血に交われば薔薇になる 作:サンオツボンプ
Fairy加入したその日に猫又も来るとかいう濃厚展開になってた...
↓
数日後、エレンちゃんのバ先へ
という流れに変えました、大変失礼致しました。
あと、長くなった(2万字)ので分割 ➡ 伴って後書きの方の文を追筆してたら月末になってしまいました、重ねて失礼致しました。
一週間以内にもう一話出せそう。
新エリー都 ヤヌス区辺境 デッドエンドホロウ内部
もう何度目かも分からないニコの一生のお願いを聞き入れたパエトーン。
紆余曲折の末、クリティホロウへ落ちた邪兎屋の従業員────〈アンビー・デマラ〉と〈ビリー・キッド〉の救出に成功、パエトーンのアカウントとHDDシステムの一部データを失うという憂き目に遭うも、新たな仲間『人工知能 “Fairy” 』の協力によりホロウから無事帰還した。
その数日後、新たなアカウントでプロキシとしての復権に勤しむパエトーンの元へ急な依頼が舞い込む。
ニコ・デマラを伝って依頼を持ち掛けてきたのは、猫のシリオンの少女〈
大企業ヴィジョン・コーポレーションの地下鉄再開発計画が人命を顧みない非道なものであり、ニコたちが現場にいるのだという。
爆破解体に使う爆薬を乗せた最後の列車が出発した、このままでは住民とニコたちの命が危ない。
爆破を阻止し惨劇を防ぐ為にパエトーンは猫又の依頼を了承。
〚────もしもし? お兄ちゃん、猫又、聞こえる?〛
ホロウへ入った兄と猫又の元にイアスを通じて通信が入る。
HDDの前でモニタリングしながら指示を出すパエトーンの片割れ、リン。
ホロウ内外をリアルタイム通信で繋ぐ無二の技術を前に、猫又の顔が驚愕の色に染まる。
「おお、すごい…! 直接ホロウの中と通信できるプロキシなんて初めてだぞ。 どうりで、ニコが新エリー都最強のプロキシって言うわけだ!」
〚悪い気はしないけど、今は列車を止める計画に集中しよ。 動く前に、まずは要点をおさらいしてみて〛
「大丈夫、ちゃんと頭に入ってるぞ」
猫又たちの目標は、爆薬を積んだヴィジョンの無人列車...これの無力化。
列車自体は自動運転である為、線路のルート切り替えさえすれば減速装置のあるトンネルを通るように仕向けられる。
そして列車がトンネルに入って減速し始めたら、猫又がその隙を狙ってボンプを列車の上に投げる。
「そこからは僕の見せ場だ、列車を故障させるんだね?」
〚うん、お兄ちゃんは列車のメンテナンスハッチから中に潜入して運転室を目指して。 プログラムに侵入して列車を止めるの。 私とFairyで見ててあげるから、カッコいいとこ見せてね!〛
「了解だ、任せてくれ。 あとは...そうだ、要警戒エーテリアスの動きは?」
〚ごめん、お兄ちゃん......デッドエンドブッチャーの具体的な位置はまだ分からないの... Fairyには常にアンテナ張ってて貰うから、何かあったら直ぐに伝えるね! 二人とも、気を付けて!〛
「りょーかいだぞ!」
〚それじゃあ、行動開始。 グッドラック!〛
そうして通信が終了する。
Fairyが制御室までの道程を割り出して、一同を先導する。
タイムリミットは迫っている、確かな焦燥感にを感じながらアキラたちは行動を開始した。
〚制御室までのルート情報を同期中...こちらからお入り下さい〛
「よし! 早く列車の進路を変えに行くぞ!」
〚ホロウエリアの活性が変化してきてる......皆、気を付けてね!〛
「この異変で、列車が遅れてくれるといいけど...」
〚────待って、
制御室へと急ぐ一同が付近へと通じる裂け目へと向かう中、状況をモニタリングしているリンが異常を感知する。
連続した振動...次第に大きくなっているそれを起こしているのは、遠目からでも分かる巨体の持ち主。
高危険度エーテリアス[デッドエンドブッチャー]であった。
〚警告! 極めて危険な個体を検出、個体名[デッドエンドブッチャー]と断定、直ちに回避してください。〛
「うわぁ! ビリーが言ってた化け物だ!」
〚要警戒エーテリアス......すごい迫力〛
