血に交われば薔薇になる 作:サンオツボンプ
1章 幕間 “心「零」現象” のニネヴェ戦を次の1話でやったら、2章に行きます。
2章では原作本編から離れてオリジナルストーリーになり、主要キャラが1名追加されます。
限定Sエージェントって1アプデあたり大抵2名実装ですからね。
デッドエンドホロウ 某所 車両基地建屋
メイド喫茶でアフタヌーンティーを楽しんでいたリンダたちはひょんことから、依頼遂行中に迷子となったカリンを迎えに高危険度の共生ホロウ『デッドエンドホロウ』へ赴くことに。
カリンを保護したアキラたちは、ホロウの主であるネームド・エーテリアス〈デッドエンドブッチャー〉の危険に晒されるもなんとか切り抜けて、迎えに来た人物の下へとカリンを送り出した。
程なくして、リンダたちは無事にカリンと合流。
受け取っていたキャロットデータでレミントンが脱出地点まで先導していると、エーテリアスがたむろする車両基地が行く手を阻んだ。
色々あってガラにもなく気合十分なカリンの奮闘によりエーテリアスたちはお掃除されたものの、気合が入り過ぎたのかキャラが変わっていた彼女は勢い余って車両基地建屋の屋上ごと切り裂いてしまう。
崩落する屋上と共に落ちるカリン。
飛び出したリンダは
偵察から戻ったレミントンとカリンが臨戦態勢を取ったことでブッチャーが反応、ゲームにおいて “危局強襲戦” と呼ばれるエンドコンテンツで登場する強敵〈要警戒・デッドエンドブッチャー〉へとまさかの変身を遂げて、リンダたちへと襲い掛かる。
【Ghaaaaa!!】
「お前ら下がっとけっ!!」
ブッチャーは咆哮と共に右手に携えた凶悪な槌をリンダ達に向って思い切り振り上げた。
カリンとレミントンには荷が勝ちすぎる...
そう判断したリンダは2人に下がっているよう指示すると、獲物を打ち砕かんと迫りくる巨槌に向って
スピードと威力が上がりきる前に素早く反応し、加速途中の巨槌に向って戦闘用外骨格を纏った拳を叩き込んだ。
「────ッ、ォラアァ!!」
【Ghiie!?】
ドゴォンッ!!
前傾姿勢で突貫するリンダが繰り出した左拳とブッチャーの振り上げる巨槌が、大きな鈍い音を立てて激突した。
巻き起こる風が建屋内を軋ませて再び巻き上がった粉塵がブッチャーの視界を遮る。
(雅にしろコイツにしろ...なんで私の相手はいつも強い方なの...!)
このまま戦えば建屋が崩壊しかねない。
リンダは後ろの2人の安全を確保するため粉塵に紛れてブッチャーの懐に飛び込み、ハンドスプリングからドロップキックを叩き込み建屋の外へと吹き飛ばす。
【Gyaaaa!?】
「
ここホロウにおいて絶対強者である筈の自分の攻撃が容易く相殺され、成す術無く吹き飛ばされている。
腕の一振るいで粉塵を晴らし悠々と歩いて迫り来る未知の脅威に対し、立ち上がったブッチャーは最大限の敵意を向けて咆哮する。
【Gyyiaaaaaaaa!!】
「そうすりゃあ、なんか一つくらい通用するかもしれねぇぞ...!」
同時に飛び出した要警戒・デッドエンドブッチャーとリンダが本格的に交戦開始、その隙にレミントンがカリンを連れて建屋の奥へと下がる。
勢いを殺され大きくよろめくブッチャーを見たカリンは、外骨格のアシストがあるとはいえ、素手でブッチャーの攻撃を止めた事に驚愕を隠せなかった。
「デ、デッドエンドブッチャーの攻撃を...素手でっ...! リンダ様は大丈夫なのですか...!?」
「ナンナ、ンナンナ(全然大丈夫だよ、ホロウの中だもん)」
「...あの...どうして、
「...ナッ...(...あっ...)」
「...レミントン様?」
「ン、ンナン...(き、聞かなかったことにして...)」
「は、はぁ...分かりました...?」
過去に受けた実験〔
「私がいないとこでホイホイ喋るな」と念を押されていたのにうっかり口が滑るレミントン。
カリンの疑惑の目をちょっと無理めにごまかすと、外から何かが炸裂する音と共にブッチャーの叫び声が聞こえてきた。
【Gyiiaaaaaa!?】
「────おいおいおーいっ! 何もかもダメじゃねぇかっ! どうしたぁ!」
