血に交われば薔薇になる 作:サンオツボンプ
ダイイングライトは延期だし、ファークライ7は音沙汰無し、本編ボリュームが数十時間あるオフライン重視のFPSもっと増えて...
新エリー都 ヤヌス区 九分街
今年21度目のホロウ災害は、いつも通り住民たちの手によって無事に収束を迎えた。
到着した治安局員たちは自警団と協力し、経験と結束、そして献身により最小限に抑えられた被害状況を慣れた様子で確認、地元の建設業者は破損した建造物や路面等の補修工事を始めている。
中央区の病院では、運悪く曝露してしまったエーテル適性が低い住民の浸蝕治療が施されており、ちゃっかりエーテル資源を採掘していたホロウレイダーたちは闇市場で品物を捌く。
物騒な恒例行事が終わり、それぞれの平穏が戻る中。
災害収束の立役者であるリンダの姿は九分街ではなく────病院にあった。
不愉快である。
実に、不愉快である。
「────はーい、リンダさーん。 最後に採血取りますねー、腕出してくださーい、チクッとしますよー」
「......」
あまりにも、あんまりだろう。
着の身着のまま飛び出して*1九分街中のエテ公どもブッ潰してホロウ消し飛ばしたのに、その結果がこれだって?
「はい、おしまいでーす、お疲れ様でしたー。 このままお部屋でお待ちくださーい、すぐ先生来ますからねー」
「............」
現在時刻 19:21
タバコ屋 18:00
シャグが無ぇっつってんだろ! タイミング逃したわ! 最悪!
しかも、明日日曜で店休みじゃねーか! 私が何したってんだチクショー!
「リンダさーん? どうされましたー? 大丈夫ですかー?」
「あのさぁ......私、無傷だぞ? なんで半日も検査漬けなのよ」
「
「ああん? ......あっ...」
「...ンナナァ(...これだからなぁ)」
定期健診......シリオンでもその混血でもなく、持病や治療中の疾病もない健康優良美女たる私がどうしてそんなものを受けにゃならんのか。
毎度のことだが納得いかん。
勿論、拘束時間3倍なのも納得いかん。
「だからって長すぎだろ、ほぼ3倍じゃんか。 時間はカードでも買えねーんだぞ」
「ンナンナ?(その心は?)」
「シャグもタバコも無ぇーんだよ! どうすんだ! 日曜だぞ明日ぁ!」
「さもありなん、って感じですねー」
ぅぅ、酷いよ...頑張ったのに......
街の男連中メロつかせながらエテ公ども
蓄エネ・ハティも
なんという無慈悲...なんという搾取...血も涙も無ぇ......
「────リンダ君、院内では静かにしなさいね、別室まで聞こえてますよ。 気持ちは分かるけども」
「ぐすん......せんせぇ......」(半泣き)
「あ、先生ー。 お疲れ様ですー」
「ンナ!(先生、こんばんわ!)」
「はい、こんばんわ。 ピリッタもご苦労様、リンダ君の相手は疲れたろう」
「いえいえー、寧ろ拍子抜けっていうかー」
「なんだと?」
聞き捨てならないな。
弄られるのはいいけど嘗められるのは嫌いなんだ私は。
私の真価を思い知らせてやりたい所だが、今はリソース*2が足りないので勘弁してやろう。
喜べ、次の定期検診は忘れずに来てやる。
「リンダ君、僕は言ったはずだね? 君の体質は他に例がない、検査機器はワンオフで数がないんだから溜めても時間が掛かるだけだと」
「いや、分かってるよぉ? 分かってるけどさぁ...」
「言い訳無用。 じっくり腰を据えて調べていく必要があるんだから、こまめに来て検査しなさい」
「へーへー」
「人類最高レベルのエーテル適正とー、
「ンナンナ!(エーテリアスのシリオンって言われた方が納得できるよ!)」
「お前ら、気にしてることを...」
「はっはっはっ! 安心しなさい、主治医の僕が断言するよ、君はどの角度から見ても俗な人間だ」
「先生、好き!」
やっぱ先生しか勝たんわ、それに比べてこいつらは...
