血に交われば薔薇になる 作:サンオツボンプ
PU確定枠で餅あり柚葉確保しました
無凸でこの有能さは微課金にはありがたい...!
新エリー都、世界最後の都市。
エーテルが齎す功罪、ホロウの脅威と隣合わせ、しかして人々の様相は活気に満ちている......そんな狂気にして奇跡の都市。
中でも、ヤヌス区内にあるここ『
下町情緒あふれる街並みに人情深い人々、一歩暗闇に足を踏み込めばそこには対価を支払い庇護を受けるレイダー達の巣窟となっている。
それてなにより縮図と称される一番の特徴、それは。
第二十一次 共生ホロウ 発生!
非戦闘員並びに住民の方は直ちに屋内へ避難を!
この場所が、何故か
九分街 西区 避難シェルター前
住民の避難収容が大方完了し、自警団の面々は守りを固めるためシェルターに団員を残してから3~4人ほどの班に分かれ散っていった。
それぞれの偵察・討伐によりホロウ・コントロール*1が行われホロウ拡大やエーテリアス被害が抑制されるも、ホロウ内での活動時間には限りがある以上は押し切られるのは時間の問題。
巷では『H.A.N.D.』や『治安局』の対応が待たれる中、当の住人たちが求めているのはH.A.N.D.や治安局の者ではなく
彼女の名は────“リンダ・ブラッド”
“
西地区シェルターの防衛を担うとある班では、まばらにやってくるエーテリアスを処理しつつホロウへの愚痴と共に彼女の話題が上がっていた。
「────にしてもよぉ、今月ぁ平和だと思っとったが...コイツめ、滑り込みおった」
「今年に入ってもう21回目ですか...確か、20は“コンパナ”、19は“ウィンナー”で18は...」
「“オーレ”よ、17は“ラテ”、今回は“アフォガート”ってとこね。 嫌になるわ」
期待を裏切られて愚痴を漏らす、初老の男性。
過去最多ペースで発生するホロウ災害を思い返す、20代前半の男性。
ウンザリした様子で皮肉交じりに “ホロウ名” を予想するのは、青春時代の幼さを残す女性。
3人は他のいくつかの班と共にシェルター周辺の護りを固めながら、不満や呆れ、怒りを紛らわすように会話を続ける。
「誰がハマってるんですかね? コーヒー」
「体臭がコーヒー臭くなっとる奴に決まっとろうが」
「なら、ジンイチさんね。 飲み屋から出てきた所にバッタリ会ったけど、お酒と一緒にコーヒーの匂いしたもの」
「あー、あれか、知っとるぞ。“あいすこーひー”とかいう酎ハイじゃろ?」
「それただのコーヒーじゃないですか、“アイリッシュコーヒー”ですよ」
「あと、カクテルを酎ハイ呼ばわりしないでちょうだい」
「なんじゃい、寄ってたかって老体に厳しくしおってからに、優しくせぇ!」
「ジョージさん、まだ初老じゃないですか」
「甘ったれんじゃないわよ、センパイ。
幼さを残す最年少団員のサナミに軽く喝を入れられると、初老のベテラン団員のジョージは軽く息を吐き愚痴る様に言う。
「ワシは本来、とっくに前線から引いとる歳じゃぞ? それを上がいつまでも退かんから割りを食っとるんじゃ」
「ああ、それは少し分かるかも。誰も彼も背負い過ぎて私達の分が無いのよね」
「団長なんかは誠実さを人の形に固めたような人ですからねぇ...この前も「俺がこの椅子を降りるときは、堕落したときか寿命が来たときだけだ」なんて言ってましたよ」
「あんの頭でっかち共め...」
“上” の意向を漏らすのは、インテリ系優男といった風貌の20代前半の男性団員のトシキ。
ベテラン現場マンのジレンマに引き続き悩まされることが濃厚なジョージは大きな溜息を吐く。
やがて、この場にいない団員について話し始めた。
「大体、リンダの阿呆はどうしたんじゃ? この成長速度はちとマズいじゃろ...アイツが居れば早いじゃろうが、アイツに任せりゃええ」
「リンダさんの体は一つしか無いんですよ? いくらあの人でも一人で救助と討伐を行うのは厳しいですよ」
「なーにを言っとるかぁトシキ! お前さん忘れたか? あの阿呆がアルゴスホロウ暴走の折に、この街で何をやってのけたか!」
ジョージが口にした昔日の残影。
アルゴスホロウの暴走拡大に九分街が巻き込まれた際、件のリンダが骨を折りこの街と人々を守ったこと。
当時共に戦った側だったジョージは、彼女の規格外な強さを肌で感じていた。
故に、彼はリンダが積極的に動くことを望んでいる。
そして、当時守られる側だった二人もまた彼女の頼もしさを理解していた。
