血に交われば薔薇になる 作:サンオツボンプ
それと1話じゃ無理だったので前後編に分けます。
12月中に後編を投稿して2章に入る予定です。
⦅前篇⦆ 刀拳、虚ろの花を手折らんとす。
旧エリー都 零号ホロウ “リンボ” 深部
旧都を崩壊させ、その全てを呑み込みエリー都最大の魔境を生み出した、超巨大原生ホロウ。
その主である、花と人間の女性を想起させる異形の極超級エーテリアス[ニネヴェ]。
高濃度烈性エーテルを振り撒く災いの魔花......それを滅却せんとする者たちがいる。
当代最年少の虚狩りと九分街の英雄......普段、犬猿の仲である2人はエリー都史上トップクラスに強大な敵を前にして手を取り合う。
英雄が咆哮と共に放った渾身の一撃が開戦の号砲となり、闘いの幕が上がった。
「────ブッ壊れろぉぉぉぉぉぉ!!!」
ドゴォォォンッ!!!
[Qyiiaaaaaaa !!]
ニネヴェの背後......物陰から猛然と飛び出したのは赤いオーラを纏うリンダ、無防備な体に双拳が炸裂してエーテル結合を破壊していく。
極超級エーテリアスの叫声が静寂を切り裂き、追従するホーネットが反応して一斉に外敵であるリンダへと殺到する。
しかし、攻撃の余波がニネヴェの撒き散らす高濃度烈性エーテルと反応し、ホーネットを消し飛ばしながらニネヴェとリンダを巻き込み盛大に爆発する。
轟音が残響する中、辺り一面を覆う爆煙から跳躍して離脱したリンダは、精神統一し気を高めている
「今だっ!! 決めやがれ────雅ぃ!!」
声が響くのと同時に怒れるニネヴェが爆煙を晴らして姿を見せる。
エーテル結合の破壊という未知の攻撃を受け警戒を強める彼女へと、反応を許さない程の速度で迫る影が一つ。
〈星見雅〉 救世の刃から、研ぎ澄まされた神速の斬撃が放たれた。
「────
一瞬の交錯......完全に不意を突いて叩き込まれた至高の剣閃は、結合が分断されて赤く発光する亀裂が
ニネヴェの体表を控えめにズタズタにするに留まった。
雅は深追いを避け、ニネヴェにロックオンされる前に素早く離脱。
作戦本部へと “
「おっっっっっっっそ! やっぱ、コンパスの差かねぇ!」*1
「斬り落とすぞ痴れ者が」*2
「気安く抜刀すんじゃねーよサバ読み女!?」
テメーにプライドってモンは無ぇーのか! そう捨てセリフと共に距離を取るリンダ。
そんな彼女から、“駆けつけ一杯” と言わんばかりの煽りを喰らって思わず鍔を押し上げた雅は、その怒りをリンダの戦闘許可証更新の日まで取っておく事に決め、感情を鎮めた。
微妙な空気が流れる中、雅は今しがた終えた一次攻撃で受けた
「...リンダ」
「あん?」
「今しがたの交錯...刃の通りが悪かった様に感じたのだが、気のせいか?」
「確かに、ショボいスリ傷みてぇなダメージしか入ってなかったな」
「お前の攻撃...効き目に乏しい様に見えたのだが、私だけか?」
「打ち込んだ本人だぞ? 私にも同じ光景が見えてる」
「お膳立てしてやる、などど大見得を切っておいてあのザマとはな」
「テメェの太刀筋がヘナチョコなんだボケが」
「ヘナチョコなのは貴様の拳だろう」
「あ"あ"? 私の <デストロイヤー> 初見のクセに知ったような口利くなや」
「......あれでは名前負けもいいところだろう(デストロイヤー...)」
そんな名前なのか...と、雅が微妙にダサかった技名に少し引く。
一方でリンダは、ニネヴェに “脆弱化” が通りにくかったことを分析していた。
(極超級エーテリアス[ニネヴェ]か......流石、
今まで蹴散らしてきたエーテリアスと根本的には違わない筈。
そんな想定の下に繰り出した一撃────先日、デッドエンドブッチャーへ叩き込んだのと同じエーテル結合破壊攻撃────は、大幅に威力が減衰していた。
打ち込まれたリンダのエーテルがエーテリアスの身体を構成するエーテル分子を取り込み・侵食する事で分子結合を
それが対ニネヴェにおいては、そもそも打ち込むこと自体が厳しかったのである。
(出力不足、だな。 力使えば、あんなモンじゃ済まさねぇ自信あるけど......『枯渇病』が怖ぇんだよなぁ...)