にしても、腰を据えて調べる、ねぇ。
ゆくゆくはエーテル起因の疾病に対する治療法や新薬に転用するとか言ってたっけ。
まあ、遅々として進んでないっぽいけど。
私のこれはハイパーアウトな闇深マッド研究の成果だし、常識の範疇でアプローチしても捗らんよそりゃ。
研究成果も資料も設備も、全部滅茶苦茶になって零号ホロウのガレキの下敷、しかも地下。
生き残った完成体は私だけ、生き残った関係者も私だけ。
検査して研究して新エリー都の医療の発展に貢献する、みたいなのは好きにすればいいと思う。
けど、私が真実を
先生が言ってくれたように、私は、人間なんだから。
「ちょーっとエーテル適正高くて、ちょーっと毒物耐性あるだけじゃんか! なにもディスることねーじゃんか!」
「まあ、適正はまだしもー、自浄作用の方は明らかに人外じみてますってー。 エーテル汚染だけでなく毒性にも効果あるのは凄すぎー」
「お? マジで? 凄いって? いや、やっぱそうよな! 便利でしかねーもん! ホロウ探索捗ってしょうが無いわ〜」
「ンナァ...(心配になるくらいチョロいよリンダ...)」
「はっはっはっ! 君らが揃うと賑やかで良いね。 さあ、そろそろ今回の検査結果を説明するよリンダ君。 まずは、エーテル波の波形を見てくれ────」
その後、特に変わり映えの無い検査結果を聞き、次回の定期検診を予約し、ようやく開放されたのは20時を回った頃であった。
長い拘束時間と持て余す暇、ヤニ不足の拷問にも耐え、割とゲンナリなリンダは力尽きてレミントンと共に近場のホテルへ素泊まり。
シャワーでサッパリしてルームサービスの微妙なペパロニピザと安物の白ワインで空腹を満たし泥のように眠る。
たっぷり10時間睡眠を決め込むと、昼近くになってようやく目を覚ました。
「...おはよう、レミー」
「ンナ(おはよう、リンダ)」
「.........ダルッ」
「ンナ、ンナナ(六課と治安局だよ、リンダ)」
「わーっとるわ! サボんねーよ!」
昨日のホロウ災害ん時の公共物破壊に関する免除申請と、公的機関代行戦闘許可証*3の更新申請が治安局。
許可証の講習受けんのにH.A.N.Dの六課.........やっぱダルいよこれ、全部治安局で出来るようにしろや。
「こういうトコが不便なのはこっちの世界も変わらねぇな...」
「ンナァ?(? リンダ、なんか言った?)」
「いや、なんも。 じゃ、行きますかー」
「ンナナ!(まず治安局からだね!)」
「いや、昼飯からです」
「ンーナ、ンーナンナ(先に治安局の用事済ませれば、朱鳶さんご飯に誘えるかもよ)」
「お前......テンサイボンプかよ......!」
ウチのボンプが世界一賢い件。
そうと決まれば出発だ!
いざ、デカパイプリケツお姉さんへ! じゃなかった! 治安局へ!
─────────
──────
───
で、来ました、治安局。
うーん、そこそこ混んでるな...また待つのやだなー。
てか、見知った顔がちらほらあるな......九分街の人も支援金申請やら免除申請やらしに来てんのか。
「あー、だる。 しかし、これもお昼デートの為...!」
「...ン、ンナァ...(まだ、未確定なんだよなぁ...)」
「あれ...この声って────あっ、やっぱり! リンダさーん! こっちですよ!こっち!」
「あっ、これ声でかいな」
「えっ、ねぇねぇ、今...“リンダ”って言った?」
「“リンダ”...“九分街のリンダ”か...!? ホントかよ!」
「うっそ!マジ!? アタシ昨日のホロウ災害で助けてもらってさぁ! ちょーカッコよかったよ!」
「リ、リンダさーん! 僕の事もワンパンしてくださーい!」
「ホロウスレイヤァァァァッ!! 九分街の守護者!!」
「爺さまの店、守ってくれてありがとうー!」
「ン、ンナナー!(リンダ! 早く行こう!)」
「りょ」
ちょっと名残惜しいような気もするけど、治安局で騒ぎになっちゃまずい、余計怒られる。
スタコラサッサだぜぇ〜。
そういや受付じゃなく裏に通されたけど、今回が初だな。
いつもは騒ぎなんて起こんないのに...もしや、私って地味なのか?