「......よかった、何処かへ行ってくれたみたいだ。 ここで会敵していたら詰んでいたかもしれないな」
距離が離れていたお蔭でこちらへ気付かず去っていってくれた幸運に感謝しつつ、先を急ぐ一同はホロウの裂け目へと飛び込んだ。
すると道中で、廃棄された車両が奇妙な角度で横たわっており道を塞いでいた。
「ん?この電車は一体...プロキシ、あたしたち道を間違えてない?」
〚猫又、あんたたちの進路は間違ってないよ。 見た感じ、この車両は外的な力で破壊されてる。 たぶん、エーテリアスに投げられたんだと思う〛
〚推測、車両の損壊レベル,侵食深度,損壊個所の形状,以上の観点から、デッドエンドブッチャーによるものである可能性 97.131%〛
「うにゃっ! お、恐ろしい馬鹿力だ...」
「イアスが掴まれたらひとたまりも無いな...気を付けないと...」
「うにゃ!? あたしだってひとたまりも無いぞ! 押し付けようったってそうはいかないんだから!」
「そ、そんなつもりじゃないよ...!」
〚ふーたーりーとーも! 言ってる場合? 次の目的地、車両の向こう側だけど...何とかして行けそう?〛
「あたしだけなら、全然よじ登っていけるけど...ボンプを連れてくとなると、ちょっと大変だぞ」
眼前の道を塞ぐ車両をどう乗り越えたものか、と考える。
列車とタイムリミットが迫り焦りが募る中、悩む一同に対し列車の反対側から誰かの声が聞こえてくる。
「あ、あの、えっと...」
「んにゃっ!? 今、誰か喋った...? まさか、電車が!? しかも可愛い女の子の声だったぞ!」
「ええっ?」
「電車さん!あたしたち急いでるの。 ちょっとだけでいいから、そこをどいてくれない?」
「お願いだ、電車さん!」
「む、お兄ちゃんまで...向こうの女の子が怖がるでしょ?」
「あの...つかぬことをお聞きしますが...皆様は、ホロウ調査協会の調査員様ですか?」
余裕がないのか、向こう側の女の子は猫又の頼みに答える前にアキラたちへとそう質問を投げかけた。
歴戦のプロキシとしての勘により、電車さんが何らかの事情で助けを必要としていることを察したアキラ。 場所が場所なだけに只者じゃない可能性を考慮して、先に電車さんの素性を確認することにした。
「電車さん、まずこういう時は...自分から名乗るのが業界のルールだよ」
「えっ? そ、そうなんですか? ごめんなさい、そのようなルールを...存じ上げておりませんでした」
そう謝罪を口にすると、電車さんは自らの素性を話し始めた。
名前は〈カリン・ウィクス〉
家事代行会社の従業員
誕生日は6月2日
星座は双子座
身長は141㎝
血液型はRh‐
好きなことはお掃除
好きなものはチェーンソー
と、つらつら自己紹介をしていく電車さん改めカリン。
好きなもの→チェーンソー でおかしくなり始め、いよいよ市民ナンバーまで口にし始めたあたりで流石にストップがかかった。
「そ、そんなに細かく紹介してくれなくても...それで、カリンちゃんはどうしてこんなとこに?」
「つ、ついさっき、危険なエーテリアスを避けて通ろうとしましたら...同行していた皆さんとはぐれてしまったんです!」
〚はぐれた? それって...同行者の方は大丈夫なの? 危険なエーテリアスってもしかして...〛
〚────算出完了、当該ホロウ内において回避推奨レベルの危険度に達するエーテリアスは、個体名 “デッドエンドブッチャー” のみ〛
「やっぱりか......カリン、キャロットデータはどっちが持っているんだい?」
「それでしたら同行者の皆さんの方に......お、恐らくはもう、キャロットデータを使って脱出している頃かと思います。 調査員のお二人なら、きっとホロウから脱出するルートをご存知ですよね...?」
どうか私も連れて行っていただけませんか? そう、カリンは控えめながらも確かな口調で言った。
ホロウで道に迷った一般人。
どうして
危険なエーテリアスを避けたと言ったが、ならば危険でないエーテリアスは?
