ―!(デリカシー!)」

 「あっはは。 大丈夫だよレミー、とっくに割り切ってるさ」

 「そうだぞ、私なんて九分街でしょっちゅう壊してるぜ。 電柱引っこ抜いてブラストスパイダーで野球した時は楽しかったなー」

 「あ~、分かるよ。 エーテリアスを牽制するのにバカ高い花瓶を投擲した時は快感だったなぁ」

 「そんなお嬢様然としてて、意外とワイルドな戦い方すんだな」

 「ナ、ンナ?(ちなみに、その花瓶の値段って?)」

 「んーっと、確か...90万ディニ―くらいだったかな」

 「「たっっっっっっっか!?」」

 「レミー...今...君、喋らなかったかい...?」

 
 あまりのハイエンドな価格に思わず声が出てしまう1人と1匹。
 ロザリンドのもっともな驚きと疑問を残してエントランスを抜け、本館最奥の地下研究室へ続くエレベーターに向かう。
 近づくにつれて破壊・侵食痕が激しさを増していくが、それに反してエーテリアスの気配は微塵も無い。
 不気味なほどに。


 「...ンナ(...出ないね)」

 「...出ねぇぞ」

 「...おかしいな。 こんなに静かなのは初めてだよ...嫌な予感がするな...」

 「なんか心当たりあんの?」

 「いや、無い...勘だよ」

 
 ロザリンドは守り人となってから初めて経験する不気味な程の静けさに、言い様の無い不安を抱く。
 そんな中、リンダから一つ質問が飛ぶ。


 「なぁ、ロゼ? 変異エーテリアスってどうやって生まれるんだ? 外観は()()()()()()()って聞いてるけど」

 「そうだね...僕が思うに、一からソレとして生まれるのではなくて、既存のエーテリアスが何らかの要因で変化しているんじゃないかな。 同じ種の生物でも、環境によって特異な進化を遂げる事があるようにね」

 「つまり、良く分からんと」

 「...正直に言うとね、予想している答えはあるんだ。 でも......この目で確認するまでは、口に出したくない...情けなくて済まないね」

 「......いいさ、それで。 一緒に確かめようぜ、私がついてる」

 「ンナワタ!(ボクも傍に居るよ!)」

 「...2人共、ありがとう」


 それからもエーテリアスのエの字も無いまま地下へ続くエレベーターホールへと到着。
 その扉はロザリンドの言う通り茨の様な触手が幾重にも絡まり侵入を拒んでいる。


 「ナタ、ナタ。 ンナナ?(ロゼ、ロゼ。 非常階段は?)」

 「残念だけれど完全に崩落していて通れないんだ。 そのせいで研究室には一度も入れず仕舞いでね...」

 「10年物の開かずの間、って事か......まぁ、とりま────駆けつけ一発ッ!!」デストロイヤァァァ!!

 「ワタタ!?(それ意味違う!?)」


 ドガァン!!
 リンダの代名詞『エーテル結合破壊攻撃(デストロイヤー)』が触手に炸裂する。
 増幅されたエーテルと共に打ち込まれたリンダの免疫細胞は、触手を構成するエーテルを瞬時に攻撃。
 着弾箇所から光と共に広がるヒビは勢いそのままに触手を破壊する────が...直ぐに再生してしまう。


 「おんや、こりゃ頑なだな」

 「こういうことさ。 ただでさえ堅いのに、それに加えて再生するんだ」

 (多分、この感じなら異化すりゃ一発だが......コイツの前だしなぁ...)

 「ワタンナ────ナンナ!(これじゃあ地道に瓦礫を退かすしk────って...2人とも、見て!)」


 一同がどうしたものかと頭を悩ませる中、何かに気付いたレミントンが声を上げる。
 視線の先にあったのは、扉を固く閉ざしていた触手が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()光景だった。
 まるで、来客を歓迎するかのように。


 「これ、は...」

 「ンナン...(通れるようになった...)」

 「入ってくれ、ってか? 上等だ、行くぞお前ら」

 「...了解。 最大限、警戒するよ」

 「ンナワタ(常駐モードでサーチ、実行)」


 各々が警戒を強めてエレベーターへと搭乗、一つしかない階層ボタンを押すとカゴはどんどん降下していく。
 近づくにつれて加速度的にエーテル濃度が増していく、エレベーターが止まる頃には既に常人であれば侵食症状を免れないレベルにまで達していた。