『枯渇病』、それはニネヴェの振り撒く “高濃度烈性エーテル” が齎す感染症。
発症すると身体にエーテル結晶の花が咲き、侵食と共に宿主の全てを吸い上げて成長し、果てにはエーテリアスへと変わってしまう。
リンダの力は周囲のエーテルを吸収・増幅することで回す。
その性質上、ひとたび高濃度烈性エーテルを吸収してしまえば......その
ホロウ調査協会へ事前にサンプルを送り検査していて、自分の体質が効くことは確認済みだが...相手は極超級エーテリアスだ。
リンダはニネヴェの未知の毒を前にして、ガラにもなく及び腰になっていた。
「はぁ...ニネヴェうぜぇ~」
「...なんだ、珍しく及び腰か? “九分街の英雄” 殿も年貢の納め時と見える」
「ならテメェの目は節穴だ、滅多な事言うんじゃねーっつーの」
私がなんの悪事を働いたってんだ、心外だわ。
などと白々しく言い返したリンダは、食べかけのレーション*3とやけに渋いパックの緑茶*4を雅に押し付けて少し横になる。
リンダは零号ホロウの高活性エーテルを浴びてエネルギー補給しながら、ニネヴェなんて化け物とやり合うハメになった経緯を思い返した。
時は2日前まで遡る
デッドエンドホロウでの一件の後『フィリップス邸の調査』に際して市長からの詳細な資料を待つ間、九分街で今年二十二度目となるホロウ災害を鎮めたリンダ。
人的被害は0だが、いつも通り公共物は破壊*5したので治安局へ赴き免除申請をした際に、書類を確認し終えた朱鳶が「話がある」と言いリンダを引き留めた。
「リンダさん、ちょっと別件で話があるんです」
「プロポーズ? 良いよ! 式はいつ挙げる? 白無垢もいいけど、やっぱ朱鳶ちゃんにはドレスを着て欲しいなぁ!」
「そう言う話じゃありませんっ! もう、直ぐに茶化すんですからっ!」
「はっはー、ゴメンゴメン。 それで話ってのは?」
1ボケ入れておちょくってからじゃないと真面目な話が出来ない女、リンダ。
プリプリ怒る朱鳶を雑に宥めて話を促すと、彼女から予想だにしない言葉が出てきた。
「単刀直入にお伝えしますが......リンダさんとレミントンには、六課の方々と共に零号ホロウで
行われる『刀耕作戦』に参加していただきます」
「拒否権は?」
「ありません」
「意義ありっ!」
「
「不肖ながら、このリンダ・ブラッド、謹んで拝命いたします」
「よろしい、殊勝ですね」
まさかの原作エピソード強制参戦フラグが訪れた上に即回避失敗。
ノリと勢いで買った喧嘩は善行でも、暴徒鎮圧の代行でもなく、ただの蛮行だった様だ。
思わぬところで大きな借りが出来てしまったリンダは、断るわけにもいかず内心大きく肩を落としながら引き受けることになった。
「...そんで? その『刀耕作戦』ってヤツはなんなの?」*6
「はい、詳しくは当日のブリーフィングで説明がありますから、概要だけお伝えしますね」
『刀耕作戦』は、[相利共生型エーテリアス群:ニネヴェ]...通称 “ニネヴェ” に対して防衛軍主導で行われる強襲作戦です。
極超級エーテリアスに数えられる彼女が放つ “高濃度烈性エーテル” と呼ばれる特殊なエーテル物質は、『枯渇病』という感染症を蔓延させエーテリアスを凶暴化させてしまいます。
これは零号ホロウの調査と鎮圧おいて大きな障害となっていて、ニネヴェのエーテル活性指数の増大により日に日に被害が増しています。
彼女の力が増すという事は、零号ホロウの暴走へ直結する...