倒して複数人を護衛できるような戦力がいる?
このカリンがそうなのか?
少し怪しいところもあるが、助けてあげられなくもない。
しかし、依然として車両が道を塞いだままで時間も迫っている、急いで引き返して別ルートから合流する事を提案しようとした時。
話を聞いていたカリンから提案が持ち上がった。
「も、もし私が、お二人を車両のこちら側までお招きできれば...そのまま調査員様について行ってもよろしい、ということでしょうか...?」
「にゃ? あたしたちがそっち側に行く方法があるの?」
「だ、大体そんな感じです。 ちょっとだけお待ちください! すぐに済みますので!」
そう言うと、車両の向こうでカリンが何かを持ち上げたような音を鳴らす。
一瞬の静寂の後、
ギャリギャリギャリィィ!!
と嫌な金属音を発しながら、車両を断裁する丸鋸の刃が現れた。
いかにもバイオレンスな丸鋸の刃が数度車両から姿を現すと断裁された車両の一部が崩れ落ち、ポールウェポンへ改造された電動丸鋸を携えた、小柄で長いツインテールのメイドが現れた。
「んしょ――うん、破れてない...」
「び、ビックリしたにゃ...」
「あ...! お、お待たせいたしました! 初めまして、調査員様! カリン、ただ今電車をくぐり抜けて参りました!」
「あ、ああ。 初めまして、カリン」
「えっ? 先ほどからお話させていただいてたのは、こちらのボンプ様だったのですか...?」
「その通り、ボンプが喋るのは見慣れないかい?」
「あわわ、すみません! ボンプ様のご身分を疑っているわけではなくて...!」
〚どこでも見る光景じゃないのは確かだし、ビックリするのも無理ないよ。 お兄ちゃーん? こんな可愛い子を困らせちゃダメじゃない〛
「済まなかった、カリン......少し奇妙かもしれないけれど、直ぐに慣れると思うから」
「そ、そんな、どうか謝らないでください! カリンが勝手に慌ててしまったのですから...!」
「じゃあ、お互い様ってことで。 それよりも...カリンちゃん、本当にただの家事代行? 悪いけど、とてもそうとは思えないぞ」
そう言って、改めてカリンの姿を見る猫又。
一見するとただのメイド服だが、ちゃんと見れば変わった所がある。
ごつい腕輪や各所の三連ベルト、胸元や髪留めのボルトに腰のぶっとい鎖、スカートの裾には鋭利な刃の様な装飾が施されており、背中には顔面ジッパーのくま型リュック、そして何より...その手に持った長柄の丸鋸。
見れば見るほど、ただの家事代行には無理があるルックスだ。
皆の視線を受けたカリンは一言謝り、説明するとともに再度同行を頼み始めた。
「すみません、その...弊社は幅広い分野でビジネスを展開していまして、中には戦闘を要するものやホロウ関連の業務もあるんです...」
「つまり...戦うメイドさん、ってこと? そんなの聞いたこと無いぞ!」
〚すっごーい! なんか、アニメや映画に出てくる秘密結社みたい!〛
「なるほどな、性質的には便利屋に近い────って、喋りこんでる場合じゃない! そろそろ行かないと...!」
「っ! 調査員様、先をお急ぎなんですよね? き、きっと道中お役に立ちますので、どうか私をホロウから連れ出してください! お、お願いします!」
「あんたたちはどう思う? カリンちゃんが電車を壊してくれたから、もう迂回する必要はないけど」
「まあ、無理なお願いでもないしね。 余計なことを喋らないって約束してくれるなら、構わないよ」
〚うん、あたしもお兄ちゃんと同意見かな。 彼女を出口に連れて行くのはいいけど、初対面だしお互い仕事中なんだから、内緒にしたいこともあるでしょ〛
「ってことで、カリンちゃん、あたしたちについて来てもいいぞ! そ・の・代・わ・り......余計なお喋りはナシ、それでいい?」
「はっ、はい! 秘密保持契約でございますね? カリン、了承いたします!」
「よし、それじゃあ先を急ごう!」
戦うメイドさん〈カリン・ウィクス〉を仲間に加えた一同は、彼女の丸ノコでくり抜かれた車両を通り抜けて先を急ぐ。
小柄な体躯とそれに見合わない大きな丸ノコ、何よりメイド服、猫又は内心「ホントに大丈夫かにゃ...?」と懐疑的だったがその心配は直ぐに覆された。
