遠坂桜が『鋼の精神(メンタル)』持ちでヤバい女な模様 作:恐るべきサクラ
凛は父を、時臣を尊敬していた。
遠坂の家訓である『常に余裕を持って優雅たれ』を忠実に実行し、いつも完璧な振る舞いを見せる父の姿は、幼い彼女にとって魔術師としての理想像であった。
未熟な凛には遠い彼方にある魔術の秘奥を知り、それらを優雅に行使する父。幼い彼女に対して、いつも優しく、そして時には厳しく、だけど暖かさを忘れず指導してくれる父。
いつかは、父のような素晴らしい魔術師になって、遠坂の当主として相応しい人間になりたい。
あの人のように、常に余裕を持って優雅に振る舞いたい。
凛はずっと、そう思い続けてきた。
そんな凛にとって。
父が下した決断の結果、桜に地獄という言葉すら生温い責め苦が降りかかったのは……
天地がひっくり返る程の、衝撃だった。
(お父様が、間違えた……)
あの完璧な筈の父が、致命的な間違いを犯したのだ。
自分の信じてきたものにヒビが入り、己の芯が揺らぐのを感じた。
母の葵のように常に時臣を立てるような性格ならば、凛はそこまで苦しまなかっただろう。
だが、彼女は母と違った。
遠坂の次期当主たる凛は聡明で、そして
父を尊敬しながらも、父の責任から目を逸らす事が出来ず、その葛藤は凛の精神を追い詰めていった。
そして、幼い凛は思った。
(桜は……あの子は、お父様の事を……恨んでいるんじゃ……)
父を尊敬していた自身でさえ、こんなにグラついているのだ。父の被害者たる妹が、恨んでいないとは思えなかった。
いや、父から知らされた間桐での責め苦の内容を考えれば、恨まない方がおかしかった。
臓硯を倒して病院に入院した桜が、時臣の髭を引っこ抜くという制裁を下していたが……
(桜は……お父様と普通に話しているように見えるけど……)
本当は、内心で怒りや嫌悪の感情が渦巻いているのではないか。
父に向けるあの顔は、偽りではないのか。
ひょっとして……自分が父を尊敬するのは、許されない事なのではないだろうか?
そのような感情を持ち続けるのは、辛い目にあった桜の気持ちを、考えていないのではないか?
自分は……妹の気持ちを、踏み躙っているのでは?
そんな考えが、頭の中を回り続けて……
凛は、聞かずにはいられなかった。
「桜は……お父様を軽蔑して……嫌っていたり、しない……?」
答えを聞くのが怖いと、視線を落として声を震わせる凛。
例え気が強くて聡明な彼女であっても、まだ6歳の子供なのだと実感させられる姿だ。
そう、6歳の子供だ。
まだまだ、親を慕っていたい年頃だ。
桜は、穏やかに微笑む。
「姉さん。お父様が自分の髭を自慢していた時の事、覚えていますか?」
「へ?」
脈絡の無い話を振ってきた桜に、凛は思わず目が点になる。その内容が、完全に予想外だったからだ。
そんな思考が停止した姉に
「あれは1年くらい前でしたか……家訓である『常に余裕を持って優雅たれ』を日々実践していたお父様ですが、姉さんに髭を褒められた時、上機嫌に自身の髭の何たるか力強く語っていましたよね」
「え、ええ、そうね。あの日のお父様、なんかウッキウキに見えたわ……あれは流石に、ちょっぴり引いたけど」
「理想的な形を維持するために、毎朝丁寧にセッティングしていたようですから、褒められて余程嬉しかったんでしょう」
凛に褒められた時臣は興が乗ったのか、自身の顎に生えた髭によって自らの優雅さがいかに保たれているかを、とても情熱的に語っていた。
そのアレさ加減は、まだ時臣を完璧超人だと信じ切っていた凛でさえ引いてしまうくらいであった。
「で、私が入院した時にお父様にも告げましたが……あの髭は前々から全部引っこ抜いてみたいと思っていたんです。さも『引き抜いてくれ!』と言わんばかりの生え方だったので。
それがお仕置きという形で実現して、とっても胸がすくような思いでした♪」
「そ、そうなの……?それは念願が叶って良かったというか、桜は昔から意外とヤバイ事考えていたというか……
──って、そうじゃなくって!私が聞いてるのは別の事なの!」
桜の物凄くイイ笑顔に流されそうになる凛であったが、途中でハッと気づいて、ガーッと吠えたてる。
良い感じに緊張が解れた姉を見て、桜は軽く謝罪しながら続ける。
「すいません、分かりづらかったですね。まあ、何が言いたいかというと……
お父様に腹が立っていたのは事実ですが、引き摺るつもりは無いんです。軽蔑したり、嫌ったりするつもりは、全くありません。