エーテル活性を低減させ、枯渇病の発生範囲を抑制すべく、ニネヴェに5フェーズからなる波状攻撃を仕掛けて弱らせることで強制的に活性を抑え込みます。
一次攻撃は雅と貴女の2人で威力偵察と雑兵の露払いを。
二次攻撃は防衛軍 オブシディアン大隊所属 オボルス小隊。
三次攻撃は同じくオブシディアン大隊所属のエレクトラー小隊。
四次攻撃は
そして大トリを担当するのは......H.A.N.D.直属 『虚狩り』星見雅率いる対ホロウ特別行動部第六課に、『虚殺し』九分街の英雄リンダ・ブラッドを加えた、今作戦の最高戦力。
様々な勢力が手を取り合う総力戦────
「────以上が、今回の刀耕作戦の概要となります.........あの、どうかしましたか?」
「 な ん で ア イ ツ と ペ ア な ん だ 」
「相変わらず、水と油なんですね...」
デスクに突っ伏し怨嗟の声をあげる英雄の姿が、そこにはあった。
波状攻撃でニネヴェの活性を抑制する...それは自体は知っていたが、まさか誰かと組まされるとは考えてもいなかったリンダ。
しかも相手は天敵の星見雅、2人がかみ合う可能性は低い。
(デストロイヤーぶち込んでソッコー耐性下げて...後はアイツに全部やらせよ)
「今更ですが、リンダさん大丈夫ですか? ドタキャンなんて止めて下さいよ?」
「朱鳶ちゃんに借り出来ちゃったしね...やるよ、ちゃんとね、嫌だけど」
「しっかり頼みますよ? 新エリー都の治安にも関わりますから」
「私のシマは九分街なんだけどね」
まあ、任されたよ。
そう言ってリンダは治安局を後にした。
その軽い返事に朱鳶は一抹の不安を覚えつつも、一応はリンダも自立した一人前の大人で立派な実績もあり、自分が考えすぎなだけだろう...そう結論付けて職務へと戻った。
しかし数日後、朱鳶の不安は的中してしまうが、勿論そんな事は誰にも分からない。
時間は経ち、作戦当日。
スコット前哨基地にてブリーフィングを終えたリンダと雅は零号ホロウ深部へ向かい、揺蕩うニネヴェへと刀耕作戦の一次攻撃を仕掛けるのであった。
そして現在。
横になっている内に夢の中へ飛んでしまったリンダ。
身体の揺れと耳元の「ンナンナ」ボイスで目を覚ますと、他の部隊へと出張していたレミントンが戻ってきており困ったような呆れ顔でリンダを見つめていた。
「.........おはよぉ」
「ワタンナァ...(ガチ寝してヘロヘロじゃないか...)」
「...んぅ......」
「ンナナ? ンナンナ?(これから最後の攻撃だよ? そんなんで大丈夫?)」
「ぅん...もち......おっけ...」
「ンナワター!(嘘こけー!)」
体質的に低血圧な相棒の寝起きの弱さに苦戦するレミントン。
(いつもの事だけど...ちゃんと起こすの大変なんだよなぁ...)
リンダの膝に乗り短いおててで頬をペシペシして*7健気にも覚醒を促していると、六課の副課長〈月城 柳〉が出撃準備の進捗を確認しにやってきた。
「...レミーさん? リンダさんの様子は────」
「んん...ふぁ......ぁぅ」
「ンーナーナー!(リーンーダー!)」
「芳しくないみたいですね...」
指折りの強者と言うのは、どうしてこうも一癖ある人ばかりなのか...