「う、うごかないでー!」などと気弱なセリフを口にしながらも、エーテリアスを的確に処理していくカリン。
その細腕からは考えられないスイングスピードで丸ノコを叩きつけ、高速回転するノコ刃で障害物どもを断裁するメイドの姿は、猫又たちに頼もしさとロマン...そしてほんのちょっぴりの恐怖を感じさせた。
「...お仲間たちもみーんな、カリンちゃんみたいに凄いの?」
「え? わ、私なんかより、よっぽど凄い人たちばかりです!」
「チェ、チェーンソーメイドよりぃ...? ちょーっと、想像できないぞ...」
襲い来るエーテリアスを撥ね除けて進む猫とメイド、そしてボンプ。
途中、再びデッドエンドブッチャーとニアミスする突発イベントに遭うも事なきを得て、一同は制御室へと到着した。
〚目標地点の制御室まで到着しました〛
「ふぅ...デッドエンドブッチャーがこっちに来なくてラッキー」
「それじゃあ、これから軌道変更を始めるよ。 スイッチ、オン」
〚.........あれ? 反応、しないよ?〛
「ちゃんとボタン押したのぉ?」
「間違いなく押した筈だけど...」
「あの...制御盤のランプを見ると、「ラインデータ」というものが切断されているみたいです」
「なるほど、つまりデータを再接続すればいいってことだな!」
「了解だ、僕に任せてくれ」
エーテル爆薬を積んだ列車は順調に減速装置のあるトンネルへと向かっている。
作戦のフェーズ1を無事完了させたアキラたちは、列車が来るまでの間にカリンをホロウから脱出させることに。
すると、一人はぐれている筈のカリンの通信機へと突如として連絡が入った。
「よし、列車はこれで大丈夫! あとは待つだけにゃ!」
〚それじゃあ、その間にカリンちゃんを脱出させちゃおうよ〛
「それがいいな。 じゃあカリン、先導するから着いて来てくれ」
「は、はい! かしこまりまs “ピピピッ ピピピッ” ひゃあああっ!?」
外へ通じる裂け目を割り出して向かおうとしたその時、一人はぐれている筈のカリンの通信端末へと突如連絡が届いた。
H.D.D.システムを持つアキラたちでもなければホロウ内外を繋ぐ通信は出来ない......つまり、カリンの同行者、もしくは連絡を受けた他の社員等の誰かがホロウまで助けに来たという事だ。
突然の呼び出し音に驚きつつも通信を受けるカリン、初めは不安や気の引けたような様子をしていたが、驚いた顔をすると直ぐに喜色と安堵の様子を見せる。
程なくして通信が終わりアキラたちの方へと向き直ると、カリンはここまでの感謝と共に会社の関係者から迎えが来たと話した。
「か、カリンちゃん大丈夫? なんかすっごいビックリして、飛び上がってたけど...」
「通信が来ていたようだけれど、迎えでも来たのかい?」
「はいっ! 先に脱出した皆さんが会社の方に連絡してくれたそうで、近くまで迎えに来てくれたみたいです!」
「カリンちゃんより凄いメイドさんが来てるのかぁ...ちょっと見たかったなぁ...残念」
「あ...む、迎えに来たのは従業員の身内の、
〚そっかぁ...じゃあ、ここでお別れだね〛
そうして、
カリンは感謝と安堵と一抹の寂しさを胸に、同行を許し助けてくれた恩人たちへ感謝と礼を告げる。
「あの…本当に、ありがとうございました! 調査員様のお力がなければ、カリンはきっとこのホロウを永遠に彷徨っていました!」
「それはお互い様だぞ。 カリンちゃんのチェーンソーのおかげで、時間をずっと短縮できたんだから!」
「その…ボ、ボンプのホロウ調査員様には初めてお会いしました! よ、よろしければ、お二人のお名前を教えていただけませんか? 今度、従業員一同でお礼に伺いたいんです!」
「皆でお礼に? それは...凄い光景になるんだろうな、ちょっと楽しみだな」
〚お兄ちゃん、本気? それじゃあ、私たちの事バレちゃうじゃん〛
「あたしの時は散々警戒してたくせにぃ......ん? あたしが特別ダメだっただけで、カリンちゃんならいいよってコト...?」
「ど、どうやら、あまり宜しくないようですね...お気を悪くされたのでしたら済みません! またお会いする機会がありましたら、その時に改めてお礼をいたしますね...!」
そ、それでは、お世話になりました! カリン、これにて失礼致します!
