遠坂桜が『鋼の精神(メンタル)』持ちでヤバい女な模様   作:恐るべきサクラ

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 マジカルルビーが登場して、さらなるドタバタコメディが始まると期待された方。
 済まない。本当に済まない。今回の話で、愉快な展開は一区切りなんだ。

 次回から、シリアスな展開にガラリと変わるから。

 そんな展開の前となるコメディを、どうかお楽しみあれ。
 


魔法少女が始まらない、だと!?

 

「ば、馬鹿な!?そんな馬鹿な!?

 なぜお前が、我が地下帝国にいるっ───ルビーッ!!!」

 

 遠坂家地下帝国に響き渡る、時臣の叫び。

 その声は、焦燥感で満たされていた。

 

 現代科学以外でここまで取り乱す時臣に、愛歌を除いた者達は驚きを隠せない───特に雁夜のソレは顕著だった───。

 当然、そんな遠坂家当主に対して確認の声があがる。

 

「お、お父様……あの変なステッキ、ご存知なんですか?」

 

 時臣の狼狽ぶりにびっくりした凛───この時点の彼女はまだ被害に遭ってない───が、父へと訊ねる。

 

 長女の問いに時臣は、絶望感さえ感じさせる声で答える。

 

「あれは、大師父ゼルレッチが生み出した愉快型魔術礼装!我が遠坂にとって忌まわしいカレイドステッキ!!そして、それに宿る邪悪な天然人工精霊『マジカルルビー』だ!!」

 

 思い出したくもないと言わんばかりの時臣。出来ることなら、記憶の奥底に封印していたかった。

 

 狼狽する時臣の様子に、その邪悪な天然人工精霊──マジカルルビーは、楽し気でありながらも疑問符を浮かべる。

 

『うーん、時臣さんてば実に愉快な反応──いえ、落ち着きがありませんねー。確か昔は、優雅に振る舞う事を目指していた筈ですが。

 一体どうされたんですか?ひょっとして、かなりストレスを抱えています?』

「そんな事はどうでも良い!何故だ!?何故お前が、そこにいる!?宝箱の中に、これ以上ないほど厳重に封印していた筈だ!」

 

 思わず優雅な振る舞いを切って捨てる時臣──自身の存在意義なのだが──。それだけ戦慄しているという事だろう。

 

 そんな遠坂家当主への皆の驚きが収まらぬ中で、愛歌は種明かしをする。

 

「面白そうな気配を感じたから、宝箱を開けてみたのよ。解析した感じだと()()()()()()()()から」

 

 信じ難い言葉を口にする愛歌に、顔面蒼白になる時臣。思わず食って掛かる。

 

「なっ、なんて事をしてくれたんだね!?愛歌嬢!!

 よりによってコレを、この邪悪なステッキを解き放ってしまうなどと!」

 

 成人男性が少女に文句を言うその姿は、割とみっともなかった。

 それを見て、愛歌の手にあるルビーはステッキから生える羽で腕組みという、実に器用な仕草をする。

 

『うーん、やっぱり時臣さん、(中々に面白い状態で)ストレスを抱えているみたいですねぇ。私としては、久しぶりの再会(と約束された喜劇)に祝杯をあげたいのですが』

「お前が祝杯をあげたいのは、私を弄ぶ事に対してだろうが!?

 ぐっ……悩みの種が、また増えるとは……!?」

 

 綺礼によるデジタル侵攻に、せっかく出来た遠坂地下帝国へのマジカルルビーの解放である。時臣としては、頭を抱えざるを得なかった。

 

『時臣さん、もっと優雅に振る舞いません?』

「誰のせいだと思っている!?」

 

 思わずルビーに叫ぶ時臣。

 愉快型魔術礼装は思った。『やべぇ。今のこの人、超おもしろい』と。

 

『ふふふっ……そんなストレスまみれの時臣さんを放って置けません!ここで是非オススメなのが、かつて優雅にデビューした魔法少年マジカルトッ───』

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」

 

 ルビーが余計な事を言い切る前に、時臣は全力で打ち消しに掛かる。

 声を被せるタイミングが遅れたが、なんとか間に合った筈だ。

 