作戦中に爆睡する暴挙をかましたリンダを見て隙あらば修行し始める直属の上司を思い浮かべた柳は、なんとか起こそうと四苦八苦するレミントンに話しかけた。
「レミーさん、安心して下さい。 一瞬でシャキッとさせる方法がありますから」
「ンナァ?(ホント?)」
「ええ、ホントです、私に任せて下さい」
そう言って柳はレミントンを抱き上げ床へ降ろすと、しゃがんでリンダと目線を合わせた。
「...目ヤニまでしっかりついてますね...」
取り出したハンカチで目尻を拭いてあげると、頬に手を当てながら耳元で囁く。
「リンダさん、シャキッとして下さい、時間ですよ」
「...ぅん...もやしより......とうみょうが、いい...」
「それは “シャキッと” 違いです」
「ぅ~ん.........ふっ...へへっ...」
「...大分起きてますよね、貴女」
「.........っ」
「......雅、貴女を鼻で笑って置いて行k────
────ふぅ...これでよし、と」
柳のブラフを真に受けて跳ね起きたリンダは、相棒のレミントンを引っ掴んで凄まじいスピードでテントを飛び出していった。
一瞬で遠ざかっていくリンダの罵声とレミントンの悲鳴...雅とリンダのツートップが先行したことで出撃準備が終了した。
(彼女は兎も角、レミーさんには悪いことをしましたね...)と思いつつ柳もテントを出ると、準備を終えて雑談していた悠真と蒼角の下へと歩み寄る。
「あっ、ナギねえー! 今ね! 突風が吹いてびっくりしたら...いつの間にか手にクッキーが握られてたの! これ食べていーい?」
「...蒼角、得体の知れない物を食べてはいけまs......って、この銘柄は」
「副課長、これ “ラ・ヴェローニ” のメープルオリーブビスケットですよ。 確か、リンダの好物だったハズですけど」
「高級ブランド品じゃないですか......リンダさん、怒りながら甘やかすなんて、器用な事を...」
「さっきの突風、やっぱりリンダだったのか...彼女が絡むと、現場が途端にシュールになりますねぇ」
「相手がニネヴェでも調子が変わらないのは...予想外でしたけど」
「彼女らしいじゃないですか。 アイツが何かにビビってるとこなんて、それこそ予想外ですって」
「ふふ...それもそう、ですね」
「ナーギーねーえー! 聞いてるのー? たーべーてーいーいー?」
「ちゃんと聞いていますよ蒼角。 食べていいですよ、後でリンダさんにお礼言いましょうね」
「やったー! ありがとーリンダー!」
おいしー!
ブランドなんてお構いなし、高級ビスケットを美味しそうにパクつく蒼角の幸せそうな顔に周囲の空気がほんのりと和む。
頭を一撫でした柳は、獲物の薙刀を携えて歩み出ると六課の隊員たちへ声を掛ける。
「活性化したエーテリアスを駆除して露払いをしつつ、先行した2人をサポートします......準備は良いですね?」
「エネルギー満タン! いつでも行けるよナギねえ!」
「それじゃあ、重役出勤といきますか」
「ガリバー隊員も、行けますね?」
「ンナナッ!(準備万端っ!)」
頬に食べカスをつけた蒼角が刃旗を携えて駆け寄る。
弓矢を携えて皮肉と共に悠真が立ち上がる。
気合十分なガリバー隊員が命令を待つ。
副課長として隊員を率いる柳が号令をかける。
『
これまでの進捗を経てターゲットは予定通り弱体化していますが、引き寄せられ活性化したエーテリアス達が依然として暴れています。
他の部隊が残党狩りを行っていますが、不意の襲撃にはくれぐれも注意を。
これで最後です...しっかり締めて、今作戦を成功させましょう。
それでは、第六課、行動開始。
副課長の号令が響き渡り、隊員たちが一斉に動き始める。
柳・悠真・蒼角・ガリバー隊員の執行官チームもニネヴェの下へと向かう。
刀耕作戦、第五次攻撃......作戦の最終フェーズが始まった。
「2人とも...足を引っ張り合っていなければ良いのですが...」
「ンナンナッ(望み薄だなっ)」
おまけ ブリーフィングでの一幕
スコット前哨基地の天幕の中。
防衛軍、ホロウ調査協会、対ホロウ特別行動部第六課...各陣営の代表者が集まっており、刀耕作戦のブリーフィングが行われていた。
概要の説明を終え、防衛軍のローランド大尉は質疑を募る。
「────以上が、今回の刀耕作戦における概要となります。 質疑があれば受け付けます」
「......大尉殿、本官から一つ...」
「聞きましょう、「竜鱗」隊長」
そう言ってローランド大尉は、同じ防衛軍に所属する士官に発言を促した。
「竜鱗」隊長は訝し気な表情で話し始める。
