遠坂桜が『鋼の精神(メンタル)』持ちでヤバい女な模様 作:恐るべきサクラ
桜の思考内容に『ですます』口調が多かったので、その頻度を大幅に減らした。
基本的に、内面思考と他者との会話では言葉遣いが違うので。
それでは、いよいよシリアスな話へ突入。
『か、彼女は……もしかして……』
倒れている女子高生の姿に、どこか心当たりがあった。というか見覚えがあった。
何故なら、すぐ傍に
現実への認識が追いついていき、マジカルルビーはダラダラと汗を流し始める(比喩表現)。
はたから見て、やらかしてしまった様にしか見えないからだ。
「……あれ?あのお姉さん……なんか、初めて見たような気がしない……」
「私もだ……これは、一体………」
「あ、ああ。彼女は………誰かに、似ている………」
凛が疑問の声をあげ、時臣と雁夜もそれに同意する。
「まさか……あれは………」
そして、洞察力に優れた桜は、すでに
あり得ない事では、ないからだ。
周りがそんな反応を示す中───
「……ルビー?」
カレイドステッキの頭上から、背筋が凍るような少女の声が聞こえてくる。
ルビーがビクッと震え、ギギギと擬音が聞こえそうな動きでその体(?)を動かし、頭上を仰ぎ見ると……
その表情から笑顔の要素を完全に消し去った、沙条愛歌の顔があった。
「これは、
そう尋ねる愛歌の目は、とても冷たかった。
そこに、いつもの悠然と微笑む少女の姿はない。
ルビーは、全力で釈明する。
『いやいやいや、ワザとじゃありませんよ!?ルビーちゃんのモットーは『面白おかしく愉快に!』ですから!
こんな、どう考えてもシリアスになる事態、意図的に起こしませんて!?』
本気で焦りながら、必死に訴える愉快型天然人工精霊。流石に洒落にならない事態だからだ。
『そもそも、魂を肉体から強引に引き離してこちらの世界へ呼び寄せるような真似、私には絶対に無理です!ええ、たとえ今絶好調でも有り得ません!
釈明するルビーの様子に、愛歌は嘘はついてないと判断する。
「……どうやら、そのようね」
凍えるような表情を解き、ため息を吐く愛歌。ルビーが言っている内容にも、矛盾は感じられなかった。
そして、彼女は反省する。
つい感情的になってしまったと。
「まあ、ルビーを目覚めさせた上に一発芸を許可したのはこの私だし。そう考えたら、私にも責任はあるでしょうね」
警戒のため稼働状態にあった魔術回路を鎮静化し、愛歌は苦笑する。
「それに……彷徨っていた魂を呼び寄せたのだから、
そう言って、愛歌はステッキに頭を下げる。
「ごめんなさい。私もビックリして感情的になってしまったの。大人気ない態度を取ってしまったわね」
『えっ……い、いえ……まあ、確かに紛らわしかったですし……』
愛歌が存外まともな反応を返してきて、ルビーは逆に恐縮してしまう。
思わず、『あれ?愛歌さんて実は誠実な方だった?』と失礼な事を考えてしまっていた。
愛歌は気持ちを切り替えて、改めて眼前で倒れている女子高生の少女を見る。
「聖杯戦争で召喚するサーヴァントと同じく、彼女は霊体で構成されている。けれど、彼女は英霊じゃない。それは、見て分かるでしょう?」
「……はい。あの人からは、特に大きな力は感じられません」
愛歌の言葉に、桜は頷く。
そして、倒れていて意識がない少女を慮ってか……とても言いづらそうに、自身が感じた印象を語る。
「むしろ、その………私よりもずっと、
「………桜。あなたが感じたその印象は、正しい」
倒れている少女の名誉に配慮しながらの桜へ、愛歌は肯定の言葉を返す。その様子は、普段の彼女らしからぬ神妙なものだ。
