遠坂桜が『鋼の精神(メンタル)』持ちでヤバい女な模様   作:恐るべきサクラ

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 今回の話は少し短い。
 


『遠坂家地下帝国』爆誕!そして奴が現れる

 

 1994年3月12日の午前9時。

 ここは、遠坂邸の地下にある広い空間。

 

 第一階層と第二階層によって構成される、神秘の気配が色濃い空間だ。その広大さは、魔術による空間拡張で実現している。

 外壁・天井・床は全て石造りであるが、転倒して打ち所が悪くても大怪我しないよう、床には魔術で特殊な加工がされている。その場を照らす明かりも魔術的なもので、科学的な明かり──電灯の類──は一切使われていない。

 壁や天井には芸術性を感じさせ、かつ控えめなデザインの紋様が書き込まれており、あちこちに飾りも置かれている。安全性が確保された形で、そこら中に愛歌特製の高度な術式が設置済みだ。

 道具や設備の類は幾らか設置されているものの、大掛かりなものはまだであった。これから調達や制作がされるのだろう。

 

 

「この場に集まってくれた者は知っての通り、我が遠坂は現在、現代科学の侵攻を受けている」

 

 

 そんな空間の第一階層の広場にて、優雅さを伴ったイケボイスが響く。

 声の主が誰なのかは、考えずとも分かるだろう。

 

「遠坂は、魔道の家門である。神秘を探求し、根源への到達を目指している家系だ。そのために、偉大なる先人達は己が人生をその探求に費やし、その意思を次の代へと伝えてきた」

 

 魔道への誇りを胸に語るのは、ご存知『ミスター優雅』である遠坂時臣だ。

 聴衆──と言うには少ない人数だが──の前で、彼はそのイケボイスによる演説を続ける。

 

「先祖の意思は尊きものであり、子孫はその意思を尊重しなければならない。そして、誇りを胸に探求を行わなければならない……」

 

 以前の彼であれば、『これは魔道の家門に生まれた者の義務であり、それを放棄するのは恥ずべき愚行だ』と言葉を付け足していただろう。

 桜の件があるため、それを口にするような真似はしなかったが。

 

「そして、それは一族の者だけでない。教えを請う弟子も……同様の姿勢でいなければならない」

 

 そこで一度、言葉を切る時臣。

 両目を閉じ、眉間を震わせ、顔をやや俯かせる。

 

 そして──彼は勢いよく顔を上げ、声量を大きくする。

 

「だがっ……忌まわしき事に、我が弟子たる言峰綺礼は、この遠坂邸に現代科学の侵略を招いたのだ……!しかも、意図的にである!」

 

 憤りを込めた、遠坂家当主の声。その感情で震えを帯びている。

 

「自身が借り受けている部屋のみならば、私もまだギリギリ耐えられた!本当に、本っ当にギリギリだが!

 しかし!あろう事か彼はそれだけに飽き足らず、部屋の入り口やその周りにまで電飾を施し始めた!しかも、LEDという科学の産物へ発光色を変える魔術を加えるという、私へのこれ以上ない嫌がらせを加えてだ!」

 

 悪意とはこういうものかと、憤懣やるかたない時臣。

 

 なるほど。聖杯戦争に向けての師弟関係とはいえ、我が弟子は魔道の本分に背を向けた。その事実は、受け止めねばならない。

 であるなら、師として鉄槌を下さねばならないだろう。

 

「ここに至って、私は彼と戦わなければならないと確信した!そうしなければ、遠坂は現代科学の闇に押し潰され、根源への道が閉ざされてしまう!

 この闘争に、敗北は許されない!目指すは勝利あるのみ!」

 

 無論、単なる武力行使では今の綺礼を止められない。

 だから、こちらも搦手を使わせてもらう!