身長180cm*4、均整の取れたGカップ美脚スーパーナイスバディ。
サラツヤの赤髪セミロングゆるウェーブにチラリと覗くイヤリングがセクシー。
首回りと胸元のイカしたタトゥー、サングラスでかき上げた前髪とシミ一つないオデコ。
咥えタバコを弄ぶのは、ピンキーリングをはめた白魚のような手。
そして! なにより! 顔が良い!
これ、もっと騒ぎになるべきだろ。
「ちょっと、あの人めっちゃ美人じゃない? ヤバい!」くらいあってもいいハズ。
だのに、いつもは無風...声を大にして呼ばれて漸く気付く......一体どういうことなのか。
「ねぇ、お姉ーさん。 えーっと...“ヤエ”さん?」
「はい? どうしました?」
「私ってさ、地味かな?」
「いえ、全く! 女の私から見ても惚れ惚れしちゃうくらいですよ!」
「だよねぇ、美人だよねぇ私」
「ンナーナ(性格はもう少し地味になったほうがいいよ)」
「同感ですね、素で神経を逆撫でするのはアナタの悪い所ですよ」
「言うじゃんお前ら.........んん? “ら”ってなによ?」
「あっ、朱鳶班長! お疲れ様です!」
「ええ、お疲れ。 後は私が変わるから、戻って良いわよ」
「了解しました、では!」
キ、キターーー! デカパイプリケツお姉さんもとい朱鳶さんだーーー!
いやー、いつ見ても私以上に良いものをお持ちで...グエッヘッヘッ。
良かった、TS転生で女になれて、同性ならセーフだもんねー。
「ンナナ!(こんにちは、朱鳶さん!)」
「逢いたかったぜ、ベイビーちゃん」(キメ顔)
「こんにちは、レミントン。 昨日はお疲れ様、どこか怪我してない?」
「ンナ! ンーナナ!(怪我してないよ! モチロン無傷さ!)」
「流石ね! でも無茶はしては駄目よ?」
「ンナッ!(任務了解ッ!)」
「よろしい!」
「泣くぞ」
あしらい方が酷すぎるよ! シカトって!
興味ないね、が一番効くんだよ!
これは、調子こかないで素直に誘うのが吉だったか...!
「シカトは酷いよ朱鳶ちゃん!」
「アナタの小ボケに付き合っていたら、日が暮れますから」
「ンンナ、ンナ(リンダは好きな人にしかボケないよ)」
「バッカ! お、お前っ!」
「あ、そういうの結構ですから。 こちらの申請書類に記入してください」
「氷のようだぜ、ベイビーちゃん...」
どうやら職務中のボケ等は無効らしい。
仕方ない普通に誘うか。
あと、レミーは後で話そう。
「書いたよ朱鳶ちゃん」
「はい、確かに......記入漏れやミスもありませんね(意外と凄く字が綺麗...)」
「ッシャー! まず一件目終ー了ー!」
「ンーナ―!(しゅーりょー!)」
「待ってください! 話は終わってませんよ!」
「え」
「え」
「(レ、レミントンが喋った...?) リンダさん...また街灯でエーテリアスを殴りましたね! あれ高いんですから壊しちゃダメだと伝えたでしょう! 許可証の更新もいつもギリギリですし! いつか本当に────」
「ちょっと待った! 朱鳶さん、お叱り*5は謹んで受けるけどさ、その前に......場所変えない?」
「はい? 場所、ですか?」
「うん。 お昼ご飯行こうよ、どうせまだでしょ? 私奢るからさ!」
「それはそうですが......私は公私混同はしませんっ」
「考えすぎだって! このままお灸を据えてもタイミング逃すじゃん? 食べながら聞くからさ、行こうぜ行こうぜー」
「ンンナァー(行こうよー)」
「...もう...分かりました。 レミントンに免じて、今日のところは奢られてあげます」
「ヤッターーー!! あ、着替えなくても大丈夫ねー、汚れないように麺類とか焼き系は避けて丼ものにしたから!」
「はなから予約済みじゃないですか......もう、私が断ったらどうする気だったんですか?」
「勝負の前から負けた時のことを考えるヤワな女じゃないぜっ」
「ンナァ(つまり、鉄砲玉だね)」
「当たるまで飛び続ける鉄砲玉ですか...」
「リンダ・ブラッドからは逃げられないぜっ───」
その後、予約していていた割烹料理の店で特上天丼に舌鼓を打ち、予想以上にしっかりとお叱りを受け、無事(?)にごはんデート*6を終えたリンダ。
「送り届けるまでがデートだから」と治安局までエスコートする気でいる阿呆を「本当に期限ギリギリなので早く六課行ってください」とあしらう朱鳶。
女の気配りを無下にしないのも男(?)の甲斐性だからと納得して朱鳶と別れた2人は、残る戦闘許可証の更新の為にH.A.N.D本部へ訪れた。
「────どうだ、レミー......