あの人が拘っていた髭を容赦無く引っこ抜いた事で、私の中では完全にケジメがついた事になっているんです。
「──!?ほ、本当に……あんな事で、
凛は心から驚愕する。繰り返しになるが、
そんな姉に、桜は肯定の意を示す。
「はい。まあ、姉さんが信じられないのも無理はないと思っています。間桐での体験と比較したら、釣り合いが全く取れてないと思うのは、当然の事ですし」
それでも、桜はアレでひと段落と決めたのだ。
「そもそも、以前と比べて現在は、お父様に言いたい事をバンバン主張しています。それを考えると、アッサリ終わらせたというのは語弊があるのでは?」
「そ、それは、そうだけど……」
確かに、今の桜は時臣に対してしっかり自己主張している。生粋の魔術師であるが故に機械類を置こうとしない父に対し、機械を飛び越えて電子機器たるパソコンを購入すると通達している。父に拒否権など無いと言わんばかりに。
それでも───
「さ、桜は………本当に、それでいいの……?」
間桐であんな酷い目に遭ったのに、そんな緩く済ませていいのか。
時臣を尊敬し、嫌って欲しくない凛であるが……その真っ直ぐな性格から、そう考えてしまう。
姉のそういう真っ直ぐさが好きな桜は、自分の素直な気持ちを吐露する。
「お父様の失敗に怒ったのは事実です。私は決して、聖人君子ではないから。
そう、怒りはしましたが……だからといって、私はお父様を……
「あ……」
久しぶりに聞く、妹のかつての口調に。
凛は思わず、声を漏らす。
「最近、話し方が変わっていたからね。
「……う、うん!その話し方だと、昔の桜と話しているみたい!」
やはり、昔の口調を聞く事で安心感を覚えたようだ。
桜は配慮が足りなかったと反省し、軽く謝罪する。
「ごめんね。話し方が変わっていたから別人みたいだと、お姉ちゃんを不安にさせてしまっただろうけど」
桜の言葉に、凛は首を横に振る。
「……そういう訳じゃないの。桜に対して、不安になっていたんじゃなくて……」
少し間を置いて、凛は続ける。
「性格が変わってしまうほど、辛い目に遭ったと思ったから……わざわざ聞くのは、気が引けて……」
「……まあ、それだけの目に遭ったのは、事実かな」
姉の言葉を、桜は否定しなかった。
間桐の地下にあった蟲蔵は、人間の心を徹底的に破壊し尽くす場所であったから。
蟲蔵の件は話の本題ではないため、桜は話の流れを元に戻す。
「繰り返すけど、私はお父さんを憎みたいわけじゃないんだ。不完全な部分や、納得できない価値観があったとしても……私にとって、お父さんである事に変わりない」
嘘偽りのない気持ちを表明する桜。
穏やかな、それでいて真っすぐな目で、不安に揺れる凜の目を見つめる。
「確かに、養子の件は致命的な失態だった。普通の人なら、あれで親子の縁が切れても全くおかしくないと思う。
それでも……私はお父さんとの家族関係を否定したくないの。たった一人の、父親だから」
そのように、自分の気持ちを述べて。
桜は凛に、救いの言葉を伝える。
「だから、お姉ちゃんは
「………っ」
妹の言葉は、凜の心を大きく揺さぶった。
体を震えさせる凜。
そんな状態でも、彼女は気丈に言葉を紡ぎだす。
「……桜が養子に出されて、そこであんな酷い目に遭って……お父様は間違えたと思った……」
姉として情けない姿を見せられないと、口元を震わせながらも堅く引き締める。
「本当なら、取り返しのつかない事になるところだった……桜をそんな目に遭わせてしまったお父様を……尊敬しちゃいけないと思ったの」
両手の拳が震えていたが、姉の矜持にかけて醜態を晒さないよう努める。
「私がお父様を尊敬したら……酷い目にあった桜の気持ちを、踏みにじってしまうんじゃないかって……!」
凜は、子供ながらに強かった。
ここに来ても、目を閉じて涙を堪えられるだけの強さがあった。
尊敬する父であっても、その致命的な失敗から目を逸らさない強さがあった。
「けれど……私にとって、お父様は憧れで……ずっと、尊敬してきたから……!」
それでも……
やはり、辛かった。
あんな形で、父への信頼が揺らぐような経験など……凛はしたくなかった。
そんな姉に桜が向ける言葉は、決まっていた。
「私は、お姉ちゃんがお父さんを尊敬する気持ちを、絶対に否定しない」
「──!!」
凛の涙に濡れた目が、開く。
