遠坂桜が『鋼の精神(メンタル)』持ちでヤバい女な模様   作:恐るべきサクラ

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 頂いた感想で考慮すべき内容があったので、今回の話で補足しておいた。
 


魔道の守護者トーサカ - 逆襲の時臣

 

「遠坂邸の地下に、魔術的かつ広大な空間を作る……ですか?」

 

 いつものように工房で魔術の鍛錬を行い、いち段落して休憩していた桜。

 そんな彼女に告げられたのは、鍛錬を監督していた愛歌からの突飛なアイデアだった。

 

 桜のおうむ返しの言葉に、愛歌は「ええ」と頷く。

 

「家の地下に広い空間を作り、魔術的に外界から遮断するの。そうすれば、外部に悟られる事なく規模の大きい魔術を使えるから、鍛錬の幅が広がるわ」

 

 広い空間が必要な理由を述べる愛歌。確かにそういう場所があれば、鍛錬に活用出来るだろう。

 とはいえ、単なる鍛錬で『規模の大きい魔術』をポンポン使うかといえば、桜的になんとも微妙なところだった。

 

 少し考えて、桜は愛歌に問う。

 

「……愛歌さん、ひょっとして戦闘訓練を想定してます?」

「流石は桜。察しが良いわね」

 

 自分の意図を察した事に、愛歌は笑みを見せた。彼女はその意図を述べる。

 

「あなたの魔術属性は架空元素の『虚数』。その希少性から、良からぬ事を企む魔術師が現れる可能性は高い。自身を守る術を持つ事は、必須と言えるわ。そのため、魔術による戦闘訓練を行える場所はあった方が良い。

 早いうちから、戦う力を身に付けておくに越したことはないでしょう?」

 

 今後どんな形で魔道の家門の加護を得るにせよね、と付け加える愛歌。

 提示されたその考えに桜は同意するものの、時臣の反応が気になった。

 

「私は異論ありません……ただ、この家にそんな大規模な変更を加えるのは、お父様が難色を示すのでは?」

 

 もっともな桜の疑問に、愛歌は『問題ない』と答える。

 

「その点は大丈夫。すでに時臣おじ様の許可は得ているから。計画を実行するのに、障害はないの」

 

「愛歌嬢の言う通りだ、桜」

 

 愛歌の言葉を引き継ぐように響いた男性の声。

 もちろん、時臣のものだ。

 

 つい先程までは席を外していたが、頃合いと思ったのかこの場に戻ってきた。

 

「私からはすでに許可を出してある。むしろ愛歌嬢には、積極的に取り組んで欲しいとさえ思っている」

 

 とても乗り気な時臣に、桜は目を丸くする。父の性格を考えると、予想外の反応だったからだ。

 

「よろしいんですか?家の構造にそこまで大きな変化を加えるのは、あまりお父様らしくないやり方だと思いますが……」

 

 優雅さの追求という点を除けば、割と堅実な選択をする時臣だ。このような大胆な選択をするのは、とても珍しい。

 

 娘の言葉に、時臣は()()()()続ける。

 

「……桜。我が遠坂は、魔道の家門だ」

「はい、それは存じていますが」

 

 既知の事実を告げられ、首を捻る桜。なぜ敢えて言うのか疑問に思ったが……

 その続きを聞かされて、桜は時臣の意図を理解する事になる。

 

「そんな我が家には、現在……最先端テクノロジーの波が押し寄せている……」

「あー……」

 

 鎮痛な面持ちで述べる時臣に、桜はバツが悪くなった。彼女も当事者だからだ。

 

「えーと、なんと言いますか……その波の発端となった私としては、大変申し訳ないと言うか、その……」

「いや、桜は悪くない。愛娘の要望を無下にするなど、父としてやってはいけない事だ。故に、そちらについては文句などあろう筈がない」

 

 そこで一旦言葉を切ってから、時臣は続ける。

 

「問題なのは……我が家に忌まわしき空間を作り上げ、現在進行形で邪悪な企てを進めている……あの綺礼だ……」

 

「あ、あははは………」

 

 苦渋に満ちた表情でそう語る時臣。桜としては、乾いた笑いをするしかなかった。

 色々思うところがあって綺礼の好きにさせている桜だが、父の苦悩を思うと申し訳ない気持ちが湧いてくる。

 