 焦りまくる時臣に、凛は先ほど以上に驚き、そして更なる疑問の声をあげる。

 

「お父様、今の魔法少年とは一体───」

「何でもない!何でもないんだ、凛!今のはこの邪悪なステッキの戯言だ!すぐに忘れなさい!良いね!?」

「は、はいっ……!」

 

 鬼気迫る時臣の様子に、これ以上踏み込んではいけないと子供ながらに察した凛は、そこで疑問に思うのをやめる。

 

 そのやり取りを見ていた桜と雁夜と愛歌は、かつて何が起きたのかある程度察してしまった。

 

(そ、それは、なんてむごい……!)

(と、時臣……あんた、苦労したんだな……)

(うわぁ……流石に痛ましいわね……)

 

 なお、この『魔法少年マジカルトッキー』は編纂事象で公式に確定した事象ではない事を明記しておく──ようはこの世界の時臣が不幸だった──。

 

 さて、これ以上ルビーの好きにさせておく訳にはいかないだろう。話がいつまで経っても収まらない。

 

 そもそも、愛歌は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なので、彼女は事態の鎮静化を図る。

 

「はい、ルビー。そこまでよ。時臣おじ様で楽しむのは程々にね?時間が無駄に過ぎていってしまうもの」

『えー、でも愛歌さん。せっかく外に出られたんですから、ここは長年の忍耐の報酬を得るべく、パーッと思い切り───』

 

 

 

 

「ほどほど、にね?」

 

『………はひ』

 

 

 

 

 ニコリと凄みのある笑みを浮かべる愛歌に、ルビーは大人しくなる。

 その凹んだ心境を表してから、ステッキは奇妙にその体を曲げていた。

 

 その光景を見て、時臣は驚愕する。

 

(あの邪悪なステッキが、屈服しているだと!?)

 

 自らの欲望を叶えるためなら、他者の都合などお構いなしに振る舞う、あの天然人工精霊が。

 誰かの下につくなんてあり得ないと豪語する、あの天然人工精霊が。

 

 なんと、他者の意向に従っているのだ!

 

 マジカルルビーの性格とカレイドステッキの性能を知っている者なら、驚愕するのは当然だった。

 

 そんな時臣の考えている事が伝わったのか、ルビーは自分から現状の説明をする。

 

『いやー、私も自由奔放に振る舞いたいんですよ?せっかく宝箱の外に出られたんですから。

 いつものように、パーッと女の子の願いを叶えて、その(面白おかしい)光景を見守って、愛と正義をこの世界に振りまきたいんですが……

 生憎のところ、そうもいかなくて……』

 

 そこまで、言った後。

 ルビーは()()()()()()に、嘆きの声をあげる。

 

『というか、このヒトおかしくないですか!?私の挙動を()()()()()()()()()()()()()んですけどー!?

 いつものように(私の都合で)契約しようとしても、簡単にレジストされちゃいましたし!それどころか、逆に支配下に置かれる始末です!いくら抵抗しても無駄で、私への支配力は小揺るぎもしません!

 ルビーちゃんの契約って、そんなチャチなものじゃないんですけどー!?』

 

 ルビーはステッキから生えた羽で頭を抱える仕草をする。

 この天然人工精霊の心境を言い表すなら、『ヤベェ、この少女バケモンだ!』といったところだろうか。

 

『ううっ!先程はあのように言いましたが、現状は愛歌さんに支配されているので、全く自分の思い通りに動けません!もっと色んな(愉快な)事をしたいのに!