そう別れの言葉を告げ二人の背中に向かって深々とお辞儀をすると、迷子のチェーンソーメイドことカリンは迎えが待つ方角へパタパタと去っていった。
控えめで気弱だが不思議と頼りになる小柄な背中。
そんな彼女を見送りながら、アキラとリンはここ最近の出来事をふと思い返していた。
慌てて押しかけてきたニコの “
その最中、謎のハッカーによりパエトーンのアカウントとH.D.D.の一部機能を消失。
邪兎屋の受けた依頼目標物の金庫に入っていた、“もう一つのロゼッタデータ” とも呼ばれる[Ⅲ型総順式集成汎用人工知能 Fairy]。
新たなアカウントでプロキシの地位再建中に舞い込んだ依頼...ニコからの紹介で猫又が持ってきたそれは、ヴィジョンによる狂気的な再開発計画の阻止、ひいては住民と現地に残る邪兎屋の救出。
一つ一つに特別繋がりは無い、しかし何故か腑に落ちきらない。
何か、大きな歯車が回り始めたような...漠然とした気持ちを心の奥で感じながら。
ニコたちと住民たちを爆破による惨劇から救う為に列車へ乗り込むべく、
後にエリー都を震撼させる事となる伝説的怪盗団『モッキンバード』。
その主要にして唯一の構成員である在りし日のヒューゴとライカンは「富める者から盗み、貧しき者へ与える」という信念の元、郊外のとある製油企業跡地へと赴いていた。
そこで二人は怪盗の最中に思わぬ奇妙な存在と邂逅を果たすのであった。
これは、昔日の物語、その一幕である───
「────それで? ヒューゴ、今回の標的は何処の誰なんだ? いい加減教えろ」
「ん? ...ああ、そうだったな、お前には黙っていたんだったか」
郊外の土剝き出しのだだっ広い道路を走る4WDシングルキャブのPUトラックに揺られるモッキンバードの2人。
助手席のライカンは未だ知らされていない行先について、もう何度目か分からない確認をした。
ハンドルを握るヒューゴはうっかりしていたとでも言うような態度であっさり口を開く。
「今回のターゲットは、とある製油企業跡地...そこに残されているとされる大量の機密文書を狙う」
「機密文書...? 嵩張るものでもないだろう、どうして一度に持ち出さなかった?」
「保管エリアが、突如発生した共生ホロウに運悪く吞まれてさえいなければ、持ち出しただろうな」
「...なるほど。 なら、書類の為だけに態々フルサイズのPUトラックを選んだのか?」
「ライカン......お前、まさか馬鹿正直に書類だけもらって帰るつもりじゃあないだろうな?」
「おいおい...俺たちは火事場泥棒じゃないんだぞ?」
「随分と人聞きの悪いことを言うじゃないか、ライカン。 お前はなにかとネガティブな面にばかりフォーカスする、悪い癖だぞ」
ちゃっかり金目のモノを物色する気満々のヒューゴがライカンを諭していると、目標の製油企業跡地に到着した。
とうに打ち捨てられており稼働してはいないものの、かつての隆盛を感じさせる大規模な工場施設が現れ、郊外の生暖かい風と共にオイルの匂いが運ばれてくる。
トラックから降りたライカンはこの場所の空気を受けて思わず顔をしかめるた。
「......っ」
「不服そうじゃないか、ライカン?」
「...お前には分からんだろうな......この気化したオイル交じりの空気で体毛がベタつく不快感は... だから、こういう場所は嫌いなんだっ」
「ああ、知っているとも。 だから黙っていたんだ、お前の泣き言など聞きたくないからな」
「......ヒューゴ、覚えてろよ...」