「防衛軍 オブシディアン大隊・エレクトラ―小隊所属 隊長の「竜鱗」であります。 恐縮ではありますが、概要にあった今作戦の|
生身の人間が成せる業とは...到底、思えませんが。
そう吐き捨てるように話し終える「竜鱗」。
ローランドは「自分、怪しんでます」とハッキリ宣言した部下を宥めるように、リンダの “力” についてジョナサン財団から共有された資料を交えて説明し始めた。
「
「はい、人間であろうとエーテリアスであろうと、体内にはエーテルエネルギーを宿しています。 虚殺し《Hollow Slayer》殿はその特異な体質によってエーテル侵食を自浄できるのだとか...」
「ええ、そして彼女の外骨格型の武装『パルヴァライザー』はエーテルを吸収・増幅する機能を有します。 吸収され白血球の作用を受けて免疫細胞群の付着したエーテルを、専用の機器...パルヴァライザーを介し増幅してエーテリアスへ打ち込むことで、侵入した免疫細胞群が
「...なるほど、彼女でなければ出来ない訳は理解しました。 ですが......やはりまだ納得は行きません」
「他にも何か?」
「弱いエーテリアスなら、ということは
「不安はあるでしょう、ですが────「ああ、それに関してはいらん心配だ」 ...レイ? 所用で外すのでは無かったのですか?」
ローランドの説明を受けてもなお、「竜鱗」はリンダが今作戦の核であることへの疑念が拭い切れない。
どうしたものかとローランドが口を開いたその時、零号ホロウを担当するホワイトスター学会の研究員〈レイ〉が現れた。
所用でブリーフィングを外していた彼女は、ジョナサン財団のロゴが入ったドキュメントケースから書類を取り出してデスクに並べ、疑念を払拭するように話し始めた。
「今作戦に先んじて、ニネヴェの高濃度劣性エーテルのサンプルを財団の医療研究センターへ送りつけておいた。 リンダの体質が効果を発揮するかどうか検査をさせる為にな」
「それで、結果は良好...と言う事ですか」
「ああ。 特定の免疫細胞の活動に若干の減退は見られたようだが、自浄作用そのものは概ね問題なく効果を発揮したようだ。 ニネヴェ本体にも一定の効果が見込めるだろう、予定通りアイツには今回の刀耕作戦の要を担ってもらう。 一同、異論は無いな?」
「ホロウ調査協会および合同部隊、異論無し」
「対ホロウ特別行動部第六課、異論は有りません」
「オボルス小隊、異論は無い」
「「鬼火」っ!? 貴官までっ...」
「...はぁ......お前はソレは慎重と言うより臆病だぞ。 部隊を束ねる立場ならもっとドッシリ構えろ
「よ、余計なお世話だ! エレクトラ―はどいつもこいつも血の気が多いから私でバランスをだな...!」
「もうその辺りにしなさい「竜鱗」隊長。 貴官も一人の軍人でしょう、決定事項にいつまでも文句を垂れるんじゃありません」
「......っ」
「アイツはやる女だ、リューナ。 『九分街の英雄』は伊達じゃない、安心しろ」
「話はつきましたね? では、ブリーフィングは以上となります。 各自、部隊へ戻り情報を展開後、定刻まで待機しなさい」
総員解散。
そのセリフと共にブリーフィングが終り、代表者たちが天幕を出て部隊へと戻っていく。
並んで歩く「竜鱗」と「鬼火」&オルペウスの防衛軍組...リンダの力の有効性が証明されたにも関わらず今なお不服そうな顔つきのままな上官に、オルペウスは疑問を投げかけた。
「あのぉ...「竜鱗」隊長殿? リンダさん以外にも、何か引っ掛かる点があるのでありますか...?」
「何故だ、オルペウス? 私は別に...何もない」
「ハッ! ならそんな紛らわしい顔をするな」
「私の顔だ、放っておいてくれ」
「そのまま戻っても、お前の部隊の奴らに茶化されるだけだろうに」
まあ、放っておけというならそうするさ。
そう言って視線を外し口を閉ざした「鬼火」。
2人の間に流れる若干の険悪ムードにオルペウスは居心地の悪さを感じていると、「竜鱗」はそれを察したのか申し訳なさそうな顔をすると、おもむろに口を開いた。
「「鬼火」......聞いても良いか?」
「内容による」
「貴女はブリーフィングで、リンダ・ブラッドへ一定の信頼を置いている趣旨の発言をしていたが......何かあったのか?」
「
「姉さんっ、そんな言い草は...! 数少ないお友達は大切にしなくてはダメでありますっ」
「オ、オルペウスッ! 少ないは余計だっ!」
「ツレないじゃないか戦友、私たちの仲だろう? 道すがらの世間話だと思ったらいい」
「全く...公私混同な気がしなくもないが...」
このまま煙に巻いて本番に響くのも馬鹿らしいな...