(つーか、この少女マジでおっかない人じゃないですか!なんでこの世界では───)』

 

 余計な事を伏せてその本音が漏れた──カレイドステッキの安全装置(?)だ──瞬間、愛歌はステッキを握りしめる力を強くする。

 すると、ステッキからミシミシというヤバ目な音が鳴り出す。

 

「ふふふ。一体、何を考えているのかしらね?余計なことを漏らしては、駄目よ?」

『ああああああ!?ギッ、ギブギブギブギブ!ギブですよ愛歌さん!それ以上力を入れたら、中から、中から出てはいけないものがぁ!?』

「魔術礼装に中身なんてないでしょう?」

『そうでしたぁ───!!』

 

 コントのようなやり取りをするルビーと愛歌。その光景に、時臣はポカーンとしていた。

 ちなみに、凛と雁夜はどう反応すべきか窮していた。

 

 ややこしい事態にはならないようで、ホッとする桜。

 

(……とりあえず、お父様の危機が去って良かった)

 

 父のメンタルがこれ以上タコ殴りに遭うのは、あまりに不憫だろう。そういった事態は、娘として望むところではない。

 

 そのように安心する桜の前で。

 愛歌は自分が持っているカレイドステッキに対して、無慈悲な宣告を言い渡す。

 

「とりあえず、並行世界からのダウンロード機能は有効のまま、()()()()()()()()()()()()()()()()という事で。

 そっちの機能は、私が()()()()()()しておいたから」

 

 その宣告を聞いた瞬間、ルビーはこの世の終わりが訪れたかのような、絶望感たっぷりの嘆き声をあげる。

 

『そ、そんなぁ!?私の、私のアイデンティティがぁ!?

 愛歌さん、あまりにヒド過ぎません!?私から(女の子を弄りまくる)特技を奪うだなんて!

 魔法少女の格好をさせないルビーちゃんなんて、ただの便利アイテムじゃないですか!』

 

 必死かつ切実に抗議するルビーだが、それを受けた愛歌はキョトンとする。

 

「え?あなたの本分は便利アイテムでしょう?魔術礼装なんだから。

 一体、何をおかしなことを言っているの?」

『この少女、紛うことなき鬼畜ですか!?』

 

 心底不思議そうに言う愛歌に、ルビーは震え上がる。

 

 なんなんですか、この人!?恐ろし過ぎません!?

 いつもならルビーちゃんが面白おかしく弄る側なのに、なんでこっちが手玉に取られているんですか!?

 

 本来なら陥ることのない状況にルビーが震えていると、愛歌は良いことを思いついたという表情を見せる。

 

「そうね……今度、霊墓アルビオンの妖精域にこのステッキを連れていきましょうか。せっかく手に入れた魔術礼装だもの、有効に活用しないとね。

 ふふふ……神獣相手のバトルに、さぞかし役立ってくれそう」

 

 実に楽しそうな愛歌に、ルビーは機能として備わってない筈の発汗を感じてしまう。

 

『あれぇ?ルビーちゃん、趣味を封じられているのに、ステッキの効果は思いっ切り使い倒されます?』

「あら、当然でしょう?魔術礼装が使い倒されなくてどうするの。これって常識よ?」

『やっぱこのヒト鬼畜だ!』

 

 絶望するルビー。沙条愛歌に目をつけられたのが運の尽きだった。

 

 愛歌の強者っぷりに、雁夜は感心しつつ『愛歌ちゃん、おっかないなー』くらいに考え、凛は出会った時のトラウマが刺激されたのかビビっていた。

 

 なお、時臣はルビーがやり込められている光景に『なるほど……今ならば、綺礼の気持ちが少し分かるぞ……』とちょっと危ない扉を開きかけていた。

 そんな父を見ながら、桜は『後でメンタルケアをしなければ』と心に固く誓う。

 

 コントのようなやり取りをしてから、愛歌はふと思いついたように、ルビーに告げる。

 

「あ、これは仮定の話なんだけど──あなたが桜と契約しようとしても、間違いなく徒労に終わるから。この子、精神力で弾いてしまうもの」

 

 軽い調子で言われた内容に、ルビーは別の意味でドン引きする。

 

『え、ええぇ……それって、気合いと根性で跳ね除けるって事じゃないですかぁ……私の契約って、ほとんど呪いだとゼルレッチ翁のお墨付きなんですけど……」

 

 魔術的な観点から述べるルビーだが、愛歌は自身のソウルメイト──あくまで愛歌談だが──への評価がとても高いのだ。

 

「桜って、少年漫画の主人公タイプなのよね」

『……昨今の少年漫画の主人公だって、気合いと根性()()でなんとかしませんよ?』

 

 ルビーの感想は、至極当然のものだろう。

 自身が楽しい事を最優先する傍迷惑な愉快型礼装だが、その手の知識は豊富だ。桜の異常性は、愛歌の言葉ですぐ理解出来た。

 

(この桜って娘、魂の規格が人間を超越してません……?)

