血に交われば薔薇になる   作:サンオツボンプ

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あと2~3話で2章を終わらせたいところ。
そしたら間章を1話挟んでから3章「危うし、高楼の夜」へ。
そこからは4・5章と原作ストーリーへの関与を増やしていって、「輝きのモーメント」を越え「シルバーの復活」の後にやっとリンダとロゼの “特別劇場” に到達する予定。

つまり、この章が終ればあとは暫く原作沿いなので投稿頻度は上がるはずです...



「何となく、理解っちゃいたんだ...」

 スロノス区 フィリップス邸 別邸

 

 

 

 本格的に調査を開始したリンダとレミントンは情報を得る為、ヤヌス区 近郊の工業地区にある〔侵食医療センター〕を訪れた。

 自分の主治医である〈鳴滝 恵一郎〉Dr.から搬送当時のロザリンドの様子を聞いたリンダは、彼女が暴露したという“高濃度エーテル” と、血液検査で発見された “変異染色体” がカギと踏む。しかし、彼女の不治の病が治癒した原因は不明であり、変異染色体も未だに未知のままだという。

 リンダを財団へスカウトした〈ディアミド・イーガン〉評議員を頼るも、情報は得られず謎が残る結果に。

 マリアの独身時代の資料を送る約束を取り付けて、その場を後にする。

 

 

 邸宅へ戻った2人は『守り人』であるロザリンドを戦列に加え、件の “高濃度エーテル” を含む内部調査の為に邸宅ホロウへ突入。

 やけに静かな室内を通り抜け地下へと続く開かずのエレベーターへ向かうと、扉を塞ぐ触手が一同を招くように解けていく。

 警戒しつつ地下の研究開発エリアへ侵入...紫暗の結晶が生え茨の触手が這う室内を、爆発による瓦礫を踏み越えて進む。

 

 

 リンダの感知能力とレミントンのサーチでたどり着いたのは〈高度培養室〉という一室。

 「中に何か居る」......2人が口を揃えて警戒を促す。

 突入すると中に居たのは、触手に捕らわれた人型の異形。

 体に紫暗の光を奔らせるソレは、空気を震わせるほどの絶叫と共にエーテリアスを出産する。

 名状し難い光景に動揺しつつもリンダの先制攻撃が炸裂、ソレらを倒すも地下のあちこちでエーテリアスが突如発生する。

 

 

 戦略的撤退を選んだリンダは一同を連れてエーテリアスを排しつつエレベーターへ。

 地上へ昇っていくカゴに沈黙が満ちる中、ロザリンドの感情的な声が漏れる。

 曰く、あの人型の異形が彼女の家族なのだと。

 残酷な事実を受け止めきれないままにホロウを脱出し別邸へ帰還。

 ロザリンドを心配したリンダは、一足早く今日の活動を終え落ち着くことにするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 「────待たせてしまって、済まない」

 

 「いいって。 それよか......大丈夫か?」

 

 「思ったよりは、ね...」

 

 

 あの後、特に襲撃も無く邸宅ホロウを脱出した私たちは別館に戻った。

 ロゼが誰から見ても分かるくらい憔悴してたから休ませて、私たちも装備を置いてラフな服に着替え休息モードに。

 応接間で、ボンプ用ケアキット*1でレミーを手入れしてると、ロゼが少し疲れたような顔でやって来た。

 

 

 「ナタ、ンナ...?(ロゼ、平気...?)」

 

 「ああ、平気さ。 ありがとう、レミー」

 

 

 心配して駆け寄っていったレミーの頭を撫でる慈愛顔のロゼ、う~ん...てぇてぇ。

 ティーカップに紅茶を注いで渡してやると、一口飲んで何かに気付いたように私を見る。

 

 

 「これ...もしや、君が淹れたのかい?」

 

 「そっ、最近コーヒーから紅茶に変えてな。 自前のヤツ持参してっからお湯だけもらった、どうよ?」

 

 「ンナタンッ(舌の肥えたロゼにはイマイチかもねっ)」

 

 「コイツめ...味わえもしねぇクセに...!」

 

 「いやいや、凄く美味しいよ。 この繊細で軽やかなベルガモットの香り......Varney&Boys(ヴァ―二―&ボーイズ)のホワイトアールグレイだね。 隠し味も入ってるだろう?」

 

 「流石は御令嬢......澄輝坪産のフォレストハニーを少しな、超美味いだろ」

 