にも関わらずジョージとは考えが違っていた。
自分達は何もできずにただ守られるだけだった無力さ、傷だらけで侵食まみれになりながらも戦い続ける彼女を少しも助けられない無念さ。
そんな経験をしたからこそ、彼女に頼ることの
「アンタこそ忘れてないでしょうね? 事態が収束した後、あの子が...どれだけ危険な状態だったか!」
「僕らが逃げ遅れなければ、リンダさんかあんなに酷く傷付くことは無かったんです...」
「お前さん達...」
素直に避難指示に従っていれば、恐怖に屈し震える事しか出来なかったばかりに、彼女が犠牲になってしまった。
自分達の弱さが原因で傷付けてしまったのだと、自戒するように言うサナミとトシキ。
そんな二人を見て、ジョージもまた自戒を込めて諭すように話し始めた。
「あの時、レルナの脅威が迫っておった以上、戦えるワシらは避難民を守る為に立ち向かう他なかった。 たとえ、未知の脅威だとしてもじゃ」
「...アンタ、いきなりなによ?」
「ホロウの影響で外部との通信が断絶しておった、偵察をするだけの余裕もありゃあせん、レルナとの戦いは後手に回っておった。 瓦解するのは時間の問題...不幸中の幸いにも、その瞬間は
「それって、もしかして...?」
ああ、リンダじゃよ。
そう言って、誇らしさと申し訳無さが同居したような複雑な顔をする。
少しの沈黙の後、再び口を開いた。
「瞬く間にエーテリアス共を殲滅しおった......このまま共に戦うと言ったんじゃがな。 「気が散るだけだ、大人しく守られとけ」とか言いおって、ワシらごと避難民をシェルターに押し込んで...そのまま行ってしまったわい」
「うわ、言いそうね...」
「それで、その後は?」
「ああ、少しの間じゃったが、共に戦って肌で感じたんじゃよ。 アイツは強い、飛び抜けて強い、これくらい何とかしてしまうのではないか...とな」
「結果、なんとかはなったけど...」
「重度の侵食症状で意識不明、一時危篤状態から奇跡の復活」
「そういうことじゃ、尻を拭わせた結果あれほど酷い目に合わせるとは、我ながら情けない限りじゃよ」
ジョージのその言葉に二人は思わず顔を見合わせる。
彼女を戦力として当てにしていた男から出る言葉とは思えなかったからだ。
不思議そうにする姿を横目に悔しそうに口を開いた。
「侵蝕治療を終えて街に戻って驚いたわい、
「で、お呼びじゃなかったってワケね」
「オブラートに包まんか?」
「嫌よ」
「こやつめ...」
「まあ、まあ、二人共」
険悪ムードを瞬時に断ち切るトシキ。
茶々を入れられて腹を立てるジョージを尻目に、痺れを切らしたサナミが問いかける。
「結局、何が言いたいのよ? アンタがあの子に恩があって、罪滅ぼしがしたいっぽいのも分かるけど! あの子をアテにし過ぎたら本末転倒じゃないの!」
「そんなこたぁわーっとるわい! ワシはただなぁ!」
「だーかーらー! 二人共、落ちついて下さい!」
再びヒートアップしかける二人を仲裁すると、トシキは煮えきらないジョージの思いを代弁し始めた。
「サナミ」
「なによ」
「ジョージさんはね、僕らを勇気づけて背中を押してくれてるんだよ」
「...はぁ?」
「お、おいっ! トシキ!?」
「僕らもジョージさんと同じ苦しみを抱えてる。 でも、今はこうして一緒に戦えるまで成長しただろう? 力を合わせれば、リンダさんの背中を守るくらいはなんとかなるさ」
「......つまり、「アイツが無茶せずに済むように、今度こそワシらで背中を守ろう」ってこと?」
「...むっ、ぬぅ...まあ、そういう、事じゃ...」
「クッッッッッッッッッッッサッ!!!!」
「そこに直れぇいっ!!!!」
「あーもう! 何度言えば!」
売り言葉に買い言葉、「これもう水と油なのでは?」とゲンナリしつつもトシキが再び仲裁に入ったところで。
どこからともなく、
「エーテリアス!?」
「ちょっ! 何なのよ!?」
「こやつ、どこから...!!」
受け身も取らずに叩きつけられたエーテリアス “メトロゴブリン” は、声を上げることなく力尽きそのまま粒子となって消えていった。
突然の出来事に困惑する自警団員たち。
各々が戦闘態勢を取って警戒を強める中、空から一人の女性が降ってきた。
しかし、警戒中にも拘らず自警団の面々は何故か気づかない。
サナミの背後へと音も無く着地し、気付く気配のない無防備な背中から......