2人が外に出て確認すると、そこには衝撃の光景が広がっていた。
全身ズタボロで膝をつき、携えた武器も所々に割れや欠けが見られる...満身創痍のデッドエンドブッチャー。
対して、装いに乱れはなく武器の損耗もない、紫煙をくゆらせリラックスして眼前の負け犬を煽るリンダ。
普通なら逆になる筈のこの光景... “九分街の英雄” の名は伊達ではなく、ものの1~2分で要警戒・デッドエンドブッチャーを転がしていた。
苦しんでいる期待外れのデカブツを前に、リンダは戦って感じた異変について考えていた。
(コイツ
落下するカリンを救出する際にリンダが使った『赤いオーラ』、それを引っ込めた後の僅かな残滓をブッチャーは変身する際に他のエーテルと共に吸収していた。
リンダの武器『パルヴァライザー』は装備者のエーテルに反応して強度を増し、また増幅して打ち込む機能がある。
ブッチャーの身体に混ざり込んだリンダのエーテルが触媒の様な効果を及ぼし、『パルヴァライザー』による攻撃が
端的に言えば、ブッチャーは自分で自分の首を絞め、ただでさえ短い死期をさらに早めた。
終わりは目前までやって来ていた。
「どうしたぁ~デカブツゥ~? 威勢が感じられねぇなぁ...!」
【Ghuuo...aaa... GYaAAA!!】
ブッチャーは苦し紛れにボロボロの巨槌を渾身の力で叩きつけるも、リンダは人間離れしたフィジカルを以て腕一本で難なく受け止める。
「...馬鹿の一つ覚えかよ」
【Ghuoa!?】
「私の前世、マオリ族と日本人のハーフだぞ、嘗めんなよコラ」
なんで死なない。
何も通用しない。
この女は一体なんなんだ。
そもそも、人間なのか。
なんでこいつから同族のニオイがする。
なんで、どうして。
追い詰められたブッチャーは、未知の脅威を前に初めて困惑と恐怖を覚えていた。
すると、腕に “赤いオーラ” を纏わせたリンダがパルヴァライザーを通じてソレを打ち込むと、受け止めていた巨槌が一瞬の発光の後に木っ端微塵微塵に砕け散った。
【Giith!?】
「これで芸は尽きたかぁ? ならよぉ.........死んじまいな────」
リンダは勝負を決めるべく動き出す。
腕のオーラを全身にまで広げて纏うとそのまま一瞬でブッチャーに肉薄、強烈な双拳と共にパルヴァライザーでオーラを打ち込む。
体組織に混じり合ったオーラを操作することで動きを強引に静止、エーテル分子の結合が破壊される事によってデッドエンドブッチャーが脆弱化*1する。
指の一本も動かせない怪物は凄まじい衝撃と共に身体が壊れていくのを感じながら、成す術無く倒れ込む。
「
やがて跳躍が極点に達し、破滅的なまでの活性レベルまで高まった赤いオーラを煌かせるその姿は、まるで妖しく光る小さな恒星のよう。
重力に引かれるままに身を翻すと、漂うエーテルを足場にして直下の敵へと猛スピードで急降下。
赤い凶星は光芒を引いて、要警戒・デッドエンドブッチャーへと墜ちた。
「“WIPE OUT” だっ!!」
【Gyyiieaaaaaaaaa!?】
猛烈な勢いで衝突した凶星。
臨界寸前の高活性オーラが強い衝撃が加わった事で炸裂、一面に赤い爆光を放ちながら満身創痍の要警戒ブッチャーをコアごと消し飛ばした。
その凄まじい威力は周囲に放置された車両や建物にも及び、爆心地にほど近いものは余波を受けただけでバラバラに吹き飛んでいく。
爆風が収まり煙が晴れると、そこには傷ひとつなくピンピンしたリンダの姿と────
────無残にも崩れ去り、瓦礫の山と化した
「..................えっ.........」
呆然と佇む
この一日で溜まりに溜まったストレスをまとめて発散した結果...明らかなオーバーパワーで要警戒ブッチャーを消し飛ばし、それどころか周囲丸ごと吹き飛ばしてしまう始末。
建屋自体もエーテル侵食が進んでいた為に、リンダのメテオ攻撃のあおりをモロに受けてあっけなく解体されてしまったのであった。
まあ、そもそもカリンの殺戮セグウェイによるダメージが蓄積していたのもあるが。