「────大丈夫、オールクリアだ」
「喋ったっ!?!?!?」
「ン、ンーナ...!(リンダ、声大きいよ...!)」
「やっべ...!(気のせいか...)」
「...何をされているんですか? リンダさん────」
「アッバスッッッ!!!」
ビッッックリしたァァァ!?
てか見つかっちまったじゃねーか! なにがオールクリアだ!
あー、もう...! なんで叫んじまったんだ...私のバカ!
ぜってー実地講習の相手
「ンナー!(柳さん、こんにちは!)」
「こんにちは、レミーさん」
「テメェ、レミントォ〜ン...!」ガシッ
「ン、ンナッ...!?」ジタバタ
「い・る・じゃ・ねぇ・か! なぁ~にが “オールクリア” だアホタレェ!」
「ンナッ、ンーナ! ンナンナッ!(リンダのノリに乗ったんじゃないか! 大体なんで気付いてないのさ!)」
「乗るって決めたのテメーだろが! 私のせいみたいにしてんじゃねー!」
「ンナンナッ! ンンナッ!(いきなり叫んだのはリンダじゃないか! なにもないのに急に叫んだもん!)」
「私だって分かんねーよ! なんで叫んだんだ私は!」
「ンナァ!(知るかッ!)」
「...ボンプと人って、同列で喧嘩できたんですね」
「お? テメー、ボンプ差別か?」
「いてこますぞワレコラ」
「..................今......喋りません......でしたか...?」
「ンーナ(柳さんまで変なことと言う)」
「電気で頭やられたんじゃない」
「そんな間抜けなミスはしません...!」
マヌケは見つかったようだな。
ウチのボンプをディスる奴は許さんぞ、まあ今回は許してやるけど。
私もちょっと......その......やっぱコイツ喋んなかったか...?
それはそれとして、見つかっちゃったな~。
今回も観念するしかないのかよ~。
「リンダさん、どうやら彼女を避けているようですが.........」
「なんだよ、悪ぃーかよ! アイツ「修行だ...」つって本気で斬りかかって来るから嫌いなんだよ!」
「お昼頃、とっくに朱鳶治安官から連絡を受けていますよ」
「」
「ンナ...(絶望するまな板の鯉みたいな顔だ...)」
マヌケは見つかったようだな...
酷いよ朱鳶ちゃん...嘘だろ...私を謀るなんて...!
もしや、お叱り受けてる時、苦しそうなお胸とか脂で艶っぽくなった唇とか嚥下するセクシーな喉とかに目が奪われてあんま聞いてなかったのバレてた?
くっそー、なんてこった...いつの間に連絡したんだ...?
「ンナンナ(リンダがカッコつけて先に会計してる時だよ)」
「テメェ教えろやっ!?」
「ンナーナ、ンナ(口止めされたもん、『
「それは...! お前.....! .........後で、御礼言わなきゃな」
「ンナ~(次は自嘲しなよ~)」
「は~い」
「全く、この人たちは...」
「歓談は済んだか? では往くぞ、リンダ」
「ギィィヤァァァァ!?!? ジィィィザスクラァァァイストッ!?!?」
ほっ、星見雅ィィィィィィィィィィィィ!?
どっから湧きやがったんだコイツゥゥゥゥゥ!?
なんの気配も感じなかったぞ!? 幽霊かよ!? 脅かすんじゃねぇっつーの!