 チン...
 静寂に響くチャイムと共に扉が開く。
 天井の所々でライトがチカチカと点滅する薄暗い空間。
 そこは〔フィリップス邸宅ホロウ 研究開発エリア〕
 検査機器や培養器の数々、多くの試験管や漏斗等の実験用器具、白衣にゴム手袋。
 典型的な研究室然とした光景は当時の爆発の衝撃でほとんどが原型を留めておらず、目立つのは紫暗に輝くエーテル結晶と辺りを這う茨の様な触手だけ。

 地上階とは明らかに違う、異様な空気をひしひしと感じる3人。
 間違いなく、何かが()()
 目配せで離れない様に伝えると、リンダを先頭にして進んでいく。


 「ここまで来てもエーテリアスは無し、か...」

 「ワタンナッ(間違いなく “嵐の前の静けさ” だよっ)」

 「そうだね。 気を抜いちゃダメだ、絶対に何かがある」

 「...ナ、ンナナン...?(...ねぇ、帰りのエレベーター大丈夫だよね...?)」

 「.........壊れるまでは大丈夫だよ」

 「ンッナ!?(ちょっと!?)」

 「そうなったらシャフト駆け上がって撤退するから、そのつもりでいろよ」

 「ナンナ、ナン(リンダ、だこちて)」

 「お前は飛べよ」

 「ンナナ!(そうだった!)」

 「根っこは甘ったれだよなぁ、お前」

 (激カワ...!)


 こんな異様な空間でさえも、口を開けば軽口が出るリンダ。
 シリアル系ヒロインの面目躍如もありつつ、レミントンのサーチとリンダの感知能力で先に進んでいく。
 やがて、開けた大部屋へとたどり着く。
 壁のプレートには⦅Advanced Culture Lab(高度培養室)⦆の文字。
 リンダとレミントンがどちらともなく目を合わせる、2人の意見は同じだった。
 ここに、何かが、居る。


 「ナンナ、ワタ(リンダ、ここだ)」

 「異議無し。 ロゼ、この場所は?」

 「高度培養室......治療薬の研究開発において、臨床を通過した試験薬から採取した細胞を解析・改良したりして培養する場所だよ」

 「ってことは... “ELIXER type.R” が保管されてた場所ってことか」

 「爆発で吹き飛んでるとはいえ、何があっても可笑しくはない......十二分に気を付けておくれ」

 「...! ンナンナ、ワタ!(...! 中に正体不明のエーテル波を確認、気を付けて!)」

 「了解......開けるぜ────」


 人感センサーの死んだスライドドアをリンダが片手でこじ開ける。
 他と変わらず薄暗い室内、ここで起きた爆発で破壊されたであろう機械や器具にデスク等の破片が散乱している、その奥。

 一際暗いそこに、異形の影があった。

 壁・天井・地上、至る所から伸びる茨の触手はナニカを宙に拘束している。

 チカチカと点滅するシーリングライトが一際長く室内を照らし、その存在が露わになる。

 辺りの結晶と同じ色...紫暗の光が体に奔る黒い体表に白い外殻のソレは、触手を纏っていても人型と分かる。


 「ンナ...(人型の...)」

 「...エーテリ、アス...?」

 「......っ...!」

 「...ロゼ、お前が倒した人型の変異体ってあんなk────ロゼ...? 大丈夫か?」

 「っ...ぁ、ぁあ。 大丈夫だ、済まな【Ghiiaaaaah !!】 っ!?」

 「なんだっつーの!」

 「ンナナ! ン、ンナ...ワタ!?(エーテル反応が急速に活性化! エ、エーテル波の反応が...2()()!?)」
 

 照らされた異形の人型エーテリアスの絶叫と共にエーテル活性が急上昇。
 体に奔る紫暗の光は強さを増し、不気味に蠢く茨の触手が変異体に到達する。
 するとビクンッと跳ねる様に身体を仰け反らせたかと思えば、ボコボコと蠢きながら見る見るうちに下腹部が膨張していく。

 恐怖、背徳、驚愕......その名状しがたい光景に皆がその場を動けずにいる中、変異体の絶叫が再び響き渡る。
 空気を震わす混沌と共に、茨の触手によって大きく開かれた股からズルリと────紫暗に発光する()()()()()()()()

 それは蠢きながら辺りの結晶や侵食された物質を取り込んで肥大化していき、やがて[4本腕のデュラハン]へと変貌を遂げる。


 「ナッ...!? ン、ンナ!?(なっ...!? い、一体なにが!?)」

 「変異、エーテリアス...!?」

 「アイツ、エーテリアスを────()()()()()()()のか...!?」


 戦闘態勢を取りつつも驚愕が抜け切らない一同。
 母胎となった人型の変異体は下腹部の膨張が収まり、今は沈黙している。
 代わりに変異デュラハンの咆哮が響き渡るも...