「しかもだ、あの綺礼は……先日にソファーの上でうなされる私と凛を見てしばらくした後、上機嫌から一転して悔しがったというではないか……!その内容を耳にして、私は頭を抱えてしまった……っ

 彼はなぜ、あのようになってしまったのだ!?」

 

 弟子の恐るべき覚醒に、心底慄く時臣。

 2年以上に渡って師弟関係を上手くやってきたのに、聖杯戦争が開催される今年にこうなるとは、想像もしていなかった。

 

 なお、上機嫌(愉悦)から一転して悔しがった綺礼のセリフは、以下の通りだ。

 

『しまった!二人がこうなる現場を見ておけば、より素晴らしい境地に至れたではないか!くっ……己が企てに夢中になって貴重な現場を逃すなど、我ながらなんたる失態だ!』

 

 ……うん。

 時臣が心底慄くのは、無理もなかった。

 

「さらに、綺礼はあろうことか……パソコンの電飾に魔術を加えていた……!あの青と白の光は、科学と神秘の融合だったのだ!」

 

 青色LEDが実用化されたのは去年(1993年)で、白色LEDは発表されるのが二年先(1996年)であるため、現在(1994年2月下旬)その色彩を科学だけで実現するのは難しい。

 そのため、綺礼は魔術の力を使って実現した訳だ。

 

 その時は動揺していたため、魔術に気付かないというウッカリをやってしまったが……

 生粋の魔術師である時臣からすれば、科学と神秘のコラボレーションは、目眩を起こす行為だろう。

 

 綺礼も綺礼で、魔術師の弟子という立場でありながらよくやるものだ。

 今年は聖杯戦争が控えているため、師弟関係を解消されないと確信しているのが、彼の厄介なところである。

 

「現在進行形で、我が家には恐るべき事態が進行している……!葵も、その魔性に囚われてしまった!」

 

 最先端テクノロジーの便利さに魅了されてしまった妻を想い、嘆きがさらに深まる時臣。桜の乾いた笑いも、さらに乾きが促進する。

 

「故に!私は遠坂の当主として、この家を本来あるべき姿に戻さなければならない!そのため、愛歌嬢の取り組みを全面的に支援する!」

 

 そのためなら、愛歌が綺礼に『神と麻婆のデジタル館」のコンテンツを提供した事には目を瞑る。

 過去よりも、未来が大事なのだ。

 

「すでに綺礼が作り上げた『神と麻婆のデジタル館』という忌まわしき空間を取り除く事は不可能だ!ならば、取るべきは次善の策しかない!

 すなわち、新たな神秘の空間を拡張する事だ!」

 

 時臣は発想を転換した。

 守りが駄目なら、攻めに転じるまでのこと。

 

「ようは比率の問題なのだ!テクノロジーに汚染された空間が広がったのなら、汚染されてない空間を広げれば良い!そうすれば、汚染された空間の相対的な比率は小さくなる!

 そのための新たな地下空間!そのための新たな神秘!

 

 この家を魔道の本分に戻すためなら、私は手段を選ばない!!」

 

 固い決意と闘志を漲らせる、遠坂家の当主。

 魔術師らしからぬ熱い想いが、彼を奮い立たせていた。

 

「これは戦いなのだ!我が遠坂がテクノロジーの波に屈してしまうか、それとも魔道の本分に戻って神秘の秘奥に突き進むか、その分岐点にある!

 綺礼の邪悪な企てに、私は決して屈しない!!」

 

 時臣は目をくわっと見開き、魂を込めて叫ぶ。

 

「よって!私は今、ここに宣言する───

 

 

 

 

 

 偉大なる『()()()()()()()』の建国をっ!!!」

 

「う、うわぁ……」

 

 

 

 時臣のぶっ飛んだ宣言に、桜は引いた声をあげる。

 

 ゴーイングマイウェイな愛歌が宣言したのではない。()()()()が宣言したのだ。

 よもや、常に優雅である事を心掛ける父から、このような発言が飛び出すとは思わなかった。

 桜の戦闘訓練云々の話は、すでに何処かへ飛んでいってるような気がする。

 

 よくよく見てみると……なんか時臣のお目目がグルグルしているように見えた。

 いや、あくまで比喩表現なのだけれど。

 

 桜の肌に、冷や汗が浮かぶ。

 

(それだけ、テクノロジーの波がお父様のメンタルをタコ殴りしたと……これは、想像以上だなぁ……)