「忘れるまで覚えていてやるさ。 仕事にかかるぞ、ライカン」
そう言って軽口を叩き合いながら保管エリアごと工場エリアを飲み込んでいる名もなき共生ホロウへと入っていった。
エーテリアスを排除しながら事前に入手しておいた見取り図通り進んでいくと、程なくして保管エリアへ到達した。
記録媒体に機密データを移して室内を物色する怪盗団。
すると、思い出したようにライカンが
「────そう言えば...ヒューゴ、この噂は知ってるか? なんでも、郊外のホロウには最近 “人型の化け物” が出るって話」
「ああ、聞いたことはある。 大方エーテリアスと見間違えたんだろうさ、ニトロフューエルで酔っ払った阿呆の妄言だ」
「いや、それがな。 実際に遭遇した奴から聞いたんだが......人の言葉を話して、会話まで出来たらしい」
「...会話? そんなエーテリアスは聞いたこともないが」
「俺も初めは疑ったんだが...話のディテールがやけに細かくてな、サイズも人間と相違ないんだとか」
「大方、異化しかけの人間と遇ったんだろう。 そこからは噂が独り歩きしているに過ぎん...もう一度言うがなライカン、お前はネガティブに捉えすぎる」
気にし過ぎだロマンチストめ、似合わんぞ。
ヒューゴはそう吐き捨てて、脱税用に保管していたと思われるインゴットや紙幣にアンティークなどを詰め込んでいく。
野生の勘で何かがあると考えていたライカンは一蹴されたことに少し腹を立てるが、直ぐ仕事に戻った。
やがて、目的を終えて脱出する為に来た道を戻っていると、来る時には固く閉鎖されていた隔壁の一つが
「あれは...! エーテリアスの仕業か? 何の音もしなかったぞ...!」
「...溶断されているようだな。 これなら破砕音がしなかったのも納得できるが...この厚さの隔壁を溶断しておいて無音というのは辻褄が合わんな、それに...」
「...丁度、
「......帰るぞライカン、面倒は避けよう」
先程、ライカンが話した “噂” が脳裏をよぎるも、ばかばかしいと一蹴するヒューゴ。
態々、首を突っ込む必要はないと踵を返し帰路へ戻ろうとしたその時であった。
隔壁の奥から、人間...成人男性と思わしき叫び声が聞こえてきた。
それはエーテリアスに遭ったとか、不測の事態に驚いたとか、そういう次元の声音ではなかった。
まるで、感じうる限り最大限の痛みや恐怖がそのまま口から出たような...凄まじい悲鳴であった。
「っ!? ヒューゴ!」
「ちっ...! このお人よしめ!」
叫び声を聞き走り出したライカンにヒューゴが追従する。
隔壁を潜り抜けて薄暗い通路を走り抜けていると声はどんどん大きくなっていき、通路を抜けるとそこは広い管制室であった。
様相はまさに、
1人は叫び声の主であるスーツ姿の男性、頭を鷲掴みにされ今なお悲痛な声を上げ続けている。
そしてこの惨状をつくったと思わしきもう1人は、15~6歳ほどに見える人間の女性のようであった。
最も、そう言い切るにはあまりにも
左胸の小ぶりなコアとそれを中心に据え咲くように生えるエーテル結晶、外殻のように体へ広がった結晶と赤黒い瞳に金糸の瞳孔、怪しい文様が浮かぶ体表は血の様な色の光を放ち、同色のオーラが周囲に漂う。
まるで、人型のエーテリアス。
そんな化け物を前にした怪盗団の2人は件の噂のことを思い返した。
「......人間の、女性の、化け物...」
「......まさか、事実だったとはな...」
噂の化け物の姿に思わず驚愕し動けずにいるとその彼女が2人に気付く。