「............カリンちゃん......死んじゃった......?」
「───ンナナァ...(リンダェ...)」
うなだれて悲しむリンダに煤と埃まみれになったレミントンが近寄って話しかける。
誰が見ても彼の様子は “おこ” である。
「............うぅ......うぅ......」
「.........ンナ...(.........リンダ...)」
「............そんな......カリンちゃん......」
「......ンナナ...(......リンダってば...)」
「............嘘だっ......そんなのってよぉ......」
「...ナ、ナンナ、ンナ?(...ねえ、聞いてよ、リンダ?)」
「............ごめん、カリンちゃん......ごめんなぁ......」
「ワタタ......ンナンナ?(ごめんじゃなくて......ていうかカリンちゃんだけ?)」
哀しみのリンダ、レミントンの問いかけは耳に入らず。
視界を埋め尽くすあんまりにもあんまりな結末を前に大きく慟哭する。
「カリンちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんっ!!!!」
「ンナ、ワタァァァァァァァ!?!?(いや、ボクはぁぁぁぁぁぁぁ!?!?)」ドゴォッ‼
「ファマスッ!?」
両手を振り上げて飛び込んだレミントンの弾丸が如きドロップキックが、自分の世界から出て来ないリンダの後頭部に炸裂した。
フライトモジュールの逆噴射により威力を高めた一撃で無様に吹っ飛んだアホは、大きなタンコブをこさえた頭をさすりながら体を起こして相棒に向き直った。
「~っ死ぬわ!? 逆噴射ヤメロって何度言ったら分かんだレミー!?」
「ナンナ!? ンナナンナ!(やらせる方が悪いよ!? あとホロウにいてリンダが死ぬワケないじゃないか!)」
「匹敵するくらい痛ぇっつってんの! 死ななきゃ何でもしていいワケじゃねーだろうが!」
「ンナワータァァァァァァァ!(それブーメランンンンンンンン!)」ドゴォッ
「サン・テティエンヌッ!?」
後頭部のドロップキックに続いて
しっかり逆噴射で放たれた一撃をモロに喰らい仰向けに倒れるリンダ。
堪らず悶絶しながら恨み言を口にする
「......レ、レミーさん.........おっぱいは、ちょっと...酷いんじゃないの......!?」
「ナンナ! ンナ、ンナワタ(ダマらっしゃい! 見なよコレ、カリンちゃん目を回しちゃったじゃないかっ)」
「えぇ?」
「」
「.........あっ...」
レミントンが指さした先にあったのは、ひっくり返って目を回すカリンの姿。
リンダのメテオ攻撃のせいで吹っ飛ばされて、頭にはその時ぶつけて出来たであろうアニメか漫画の様なタンコブが一つ。
股間の辺りに突き刺さった丸ノコはかろうじて当たっていないものの、スカートがめくれ上がってかぼちゃパンツが丸見えである。
守って送り届けるべきオブジェクトが、どう見ても “WIPE OUT” されている。
(こんなに嬉しくないパンチラが、未だかつてあっただろうか...)
おもむろに立ち上がったリンダは、そんなしょうもない現実逃避とともにカリンの下へ向かう。
「レミー」
「ンナ?(なにさ?)」
「カリンちゃんの処置するから...バックパックから
「...ンナナ(...はいはい)」
レミントンからファーストエイドキットを受け取ったリンダは、ガーゼ,脱脂綿,消毒用アルコール,軟膏,バンドエイドなどを使い的確に処置していく。
身寄りなどなく何かと争いの多い人生を送っている為、軽い処置程度ならパパっとこなせるのであった。
最後にタオルを巻いた冷却材をタンコブに固定して処置を終えると、キットをバックパックに戻してレミントンに話しかけた。
「レミー」
「ンナ?(なにさ?)」
「正直、すまんかった」
「ナン、ワタタ(だよね、オーバーパワーだったもんね)」
「反省はしているが、後悔はしていない」
「ンナ、ンナナ......ナ?(もう、起きたらカリンちゃんにあやm......え?)」
「だってアイツ...