 「ああ、気に入ったよ。 それにしても驚いたな...ちょっと意外だ」

 

 

 そう言うロゼはお世辞じゃなくマジで気に入ったようで、そのまま飲んだりスコーンやケーキなんかのティーフードと合わせてペアリングを楽しんでいる。

 う~ん...にしても、なんつーか。

 こう...褒められんのも気に入ってくれんのも嬉しいけど......反応される度にちょっとずつディスられてるような気がするのは気のせいだろうか。

 「このナリと人格で趣味が “ お紅茶” なのは草」みたいな。

 

 

 「ンナナ(“馬子にも衣裳”*2 って感じ)」

 

 「...“朱に交われば赤くなる”*3 んだぜ?」

 

 「ワタタ(“尻切れトンボ”*4 にならなきゃいいけど)」

 

 「ん...? ああ、違う違う、そういう事じゃなくて」

 

 「ナナ?(どゆこと?)」

 

 「赤くなるのはお前だレミー...!」 ゴゴゴゴ...

 

 「ンンンンナァァァァ!(うわわぁぁぁ殺られるぅぅぅ!)」 キャッキャッ

 

 「ふっ...んふふふっ! ...っもう、吹き出すとこだったじゃないか! 笑わせないでおくれよ!」

 

 

 相棒のお手入れしたてのツヤぷるボディをプニっていると、紅茶の氾濫という惨劇を回避したティータイム中のロゼが笑顔交じりに文句を言ってくる。

 うん、よしよし、この調子ならもう大丈夫だな。

 

 

 

 「落ち着いたか、ロゼ?」

 

 「心配しすぎだよ、平気と言ったろう?」

 

 「私にはそう見えなかったんでな」

 

 「...本当に、見かけによらないね、君は────」

 

 

 ────何となく、理解(わか)っちゃいたんだ...

 

 観念したような顔でロゼが言葉を続ける。

 

 

 「邸宅ホロウの再活性から程なくして[双頭のハティ]の様な変異エーテリアスが出現し始めてね。 その時はまだ “ここのエーテルに通常種が中てられた” としか思わなかったけれど...それがある時を境に、人型に近い個体が現れるようになった」

 

 「ある時...か」

 

 「ンナワタタ...ナ?(元凶のエーテリアスが再活性で元気一杯になったから...とか?)」

 

 「()()を考慮すりゃ、そう考えるのがしっくりくるな」

 

 「それに関しては僕も同感だ。 人型とは言ってもエーテリアスには変わりない、けれど...個体毎に妙な特徴があってね」

 

 

 ロゼは腕やお腹を捲くって、素肌を指さして語っていく。

 

 

 「例えば、最初に見た個体は “左腕下腕部の一部に一定範囲の変色” 、2体目の個体の腹部には “刀傷のような傷痕”。 そしてさっきの個体は...このペンダントを持っていた」

 

 

 そう言ってロゼは無機質な対侵食ケースに入ったペンダントを差し出してきた。

 〈エイリーン〉さんとやらのペンダント、だよな...?

 やっぱ、こいつが倒してきた人型変異体は全部...

 

 

 「使用人の〈セーラ〉...彼女は調理中に油が掛かって、()()()()()()()()()があった」

 

 「ンナ、ンナ...(腕の火傷、それって...)」

 

 「守衛の〈バリーおじさん〉...退役軍人の彼は、旧都陥落で派兵された際に()()()()()()()()()()()()()()()()そうだ」

 

 「......」

 

 「このペンダントはっ......僕が、()()()()()()()()()()()()だ...っ!」

 

 「ロゼ...」

 

 「......『惨劇』から今日に至るまで、被害者の遺体は発見されていない。 状況証拠でしかないけれど、あの人型の変異体がそうなのは...間違いないと思う」 

 

 

 正直、母さんが本当に消滅したかも疑わしく思えてくるね。

 ロゼはそう呟くと話を終えた。

 

 残酷な話だ...家族やそれ同然の人達を手に掛けるなんてのは。

 私がロゼの立場なら...どうだったろう。

 もし、大切な人があんなことになってしまったら。

 動揺して手が出せずに────いや、無いな。 私が例外なだけで異化したら終了だ、普通に倒すだろう。 涙ながらに。

 まあ私のことだし、悲しみや絶望よりも怒りの方が勝っちまいそうではある。

 