 

 愛歌といい、桜といい、ルビーが簡単に楽しめる相手ではない。

 この場にいるもう一人の女の子の凛なら、容易く手玉に取れそうだが……愛歌の支配下にあるため、それは実行不可能であった。

 

(ううっ……せっかく宝箱から出られたのに、それでは納得いきません!)

 

 このままでは、単なる便利なアイテムで終わってしまう。それはルビー的にあり得なかった。

 そんなフラストレーションを我慢するほど、この愉快型魔術礼装は殊勝な性格をしていない。

 

『くー!やはり、このまま大人しく終わるのはあり得ないです!

 愛歌さん!この私にどうか、チャンスをくださいませ!』

「チャンス?」

 

 熱烈に訴えるルビー。その勢いは、思わず愛歌が耳を傾けるくらいであった。

 自分を支配下に置く少女が聞く姿勢は見せたので、ここが突破口とルビーは突き進む。

 

『これからルビーちゃんは、皆さんをアッと驚かせるアピールをいたします!ようは一発芸ですよ一発芸!』

 

 珍妙な発言をするルビーを眺めながら、雁夜は時臣にポツリと呟く。

 

「……なあ、時臣……人格を宿した魔術礼装ってのは、一発芸をするものなのか……?」

「そんな訳がないだろう、雁夜……あれは例外中の例外だ。あんなモノが人格搭載型礼装の標準であるなどと、私は断じて認めん」

「だよなあ……魔術から離れた俺でも、そう思う……」

 

 どこか遠い目をする雁夜。もしあれが人格搭載型礼装のスタンダードなら、別の意味で魔道に幻滅していただろう。

 

 雁夜と時臣がそんな会話をしている最中も、ルビーの訴えは続く。

 

『それで、愛歌さんが満足いく結果を私が出せたなら、その時は───

 

 

 

 機能のロックを限定的に解除していただき、愛歌さんには魔法少女になってもらいます!!』

 

 

 

 ルビーは羽でビシッと指差す仕草をしながら、熱い想いを込めて宣言する。

 このステッキらしからぬ、変化球無しのストレート勝負だった。

 

 本当なら、ルビーの理想である12歳以下の女児──凛や桜をターゲットにしたかったが……愛歌が絶対に許可を出さないのは分かっていたので、そちらは諦めた。

 そして、いつもの口八丁で丸め込むような真似も避けた。愛歌相手にそれが通用しない事は、明白だからだ。

 

 ルビーの宣言を聞いた愛歌はというと、かなり微妙な表情を浮かべていた。

 

「私が魔法少女になったら、色々と終わってしまうのだけれど。敵が一方的に蹴散らされて、盛り上がるシーンが一切無くなるわ。興醒めもいいところよ?」

『ご、ご自分で言われているのに、なんという説得力!そこは反論できません!

 で、ですが!コメディなら、なんとか成り立つ筈です!』

「魔法少女の格好をしたぐらいで、私が狼狽するとでも?」

『し、しないでしょうけど!絶対にしないでしょうけど!せめて、ノルマは達成しませんと!』

「ついに、ノルマとか言い出し始めたわ……」

 

 ルビーのしつこさに、流石の愛歌も呆れを隠せない。

 まあ、彼女も妹の綾香にはそういった格好を見られたくないが、それだって事情を話せば済む事だ。大した問題ではない。

 

「や、やけに強く拘っていますね……」

「そ、そうよね……そんなに魔法少女が好きなのかしら……」

 

 桜と凛が小声で話していると、それを耳聡く聞きつけたルビーはグルンと変態的な挙動で二人の方へ向き、自身の拘りを猛アピールする。

 

『魔法少女はこの世界の、そして私にとっての夢と希望なんです!