「ンナタ...ワタ、ンナナ(それはそうだけど...もっとこう、何とかなったでしょ?)」
絶対私情入ってたよね、とレミントン。
爆心地もかくや、といった様相を呈する車両基地を見回した相棒の苦言に、リンダは自分の刹那主義的な悪癖を認めつつ開き直った。
「永遠の課題と認識しています」
「ンナ、ンナ(反省して、もっと)」
「はい、します」
「ワタンナ?(カリンちゃんにちゃんと謝らなきゃダメだよ?)」
「もちろんです、謝ります」
「ンナナワタ。 ンナナ、ンナ!(あと今夜はボクのことフルメンテして。 時間かけて、丁寧に!)」
「はい、よろこんで奉仕させて頂きます」
「ンナッ、ンナワタ!(うん、ならボクは許したげる!)」
贖罪内容が確定したところでレミントンのお許しが出る。
殊勝にもしっかり悪びれているのかと思いきやそんなことはなく、(謝んのダリ―な)と内心思っているリンダ。
まだ目を回しているカリンをおんぶして立ち上がる。
「んじゃ、まぁ......帰りますか」
「ンナンナ(また襲われないといいね)」
「“引き寄せの法則” って知ってる?」
「ワタタ?(“神頼み” の類語でしょ?)」
「辛辣ぅ」
ぐっすり眠っている(?)カリンを背におぶるリンダは、周りの惨状に見て見ぬフリを決め込むことにした。
(この規模の賠償を請求されたら、ボク差し押さえられるかも...)と危機感を抱くレミントンも、今回は片棒を担ぐことにした様子。
レミントンの携えたボンプ用オートショットガンが5回ほど炸裂した頃には出口の裂け目に到達、無事にホロウを脱出した。
ホロウと外を行き来する時の肌を撫でる独特な感覚を受けながら、リンダは今回の依頼を振り返る。
丸ノコおどおど系メイドの恐怖の一面を知ったり、要警戒個体ブッチャー乱入という特大の想定外に遭遇したり......散々な目に遭ったものの、感想としては “来てよかったな” と。
リンダは背中に感じるカリン少女の慎ましやかな膨らみに黙して集中しながら、そう思うのであった。
それからというもの
ホロウを抜けてヤヌス区辺境の廃工場へと出たリンダ達。
戻ってきた途端に疲れが押し寄せるが、受け渡すまでが回収依頼...予想外に次ぐ予想外で変に疲れてしまった身体へ鞭打ち歩き出す。
向かう先は現在地からほど近い〔バレエツインズ前〕、その展望デッキでヴィクトリア家政の責任者と落ち合う手筈になっている。
大人組のどちらかであろう責任者、「出来ればリナさんがいいなぁ~」と呑気に呟くリンダ。
頭にタンコブこさえさせたカリンを背負っていることはお構いなしである。
(どんな言い訳するか見モノだなぁ...)と助けに入る気ゼロのレミントン、蛮行を許しはしたが “ソレはソレ” な模様。
もう一騒ぎ起きそうな状況なんてなんのその、バレエツインズ前へ向かうタクシーにはそんなこと関係ない。
20分弱ほどで到着しカリンを連れた2人は展望デッキへ向かうと、そこには
「リンダ様、お待ちしておりました」
「............おっすー、お疲れワンちゃん」
「...本日はリナは非番になっております」
「まだなんも言ってねーじゃん」
「目が口ほどにモノを言っておりますので」
「目敏い男って女からの評価分かれるんだぜ?」
「...貴女は自分の評価を気にするべきでは?」
ヴィクトリア家政のオオカミ執事〈フォン・ライカン〉は、リンダと彼女に背負われる部下のメイドの姿を見てそう言った。
破れや汚れが見受けられるメイド服、所々に覗く治療の跡、極めつけに額のタンコブ。
明らかに何かやらかしていると分かる。
しかし、文句言いたげなライカンの雰囲気などなんのその。
止むに止まれぬ事情があった、とリンダはカリンをベンチに横たえて、合流してからの “想定外” を報告する。
それを聞いたライカンは驚き少し思案した後、依頼を終えてくれた事実に感謝を伝える。