「そしてそれは、魔術に関してだけじゃない。
「……やはり、そうですか……」
愛歌の言葉は、桜の胸に違和感なく溶け込む。
「あちらが本来の在り方、という事ですか……」
「ええ……気付いていた?」
「はい。今の私の在り方は、間桐での体験を考慮してもおかしい……普通は、折れていますよ」
愛歌と桜の会話に、雁夜と凛は混乱する。
「桜ちゃん、愛歌ちゃん……二人とも一体、何を言っているんだ?」
「そ、そうよ……本来の在り方って……訳が分からない……」
理解が追いつかない様子を見せる二人だが……もう一人は違った。
「いや、まさか……そんな事が………」
顔色を青くする時臣。
信じられない、だがそうとしか思えない。
そんな思考が、彼を翻弄する。
二人の会話に、己の魔道の知識を加えると……その信じがたい答えが導き出されるのだ。
これまで自身に厳しい生き方を課してきただけに、時臣はその答えから目を逸らす事が出来なかった。
そんな父の様子が心配になる桜であったが、今は目の前で倒れている年上の少女が優先であった。
愛歌が率先して、前に出る。
「まずは、私が主導して対応するわ。桜はその補助で、後から適度に関わっていく。きっとそれが、一番スムーズにいくから」
「お願いします。やり方を間違えると……あの人を混乱させてしまうでしょうから」
「ええ、任せて。それとルビー、必要になったらあなたもフォローをお願いね」
『わかりました……これは流石に、私も真剣にならざるを得ません』
この状況でおちゃらける程、ルビーは無神経でなかった。普段だとあり得ないような、真面目な態度を見せる。
『あちらを混乱させないため、愛歌さんから許可が出るまでは黙っています』
「それがいいわ。最初からステッキが喋りだすと混乱するでしょうし」
ルビーにそう答えた後、愛歌は他の者達に告げる。
「とりあえず、ここは私と桜とルビーで対応する。時臣おじ様達は席を外して」
「ちょっ!?なんでよ!私達にも何か出来る事があるんじゃ───!」
愛歌の提案に、凛が抗議の声をあげる。どう見ても遠坂家の異常事態なのに、ここで部外者扱いされるのは心外だからだ。
だが、愛歌は頑として譲らなかった。
「突然の状況でいきなり大勢に囲まれていたら、この女の人に過度の緊張や不安を与える恐れがあるわ。出来るだけ、少ない人数で対応するのが望ましいの」
「で、でもっ……その女の人、なんか放っておいちゃいけない気がして……っ!」
初めて見る相手なのに、凛はその年上の少女を放って置けなかった。
その凛の気持ちを、愛歌は尊重してあげたいが、この場はそういう訳にはいかない。
「凛。あなたのその気持ちは尊いものだけれど……突然の環境変化で不安定になっている人間への対応方法を、あなたはちゃんと知っているの?」
「───!?う、ううっ……!」
「申し訳ないけど……この状況は、極めて慎重な対応が求められるのよ」
出来るだけ優しい口調で、それでも内容が厳しい事を言う愛歌。
年長者として、また知識を持つ者として、安易な対応をする訳にはいかなかった。
そして、これは補足だが……桜はその手の知識をいくらか身に付けていたりする。
自身が間桐であのような目に遭ったから、同じような体験をした者へ出来るだけ適切に対応出来るよう、心理学やカウンセリングの専門書などに目を通していた。
もちろん、必要な場面でそれを上手く実践できるかは全く別の話だ。知識を取得しただけでは不充分であり、実務経験を多く必要とするのだから。