つーか、結局、相手コイツかい!
マサとかナギとかワンチャンあるかと思ってたのによぉ!
「テメェーざっけんな!? ビビらせてんじゃねーぞ、この化け狐がよ!?」
「むぅ...済まなかった。 お前を驚かせたのは本意ではない」
「ったりめーだろ!? んな気安く思われてちゃ心外だわ!?」
「ああ、それについては私も同感だ」
「あ"あ"ん"!?」
「私やお前ほどの戦士ともなれば、語らいなど最早不要.........己が武をぶつけ合うことで、互いを理解できよう。 さあ、往こう」
「いーやーだーねっ! 今日という今日は他のヤツに相手してもらう! テメーみてぇなバーサーカーお呼びじゃねーんだよ! シッシッ!」
「そんなこと言って、リンダさん...結局最後はノリノリで戦ってるじゃないですか」
「ンナンナ、ンーナ(嫌よ嫌よも好きの内、ってカンジだよリンダ)」
「レミントンの言った通りだ、観念するがいいリンダ」
「テメーに膝を折るなんてゴメンだしよぉ...! 遇う度にガチンコリアルファイト吹っ掛けてくるヤツ好きになるわけねぇだろが...!」
VRでやりゃいいのになんでガチ実戦形式!?
ダリ―んだよ! 痛ぇーしよ! あと、人類最強格の一人が気安くタイマン仕掛けてくんじゃねぇ!
いくら治るっつっても色んな意味で消耗するっつーの!
なんで私だけこんな目に合わにゃならんのよ!
毎度毎度、怪訝な顔しやがって...こういう不思議ちゃん嫌いなんだよ私は!
顔突き合わせる度に死闘せにゃならん私の身にもなってみろや!
......あ、ダメだわ、フッて来てんのコイツだったわ。
ってことは、何言っても望み薄じゃねーか!
私の味方はいねぇのか!
「お前の技量と実力は驚嘆に値する。 虚狩りという身の上では、全力を出すに相応しい相手はそういないのだ.........さあ、共に高め合おう」
「テメーは刃物でもこっち
「...む? 私の記憶では、死角を突いた刺突の一撃を素手で受け止められた筈だが? 冗談の技量は私の足元にも及ばんようだな」
「だぁから! それがクソ痛かったってはなs─────ん? お前いま私のことディスった? 喧嘩売ってんの?」
「喧嘩は同じ水準の者同士でしか成り立たんだろう、それがしたいなら
「......なぁに見下してんだぁチンチクリンが...! こっちが手札晒し切ったと思うなよ...あ"あ"?」
「手札を切れないのも実力の内だ。 “まだ全力じゃなかった” などと言うのは子供染みた負け犬の遠吠えだろう、見てくれだけ立派になって中身は稚拙なままのようだな」
「碌に会議にも出ねぇ、斬った張ったしか能がねぇ獣畜生よりかよっぽど出来た人間だろぉが? 妖しいポン刀ぷらぷら振り回して悦に浸るミーハー宇宙人さんよぉ?」
「......貴様...! 吐く言葉には気をつけろ...!」
「こっちのセリフなんだよ、辻切女...!」
「 表に出るがいい 」
「 表出ろやテメー 」
「ン...ンナァ...(や...柳さん、これ...)」
「ええ...やっぱり、こうなりましたか...」
砕けた雰囲気が一転、瞬く間にヒートアップしていった問題児2人。
周りの職員たちは「あっ...(察し)」という顔で、巻き込まれる前に次々と道を空けていく。
『
『
押したり、踏んだり、口論したりして互いを牽制しながら、屋外修練場へと歩き去っていく。
そんな、本来の目的を失念しかけている阿呆2人を、部下と相棒は「仲が良いのか悪いのか...」と、呆れた顔で見送るのであった。
そして、小一時間後
綺麗に整備されていた屋外修練場は、虚狩りと虚殺し...新エリー都屈指の強者が激突したことによって荒れに荒れてしまっていた。
肩をぶつけ合いながら到着するや否や「クタバレェ!!」とリンダが放った延髄切りがゴングとなり、“戦闘許可証更新に際した実戦講習” という名目の私闘が始まり......やがて、互いの気力が尽きて怒りも冷めたところを見計らってやってきた柳とレミントンのオハナシによって、本筋から微妙に脱線した実戦講習を終えた。
久しぶりに全力を出せて艶々の上機嫌になった星見雅は、所々に痛ましい痣や軽い裂傷をつくりながらもホックホクで去っていった。 なんなら、ちょっぴり小躍りもしていた。
対してリンダは、
柳は、
というか、リンダであった。
「...冷てぇよなぁ...凍えて死にそうだぜ...」
「ンナンナ(雅さんとタイマンして愚痴で済むならいいじゃないか)」
「済んでねーけどな」
「ンナ(すぐ直るじゃん)」
「だから結果オーライ、とはならねーの。
「ンナナ?(ホロウに寄ってエーテル補充してく?)」
「今日はもういいかな......疲れたし......」
もういい時間だな...