 九分街なら...サナミやトシキにジョージさんたち自警団の奴ら、いつも世話になってるタバコ屋のヨリばあちゃん。

 戦闘許可証絡みで定期的に会う朱鳶ちゃんたち治安局の人達、にっくき星見アンチキショ―率いる六課の面々。

 個人的に絡みの多いヴィクトリア家政、放浪時代に世話になった走り屋の皆。

 九分街は置いといて、エージェント共は殺しても死ななそうだ。

 というか...原作回避云々言ってる割にはメインキャラたちと縁が繋がり過ぎである。

 

 走り屋...と言えば、あの泣き虫アンちゃんは元気だろうか。

 放浪時代に郊外で一緒に暮らしてた時あったけど、いつの間にか居なくなってたんだよな。

 死に体で帰ってきた時にビビらせたかな...

 あの自己肯定感の低さで天涯孤独かつ泣き虫とかいう人生ハードモードな娘だったけど、息災でいて欲しいもんだ。 可愛かったし。 

 

 

 「すでのな...」

 

 「...? なんだい?」

 

 「...あ、口に出てた? スマン、思い出しただけ。 こっちの話」

 

 「ワタンナ(真面目な話なんだからちゃんとしてよね)」

 

 「へーへー、すんませんね。 ちっと、郊外時代のこと思い出しちまってな」

 

 「ンナナン(どんな流れでこの話から郊外に行き着くのさ)」

 

 「へー、キミ郊外に居たことあるのか。 容姿には一番合致してるね」

 

 「ガラの悪い無法者って言いてぇのかコラ」

 

 「ナンナワタァ!(リンダさん嘗めてんじゃねーぞぉ!)」

 

 「ええっ!?」

 

 「ナンナタァ! ワタタァ! ンナナァ!(リンダさんはなぁ! 出席した社交パーティでなぁ! ドレス着ておめかしして尚フロントで止められたんだぞぉ!」

 

 「溢れ出る蛮族オーラ...」

 

 「ネグリジェ一枚で表うろついて郊外のガキども軒並み精通させてやったんだぞぉ!」

 

 「何してるんだ君は!?」

 

 

 

 

 

 なんて感じで。

 相棒のテンションに乗せられ『リンダお姉さんのマル秘エピソード』を開示したあたりで、誰かが提案するでもなく自然と真面目な話に区切りをつけた。

 まるで今日これまで受けた混乱や衝撃の全てを今だけ忘れるかのように、私たちは雑多な会話へ花を咲かせる。

 

 

 夕食後、一緒に入った風呂でボーイッシュなロゼの()()()()()()()裸体を見て「エロすぎて滅っ!?」した私は、その温度差にすっかりのぼせてしまい久々にダウン。

 あられもない姿を晒した挙句、ロゼと使用人の人達に身体を拭かさせ服着させベッドへ運ばせ... 

 クソしょうもない迷惑の掛け方をした私はそのまま朝までグンナイ、どうもご迷惑をお掛け致しました様で。

 

 

 因みにその間、レミーは「コイツ、ホントにさぁ...」みたいな冷ややかな表情をたたえていた...のかと思いきや。

 朝日と共に目を覚ませば私のお腹の上でうつ伏せで寝ている相棒の姿が*5...以外にも普通に心配してくれていたらしい。

 なに、そのツンデレ。

 

 

 「ンナナ...ワタ―(まったくもう...ちゃんとしてよねー)」

 

 「悪かったって、ありがとな」

 

 「ナ、ンナ...ナ?(で、一夜明けたけど...ご感想は)」

 

 「あの双丘でボーイッシュは意味不明だわ」

 

 

 

*1
クロスやブラシ、コーティングクリーム等のセット

*2
どんな人でも、身なりを整えれば立派に見えること

*3
関わりによって、人は良くも悪くもなるということ

*4
物事が長続きしない人のこと

*5
いつもは苦しいからやめろと言ってる




 それからというもの



 後ろ髪引かれつつもふかふかのベッドから出たリンダ。
 粗野ではあれど一人前の大人の女性(レディ)...朝のシャワーを済ませブースター⇒化粧水⇒美容液⇒乳液と慣れた手つきでスキンケアを済ませ、仕上げにパタパタとフェイスパウダーを付けてベタつきを抑える。
 髪を纏めていたタオルを解きアウトバストリートメントを馴染ませると、難解なスペルのいかにも高級そうなブランドのドライヤーを借りて髪を乾かす。