 ああ、素晴らしいじゃないですか!『愛と正義(ラブ・アンド・パワー)』という輝かしい言葉!まさに、あらゆる理不尽を打ち砕く魔法と言っても過言ではありません!

 この響きの前に、心ときめかない少女などいませんよ!?」

 

 あぶないオーラを放ちながら二人に迫ろうとするルビー。愛歌がしっかり掴んでなければ、二人の眼前にドアップで接近していただろう。

 

 そんなにアピールされても、桜と凛は魔法少女になるつもりなどなかった。思いっきりヤバイ気配を感じていたから。

 桜は少しだけ顔を引き攣らせるぐらいだったが、凛は怖気が走ったようで腰を思いっきり引かせている。

 

 そんなルビーに対し、愛歌は非情な現実を突きつける。

 

「ルビー、あなたはそう言うけれども……

 私達の物語って『愛と正義(ラブ・アンド・パワー)』というよりも、『ダーク・ファンタジー』や『ハードボイルド』なのよねー、本質的に」

『え"?愛歌さん、なんか不吉なこと言ってません?』

「もしくは、『鋼の魔女』とか『悪夢の女王』とか。まあ本質的に」

『いや愛歌さん!?不吉過ぎますってば!?』

 

 なにやら怪しいキーワードを口にする愛歌。ルビーを宿すステッキに、戦慄が走る。

 

「まあ、そんな些細な事は置いておいて」

『いや些細なんですか!?』

「ふふっ。ルビー、一発芸をするんでしょう?ぜひ私を満足させてみなさい。そうすれば私自身に限定して、魔法少女を考えないであげなくもないわ」

『本当ですか!?』

 

 先程感じた戦慄をアッサリと放り投げ、愛歌の言葉に食いつくルビー。自分の欲望に忠実である。

 

 愛歌が内心で『このステッキ、思ったよりチョロイわね』などと、ルビーの被害者達が愕然とするような事を考えていると、桜が心配そうな声をあげる。

 

「よろしいんですか?愛歌さん。そのルビーさん、かなり個人的趣味で振り回してきそうですが……」

 

 その懸念はもっともだったが、愛歌的には些細な事だった。

 

「大丈夫よ。もし魔法少女になっても、動揺しなければ全く問題ないわ。たとえ妹の綾香に見られたとしても、『悪いステッキに傷物にされた。今度会ったら百倍返しを食らわせておいて』とでも言っておけば良いし」

『うわぁ……ここまで堂々とする方は珍しいですねぇ……』

 

 この様子だと、仮に愛歌が魔法少女になっても弄られてはくれなそうだ。

 いや、ルビー的に恐ろしい相手なので弄らないけど。

 

 ただ、桜はまた別の感想を抱いた。

 

(綾香さん、『むしろお姉ちゃんの方が弄んだのでは』と見抜きそう……)

 

 小学生ながら、よく姉を見ている人だ。どちらが被害者なのか、あっさり見抜くだろう。

 

 そのように考えている桜の前で、愛歌はこれから一発芸をするカレイドステッキをその手から解放する。

 束の間の自由を得て、解放感に浸るマジカルルビー。

 

 その光景を見た時臣が、魔術師的な観点から疑問を口にする。

 

「一発芸をすると言うが……このステッキはあくまで礼装だ。術者が振るう事で、初めてその効果を発揮する。単体だと、魔力砲の一発も撃てないのだが……」

 

 そんな当然の指摘に、ルビーは不敵な笑み───ステッキからそんな気配がした───を浮かべ、現在の自身の状態を簡単に説明する。

 

『ちっちっちっ。甘いですよー、時臣さん。今の私は愛歌さんの支配下に置かれた事で、姿を魔法少女にする以外の機能が()()()()()()()()()()()います。すなわち、()()()()()()()()()()()()()()使()()()()になりました。

 

 

 つまり、一発芸で何かを召喚することぐらいは出来るんです!』

「より危険度が増しているではないか!?」

 

 

 使う術者がいなければただの置物(?)だったのに、自分から何か出来てしまうとは、一体どういうことか!?そもそも、そんな事が起こり得るのか!?断じてあり得ないだろう!