と、着け直したマットブロンズの腕時計で時間を見るリンダ。
現在、時刻は 16:04 也
ルームサービスの安物白ワインによる悪酔いを醒ますため、交通機関を使わず徒歩で移動したツケで余計時間を食っていた。
うーむ...と、少しの逡巡の後にレミントンへ話を振る。
「ちっと早いけど、飯行くか? どう思う?」
「ンナッ!? ンナナー!(ホント!? やったー! “VTB” のボンプスタンドだー!)」
「“
「ンーナッ! ンーナッ! ンナナッ(早くっ! 早くっ! リンダッ!)」
(かわいい...)
はしゃぐ相棒のあまりの可愛さに内心ノックアウトしたリンダ。
「ま、おやっさんなら中で待たしてくれるだろ」と言って、小躍りしているレミントンを抱き上げて屋外修練場の壁を跳躍して飛び越す。
そのまま歩道に着地すると、ルミナスクエア方面へと元気に走っていく相棒を小走りで追いかけていく。
「そういやぁ “HYPERION” のバッテリーが入荷してたなぁ」
「ンナ? ンーナ?(ホント? 色は?)」
「青。 “VIBE'z” と “ヤマト” のも見かけたわ」
「ンナンナナー!(ハイエンドバッテリーの食べ比べだー!)」
「いや、出さねーからな?」
「ンナ―!(ひゃっほーう!)」
「聞けや!」
「ンッナ! ンッナ!(えっほ! えっほ!)」
「おやっさんに「隠せ」って伝えなきゃ!?」
思いがけない財布の危機に大いに焦るリンダ。
そんなことお構いなしに歓喜するレミントン。
2人の喧噪に目を向けた周りの職員や通行人は先程の激闘も含め「
「? ...ああ、リンダさんかw」
「変わらんなぁ、あの人は」
「相変わらず楽しそうに話すわねぇレミーちゃん」
「レミ×ンダは神」
「あのサバサバ感で面倒見がいいのに、課長とは仲悪いの草」
「...それなんか関係ある?」
「九分街の英雄......噂ではマッチポンプという説があるらしいが...」
「あれだけ強いのに九分街に縛り付け状態とは...勿体ないな...」
「虚狩りとタイマンさせられる一般市民かぁ、かわいそうにねぇ」
「では、アナタがガス抜きしますか? 浅羽隊員?」
「え"っ!? そんなご無体な!?」
「ハルマサ、コムタン食べに行くの? 蒼角も連れてって―!」
「い、いやいや! “コムタン” じゃなくて “ご無体” ...!」
「あら、いいですね。 私も差し迫った案件はありませんし、課長も誘って皆で夕飯に行きましょうか」
「ヤッター! 行こう行こう!」
「そんなぁ~、副課長ぉ~」
そんな周りの喧噪はなんのその。
テンションと共にギアを上げて風になるレミントンと、何とか散財を阻止したいヘットヘトのリンダ。
あーだこーだと騒ぎながら、2人は夕暮れへと走り去っていった。
─────────
──────
───
そして、後日。
[リンダさん、許可証の講習に使うビデオが届いたよ]とのメールを受け、行きつけである
慌てているのか、周りが見えていない
気まぐれに買ったスクラッチが齎したあぶく銭で普通のビデオも借りることにしたリンダが、店内に入ろうと扉に手を掛けた、その時。