僕がVRの姫プと女装にのめり込んでリアルでメス堕ちして男装女子に喰われるまで。~男がことごとく女の子になるVRなチャットという魔境~   作:あずももも

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59話 リヒターさんと彫刻の美

「しかし、レイ殿にこうして会えて良かったでござる」

「僕もです」

 

ひとしきり騒いだ彼は、どうにか収まったらしい。

 

おかげで――うん、見事な完璧イケメンさんに変身している。

 

「正直――やはり本当の姿を知らない相手というのは、得てして己の想像によってしまうもの」

 

「ですよねぇ」

 

僕は、胸をなで下ろす。

 

――ちょっとだけ、暗に「僕はそこまでじゃない」って言われてるようなものだから胸がちくっとはするけども、おかげで彼の幻想も木っ端みじんになったようだし。

 

まぁ、元は普通の男だし。

 

うん――期間限定でも、リップサービスでちょっと褒められる程度の女の子になれたんだって喜んでおこう。

 

「しかし、ここのケーキはおいしいな……」

 

「でしょう? この前ルーチェさんも来てたんですけど、普段は予約が必要なくらい混むらしいですし」

 

お店はもちろん――なにがもちろんなのかはともかく、ルーチェさんと偶然に出会った、あの女性だらけのスイーツのお店。

 

でも、なんでも「メンズ優先」とかなんとかで優先的にテーブルを案内してもらえたっけ。

 

「……やっぱりかっこいい……」

「芸能人? それともインフルエンサー?」

「ダメ、知らないわ……」

「けど……」

 

ほら、周りの人たちも――9割が女性だけど、そういやリヒターさん、なんで平気なんだろうか。

 

僕が男だって理解して収まったみたいだけども、こんなにも女性たちの視線に囲まれているのに。

 

「?」

 

「「「……はぁー……」」」

 

「……?」

 

偶然にも目が合った数人が目を逸らし、深いため息をつく。

 

……あ、あれ?

 

「まったく、レイ殿に誘われて良かったでござる」

「あ、戻ったんですね」

 

「うむ、やはり拙者はこうでなくては」

「ですね。それでこそリヒターさんって感じです」

 

ほっとひと息、お茶をすする。

 

「いやぁ、それにしても世の中には絶世の美女、などというものが実在するのですなぁ」

 

「え? ……あ、そうですね、そうじゃないですかね」

 

僕相手に普段通りになった彼は、そんなことをのたまう。

 

……あれ?

 

これ、もしかして近くの席の女の人、ナンパしたりしてる?

 

ほら、近くの席の人たち――なんかイスごとこっちに寄せて、うんうん言ってるし、きっとその人たちの誰かなんだろうし。

 

……でも、僕をダシに使って――ってのは別にいいけどさ……ちょっとだけもやっとするのはきっと、メス堕ちの後遺症だ。

 

「レイ殿も、某と同じ……いや、ともかく同意するのではないでござるか? 美しすぎる女性を見ると、まるで彫刻や絵画を眺めるように落ちつくと」

 

「あー、ありますね。綺麗過ぎると……なんていうか、恋愛とかの対象外になっちゃうんですよね。高嶺の花とか……は、ちょっと違うかな」

 

「そう! やはり、某はレイ殿とフレンドになって良かったでござる!」

「僕もそう思います、リヒターさん」

 

やけに上機嫌になった彼は、店員さんを呼んで追加の注文。

 

……なんか吹っ切れたって感じだね。

 

うん、きっと――あれだろう。

 

かつて、僕に……その――「バーチャルないかがわしいこと相手に」って誘ってきたことだろう。

 

この界隈は、最近は比率が改善されつつあるとは言っても、やはり男が圧倒的多数。

 

自然界において、番になれない雄というのは悲しさのあまりに余りもの同士で愛を育んで血脈を断つらしい。

 

それともこの国で育まれ続けた衆道文化、それとも古くは古事記から連綿と受け継がれる女装文化。

 

いずれにしても、男同士でも不思議なくらいに盛り上がるのが、この界隈だ。

 

「かわいいは正義」、なんてよく言ったもの。

 

でも、リヒターさんは――その呪いから解放された。

素直に祝福しないとね。

 

僕?

 

……ほら、メス堕ちはもうすぐでおしまいにする予定だから……うん、あとちょっとだから。

 

「ところでレイ殿」

「はい」

 

「デビューはいつでござるか?」

 

「デビュー? いえ、しませんけど」

 

「………………………………」

「………………………………」

 

「………………………………?」

 

「………………………………?」

 

こてん。

 

イケメンさんのまぬけな疑問顔っていうものを初めて見た気がする。

 

「……ああ、なるほど! そういうものは企業秘密でござるな!」

 

「いえ、そういうわけではなく」

 

「相わかった! 何も言う必要はないでござる!」

「え、いや、あの」

 

……なんか、なんだか、なぜだか――盛大な勘違いが生まれている気がする。

 

「そうでござるな! その容姿はレイ殿の好きなように発揮される! うむ! 拙者も、公表された暁には影ながらに応援するでござる!」

 

「え? あ、あの、えっと……?」

 

「ああ、大丈夫でござる! 本日、某――――いや、俺は」

 

ふっ、と。

 

いきなりに力を抜いた彼は――一瞬だけだけども、どきっとする目を向けてくる。

 

「……レイさんの、本当の姿を見せてもらえた。俺の――初恋を抱く相手はとても素敵な人で……だからこそ、身を退く決意ができた。 本当に、ありがとう」

 

「あ……え?」

 

頭を下げてくる彼に、何も考えられない。

 

え?

 

彼は、今、なんて――

 

「……レイ殿さえ良ければ、明日から――いや、今晩からでもまた『フレンドさん』として仲良くしてもらえたらと願うのでござるが……どうか?」

 

「え? ……あ、はい……それは、僕からも……?」

 

「……ありがとうでござる。あ、レイ殿! おかわりが届くでござるよ!」

 

………………………………。

 

……今のはなんだったんだろう。

 

「………………………………」

 

……今は、彼から分けてもらうスイーツの甘さで脳みそを麻痺させよう。

 

うん、そうだ。

 

だって、僕はもうすぐ女装から身を退くんだから。

 

……退くんだからね?

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