 愛歌嬢はどれだけ規格外なのだ!?というか、頼むからもう少し配慮してほしい!

 

 時臣がそう思って頭を抱えるのは、仕方のない事だろう。

 少しとはいえ、このカレイドステッキが単体で力を行使できるなど、悪夢以外の何物でもないのだから。

 

 

 そのやり取りを見た愛歌は、流石にちょっぴり責任を感じたのか。

 あるいは、用心する必要があると思ったのか。

 

 苦笑を浮かべながら、告げてくる。

 

「何が起こるか分からなそうね……

 仕方ないから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 愛歌が言葉を結んだ、その直後。

 

 

 彼女の魔術回路が鋭く稼働し──この空間は、沙条愛歌という存在によって染められる。

 

 

 

「が、っ──────!!??」

 

 

 

 突如発生した、恐るべき重圧。

 反射的に、時臣は息を詰まらせる。

 同時に、全身の毛穴が開く。

 

 物理的な重力さえ感じさせるソレを、時臣は無視する事が出来ない。

 生粋の魔術師であるからこそ、無視出来ない。

 

 魔道に己が人生を費やしてきただけあって……その凄まじさを、正確に理解出来てしまうから。

 

「あ、ごめんなさい。思ったより圧力が発生してしまったわ。もう少し緩めるから」

 

 そんな時臣の様子を見て、愛歌は『やり過ぎた』と思い謝罪する。

 

 彼女が頭を軽く下げた直後、時臣が感じていた圧力が弱まった。力を抑えたのだ。

 だが、次元が違う事は一向に変わらない。

 

(ま、まるでっ……超越種を前にしているかのようだ!霊墓アルビオンの『妖精域』で、神獣を狩ったり支配して従えたというのは……こういう事なのか!!)

 

 心を落ち着けるよう努める時臣。

 愛歌はこれからルビーがする事に対する警戒として、いま力を放っているのだ。

 恐れる必要はないと、自身の本能に言い聞かせる。

 

 愛歌の凄まじさは、魔道に背を向けた雁夜にも伝わっていた。

 大量の汗を流しながら、なんとか言葉を口にする。

 

「……は、ははは……これが、魔術師の標準的な力、な訳がないよなあ………」

 

 魔術師の基準について詳しくなかったが、これが標準的なレベルでない事は、容易に察する事が出来た。

 そもそも時臣の態度が全てを物語っているから、分からない訳がないのだ。

 

「あっ、当たり前でしょ!?雁夜おじさん!こんなのが標準だったら、魔術の世界は、衰退傾向になってないんだから!!」

 

 顔色を真っ青にしてガクガクと震えながら、叫び声をあげる凛。出会った時に見せた愛歌の凄まじさが、()()()()()()()()()()()()()と痛感させられていた。

 

 まだ未熟な凛でも分かる。

 これは、人間の魔術師が出せる力ではない。別次元の力であると。

 

 生物としての格が全く違うのが、伝わってくる。

 

(愛歌さんの力が、これ程とは……私も見通しが甘かった……)

 

 桜でさえ、その力に圧倒されていた。

 ただ、他の者達とは違って、よりポジティブに捉えていた。

 

(でも……コレを直に体感できたのは、今後の事を考えると非常に大きい。魔術社会を生きていく上で、格上と相対する事は幾度となくあると思うから)

 

 どれだけ研鑽を積もうと、上には上がいるものだ。

 圧倒的な存在を間近で見る経験は、今のうちに多く積んでおいた方が良いだろう。

 

 桜が前向きに考えている様子を、愛歌は感心しながら眺める。

 友人のそういう性格を、彼女はとても好ましく思っていた。

 

 そして、かつて全能だった少女は……自身の在り方に感慨を覚える。

 

(こんな()()()()()()()()()()使()()()()()()……私も変わったものね)

 

 全能であった頃なら、もっと()()()()()()で規格外の現象を起こしただろう。あるいは、思い付きで何らかの趣向を凝らした筈だ。

 なんでも出来る訳ではない、という事がもたらした変化であった。

 