「────そんなことが......まさか、解体現場付近のモノとは別の個体が存在したとは......!」
「しかも変異個体だぜ? 大事を取って私一人で殺ったんだから、タンコブや細かい傷は勘弁してくれよ...ちゃんと処置はしたし痕も残んねーって」
「カリンも立派な淑女です。 痕が残るなら兎も角、そうでないなr............は?」
「...あん?」
「リンダ様、撃退ではなく...倒されたのですか...?」
「うん、消し飛ばしてやったね」
「......流石は “英雄”。 2人を守りながら変異個体のブッチャーを倒されてしまうとは...」
驚愕の表情を浮かべるライカンは、ネームドエーテリアスを倒した事をサラッと言うリンダの態度に昔の事を思い出していた。
初めて出会った〔製油企業跡地〕で躊躇い無く復讐していた彼女。
とある廃鉱山のターゲット “希少鉱石を好んで取り込む高危険度エーテリアス” を狩りに行ったら偶然再会、エーテリアスをどつき回して希少鉱石をたっぷり取り込ませていた彼女。
悪徳貴族の資産を狙いパーティ会場に潜入した際、手配させた
飄々としているのか、頭がおかしいのか、教養があるのかないのか。
いつ対面しても、このリンダ・ブラッドという女は読めないし予想を外してくるな...
ライカンは部下を救い出してくれた旧知の友人を前に、そんなことを思っていた。
「だろぉー? 大変だったんだぜー? ってことで勘弁s「“それそれ、これはこれ” でございます」えっ」
カリンの状態を確認したライカンは、すっかり
「リンダ様、確認致しましたが...手当に関してはお見事です。 これなら確かに痕も残らないでしょう、代わって感謝いたします、ありがとうございます」
「お、おう、どういたしまして...?」
「ですが、怪我そのものにはいささか疑問が残ります。 あたかも
「ギクッ」
「エーテリアスによって出来た傷であれば、多少なりとも侵食痕が出るものです。 しかしながら、カリンにはそれが見られません......
「そう決めるのは時期尚早というか...! そうとも言うというか...!」
「それにカリンの身なりが少々埃っぽいのも気がかりです。 報告によれば、カリンはレミントン様に付き添われ...
「そ、それ関しちゃあレミーが話してくれっから! ちょ、呼ぶわ! レミー、こっちn────」
順調に糾弾されているリンダ。
このままじゃマズイ...と相棒の助けを借りるべく周りを見渡すが、先程まであった筈のその姿は何処にも見られない。
【悲報】レミントン、飽きておさんぽに行く【の巻】
(ア、アイッツゥゥゥゥゥゥ!? 見捨てやがったぁぁぁぁぁぁ!?)
「はぁ...
「お、応ともさっ!?」
「“消し飛ばした” と言ったな......お前、
「だって変異ブッチャーだぜっ? アレくらいやって一撃で消し飛ばさねぇとさぁ...」
言い分の途中で言葉に詰まるリンダ被告。
相棒の様に丸め込める相手じゃない...と感じて言葉を選んでいるようだが、そうはさせるかと間を置かずにライカンは追撃する。
「消し飛ばさねぇと、なんだって?」
「.........なんか、ヤバいじゃん」
「ああ?」
「や、ヤバげじゃん」
「ヤバくなるのはお前だ」コキッコキッ
「ちょっ待てって!? 嘘は言ってねーぞ!? 私の残留エーテル吸収してんだからっ、時間かける方がリスクだろっ!」
「“リスク” と言うのは! 後付けの言い訳で使う言葉じゃない! お前の事だ...どうせ憂さ晴らしでも兼ねてブッ放したんだろうが!」
うっ...! と言って露骨に言葉へ詰まるリンダ。
それ見た事か... と自分の推理が正しかったことに頭を抱えるライカン。
「観念して洗い攫い話せ、バカリンダ。 俺を丸め込めると思うか?」