「鬼火」は小さな溜息を吐くと、記憶領域にアクセスしてリンダと邂逅した時の事を話し始めた。
「アルゴスホロウが暴走した日の事を覚えてるか?」
「ああ、“虚狩りが生まれた日” のことは誰もが知っている。 お前たちは...確か、ホロウ内での避難誘導と護衛の任に就いたな」
「そう、そしてその日は......リンダさんが “九分街の英雄になった日” でもあるのであります」
オルペウスがそう言うと、「竜鱗」は不思議そうな顔を向けて疑問を投げかけた。
「“九分街の英雄” とは...街を襲うホロウ災害を鎮圧し続けた事でついた、異名の様なものでは無いのか? “
「“九分街の英雄” に “
「暴走拡大したアルゴスホロウに九分街は呑み込まれました。 ですが、拡大の速さによる混乱とレルナのコア複製能力が災いして戦況は停滞......人員派遣がままならず、どの組織も九分街まで手が回らなかったのであります...」
「もはや九分街は、完全な孤立状態だった。 人員が行き届いている地域ですら避難状況の進捗は良くて7割弱、現場を放り出せる訳もなし...他の部隊を導入するよう上層部に掛け合ってはみたが...「
「...だろうな。 反乱軍にカルト共、他にも何かと新エリー都の防衛には手が掛かるようだからな」
一兵士といえども、隊長という立場にもなれば入る情報は多い。
当時の状況を思い返しながら、一枚岩とはいかない軍の
それには「鬼火」とオルペウスも思う所があるのか、当時の上層部の対応を思い出し思わず眉を顰める。
苛立ちを忘れるように、再び2人は口を開いた。
「九分街に迫る脅威に、私たちは手をこまねいているしかありませんでした。 でも、せめて駐在している治安官と連絡だけでも取れれば...と思ったのであります」
「連絡...そうだ、連絡だ...! おかしいだろう、九分街にも治安局の駐在員はいる筈だ...外との通信は出来なくともホロウ内での通信は可能だ。 それが何の音沙汰もなく孤立状態...?」
「私たちも当時同じ事を思ったよ......一縷の望みをかけてホロウ内で電話をハッキングして、九分街の全ての端末に電話を掛けた。 そうしたら無事繋がって...アイツが出たんだ」
「...リンダ・ブラッドか」
「その通り。 アイツ...電話を取るや否やどんな言葉を吐いたと思う?」
「さあ...「早く助けに来い」とかか? それか「怪我人がいるから医療班を寄こせ」とか...?」
「どれも不正解であります、「竜鱗」隊長殿」
「助けを求めなかったのか...? なら、あの女は何を求めたんだ?」
「それはな... “不干渉” だ」
「.........はい?」
「あの戯け女はな? 「私一人で足りっから連絡してくんじゃねぇボケが! さっさと触手野郎殺せ税金泥棒共!」だ、信じられるか? ...あー、クソ、今思い出しても腹が立つな...」
「あの時の姉さんは...なんと言うか...回線越しに人を焼き殺す術を編み出しそうだったであります...」
突発的災害では自己防衛が生死を分ける...前世では自然災害大国日本で生まれ育ったリンダは、軍・治安局・H.A.N.D.といった者たちに助けられるのを待つ気はなかった。
ひどい言い方ではあったが、ようは「九分街だけなら抑えきれるから、その分リソースをレルナの方に集中してくれ」ということである。
新エリー都で活性が急上昇し、アルゴスホロウが発生・急拡大。
核であるレルナへの攻撃が上手く行かず、星見 雅が強行出陣して討伐...その功績で虚狩りを叙勲し六課を設立するのが「虚狩りが生まれた日」という正史であり、そんな超重要イベントを乱す訳にはいかなかった。
レルナは星見 雅の獲物が故に、守る為に出来る事は...襲い来る脅威にただ耐える事だけ。
雑魚共と原作情報の乏しいレルナの未知の攻撃に同時に晒され「本体クッソ離れてんだろ、なんで攻撃届くんだよ」とイラ立っていたリンダは、レルナ(乱戦)初見プレイ中に空気を読まず鳴り出した着信でプッツンして、通話相手の「鬼火」に八つ当たりしたのであった。
「...