 

 改めて、その波を作る切っ掛けを作った事に、申し訳なさを覚える。割とマジで。

 

 まさか、自分がパソコンを買う事で現在のようなビッグウェーブを生み出すなど、桜は考えもしなかったのだ。まあ普通はわからないが。

 

 そんな桜とは正反対に、愛歌は微笑ましげに眺めながら言う。

 

「時臣おじ様の気合いは充分ね。これは……製作者として、絶対に手が抜けないわ……!」

「……ちょっと言いたい事が無いでもないですが、高いクオリティで仕事をして下さるようなので……余計なことを口にするのは控えておきます」

 

 物凄く微妙な面持ちでそう言う桜。製作者がやる気を出しているのだから、水を差すような真似はしないが。

 

 愛歌は気持ちがノッてきたようで、声に弾みがつく。

 

「せっかく作り上げる『遠坂家地下帝国』ですもの……適当な仕事をするだなんて有り得ない!成すべき事は、しっかりと成し遂げるわ!」

「おおっ!なんて頼もしい!」

 

 愛歌の頼もしい言葉に、感動で打ち震える時臣。希望に満ちた表情であった。

 

「とりあえず3月半ばまでに、地下の1階層と2階層を作り上げる!物の配置は後にして、魔術的な空間の確保が優先ね!

 さらなる地下への拡大・手の込んだ魔術的な仕掛けは後からにする!継続的に拡張作業を進めて、遠坂家地下帝国の()()()()()していきましょう!」

 

 愛歌がノリノリで口にする将来像に、時臣はウンウンと頷く。輝かしい未来への期待に、胸を膨らませている。

 

「将来的には、地下深くまで領土を拡大していくつもりよ!ああ、考えているうちに夢が膨らんでくる……

 そして、最終的には───

 

 

 

 

 

 霊墓アルビオンの『()()()』と同レベルのものを構築してみせるわ!」

 

「待って欲しい。私はそこまでやれとは言ってない」

 

 

 

 思わず正気に戻って、突っ込みを入れる時臣。

 彼の首筋には、大量の冷や汗が浮かんでいた。

 

 まあ、流石に今のは冗談だったようで、愛歌は苦笑しながら「ちょっとしたジョークよ」と告げてくる。

 

 それを聞いて、ホッとする時臣。

 流石に、霊墓アルビオンの『妖精域』は冗談抜きで洒落にならない。

 

 そのやり取りを聞いていた桜が、自身の記憶を探って該当の知識を呼び起こす。

 

「霊墓アルビオンの『妖精域』って……人間が踏み入れられる領域ではない、と聞きましたけど……」

 

 桜の呟きに、時臣は神妙な面持ちで頷く。

 

「あの一帯は星の内海に通じる物理的な通路だが、かつてアルビオンでさえ途中で力尽きた護りがある。そのため、現在探索が及んでいるのは地下80km地点までだ。そこが、人間が潜れる限界点と言われている。

 封印指定の本拠地がある『天文台』カリオンがあるのは、その地下80km地点だ。そこから先の層は、『人間の踏み入れられる領域ではない』という意味で『妖精域』と呼ばれている……」

 

 それでも、さらなる神秘を求めて現在も発掘作業は行われている訳だが。

 時臣が畏怖を込めて話していると……愛歌が世間話でもするかのように、衝撃の事実を口にする。

 

 

 

 

「あ、私は行った事あるけど。その『妖精域』」

 

「……………はい?」

「………な……なん、だと………?」

 

 

 

 桜は耳を疑い、時臣は驚愕に言葉を失う。

 そんな二人の反応を気にせず、愛歌は普通の調子で続ける。

 

「私って、ダンジョン探索を割と楽しんでいるの。乙女の嗜みならぬ、魔女の嗜み?まあそんな感じね。

 時計塔の方々とは、ちゃんと()()()()()()()()()()()。だから、割と自由に動けるのよ」

 

 サラリと凄まじい事を明かす愛歌。

 桜や時臣に対しては、特に隠す必要性を感じてないようだ。

 

「確かに『妖精域』は人間の踏み入れられる領域ではなかった。私以外で足を踏み入れた人は……全くいないとは断言しないけど、いないと考えても()()()()()()()()()()()

 場所によって物理法則が変わったり、恐ろしい神獣とかが普通にいたりで、比喩表現や誇張抜きの大魔境よ。そもそも、その神獣自体が物理法則や概念を捻じ曲げてくるし」

 