男の方も直ぐに気付くと助けを乞い始めた。
「────あ"あ"?」
「っ!? 誰かいるのか...!! お、お前たち!?助けてくれぇぇぇ!? バケモノッ...!?殺さr「っせぇよボケ、死ね」ぎゃあっ────」
「なっ!? お前っ、なんてことを...!!」
「おやおや......随分と惨い殺し方をするんだな、レディ?」
ぐしゃっ。
籠った破砕音と粘り気のある水音を立てて男の頭部が女の異形の手の中で砕ける。
目撃者がいる状況でも躊躇なく殺したことに、2人は目の前の化け物への警戒レベルを引き上げ戦闘態勢をとる。
しかし、それに対して女は至極冷静かつ理性的な対応を見せた。
「おいおいおーい、ちょっと待てって。 お前らに用は無ぇーよ、なんもしねーからさっさと帰んな」
「ふざけるな! こんなこと見過ごせる訳がないだろう!」
「落ち着けライカン。 あー、無礼を承知で聞くが、レディ......敵意がないのなら、話してはくれないか? この惨状と、君の...その姿についても」
「...意外と肝が据わってんのな。 まあいいよ、話せることは話してやる」
殺る事終わって暇だし。
そう言うと光と共に結晶が霧散していき人間の身体へと戻る女。
死体のポッケからディニ―を奪うと何故か通電している自販機で人数分の飲み物を買い2人へ放る。
「ほら、私の奢りだ」
「キミが殺した男の、だろう?」
「私が貰ったから私の金、よって私の奢りだ。 人のこと言えねーだろ盗掘者」
「俺たちは義賊だ、安い犯罪者共と同じにしないでもらおう」
「あっ、そうなん? ごめんね」
「悪い、俺はカフェインは...」
「あっ、やっぱ見た目通りなんだ。 こっちのミネラルウォーターやるよ、ごめんね」
なぜか飲み物が行き渡り、異形の女への詰問が始まる。
このやり取りの間に2人は女が本気で無害らしいと察しつつあったが、警戒を残しつつ話を切り出した。
「早速だが、レディ? 名前は?」
「爆裂★チ○ポ丸」
「ふざけるな」
「リンダ」
「リンダ、君は...一体なんなんだ?」
「この姿か? それに関しちゃ話すと長げ―んだよ、初対面でに話すことでもない。 ただ一つ言っておくと、私のコレは不服でしかない。 こうなった事も、こうした奴らも、大いに恨んでる」
「まさか...これが復讐だとでも言うつもりか...?」
「そっ、正解」
「狂ってる...!」
「事情を知らなきゃその反応だよな。 ま、論ずる気無ぇから、踏み込んでくんなよ」
「抑えろライカン、何でもかんでも首を突っ込むな」
「分かってるさ!」
熱くなりかけるライカンを抑えてヒューゴは思案する。
おそらくは何がしかの実験の産物と考えるのが自然であり、この惨状はその関係者に対する復讐。
ではそもそも、この男たちはなぜ打ち捨てられた工場に居たのか。
ヒューゴは質問を続けた。
「では、こいつらはなんだ? 仇となのは分かるが、目的は?」
「簡単だ、この工場跡地は人の手に渡ってる、それがこいつら...私の復讐相手ってわけだ。 研究施設に改装して私の様な悲劇を繰り返す気なんだよ...命を弄び、尊厳を奪い、やがてエリー都の平和すら危険に晒す。 絶対に許さねぇ」
「だからと言って、こんな私刑じみた真似は...!」
「こいつらは多くの無辜の命を奪ってる。 新エリー都に戸籍があるかも怪しい奴らだぜ? 取り立てるのが遅いくらいだ」
「正義は我にあり、とでも言うつもりかな?」