 

 

「その勝利の先駆けとなるのが、本日に建国する

 

 

 

 

 この、『遠坂家地下帝国』である!!」

 

 

 

 

 ミスター優雅によって宣言される、必殺の建国宣言。

 それを聞いていた三人の聴衆のうち、一人は歓声を上げ、別の一人は困ったような表情を浮かべ、そして最後の一人は顔を引き攣らせていた。

 

「綺礼が『神と麻婆のデジタル館』で邪悪な領域を広げようとするのなら、私は『遠坂家地下帝国』で神聖な領域を広げるのみ!我らが魔道の尊厳は、決して損なわれはしないのだ!」

 

 歓声を受けて、さらに気合いが入る時臣。

 なお、他の二人の反応は気づいていないのか、優雅にスルーされた。

 

「遠坂を侵食する現代科学の闇を打ち払い、この家に魔道の本分を取り戻すために!あの綺礼に、打ち勝つために!!」

 

 時臣は大仰な身振りを交え、聴衆──繰り返すが三人だけだ──へと訴える。

 

「さあ、諸君!皆の力を合わせて共に戦おう!あの現代科学を駆使して魔道を冒涜する言峰綺礼に、正義の鉄槌を下すのだ!

 

 

 

 遠坂家地下帝国に、栄光あれぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 これ以上ない程の会心の演説──なお本人の主観である──に、遠坂家の現当主たる時臣は恍惚とした表情を浮かべている。ぶっちゃけドン引きものだ。

 そんな彼の前方で、遠坂家の次期当主たる凛──お目目がグルグルしてなくもない──は、尊敬する父への歓声をあげていた。中々に残念な光景である。

 

「お父様ー!凄くかっこいいっ!」

 

 そのように歓喜する凛の横で。

 顔を引き攣らせた雁夜と、困ったような表情を浮かべた桜は、目立たないよう小声で言葉を交わし合う。

 

『さ、桜ちゃん!時臣のやつは一体どうしたんだ!?家電専門店であの神父から弄られたからといって、流石にこの有様はヤバくないか!?』

『……綺礼さんが羽目を外し過ぎたので、お父様の理性というか優雅さが、プッツンしちゃいまして』

『それにしたって、今のアイツは優雅の『ゆ』の字も無いぞ!?いつからアイツはコメディアンになったんだ!?』

 

 雁夜はさり気無くひどい評価を下しているが、無理もないだろう。

 

 彼にとって長い間、遠坂時臣という男は個人的感情を抜きにしたら、責任感はあって優秀な人物と判断していたからだ。魔術師として漂わせていた傲慢さも、努力に裏打ちされた自信から来ていると、彼なりに努力して解釈していた。

 

 それが、こんなコメディを演じているのだ。

 雁夜からしてみれば、混乱せずにはいられなかった。

 

『というか、凛ちゃんも様子が変じゃないか!?目の感じがおかしいだろう!?』

『……姉さんは、まだお父様ほど精神耐久度が高くないので……綺礼さんの取り組みに、やられちゃいまして』

『なっ、なんてことだ……!』

 

 雁夜は、天を仰いだ。

 地下の空間だから、天井しか見えないが。

 

 

 間桐雁夜の言う通り、何という事だろうか。

 なぜ聖杯戦争が開催されるこの年に、魔術の師弟はこんなアホな内戦を繰り広げているのだろうか。

 いや、先に煽ってきたのは綺礼だが。

 

 

『……それと、聞いていて思ったんだけどさ………魔術と科学のコラボレーションて、普通に考えたら合理的なんじゃないか?それぞれの短所を補い合って、より目的を達成しやすくなるんだから』

 

 先ほどのLED云々の話を思い出し、真っ当な意見を口にする雁夜。まあ当然の発想だろう。

 しかし、それは時臣の考えと相いれないのだ。

 

『雁夜おじさんの言う通りなんですが……すでにご存知の通り、お父様は機械音痴ですし、考え方も生粋の魔術師ですから……』

『……アイツの価値観的に、簡単には受け入れられない、か……』

 

 一般人の雁夜からしてみれば、なんとも面倒くさい価値観だ。

 そんな風に二人がヒソヒソと会話していると、ようやく気付いた時臣が優雅な笑み──久しぶりに見た気がしないでもない──を浮かべ、声をかけてくる。

 

「ふっ……桜と雁夜も、恥ずかしくて思わず小声になってしまうほど、私の演説に感動したようだ」

「人類史上稀に見る、独創的な解釈だな」

 