 また、霊墓アルビオンの『妖精域』で神獣とバトルを繰り広げ、割と苦労した事も影響しているだろう。

 少し脳筋になってしまったと、愛歌は内心で苦笑する。

 

 まあ……そんな自分の変化を、愛歌は肯定的に捉えていた。

 

「流石にやり過ぎたかしら。でも、ルビーの一発芸で何が起きるか分からないから、今は勘弁してね?」

 

 周りへの気遣いは必要だと思ったので、軽く詫びを入れておく愛歌。

 そして、カレイドステッキに妖しい微笑みを向けて告げる。

 

「さあ、ルビー。始めて良いわ。あなたがまかり間違って凶暴な幻想種を呼び出そうと、悪属性の英霊を召喚しようと、一瞬で鎮圧してみせるから」

『あのぅ、愛歌さん……ここにいるメンバーの中で、一人だけバグっているじゃないですか……

 それと私への信用、全然ないですねぇ……』

「ふふふ。面白い事を言うのね、ルビー。これまでの貴女の言動に、果たして信用出来る要素があったかしら?興味深いから、ぜひ聞かせて貰いたいわ」

 

 ルビーの言葉を一刀両断する愛歌。宙に浮くステッキは、顔というか真ん中の星を引き攣らせる。

 

 というか、英霊を簡単に鎮圧出来るカテゴリーに含めているあたり、沙条愛歌は次元が違った。

 全能だった頃と比べたら戦闘スタイルに変化はあるが、圧倒的な力は健在だ。

 

 

 さて、傍迷惑な性格をしているマジカルルビーだが、この天然人工精霊は断じて愚鈍ではない。むしろ、高い知性と洞察力を兼ね備えている。

 だから、愛歌が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を正しく汲み取った。

 

 愛歌はこう警告しているのだ。

 『もし碌でもない事をやらかしたら……分かっているわよね?』と。

 

 ステッキに人体構造など無いというのに、ルビーはゴクリと息を呑む。

 理性が『変な悪戯心は厳に慎むべきだ』と訴える。無難に終わらせるのが安全だろう。

 

 

 だが、しかし。しかしである。

 

 果たしてそれで、沙条愛歌を満足させられるだろうか?

 自身の目的である魔法少女の誕生を、叶えられるだろうか?

 

 この愉快型天然人工精霊が、おとなしく引き下がる?

 

 

 否!断じて否である!

 

 

(しかし、私は挫けません!魔法少女の誕生を実現するなら、ルビーちゃんは大魔王にだって挑んでみせます!)

 

 なお、ルビーの願いが叶った瞬間、誕生するのは『魔法少女』ではなく『少女の形をした大魔王』なのだが……当の天然人工精霊は、その不都合な未来予測から目を逸らしていた。

 

 ん?すでに愛歌は大魔王じゃないかって?

 HAHAHA、細かい事は気にしてはいけない。

 これは、世界の意思である(お目々グルグル)。

 

(愛歌さんの支配下に置かれた事で、魔法少女化はロックされてますが、それ以外の機能はギュインギュインとフル稼働しています!このみなぎるパゥワーを活用しない手はありません!

 ああ、持つべきマスターはバグキャラという事ですか!なんでもっと早く気づかなかったのでしょう!)

 

 先ほど翻弄された事を棚に置いて、都合よく考えるルビー。誠にポジティブ・シンキングである。

 

(今の私なら、並行世界から情報をダウンロードするだけでなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょう!

 ルビーちゃんの素晴らしさを、今こそ知らしめますよー!!)

 

 普段であれば不可能な事が可能となっている事で、ルビーのテンションはうなぎのぼりとなっていた。

 そう、うなぎのぼりになっていたのだ。

 

 だから……傍迷惑な性格であっても備わっていた高い知性と洞察力が、つい鈍ってしまう。

 

 

 この時ルビーは、もっと深く考えるべきだったのだ。

 もたらされる結果がどうあれ。

 

 

『さあ、ルビーちゃんの一発芸をご覧あれ!