「ぬぅ......はぁ、分かったよ......クッソ、オマエ嫌い」
リンダは負け惜しみを吐いて一呼吸置いた後にカリンの身に起きたことについて話した。
「いつぞやの、アレだ......宝石だらけのエテ公いたじゃん? 覚えてる?」
「ああ、廃鉱山の特別警戒エーテリアスだな? ......おいお前、あれを屠ったのと同じのを放ったのか!?」
「うん、周りの放置車両まで吹き飛んでたよ」
「他人事みたいに言うなっ! あの時は馬鹿でかいクレーターをつくって、衝撃で土砂崩れまで起こしたろうが! 大方、今回は建屋が余波で崩れでもしたんだろう...よくこの程度の傷で済んだな...」
「そりゃ流石に加減したっつーの! 侮りすぎだろ! バーサーカーじゃねーんだよ!」
「道徳倫理の狂ったアウトローの癖に不服そうにするな!」
「私は理性的に狂ってるんだよ、タガをどれだけ外すかなんて自由自在だ!」
「威張るな! 全く...本当に変わらないな、お前は...」
数か月ぶりに顔を合わせた
開き直ってこそいるが反省は見られるし治療も的確だった上に、変異個体ブッチャーとの遭遇というアクシデントを人的被害をほぼ出さずに処理している。
報告にあったカリンの
「怪我軽傷、治療は的確で後遺症の心配は無し。 変異個体ブッチャーから守った功績も考えれば......まあ、回収依頼は成功と見なして良いだろう。 よくやったリンダ、今回は勘弁してやる」
「へぇへぇ、そりゃありがとよー。 ったく、とんだ一日だったぜぇ...」
「日頃の行いが未来を創るんだ、もう少し大人しくなったらどうだ?」
「.........しばらくは、そうしとくつもりだったんですがねぇ...」
どこか遠い目をしてそう呟くリンダ。
その様子に首を傾げつつ、ライカンは携帯端末を取り出して
「それはそうと────リンダ、実はもう一つ要件があってな...〈あるお方〉と話して欲しい」
「あん? 別にいいけど......お前がへりくだるって事は、ヴィクトリア家政の上役か?」
「ある意味ではそうとも言える。 詳しくは自分で確かめろ、俺も内容については知らされていない」
そう言うと、携帯端末で〈あるお方〉へ通話を掛けるライカン。
リンダは「面倒事の予感がプンプンする」とボヤいていると、間を置かずに話し始める。
────失礼いたします閣下、ライカンです。
────はい、その件につきましては無事回収致しました。
────はい、了承も取れました。 ここに同席しております。
────承知いたしました。 では、そのように。
「リンダ様、こちらを...先方と繋がっております」
「口調戻すんだ、律儀ぃー」
「.........くれぐれも、粗相の無いように、お願い致します」
「...? おう、了解」
先程までの砕けたものとは打って変わって気品のある口調でうやうやしく対応するライカン。
その様子に怪訝な顔をするリンダは(“閣下”誰だろ......麻〇さん? 林〇さん? それとも10万61歳のほう?)などどいきなり粗相全開であった。
リンダは釘を刺されながら端末を受け取り閣下とやらと話し始める。
「もしもし、“電話越しに人を殺せるアイテム” のセールスですか?」
〚────ハッハッハッハ! そんな夢みたいな物があれば、市政を繰るのも随分と楽になりそうだ〛
本当に残念ではあるのだが、セールスではないのだよ。
そんな風に自嘲気味にボケをあしらう閣下殿。
耳にした単語から正体にサシがついたリンダは「...ヴィクトリア家政の従業員連中、人生あがってねーか...?」と自分の身の上と比較してボヤく。
〚待遇が良いのは確かだが...私と共倒れしないとも限らない。 君も含め、若人たちの未来を潰してしまわないよう、どうか力を貸し欲しい〛
「力、ねぇ... 単刀直入に聞くけどよぉ、どこまで知ってんの?