「そのまさかだ。 駐在治安官を含め九分街の住人をシェルターに叩き込み、アイツは一人で立ち向かった」
「レルナとエーテリアス共の脅威にたった一人で...? 自意識過剰な蛮勇だ、褒められたことじゃないぞ」
「姉さんも同じことを言ったのでありますよ......でも「動く物体片っ端からブッ壊してんだ! 人寄こしたら殺すぞ!」とか「四の五の喧しいんだよ! 黙って星見 雅を投入しやがれ無能が!」とか言って一蹴されたのであります...」
怖かったでありますよぉ......あの時の姉さん...
当時の「鬼火」の怒り様を思い出して思わず身震いするオルペウス。
妹の話で当時の感情が湧き上がってきたのか、険しい顔つきになっている「鬼火」。
「竜鱗」は「コイツを怒らせるとは命知らずな女だ...」とリンダへの評価を少し改めると、2人へ再び疑問を投げかけた。
「リンダ・ブラッドは星見 雅と既知の間柄だったのか? 今でこそ仲の悪さは有名だが...」
「事態が収束した後に話す機会があったんだが、どうやらそうらしい。 なんでも、以前に当主の星見 総一郎殿を暗殺から守ったことがあるらしく、気に入られて紹介されたんだそうだ」
「星見家当主が暗殺の危機に? かなりの一大事だろう、そんな報道聞いたことないぞ」
「リンダさんの話によれば実害には至らなかったそうでありますから、恐らくは緘口令を敷いて内々に処理したのかと」
「ふん...名家の憂いと言うのも大変だな、反吐が出そうだ」
そう煩わしそうに吐き捨てる「竜鱗」。
彼女もまた、1人の兵士として多くの戦場を経験し様々な命令を下されてきた。
理想と信念と決意を胸に軍服へ袖を通したが、それが尊重されるような優しい場所ではない。
明らかにされない上層部の思惑...他の組織との密約...暗黙の了解に必要悪...
そういった、軍人としての生で感じてきた不義理や不条理と似たものを感じていたのであった。
「それにしても...姉さん「話す機会があった」なんてはぐらかしたでありますが......本当は自分からお見舞いに行くと言ったのでありますよ! 誤魔化すことはないであります~!」
「オ・ル・ペ・ウ・ス~!」
「わっ! 痛たたたっ! か、噛みつかないで欲しいでありますー!」
「「
「なな、何言ってるかっ分からないでありますがっ! とりあえずゴメンナサイ~!」
「おいおい...みっともないからそのへんn────んん...?
姉妹喧嘩を宥める「竜鱗」は、オルペウスの口から出た単語に違和感を覚えた。
妹の鼻に噛みついた戦友を引っぺがすと、怒りを紛わせるように「鬼火」へ訪ねた。
「大見得を切っておきながら、結局リンダ・ブラッドはやられたのか? 九分街の被害は無かったのだよな?」
「オルペウス、後で話しがある。 ...で、そのことだが────全て真実だ」
「全て、とは?」
「うう...トホホであります... あ、えっと...九分街に目立つ被害は無く、住民も全員無事、その他の死者・行方不明者もゼロ、アルゴスホロウ災害での『九分街の奇跡』に偽りはないであります」
「ただ一つ、あの戯け女が......
なっ、なんだと...っ!?
思わず「竜鱗」の口からは驚愕の声が漏れる。
それも無理はない、何故なら先程ブリーフィングでリンダの能力について説明がなされたばかりなのだから。
エーテル汚染に耐性があり自浄作用により解毒可能、ニネヴェの放つ高濃度劣性エーテルにすら有効性が認められたのだと...