 「......めんどいから下したままでいいか」
 とヘアセットをサボる事にしたリンダ、セミロングの綺麗な赤髪を緩くウェーブさせたまま服を着て庭へ出る。
 日課の散歩を楽しんでいたレミントンに合流し雑談しながらそれを終えると、使用人に促され朝食の席へと向かった。



 「来たね。 おはようリンダ、レミー」

 「ンナタ!(ロゼおはよう!)」

 「お見苦しい姿を晒してしまった様で、失礼いたしました」

 「まだ何も言ってないけれど......まぁ、自覚があるならいいんだ。 それに元気そうだしね」

 「そりゃあもう元気だとも、ええ(良いモノを見せて頂きました)」


 なんだろう、妙に他意を感じる様な気が...
 リンダの様子に含みを感じているロザリンドを余所に料理が並んでいく。
 野菜たっぷりのクネル入りミネストローネ,ローストビーフに付け合わせのマッシュポテト,旬の野菜のサラダ,オリーブ入りカプレーゼ,焼き立てのフォカッチャ。
 ドリンクはライムの添えられた炭酸水とブラッドオレンジのジュースがサーブされ、食後のデザートにはフルーツの冷製コンポートを添えたミルクジェラート。

 使用人の説明を聞いて、料理の数々に目を移すリンダ。
 ディナーかと見間違うような光景に思わずリンダは突っ込まずにいられない。


 「お前んちってさぁ...いつも朝メシこうなの...?」

 「ああ、昔からね。 朝こそしっかり食べるべし、ってのが父の方針だったのさ」

 「そりゃ同感だけどよ...こう、あれだな。 ちゃんとすると壮観だなぁ、と思って」

 「普段はどんなもの食べてるんだい?」

 「朝? こっち来た日の朝は残り物の豚汁と...あとは焼うどん焼いて食った」

 「なんだ、しっかり食べてるじゃないk────って()()()? 君、料理なんてするのかい?」

 「そりゃするだろ、一人暮らしだぞ私」

 「ハモンセラーノしか切れないのかと」

 「なんだって切ってやるよ、堪忍袋の緒とかどうだ?」

 「あっはは! 冗談だって、怒るなよ」

 「ン、ナナンッ!(あ、僕は怒ってるからねっ!)」プンスカ


 ロザリンドとリンダがじゃれている中、椅子の上で立ち上がったレミントンは腰に手を当ててプリプリと怒っている。
 リンダはそんな相棒へ身体を向き直して怒りの理由を問いかけた。


 「どしたのレミー」

 「どしたの、じゃないよ! ()()()()()って! 僕がいるじゃないのさ!」プリプリ

 「え~! お前そんなんでプリプリしてんのぉ~? かわいすぎぃ~!」ナデナデ

 「ワタンナ―!(撫でて誤魔化すなぁー!)」ワタワタ

 (げ、激カワ...!)


 どうやらレミントンは、自分という家族がいるのに一人暮らしと言い放ったのが傷ついた様子。
 流石にボンプ用のご飯までは作れないリンダ、 “料理をするのか” という問いに対して “自分の飯くらい自炊するわ” という意味で一人暮らしと口にしたのであった。


 「ンナナ、ワタナ(失礼しちゃうよ、まあ許すけど)」

 「ありがとレミー、ごめんねレミー」

 「ナ。 ンナンナワタ?(うん。 てかリンダも今度作ってみたら?)」

 「うーん...ボンプ用の食事はちょっと特殊だからねぇ...難しいと思うけれど」

 「大体、味も分かんねぇのに作り様がねーだろが」

 「ナ? ンナタ? ンナナン(え? レシピ通りに作るだけでしょ? 味分かんなくても平気平気)」

 「料理を舐めた発言ですねぇ...」


 などど話しているとレミントンの前へとボンプ用の食事が配膳された。
 使用人がメニューを説明し始める。
 ○超合金フライ「特殊配合メタルをホックリと仕上げました」
 ○新鮮フュージョンサンド「クリアな旨味にリアクション必至」
 ○季節のデブリスープ「季節のデブリをケミカル繊維で表現したスープです」
 ○不凍パルフェ「凝固点寸前のテクスチャーをお楽しみください」
 ○プラズマックスソーダ「ラジカルの刺激マックスな第四のソーダ」