 ...次の瞬間には、母親共々リンダにコアをぶち抜かれ、絶命していた。


 「────態々(わざわざ)、口上が終わるまで待つかよボケが」

 「リ、リンダ...! 済まない、咄嗟に、動けなかったよ...」

 「良いんだ、“私がついてる” って言ったろ。 頼れよ、御令嬢」

 「ンナ! ンナナ! ワタタ!(マズいよリンダ! エーテル波の反応が増加中! このままじゃ多勢に無勢だよ!)」

 「今頃おでましか、クソッタレが!」


 デュラハンを皮切りに、研究開発エリアのあちこちで茨の触手から紫暗のエーテリアスが産まれていく。
 不幸中の幸いにも、レミントンによればその反応はデュラハン程ではない様子。
 急展開のピンチの中で、リンダはたった今 “出産” を果たした人型の変異体に対し、強烈な嫌悪感を抱くと共にある種の既知感を感じていた。


 (()()()......あまりにも...)


 脳裏に浮かぶのは、かつて自身が囚われていた研究施設。

 何人もの兄弟姉妹を産み落とした、悍ましき聖母の(はら)


 (アレは...間違いなく『親和型異化統制計画(プロジェクト・ヘーミテオス)』の産物だ)

 「ナンナ、ワタ...(リンダ、さっきのアレってさ...)」

 「...ああ、そうだろうな」


 レミントンの控えめな言葉を察し、首を縦に振るリンダ。
 そしてもう一つ、彼女の脳裏をよぎった名前があった。
 それは原作ストーリーにおける重要なワードで、核の一端を担う設定。
 『ELIXER』の名が付く薬品を投与された、という共通点を持つ怪物。

 主への生贄(サクリファイス)


 「ワタン...? ナ、ンンナ!(エーテル波の増加が止まった...? でも、こっち目掛けて向かってきてる!)」

 (技術協賛企業のマリア・グレイブス、か......このまま進めるのは博打が過ぎる)

 「ナンナ! ワタタ!(リンダ! どうするの!)」

 「────撤退だ。 向かって来る(ゴミ)を掃討して活性を下げつつ、ホロウを脱出する」

 「ンナ!(分かった!)」

 「行くぞロゼ! ...ロゼ?」


 誕生したエーテリアスが一斉に向かって来ている中、変異デュラハンと母体の人型変異体を倒した為に一先ずの撤退を決めたリンダ。
 〔高度培養室〕に入ってから様子のおかしいロザリンドを気にかけ振り返ると、彼女は部屋の奥...人型変異体のいた辺りにしゃがみ込んで何かを見つめている。


 「...っ! ......っそぉ...な、んでだよ...!」

 「ロゼ! なにやってんだ、行くぞ!」

 「...っ...ぁあ!」



 禍々しい分娩室となってしまった部屋に背を向けて、エレベーターへ向かって走り出した3人。
 次々に襲い来るエーテリアスを砕き割り、撃ち抜き、斬り裂きながら、薄闇の異界を疾駆する。
 道中でチラホラと視界に入る、色を失い垂れ下がった茨の触手。
 

 あそこから産まれたっぽいな。
 地上階の変異エーテリアスは触手から発生してたのか。
 あの見た目を真に受けるなら...ああなればもう産み出せねぇって感じか。
 限界がある上にエーテル由来なら、私の能力で不活性化出来るハズだ。
 確実性を上げる為にも情報が必要だ。
 

 エーテリアスを処理しながら並行して思案するリンダ。
 扉の前で最後の一体を倒し、3人はエレベーターに乗り込んで地上へと昇る。
 落ち着いたせいか、思いもよらない衝撃的な光景を思い返し口数が減る。
 そんな中、エレベーターの動作音に交じってロザリンドの声音が漏れる。
 彼女は、侵食の進んだ古ぼけたペンダントを見つめて呟いた。


 「────クソッ... 間違いないっ......あれは〈エイリーン〉だった...」

 「...ロゼ。 それって、つまり...」

 「ぁぁ......っ変異体の正体は、“ELIXER type.R” によって異化した人間





  ────僕の、家族だ...!!」


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