〚君の身に起きた事は知っているが......どうかライカン君を恨まないでほしい、私は個人的な筋を辿ってそれを知ったのだ。 君の左腕に刻まれたタトゥー...隠していない様だが、雲岳山の『
「なるほど......あの研究員は「俺様が開発した」とかホザいてたけど...まあ、見る人が見りゃあ分かんのか」
肩書に恥じねぇ顔の広さだなぁ、
少しピリついた雰囲気を纏ったリンダがそう言うと、電話口の相手は「失礼、自己紹介がまだだったな」と言って肩書と本題を話し始めた。
〚私の名前は〈メイフラワー〉と言う。 この新エリー都の市長と、ヴィクトリア家政の社長及び “真の主人” でもある......この事はあまり公にはしていない情報でね、どうか内密で頼む〛
「で、探り入れたのはチャラにしろってか? それとも、弱みでも握ったつもりなのか?」
〚誤解しているな、これは信頼の意思表示だ、他意はない〛
「ふーん......ま、いいけど。 それで、本題はなんなん?」
〚ああ、そうだな...単刀直入に言おう────君を生んだ研究がリブートされている可能性がある〛
「はあ?」
本題を聞いた瞬間、リンダの機嫌は地の底へと落ちた。
ここまで苦労して復讐を続けてきたのは、少なからずそれをさせない為でもあった。
にも拘らずそれを許した自分の脇の甘さ、純粋な怒りと憎しみ、なにより自分が関わっていない以上は
こみ上げてくる黒い感情を押し留めて、すっかり復讐鬼の顔つきとなったリンダは市長へ協力する旨を即座に伝える。
「...協力するぜ、イエスだ、詳しく聞かせな」
〚感謝するよリンダ君。 後日、詳細な資料を届けさせるから今は端的に話すが、スロノス区で昔起きたホロウ災害『フィリップス邸の惨劇』を知っているだろうか?〛
「ああ、ホロウに呑まれた貴族の邸宅だろ? 一族や使用人諸共エーテリアス化して
〚そうだ。 フィリップス邸を吞み込んだホロウは当時の虚狩り 〈
そこまで言うと「ここからは他言無用で頼むよ」と前置きすると、一呼吸おいて再び話し始めた。
〚完全な鎮圧はされておらず、実際は縮小させるに留まった...まだ邸宅内部にはホロウが残っていて、手を下したのも虚狩りではない〛
「...災害当日に邸宅へ出入りした人数と犠牲者の人数が合わない、なんて噂は聞いたことあるけど...まさか」
〚そのまさかだ、実際は虚狩りでなくフィリップス夫妻の一人娘の手によって鎮静された。 彼女は存命だが、まだ未成年だった事もあって公には虚狩りが動いたという事になっている〛
「なんで、んな事アンタが知ってんのさ?」
〚当主のペルヴィスとセリト────虚狩りの事だが、私たちは個人的な友だった......災害当時に虚狩りを向かわせ、情報統制をして彼女を守ったのは私だからね〛
「なるほどな...で? その愛され娘は今なにを?」
〚新たな被害を生まないよう “守り人” として、変わらずフィリップス邸に在住している〛
一昔前にスロノス区を震撼させた『フィリップス邸の惨劇』の隠された真実。
たった一人でホロウに立ち向かった未成年の一人娘、それが今なお邸宅に居を構えホロウを
リンダはある推測へと行き当たった。
「つまりよぉ......その一人娘が私の “類似品” ってオチかい?」
〚...君を生んだ研究に携わった技術協賛企業の残党たちの一人に〈マリア・グレイブス〉と言う名がある。 既に故人だが、新エリー都で入籍した履歴があってね。 新たな姓は
〈マリア・フィリップス〉
出てきたのは惨劇当時のフィリップス家当主〈ペルヴィス・フィリップス〉の妻の名であった。
つまり『フィリップス邸の惨劇』は災害などではなくマリアがリブートした研究の成果or失敗によるもので、それは手塩に掛けた一人娘の手によって終わりを迎えたということ。
彼女がリンダの系譜に連なるのであれば異化の危険も当然ある。
リンダが無事でいられるのは体質のおかげ、“エーテル汚染を解毒できる白血球” なんて体質は現状リンダのワンオフ能力なのだから。
「直接研究に関わった筋の奴らはあらかた殺ったと思ったが......ドブネズミ共、息潜めてやがったな...!」
〚言っておくが、彼女は完全なる被害者だ、君の復讐対象には当たらない〛
「そりゃ私が見定めんだよボケが、殺すぞ」
とばっちりを受けかねない友の忘れ形見を気に掛けるメイフラワーが復讐鬼へ釘を刺すも、ピンポイントで神経を逆撫でする結果となる。