「まっさかー。 こりゃ復讐、それ以外の何でもないし...糾弾したけりゃすればいい。 そも復讐なんてのは誰それに許可貰うモンじゃねーし、正当性を問うのはナンセンスだ」
そう言い放ってコーヒーを一気飲みすると、話は終わりだばかりに立ち上がって話題を変えた。
「さて! 自称義賊のお二人さん、帰り道分かんの?」
「問題ない、ここのホロウは安定しているからな、来た道を戻るさ」
「そっか。 ま、これもなんかの縁だし、一緒に出ようぜー」
「おいっ、勘違いするな! 敵でなくとも仲間になったつもりはない!」
「あの自販機、プロディ社の新型だから高いぜー? 担いでってやろうか?」
「...〜っ!」
「エスコートさせていただこう、レディ」
「あら、ありがと、ミスター」
空缶をゴミ箱に捨てると怪盗団は自販機を担いだリンダを前後に挟む形で隊列を組み、再び帰路に付いた。
道中、エーテリアスに襲われることもなく無事ホロウを抜けると、郊外の生暖かい風を受けながらトラックへと戻り頂いた品々と自販機を積んでいく。
怪盗団モッキンバードへ唐突に訪れた奇妙な邂逅も、終わりを迎えようとしていた。
「ふー、こんなトコか」
「積み込み終了だ、ヒューゴ」
「ああ、では...お別れだリンダ、会えてよかったよ」
「私が言うのも何だけど、よかったトコなんかあったか?」
「グロテスクで暴力的なだけだったろうが」
「エンジンオイルに砂混ぜてやろうか?」
「ライカン、何度も言わせるな... リンダ、個人的には...キミのその価値観に共感出来る所もあるんだ」
「というと?」
「
リンダはヒューゴのどこか含みのある表情を見て(コイツ、モブにしては個性が強くね? メインキャラだっけ?)などど考えていた、勿論分かるワケがない、1章アウトロは原作知識外である。
ちなみに、ライカンのことはナリが違いすぎて普通に気付いていない。
「言っちゃ悪いけど、相棒とは水と油っつーか...上手くいってそうで不思議だわ」
「フフッ、猛獣を手懐けるにはコツが要るのさ。 知りたければ教えよう、いつでも連絡するといい」
「と言いつつ、連絡先渡す気無いのが全てだろ」
「それは深読みだよ、教える気がないのは事実だがね」
「ま、良いけどね。 調子こいたらぶん殴るし」
「どちらが獣か分かったものじゃないな...」
「おいっ! 聞こえてるぞヒューゴ! 誰が手懐けられた猛獣だって!?」
「おっと、怒らせてしまった様だ、早速腕を振るうとしよう」
「おぉ怖ぁ〜! 迎えが来てっし私も行くわ、じゃあな~」
怪盗団モッキンバードとエーテリアスに変身する異形の少女。
世を騒がせる義賊たちの詳細な人相と名。
噂の化け物、半人半異の復讐鬼。
はっきり言及こそしなかったものの、事実として怪盗団と異形の女は互いに弱みを握り合う事となった。
憤るライカンと言い包めるヒューゴ。
怪盗団はあーだこーだと言い合いながら、郊外のだだっ広い道に荷物を載せたトラックを走らせ拠点へと帰っていく。
新たに復讐を終えた根無し草時代の若きリンダ。
ものぐさでのんびりした性格に反し時間通り迎えに来た年齢不詳の友人に礼を告げ、立派な牙が生えたトラックに乗り込み去っていく。
斯くして、雛鳥のモッキンバードと若きリンダの奇妙な邂逅は終わりを告げた。
この出会いが後に、物語へ重大な変化を齎すこととなるのだが、それはまだまだ先の話。
その事を知る由もないリンダ少女は、トラックの座席に寝っ転がり運転手の膝枕で鼻ちょうちんを出して爆睡していたのであった。
「ZZZ ZZZ ZZZ」
「...そろそろぉ〜、足がしびれてきたぜぃ〜...」