 これぞ、魔法少女をリリースさせるマジカルステッキの力ですよー!!』

 

 

 その叫びと共に、宙に浮くカレイドステッキは怪しく光り出す。

 あのゼルレッチが作成した魔術礼装に、愛歌による機能活性化が加わっているのだ。その光からは、とても強い力を感じさせられる。

 

 ルビーが力を行使し続けると……

 なんと、ステッキの前方3メートルくらいの位置に空間の揺らぎが発生したではないか!

 

「こ、これは……!」

 

 その現象に、時臣は驚愕する。

 これは、()()()()()()()()()

 

 遠坂の人間であり、当主を務めている男に、この現象が分からぬなどあり得なかった。

 

「まさか、()()()()()()()()()!?」

 

 時臣の叫びを聞いて、今度は幼い凛が驚愕する。

 

「並行世界からの召喚!?お父様!あのステッキ、そんな事が出来るんですか!?」

「い、いや、そんな筈はない!出来るのは並行世界から()()()()()()()だ!それとて凄まじい力だというのに、まさか召喚などと!」

 

 遠坂家の現当主と次期当主が動揺している中、一般人たる雁夜も心配の声をあげる。

 

「お、おいっ……大丈夫、なんだよな?アレって」

 

 それは特定の誰かに向ける形にはなってなかったが、状況を冷静に見ていた桜が、落ち着いた声で答える。

 

「何か危ないモノが召喚されても、愛歌さんが鎮圧すると断言しています。もちろん、私もそこに加勢します。微力ではありますが」

 

 未だ未熟な身である事を自覚しながらの桜の言葉に、愛歌も落ち着いた声で答える。

 

「ありがとう桜。でも大丈夫。規格外の英霊でもない限り、軽く抑えられるから。

 そもそもあのステッキ、たとえ力が増そうと英霊のような格の高い存在までは召喚出来ないでしょうし」

 

 その見立ては、正しい。

 流石の観察力と判断力であった。

 

 いくらカレイドステッキの機能が活性化しているとはいえ、英霊のような格の高い存在を召喚する事は出来ないのだ。

 仮にマスター契約を結んだ術者がステッキを振るい、そして降霊する依代がいたとしても、その結果は変わらないだろう。

 

 本来カレイドステッキに出来ることは、あくまで並行世界からの情報ダウンロードなのだから。

 

 

 ああ。だが、しかし。

 高位の存在でないなら、先ほどルビーが考えた通り、魂や霊体を召喚する事は可能だった。

 

 

 つまり、肉体が損傷してそこから離れた、()()()()()()()を捕まえる事は……充分に起こり得るのだ。

 

 

 

 だから───

 

 

 

 

 光が収まった場所に……()()()1()6()()()()()()()()が倒れていたのは、何もおかしい事ではない。

 

 そう、おかしい事ではないのだ。

 

 

 

 

 予想外の存在が召喚されて、ルビーは混乱した声をあげる。

 

「あ、あれ……?」

 

 当たり前の話だが。

 ただの人間の少女を召喚する気など、ルビーには全く無かった。

 

 よほど特殊な事情がない限り、魂だけをこちら側に持ってくる事は、本人の意思を無視する事になるからだ。

 

 

 

 召喚の際に、魂はエーテルによって霊体を得ている。そこは聖杯戦争のサーヴァントと同じであった。

 

 英霊でもないのに、霊体で召喚されてしまった少女の格好は……穂群原学園の女子高生の制服姿だ。

 

 身長は150センチ台後半で、スタイルの良い少女だ。髪の毛は肩より若干下まで伸びており、頭の左側には()()()()()を付けている。黒髪なのだが、色素がやや薄い。

 これは仮定の話だが……もしその少女を二次元のイラストで描くとしたら、その髪の毛は()()()()()()()()()()だろう。

 

 

 つまり……髪の毛の色は、()()()()()()であった。

 

 

 

 

 ルビーは、事態を察して絶句し。

 時臣と凛と雁夜は、理解が追い付かず戸惑い。

 

 そして、愛歌と桜は……凍り付いた。

 

 

 

 




 第一章におけるコメディは、これにて終了。
 なお、呼び寄せられた人物だが、プリヤ世界(美遊出身の世界線含む)からの来訪()()()()と、ここでハッキリ明言しておく。


 
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