それでも……知らないよりは、遥かにマシだろう。
「凛……愛歌嬢の言う通りにするんだ」
「お父様……」
「恐らく……その方が上手くいく」
何かを察したのか、時臣は凛の肩に手を置き、諭すように言い聞かせる。
凛は何かを言い掛けて、しかし言葉にする前に口を閉じ、そして俯きながら頷く。
その様子を見ながら、愛歌は思う。
(……きっと、桜が間桐から戻ってくる前の時臣おじ様なら、そこまで気が回らなかったでしょうね)
魔術師としての価値観に凝り固まり、自身が正しさを疑ってなかった時臣だ。目の前で倒れている少女と話すのが、なぜ遠坂家の当主たる自分ではないのか、理解に苦しんだだろう。
時臣は、魔術師としての傲慢さからだいぶ解き放たれてきた。だが……
(まだ、足りない。魔術師としての枠に、未だ囚われている。これは……後で
出来れば避けたいところだが……
そこで、愛歌は思い直す。
(いえ、避けたら駄目なのかも。どんなに痛みを伴っても……それはきっと、時臣おじ様にとって
この辺りの厳しい判断は、まだ桜には難しいだろう。どうしても父親への情が働いて、対応がやや甘くなってしまう。
まあ、実際にひと悶着あるかは状況によるけれど。
そんな事を考えながら、愛歌は内心で苦笑する。
(我ながら、色々と
全能であったが故に、人間性や人としての感情が希薄で、自発的に何かを成そうと生きてはいなかった。当時の自分は、まさに『生きた亡霊』だったと言える。
先程のような人の機微について、深くは考えなかっただろう。
(……うん。本当に、王子様に恋して世界をくべるような、どうしようもない
並行世界の自分をディスりながら──まあ嫌いなんだから仕方ない──、この場を外してもらうもう一人に声を掛ける。
「そういう訳だから、雁夜さん」
「……そうだな。済まないけど、君達に任せるよ。俺が上手く対応出来るとは思えないし」
もう一人の大人である雁夜は、どこか自虐的な様子を見せながらそう言う。
かつて病室で桜と話した経験や、普段から見られる愛歌の多才ぶりから、今は自分の出る幕ではないと察したのだ。
雁夜の言葉に、頷く桜と愛歌。
そして、他の三人はこの地下空間の出口へ向かって歩き出す。
凛が気になるように後ろを振り向くも……時臣に促されて、出口へと向かっていった。
時臣と凛と雁夜がこの場から離れたのを確認すると、愛歌は気を引き締める。
「それじゃあ、始めましょうか。
まずは、私達が味方であると伝えて安心させるところからよ。それが上手くいかないと、何を話しても受け入れてもらえないでしょうから」
愛歌の言葉に、桜とルビーは頷いた。
愛歌が倒れている少女を起こそうとしている様子を見ながら、桜は表情が固くならないよう気をつける。
(……対応は、慎重にしないといけない。間違いなく、この人は傷ついているから)
桜は自分が、久方ぶりに緊張しているのを実感する。
(時間を見つけて、心理学やカウンセリングの本は読んだけれど……身に付けたのはあくまで知識に過ぎない。上手く実践出来るかは、全くの別問題)
なにせ、対応方法は相手によって千差万別だ。その都度、適切なコミュニケーションを模索しなければならない。
そして……間桐から遠坂へと戻ってきた自分という存在は、目の前の年上の少女にとって、
愛歌が主導して対応する中で、桜は距離感に最大限の注意を払う必要がある。
「………ん……んん……」
愛歌が軽く目覚めの術を使うと、倒れている少女から声が漏れる。
そして、彼女の両目が薄らと開き始める。
「………あ……れ……?