 ピントのズレた事を言う時臣に対し、雁夜の口から呆れた言葉が出たのは仕方ないだろう。

 時臣に持っていた幻想──好悪は別にして──が、彼方へと走り去っていくのを感じてしまう。

 

 そんな雁夜の反応を褒めていると解釈したのか、凛は得意げな表情で胸を張ってくる。

 

「どう!?雁夜おじさん!お父様が本気を出したら、綺礼なんかに負けないんだから!」

「あー……うん。そうだね、凛ちゃん……」

 

 7歳児のピュア(?)な想いを壊さないよう、雁夜は極めて大人の対応をする。人生経験を積んだ者は、子供に対して色々と配慮しないといけないのだ。

 

 そんな会話を繰り広げながら、雁夜はそもそもの疑問を口にする。

 

「ところで……俺、なんでここにいるんだ?自分で言うのもなんだが、魔道に背を向けた落伍者だし、それ以前に部外者だろう」

 

 さらに言うなら、間桐はすでに魔道の家門として終わっているから、雁夜としては呼ばれる心当たりがなかった。葵と幼馴染というのは、理由として弱いだろう。

 

 雁夜の疑問は尤もだと頷きつつ、以前からの約束について触れる。

 

「君とは色々話す機会を設けると約束しただろう。もう忘れたのかね?」

「忘れてなんかいないさ。今日まで延びてしまったけど……外せない仕事が舞い込んでたんだから、仕方ないだろう」

 

 間の悪い事に、ルポライターの仕事が依頼されていたのだ。それも、去年の夏に依頼されたものと関連する内容だ。

 割と大きな案件のため、そう簡単に断る訳にはいかなかったのだ。

 

 そのため、今日まで後ろにズレてしまった訳である。

 

「つまり、今日をその話す日にするのか?」

「遠坂家地下帝国の建国日だ。タイミング的には、ちょうど良いだろうさ」

「……まあ、そうだな」

 

 ここで『遠坂家地下帝国』と聞くと、なんとも締まりがないが……お互いの時間が合ったのだから、確かにちょうど良いだろう。

 

 その話を耳にした桜が、以前から考えていた提案をする。

 

「私も同席します。お二人は考え方が大きく異なるので、見届け人がいた方が良いでしょう」

 

「桜ちゃんの言う通りだな。俺に異論は無いよ」

「……私も無い。むしろ、その方が良いだろう」

 

 見届け人の件は、実を言うと雁夜だけでなく時臣も桜に頼もうと考えていた。お互いの考え方に差異がある事は自覚していたからだ。

 奇しくも、この三人が考えている事は一致していた訳だ。

 

 そのような会話を交わしていると、新たに別の少女が加わってくる。

 

「どうやら、盛り上がっている(?)ようね」

 

 この遠坂家地下帝国を短い期間で作り上げた沙条愛歌だ。

 少し用事があったようで、時臣の演説の間は席を外していたのだ。そのことに、時臣は残念そうにしていたが。

 

 そんな彼女は、なにやら右手に()()()()()()()()()()()()を持っている。

 あれは、一体なんだろうか?

 

 愛歌が手に持っている()()を目にした瞬間、時臣はそれまでの態度が嘘のように狼狽し出す。

 

「ま、愛歌嬢!?そ、そそそそっ、その手に、持っているのは───!?」

 

 そう叫び声をあげた瞬間。

 愛歌が持っているステッキから、少女の声が響く。

 

 

『あはー!時臣さん、お久しぶりですねー!ご立派に成長されたようで、何よりです!』

 

 

 それは、聞きたくない声だった。

 それは、忌まわしい声だった。

 それは、悪夢の声だった。

 

 それは……時臣にトラウマと黒歴史を刻んだ、恐るべきアクマの声だった。

 

 

 

「ば、馬鹿な!?そんな馬鹿な!?

 なぜお前が、我が地下帝国にいるっ───ルビーッ!!!」

 

 

 

 遠坂家地下帝国に、時臣の叫び声が響き渡った……

 

 

 

 




 逆襲の時臣、完。


 
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