一瞬で張り詰める空気に待機していたライカンが何事かと反応し、メイフラワーは地雷を踏んだ事に内心焦る。
しかし、当のリンダは以外にも何でもないかの様に話を続ける。
「で? 結局のところ私は何をすりゃ良いんだよ、忘れ形見を始末しろってんじゃねーんだろ?」
〚...ああ。 リンダ君へ頼むのは、端的に言えば “フィリップス邸の調査” だ。 近頃、ホロウの活性ペースが上がっていると彼女から報告があってね......それに伴ってか、付近で怪しい動きも見られる〛
「年頃の女がストーカー被害に遭ってるとか?」
〚鋭いな、まさにそうなんだ〛
「...は?」
〚正確には、ジョナサン財団傘下の医療機器メーカー、その下請けの一つがフィリップス邸を嗅ぎまわっていてね。 社員名簿には〈マリア・グレイブス〉の同僚の名もあった......君が適任だと思うのだが〛
どうかね? リンダ君────
返答を待つメイフラワー市長、リンダは少しの間思案する。
その昔にスロノス区を震撼させたホロウ災害に自分の忌まわしき過去が関わっていて、あまつさえ
その周りを残党たちが嗅ぎまわっていて、リンダが身を寄せている『ジョナサン財団』が絡んでいる可能性すらあるという。
研究の関係者絶対殺すマンの返答は当然決まっている。
「ああ、私に任しとけ、大将」
凄惨な笑みを浮かべて、リンダ・ブラッドはそう告げた。
─────────
──────
───
そして。
「────そんでさぁ、お前は何を見縊ってくれちゃってるワケ? このアホタレ」
「元はと言えばっ、お前が紛らわしい態度を取るからだろう...!」
そのまま通話を終え端末を返したリンダは、ライカンに対して苦言を呈していた。
実はこの執事、ちょっとキレたリンダが市長に対して「殺すぞ」と言い放った際にしっかり危険を察知して反応しており、戦闘態勢を取っていたのだ。
リンダがそれに気づかないハズもなく、「心外だ」と文句を言っているのであった。
「そんくらい不愉快ですよ、って言葉の綾だろうが分かれよ。 そも、居場所知らんし」
「俺たちのファーストコンタクトがアレだったからな......その、何と言うか、過剰に反応し過ぎたのは認める...済まなかった」
「うっさい、ちょっと見損なったわ」
「第一、普段からお前は “殺す” だなんだと誤解を招く言い回しが多すぎる、身から出た錆だろう!」
「出たよ説教タイム、次はカウンセリングか? ムキになんなって」
じゃれてるだけだろぉ~。
そう言って、大して気にしていなかったリンダは話を切り上げると、どこからともなく「ンナンナ」と聞こえてくる。
顔を向けるとバトラーとレミントンが仲睦まじく話しながら帰ってきた。
「バトラー、御遣いご苦労様でした。 リナはなにか言っていましたか?」
「ンナナ、ンナ(今日はこのまま上がる、とだけ)」
「分かりました、ご苦労様です。 では、そろそろ行きましょうか」
「で、お前は一体なにしてたんだコラァ」
「ンンナ!(バトラーとおさんぽしてた!)」
「楽しそうねオマエ!」
......んん、ここは...? バトラーさん...?
ン、ンナ!? ンナ!?(カ、カリン様!? そのお怪我は一体!?)
ライカンから頼まれた御遣いを終えて車に乗り込んだバトラーは、ようやく起きたカリンの姿を見て慌てふためく。
私のこと早々に見捨てやがってよ
ナンナ(自分の罪は自分で償うのが道理)
ほっぺにパンケーキっぽい食べカスをこびりつかせた相棒に正論をかまされ、思わずピキるリンダ。
思わぬことに本編1章とキャラエピソードが同日に発生、割を食って原作に関わるハメになり。
思わぬアクシデントに見舞われつつも、迷子の回収依頼を無事達成。
思わぬゲスト〈メイフラワー市長閣下〉からの依頼は、まさかのリンダの過去にまつわる案件だった。
想定外に次ぐ想定外で精神的疲労もひとしお。
近頃は停滞気味だった復讐に進展の兆しが見え始めたのが不幸中の幸い。
後日、送られてくる詳細な資料とやらを待ちつつ牙を研ぐことにしたリンダは、ライカン達に別れを告げてレミントンと共に九分街への帰路についた。
「帰ったらフルメンテだ、まずは風呂でサッパリしよ」
「ワタタ!(ボクも一緒に入る!)」
「また感電するっつーのっ」
「ンナワータ(今度は防水キャップ忘れないもーん)」