 以上になります、それでは皆様、どうぞごゆっくり...
 そう言い残して去っていく使用人。


 「...所々キャッチコピーになってんぞ、説明じゃなくて。 あと一つも意味分かんなかったわ」

 「ボンプ食はそういう文化だからね」

 「いや、どういう文化だよ。 つかお前そっち側なの? 嘘だよな?」


 意味不明な謳い文句で紹介された皿に乗ったメカメカしい謎の物体を前に、レミントンは「ンナナー!(御馳走だー!)」と嬉しそうにがっつき出した。
 短い手で器用にカトラリーを使って、形容しがたい音を立てながら食事をするレミントン。
 (エレンちゃんとこの喫茶店でも思ったけど、マジで何で出来てんだよソレ...)
 と、食事風景を目にしたリンダは得体の知れないものへ人並みに恐怖を抱くのであった。


 「興味があるなら、ウチのシェフから教わるかい?」

 「...いや、怖いからいいわ、全然知りたくねぇ」

 「そ、そうかい...?」


 ぴしゃりと断ったリンダとそっち側のロザリンドも朝食に手を付け始める。
 窓の外から聞こえる小鳥のさえずりをBGMに、穏やかな朝食の時間が続く。


 「そう言えばリンダ。 君...髪下すとそんな感じなんだね」

 「どんな感じよ?」

 「なんかね...清楚で芯のあるお姉さん、って感じだ」

 「だろ? 私もそう思うわ」

 「不覚にも」

 「それは思わねぇわ」


 時折、雑談も交えながら食は進む。
 やがてリンダがお替りしたオリーブ入りカプレーゼを食べ終わった所で食事が終わり、もはやお馴染みとなった応接室へと場所を移した。
 食後のお散歩に繰り出すレミントンを見送った2人は、リンダの淹れたストレートティーと共に食休みがてら雑談に興じる。


 「────あ、てかアレだ。 ロゼのっぽいクレンジングとか化粧水とか諸々勝手に借りたわ」

 「ああ、構わないよ。 リンダの肌には合ったかい?」

 「バッチリだったぜ、デパコスのフラッグシップライン様様って感じだ」

 「下地不要のファンデとか出先で直す様のやつもあるからね、気軽に言っておくれ」

 「あー、今日は別にいいかな。 そんな大層なヤツと会う予定ねぇし、フェイスパウダーだけ付けたから大丈夫」

 「フェイs...えっ...? ちょ、ちょっと待ってくれ、リンダ...?」

 「あん? どしたのロゼ?」
 

 そのセリフを聞いて鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして呆けるロザリンド。
 リンダの顔をまじまじと見ると、確認するように問いかけた。


 「リンダ、き、君さぁ。 もしや今、スッピンなのかい...!?」

 「そう、だけど? なんか変?」

 「はあ!? 嘘だろう!?」

 「うわビックリしたぁ!?」


 スッピンだ、というリンダの返答に “あり得ない” とばかりに驚愕して声を上げるロザリンド。
 育ちのいい落ち着いた御令嬢、という印象からは考えられない取り乱しっぷりで言葉を投げつけていく。


 「冗談だろう!? 君みたいな粗忽者が...!?」

 「おいコラァ! それどういう意味だぁ!」

 「そっ、その透明感でスッピンなんて...有り得て堪るものか!?」

 「はあ!? なにがいな!?」

 「僕が日頃どれだけ気を払ってケアしてるか分かってるのかい!?」

 「いや、お前の肌治安なんて分かるか!?」

 「こんなのっ...君みたいにズボラなアウトローがしてていい肌質じゃない!」
 
 「私の何を知ってんだテメェー!? 普通に失言だからな!?」

 「くっそぉ! どんな手を使っているんだ...! 今すぐ吐けぇ!」

 「テメェらとは体の造りがちg引っ付くなオイ! どこ触ってんだコラ!?


 これまでの感じた印象を纏めて覆すレベルの取り乱しっぷりでリンダへ迫るロザリンド。
 後にこの時の彼女を語ったリンダは、“まるで生気を吸う妖怪の様だった” と語っている。

 謎にフィジカルコンタクトの強さを発揮する暴走令嬢に思いのほか苦戦する九分街の英雄。
 (なんてしょうもねぇ火事場の馬鹿力だよ...!)
 そう内心でボヤくリンダを素早い駆け引きから小外刈りで倒した暴走ロザリンド。
 驚いて呆けるリンダの隙を突いてそのまま床に組み敷くと、片手でリンダのチュニックのボタンをプチプチと外していく。


 「!?!? バッカお前!? なにしてんだロゼ!? 戻って来やがれ!?」

 「フッフッフ......さあ、晒け出すんだリンダァ...! 君の秘密を、隅々までぇ...!」プチプチ...