 ちなみに、物理法則云々については時間の流れも含まれるため、妖精域の影響で時間の流れから取り残されないよう、愛歌は魔術的な手段で時間の流れが地上と同じになるよう固定している。

 

「とても格が高い神獣相手だと流石に苦労したけど、決して倒せない相手じゃなかった。これまで()()()()()()り、あるいは()()()()()()()りしたし」

 

 それを聞いて、時臣の顔が盛大に引き攣る。

 

「な、何体か狩ったり、支配して従えた、と言うが………まさか、愛歌嬢一人で、かね……?」

「ええ。基本的に単独での行動よ。現時点では私ぐらいしか『妖精域』に足を踏み入れられないもの。

 だから、行動不能になった段階で一巻の終わり。失敗は許されないの」

 

 根源接続者の頃ならもっと楽を出来たが、今はそれなりに緊張感を持って挑んでいる。

 

「基本、妖精域で神獣の相手をするのが目的だから、探索の成果物はロードや各派閥の重鎮に提供しているわ。それぞれの力関係に配慮して動いているから、封印指定をされずに済んでいるの」

 

 愛歌が時計塔の権力構造において庇護を受けているのは、彼らへの利益供給をしっかりとやっているからだ。

 もちろん、そこには愛歌の圧倒的な交渉力も作用している。

 

「私は……初耳なんだが……」

「知っているのは、ロードや各派閥の重鎮ぐらいだもの。私の存在や実践している事が、魔術界隈に知れ渡っている訳じゃないわ」

「……彼らによる情報と成果物の独占、という訳か……」

 

 それにしたって、あの裏切りと陰謀が渦巻く恐るべき権力構造の中で、なんと上手く立ち回っている事か。

 一歩間違えれば、実験材料や封印指定へまっしぐらだ。

 

 

 ……桜と時臣は、改めて思った。

 目の前の少女、あまりに規格外過ぎないかと。

 

 

 たとえ根源との繋がりを断っても、沙条愛歌は恐るべき天才であった───二人は根源接続者だった事を知らないが───。

 

 

 

 話の方向が盛大にズレていたので、時臣は元の話へと戻す事にする。

 なお、決して現実逃避ではない。

 

「と、とにかくっ……遠坂家地下帝国を建国する事は決まった!あとは、その計画の実現に向けて動くまでの事!愛歌嬢に何らかの支援が必要な場合、それを惜しむつもりなど一切無い!」

 

 そう断言し、時臣は拳を握りしめる。

 

「私はこの戦いに勝利する!魔道の真髄は、現代科学などに敗北はしない!」

 

 時臣は再び目をくわっと見開き、魂の叫び声をあげる。

 

「笑っていられるのは今のうちだ!見ているが良い、綺礼!

 

 

 

 

 私は必ず、この家に魔道の尊厳を取り戻してみせる!!」

 

 

 

 

 工房に響き渡る時臣の宣言。

 

 そこにはもはや、押し寄せるテクノロジーの波に震えるマダオはいなかった。

 全力で現代科学に立ち向かう、一人の漢がいた。

 

 

 ……『現代科学に立ち向かう』という表現に、残念さが漂わないでもなかったが。

 

 

 桜は、父の咆哮を聞きながら。

 とりあえず、『綺礼さんだけでなく、お父様もやりたいようにやらせないとなあ……』と思うのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、これは全くの余談だが。

 

 将来、桜と愛歌と未だ出会ってない少女の三人が、霊墓アルビオンの『妖精域』で頻繁に神獣狩りを行う事になるなど……今の桜は想像もしていなかった。

 

 

 

 




 ダンジョンのハンターとしてもエンジョイしている愛歌嬢。
 妖精域の探索中は、逆浦島太郎状態にならないよう時間の流れを地上と同じに固定している。
 ヤバい相手とも戦った事があり、それによって『格上殺し』をしっかり身につけている。根源接続者でなくなったが故の、貴重な経験だろう。

 なお、すでに時計塔の重鎮との人脈を構築している模様(だからケイネスとも面識あり)

 霊墓アルビオンの『妖精域』について、詳細はわからないけど。
 FGO第一部のバビロニアや第二部のブリテン異聞帯に比べたら、絶望度はマシやろ(いや比較対象ヤバいけど)


 
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