そんな人外じみた女が
「エーテル汚染を無力化できると聞いたばかりだが......まだ、何かあるのか? あの女には」
「まあ...あるんだろうが...アイツはソレに関して話さなかった。 「乙女の秘密を暴こうなんて正気とは思えねぇ」とかなんとかはぐらかしてな」
「事態が収束した後、避難民の方がシェルター前で意識を失っているリンダさんを発見したであります。 直ぐに病院へ搬送されましたが、既に胸からは結晶が生えて手足にもエーテル物質の外殻が形成されていて......侵食医療の最先端の病院と言えども、ほとんど手の施し様がなかったそうであります」
「そのレベルの侵食状態でまだ人の形を保っていたのか......だが、
「ああ、翌日には元気に看護師をナンパしていたそうだ。 ジョナサン財団の研究員は泡喰らっていたな」
「なんでも、突然エーテル濃度計が異常値を示したかと思えば、リンダさんの身体から結晶や外殻が霧散していって侵食症状が寛解したそうであります。 翌日にリンダさんが目を覚まして、検査の後に完全な治癒が確認されたとか...」
「なるほど、ますます意味が分からん...」
レルナは強力なエーテリアスだったがそれはコア複製能力によるところが大きく、ニネヴェの高濃度劣性エーテルの様な特殊なエーテル物質やそれによる感染症を振り撒くわけではない。
ましてやレルナ本体とやり合ったわけでもない。
何故、自浄作用が追い付かないレベルの侵食を受けてしまったのか...3人とも、その答えを持ち合わせていなかった。
この当時、リンダは街と住民たちを守る為に “力” を解き放った異化状態にあった。
本来、異化を十全に運用するには専用に調律された彼女の音動機が必要だったのだが、それを取りに戻る暇が無かった。
それでも、レルナの触手とエーテリアス達による猛攻へ対抗しようとエーテルを吸収し力を高め続けた。
結果、守り切れはしたものの自我を保っていられる限界を超え......術法という形で組み込まれた “防衛機能” が作動して意識が落とされ倒れた。
というのが真相であり、「鬼火」ら同様、リンダが身を寄せるジョナサン財団の医師や研究員たちもここまでの事情は知らない。
その為、搬送されたリンダの惨状や翌日ケロっとしている様を見て何度か泡を喰らっていた。
「あの時、リンダさんに何があったのかは分からないでありますが、皆さんの無事を知った時の...心の底から安心した表情は、偽りではないと信じたいであります。 命を賭して勇敢に戦い、救った事には変わり無いのでありますよっ」
「九分街がアルゴスホロウ暴走に巻き込まれ、星見 雅がレルナを討伐するまでの間、その身を顧みずたった一人で街と住民をレルナとエーテリアスの脅威から守り抜いた。 そんなアイツの気概を......私は買っている」
「お前たち...」
「時折、神経を逆撫でする何かとふざけた奴ではあるが......一本、まともな芯の通った女だ、あの戯けはな」
「リンダさんなら、きっとニネヴェにも一発決められるでありますよ!」
そう言った2人からの視線を受けて、「竜鱗」は思いを巡らせる。
リンダ・ブラッドは己の事情を全て明らかにしたわけではないが、それは他の者とて同じ事...隠し事の一つや二つあって当然だ。
『刀耕作戦』は軍事作戦で、防衛軍以外にもホロウ調査協会やH.A.N.D.に在野のプロキシやレイダーまでが参加する総力戦、一貫した潔白性を求めるのは現実的ではない。
零号ホロウの調査は勿論、作戦遂行によって得られる報酬や名声など求める物は様々で、極論は利害が一致すれば機能するような寄せ集めの集団なのだ。
お墨付きも出たことだ、2人がこう言うなら......これ以上は考えすぎだな。
「竜鱗」は観念したような表情で口を開いた。
「...分かった、2人とも感謝するよ、有意義な世間話だった」
「憂いは消えたか? 臆病者め」
「へ、兵士が臆病で何が悪いっ」
「ああっ「鬼火隊長」! お友達にまたそんな意地悪をっ!」
「...少し話し込んだか、私は部隊へ戻るとする...ではな」
「本番でトチっても助けんからな」
「いや、助けるでありますよ!?」
言い返したくなる気持ちを抑えて「竜鱗」は自分の部隊へと戻っていった。
「鬼火」とオルペウスは軽く言い合いながらオボルス小隊の展開するテントへと戻っていく。
そうして時は過ぎ、零号ホロウ深部にてリンダの攻撃が開戦の号砲となり、今回の『刀耕作戦』が始まったのだった。
ちなみに、ブリーフィングへ姿を見せなかった
「ならば、次は────これならばどうだっ!」ズババババ
「どうだ、じゃねーんだよ!? このインチキ侍が!?」シュババババ
「む、失敬だぞ。 これはひとえに鍛錬の賜物...正当な星見の剣技なのだぞ」
「ざっけんな!! 刀振った回数と飛んでくる斬撃の数が合わねーんだよ!!」
「......リンダさんには悪いですが...もう少し発散させましょう」