 「HA☆NA☆SE!?」

 「ここだろうか...? それともぉ────こっちかなぁ?」シュルシュル...

 「なんだよコイツ!? マジでビクともしねぇんだけどぉ!? こ、この私が...!?」

 「体を預けて、心を委ねて......恥ずかしくなんてないよ、僕に全部見せて...」モゾモゾ...

 「危うすぎるぅぅぅぅぅ!?!?」


 レミィィィィ!?
 使用人さぁぁぁぁん!?
 誰か助けてえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ...


 ────────
 ─────
 ──


 「.........済まない、暴走してしまった」

 「知ってる、被害者だもん」

 「す、済まないっ、本当に...」


 微妙な空気が流れる応接間、コーヒーテーブルを挟んで据えられたソファに対面で座る容疑者と被害者。
 服装の乱れを整えたリンダが少し不機嫌そうに言うと、シュンとなって気を落としたロザリンドが慌て気味にリンダへ謝る。

 九分街の英雄の決死のSOSはお茶菓子を持ってきた使用人へ伝わり、当主兼令嬢の御乱心は彼女らによって収められたのであった。
 ちなみに、お散歩中のレミントンには伝わらなかった模様。


 「...お前さ、マジどうした? 急によ」

 「ちょっと...なんと言うか......信じがたくってね...」

 「私はなぁ...()()的なアレで、肌のバリア機能とか代謝能力が常人より高ぇのよ。 他の誰も真似できねぇから、羨むだけ時間の無駄だっつの」

 「ぁぁ、なるほど......いやぁ、本当に済まなかったねリンダ。 不覚にも取り乱してしまって」

 「いいよ、もう。 ビックリしたわマジで」


 うぅ、申し訳ない...恥ずかしい...今だけ消えたい...!
 そう言って赤くなった顔を両手で抑えて悶えるロザリンド。


 「何をあんなにヤケになる事があんだよ、ロゼ綺麗じゃんか。 レミーだってそう思ってるぜ?」

 「...アラサーにもなるとねぇ......色々な問題が出てくるんだよ...」

 「...ちな、いくつよ? 私、23」

 「.........29」

 「私と同じくらいにしか見えねーから安心しろ」

 「アンチエイジングはねぇ、少しでも安心(ゆだん)したら終わりなんだよ...」

 「...さ、さよか」


 まあ...ここの当主として受けてきた長年の気苦労もあるんだろうな...
 リンダはそう結論付けて、それ以上触れない様にした。
 (神よ、どうか。 この者の若作りに大いなる幸をお与え下さい...)
 私の身の安全の為にも...
 なんて、信じてもいない神に気休めにもならなそうな祈りを捧げて。
 そっと紅茶を注いでやるリンダなのであった。


 その後、ロザリンドの熱の入った美容(苦労)エピソードを聞いたリンダは(少しでも早く依頼を終えてコイツの心労を減らしてやろう)と誓う。
 やがて、散歩中に使用人たちと仲良くなった世渡り上手なレミントンが戻り、守衛から受け取ったというリンダ宛の一通の信書を差し出した。


 ジョナサン財団からのもので差出人は〈ディアミド・イーガン〉。
 頼んでいた〈マリア・()()()()()〉の独身時代の資料が届いた。
 調査の準備をするから、と自室へ相棒と共に引っ込んだリンダは資料へと目を通す。
 彼女がしでかした罪に相応しい程度には重々しい過去が綴られており、そんな中。
 彼女の来歴の一部に見逃せない情報があった。


 「貧しさで親から施設へ入れられ人間不信、未来の旦那が心を溶かす...か。 月並みだな、珍しかない。 あとは...っと」

 「ンナンナ...ンナワタ、ンナ...?(ねぇリンダ...マリアを受け入れた施設、ここって...?)」

 「...! ここは、私らが前に潰した────()()()()()()()()()()()孤児院だぞ...!」

 「ンナタ、ワタタ...(治療薬の為にマリアが受けた、讃頌会からの技術供与...)」

 「ロゼを産む前から繋がってた? だとしたら────」


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