その細腕を、彼女の胸部へと突き出した────
時を遡ること、約1時間────
九分街 北区 ノーセン通り
閑静な住宅街の一角にある空き地。
敷石の上に建つ積みあがったカラフルなコンテナハウス、所々に錆や凹みなどの年季を感じさせるその住まいには、一人の女性が住んでいる。
ガレージ中二階のBarスペース、革張りのカウチソファに腰掛けて酔い醒ましの水を呷りながら、少し寝癖がついたセミロングの赤髪から覗くグレーの瞳を雑誌のページへと向ける、妙齢*2の美女。
リンダ・ブラッド────“九分街のヒロイン” その人である。
「エーテリアス連続ワンパン世界記録保持者」や「HIAセンターのVR訓練機で最大与ダメランキング一撃部門の殿堂入り」に「ヤヌス区の初恋ハンター」「九分街の未婚者(男女問わず)全員と寝た」果てには「エーテル浸蝕無効化女」「エーテリアスのシリオン」など真偽の確かなものもそうでないものも含め、何かと話題に事欠かない女。
そんな彼女の何でもない日常が今日日、始まろうとしていた。
「───んん? なんだぁ?」
なーんか、表の方に
昨晩、ウチで開いた『上司への悪口飲み会』で飲み過ぎて潰れたか?
私、途中から記憶ないけど人数分のタクシー事前に手配しておいたよな...もしかして、トチった?
てかピンポン押して呼べばいいのに、
もしくは、マジで潰れて寝てるかだな。
あぁ~様子見に行くかぁ~、アッタマ痛ぇし、メンドイなぁ...
「...干涸らびて野垂れ死にでもしたら笑えねーか......よっこらせ、っと」
グラスに残った水を一息に飲み干し、参加者の民度のおかげで綺麗に片付いたBARスペースを後にする二日酔い気だるげ女。
金のカクテルピンに刺さった残り物のオリーブをパクつきながら中二階の階段を下り、一階のガレージスペースに出ると壁のボタンでシャッターを開ける。
ガタが来ていてぎこちなく上がっていくシャッターを待っている間「そういや
二本目のオリーブを食べ終わる頃になってようやくシャッターが彼女の背丈を越え、光と共に外の様子が露わになり────
シャッターの向こうの
しかし、柔肌に刃が突き立てられる事はなく、彼女は
【Gii!? Gahh!? Ghuoo!?】
「...なんでテメェが此処に居んだよ」
思いもよらない訪問客に、二日酔の後押しもあり急激に不機嫌になるリンダ。
苛立ちそのままに、無造作に振り上げた怒りの左脚は困惑するエーテリアスの股下から脳天までをキレイに抉り、真っ二つにした。
止めていた刃ごと死体を押し退け粒子となって消滅するソレを一瞥したリンダは、ゲンナリしながら傷一つない綺麗な足を折って、相棒のボンプに向かって話しかけた。
「
「ンナ! ...ンナナ!?(うん! 今日も楽しk...じゃなくて!?)」
「んん? どした?」
「ンナナ! ンナ! ンナンナ!(大変だよリンダ! ホロウ災害だ! 九分街の西・北区のほぼ全域に中央区も徐々に呑まれてる!)」
おお、慌ててる、笑顔が一転って感じ。
コイツ割とコロコロ表情変わるとこカワイイんだよなぁ。
んで、やっぱしホロウか......今月は平和だと思ってたのに畜生め、21回目入りましたー。
「なーる、発生源は?」
「ンナナ、ンナ!(たぶん、北区の......ヨリおばさんのタバコ屋のあたりだと思う!)」
「マジかよ! 頼んでたシャグ*4まだ取りに行ってねぇのに! もうストック切れるよ!」
「ンーナナー(それ入荷して3週間経ってるよ...リンダって変なトコでものぐさだよね)」
「ほっとけ。 てか、言ってる場合じゃねぇな...!」
「ンナナ! ンナーナ!(ホロウの鎮静だね! あと避難の支援も!)」
「わかってるね、相棒!」
そうと決まれば、いつも通りに行きますか......って、私まだ部屋着*5じゃんか!
着替えんのメンド~、もうこのままやろうかな~、でも治安局のヤツら後で来るよなー、あの爆乳プリケツお姉さん怒るよなー。
...いや、寧ろ...
─――あ、ちょっといいかも、扉開けそう。
きーめた! このままやっちまおう! 短い人生、チャレンジしないとね!