ここ、は……一体……どこ、なの……?」
意識が朦朧としながらも、見慣れぬ光景に疑問の声をあげる。
「……目を覚ましたかしら。大丈夫?」
慎重に声を掛ける愛歌。神秘的な明かりに照らされているとはいえ、地下の空間というのはあまりイメージが良くないだろう。なので、声掛けで落ち着かせなければならない。
自分の知らない人物を目にして、その少女の瞳が不安そうに揺れる。
「あ、あなたは……誰ですか……?」
少女は愛歌を見つめながら恐る恐る呟き、そして────幼い桜の姿を、その瞳に捉えた。
そして……少女は目を見開き、大きな動揺を見せる。
「えっ………む、むかしの……私……っ!?」
「………っ」
その言葉を聞き、ほぼ確信に至っていた事が、完全に確定する。
目の前の女子高生は。
未来の時間軸に位置する、
……この世界とは、異なる過程を歩んだ桜であった。
「そ、そんなっ……どうして……!?」
過去の自分が目の前にいる事に、並行世界の桜は取り乱し始める。完全に彼女の許容限界を超える事態だった。
一旦そうなる事は最初から分かっていたので、愛歌も桜も落ち着いて対処する。
「大丈夫、落ち着いて。私達はあなたの味方よ」
最大限に労りの声を掛ける愛歌。いつもの悠然とした、あるいは可憐なものとは異なる、相手にとても安心感を与えるものだ。
愛歌が浮かべた表情も絶妙だった。見る者を心から安らがせるもので、そこに怪しさは一切無い。
その
そして、桜は自分も愛歌と同じく味方であると示すため、柔らかい表情で頷く。
適度な距離感を意識しながら、同時に『自分は決して敵ではない。味方だよ』と意思表示する。
「大丈夫。大丈夫だよ。ここに、あなたを傷つける人はいないから」
相手を刺激してしまわないよう、穏やかな声を心掛ける桜。言葉遣いも、昔のものへと戻す。
もし並行世界の桜が落ち着かなければ、魔術的な暗示も追加する必要がある。
相手に寄り添うため、二人ともあまり使いたくなかったが、必要とあらば躊躇わない考えだ。
「まず、深呼吸をして。ゆっくりと、自分のペースで良いから」
「……っ、は、はい……」
愛歌の優しい指示に、並行世界の桜は意外と素直に従った。言われた通りに、深呼吸を始める。
その体はサーヴァントと同様にエーテルで構成された霊体だが、肉体を持っていた時の性質が残っているのか、深呼吸と共に落ち着いてくる。
「そう、その調子。その調子で良いの。無理をしなくて良い」
そして幸いにも、並行世界の桜は思いのほかスムーズに落ち着きを取り戻してきた。
しばらく深呼吸を続けると……
彼女は改めて、口を開く。
「………すみません。いきなりの事で、混乱しました……」
弱々しい口調であったが、ある程度の落ち着きを取り戻せているようだった。
その様子を確認した桜は、まず
「ごめんなさい。私のせいで、あなたを不安にさせてしまって」
「え!?」
幼い自分に頭を下げられるとは全く思っていなかったようで、驚愕の表情を見せる。
当然ながら、彼女は慌てた。
「ち、違うの!いきなりで驚いただけで、そのっ……変な意味じゃないから!」
慌てて釈明する並行世界の桜。
本人はそう言うが、過去の自分を見て取り乱し始めていたのは間違いない。
こちらの桜への気遣いもあるだろうけど、同時にこの場で不快感を持たれるのを恐れてもいるのだろう。
桜は穏やかな表情で了解の意を伝えると、向こうはホッとした表情を見せる。
(……とりあえず、私に対する警戒心は、少し和らいだかな。
もちろん、まだまだ気は抜けないけど)
最初のスタートが上手くいっただけなので、引き続き慎重な対応が必要だ。
さて、こうして顔を合わせたのだ。
目の前の相手に、自己紹介をしない訳にはいかないだろう。
名前を明かすと言う行為は、相手の信頼を得る上でとても重要だ。
省略したり誤魔化すといった選択肢は、最初から桜達になかった。
かといって、いきなり過度な情報を与えるのは得策でない。
まずは、簡単な自己紹介で相手の反応を見る必要がある。
桜と愛歌は、最新の注意を払いながら自身の名を明かす。
「簡単な自己紹介をするね。私の名前は……桜だよ」
「私は、愛歌って言うの。よろしくね」
並行世界の桜へ、敢えて名字を省略して名前だけ告げる二人。
桜が『遠坂』である事をすぐに知らせたら、ショックを与えてしまう可能性が大きいからだ。
自己紹介を受けた並行世界の桜は、一瞬戸惑う様子を見せながらも……
今度は、自身の名を明かす。
「……私も、桜です。
……彼女は、ファーストネームだけでなく、フルネームで明かしてきた。
その名前は……
思ったより会話が長くなってきたので、ここで区切って次回に続く。