てことで、レミーの装備だけ渡して、っと。
「はいよ、バックパック型複合ユニットお待ちどーん。 お前、抗侵蝕コーティングまだイケるよな?」
「ンナンナ...(昨日かけに行ったばっかだよ...)」
「あれ、そうだっけ?」
「飲みすぎだバカ」
「喋ったっ!?!?!?」
「ンーナ、ンナンナン!(大丈夫、たっぷり3週間は持つよ!)」
「おお、了解......なら、いつも通り救助支援で(気のせいか...)」
「ン~ンナッ!」
リンタの指示を受けて、バックパックに内蔵されているフライトモジュールを展開して上空から偵察を始める相棒のボンプ “レミントン”。
「空飛ぶボンプのケツが一番プリチーだな」などと気の抜けた事を考えていると、中央区方面から助けを求める声が微かに聞こえてくる。
瞬間、勢いよく敷石の地面を蹴って声の方角へと飛び上がったリンダは、身体を撫でていく風とホロウ独特の空気感に心地よさを感じながら、エーテリアス共を駆逐するため感覚を研ぎ澄ませて言う。
そして時は戻り、九分街 西区 避難シェルター前
「――――んで、方々でエーテリアスをシバき回しつつ住民救助しとった所に」
「僕らを見かけて、エーテリアスぶん投げて脅かした上に」
「アタシの! 胸を! 揉んだと!」
罪状は〈ジャンプスケア〉,〈背後からの乳揉み〉,〈わいせつ物陳列〉といったところだろうか。
割と白けている裁判官2人とプリプリと怒り心頭の被害女性1人(Cカップ)、そんな彼女らを前に厚かましくも言い訳じみた反論をし始める薄着痴女の被告人(Gカップ)。
ホロウ災害の真っ只中とは思えない、気の抜けた様なカオス空間が、そこにはあった。
「なんで不服そうなんだよ、上手かったろ」
「黙りなさい! 痴女! 不良! ゴリラ!」
「リンダさん...もうその辺に...」
「不覚にも感じちゃって悔しいんだ?」
「キィィィィィィィィ!!!」
「おい、阿呆、火をそそぐ奴があるか。 話が出来んじゃろうが」
「わーってるよ。 ほら、サナ、揉みな」 ズイッ ブルンッ
「喧嘩売ってんのかぁ!」 バシィン
「イッッッッッタァ!? 何すんだテメェェェ!!」
「おもっくそ逆切れじゃのう」
「というか、そんな薄着で暴れ回る方が何してるのさ...」
「そうよ! アンタがそんな格好で大立ち回りする度に、男連中がメロついて支障出てんのよ! 職務規定にも公序良俗にも反してるわ!」
「私は自警団所属じゃねぇよ! ソッチの事情なんて知るか!」
「何て言い草してんのよ! 身勝手にもほどがあるわ!」
「大体な! テメーがメロつかせらんねーのは私のせいじゃねーだろーが!」
「メロつく云々の話なんてしてないわよ!」
「してるだろーが!」
「してない!」
「相変わらず緊張感のない奴らじゃのう」
「ぁぁ...二人とも...本当にその辺にしてください...エーテリアス寄って来ますって...」
若干、半泣きになったトシキの懇願でようやく静かになったバカ二人。
しかし、騒ぎに引き寄せられたエーテリアス達が押し寄せて.........来ることはなかった。
「ん? ああ、エーテリアス共はあらかた始末済。 ホロウ拡大も停滞中で、後は[核]の “蓄エネ・ハティ” だけだ。 レミーに観測させてる」
「...
「どうせ寝過ごしてるわよ、実働時間は半分くらいでしょ」
「住民や街を守りながらでこの速さじゃからなぁ......お前、実は人外じゃろ」
「トシ以外、船降りろ」
助けているにも拘らず普通にディスられたことにちょっとピキるリンダ。
しかし、寝過ごしたのも人外じみてるのも事実であり、内心ぐぬぬ状態である。
じゃれているだけだと理解しつつも若干釈然としない気持ちを横に置いておいて、始末をつけに行く前に避難状況を確認する。
「あー...でさ、避難状況は? もう皆シェルター入った?」
「安心せえ、九分街の住人はもれなく避難完了じゃ」
「外部の方々も同様です、来訪者数とその収容者数に差異はありませんよ。 リンダさんの背中を守れなくて残念ではありますが」
「つ・ま・り! さっさと行って、ブチかましてきなさい、ってこと!」
「そうかい、なら――――ちょっくら、終わらしてくるわ!」
住民の安全は確保、街の被害も最小限、残すところは親玉ただ一体のみ。
サナミ、トシキ、ジョージの3人を始め、西区シェルターの防衛にあたる皆からのエールを背に受けて。
九分街のヒロインことリンダは、後に “マキアート” と名付けられる第二十一次共生ホロウの主の元へと向かっていく。
程なくして、リンダが[核]を破壊したことによりホロウは鎮静され消滅。
今年に入って都合21度目となるホロウ災害も無事、何事もなく収束を迎えた。
新エリー都 ヤヌス区 九分街。
最もホロウが発生しやすい街の、何気ない日常であった。