「その気持ちは、間違っていないよ。お姉ちゃんにとって、お父さんは大切な道標だから。
あの人を尊敬して頑張ってきたから、今のお姉ちゃんがいる」
もし時臣が貴族然とした魔術師
「尊敬する人が完璧である必要はないと、私は思っている。もし、お父さんが間違ってしまったのなら……そこから目を逸らさなければ良い」
養子の件は、確かに致命的な失敗だった。
それでも、父を全否定する気持ちなど、桜の中には無い。
「……お父様が間違った時……私にそれが判断できるか、自信がない……」
まだ凛には、時臣のどこが駄目なのか、養子の件以外で見極めるのは難しかった。
「……確かに、今すぐその全てを見極めるのは難しいと思う。それは、私自身も含めてかな。簡単ではないよ」
桜だって、父の全てを分かっている訳ではない。きっと自分の知らない欠点が、父にはまだあると、彼女は思っていた。
「でも大丈夫。お姉ちゃんなら、いつかお父さんに頼らなくても、正しい道が見えるようになる。お父さんとは全く違う新たな可能性を見つけられる」
でも、分からないのは
時臣本人が凛に期待している通り……彼女はいつか大成するだろう。
「もし、お姉ちゃんやお父さんが大きな間違いをしそうになったら……私が止める。
だから、私が間違えそうになったら、その時はお姉ちゃんが止めて」
「私と…桜で……お互いの間違いを、止め合う……」
「そうだよ。自分が常に間違えないと思うほど、私は自信家じゃないから」
そのような自惚れは、桜と無縁であった。
彼女は凛の両肩に手を置き、信頼の眼差しを向ける。
「自分に出来ることを見定めて、真っ直ぐ前を見据えて進んでいく。それが出来るのは、お姉ちゃんの強みだ」
そう述べた後。
これだけは絶対に伝えなければと思っていた事を、桜は告げる。
「なんて言ったって、私の自慢のお姉ちゃんだからね」
「さっ、桜……!」
声を震わせながら、妹を抱きしめる凛。
声を押し殺して、静かに泣く。
号泣しない凛は、やはり強かった。
母親相手ならしていたかもしれないが……妹に対して『しっかりしなければ』という矜恃を、凛は決して忘れなかった。
彼女は、たった1人の妹を……心から大切に思っていた……
「お姉ちゃん、落ち着いた?」
「……うん。みっともない姿を見せて、ごめんなさい」
「いいよ、これくらい。今まで辛かったでしょう」
「まあ、ね……」
そう返す凛だが、その声は弱々しくない。
顔に涙の跡は残っているものの、すでに思い悩んでいる気配は残っていなかった。
「その様子なら、もう安心ですね」
そう言って、桜が口調を最近のものに変えると、凜はちょっぴり唇を尖らせる。
「むう……口調をそっちにするのね」
「すいません。新しい口調にはもう慣れてしまったので、自分ではこちらの方が自然に感じちゃうんです」
「……はあ。まあ、いっか。桜がそれだけ成長したという証だし」
本人がそう言うなら、凛としては昔の口調に拘るつもりはなかった。
人は成長していくのだから、いつまでも昔に囚われている訳にはいかない。
ただ、それはそれとして、桜がここまで大きな成長を遂げると、やはり姉としては忸怩たるものがある。
「ほんと……これじゃあ、姉と妹の立場が逆じゃないの……」
凜はそうぼやいて少しションボリしたが……実のところ、桜としては気になる事があった。
「私がこうなった原因ですが……間桐での出来事が切っ掛けなのは間違いありませんが、それだけじゃないと思っています」
「え?どういう事?」
凛が疑問の声をあげ、それに桜が自らの考えを答える。
「精神面の成長や思考回路の発達だけなら、まだ間桐で奮起したからと強引に解釈出来ない事もありません。ですが……
だって、私は間桐の家にいる間に───
「あ!言われてみれば!」
桜に言われて、凜はようやく気付く。
最近は精神面で成熟した姿を見続けていたため、難しい熟語などを使っている事に、不自然さを感じていなかったのだ。
「後天的に必要なものが、学習していないにも関わらず身に付いている。間桐の家にいる間だけでなく、生まれてから養子に出されるまでにも、それらしい出来事はありませんでした。
これはきっと、生まれた時かそれ以前に、何かあったんじゃないかと推測しています」
「……生まれた段階かそれ以前に、何らかの情報が桜に流れ込んだ?」
「そう考えるのが適切かと。それが何かは、まだわかりません。お父様の口からそれらしい話を聞いたこともないですし」
もし何者かが特殊な儀式を行ったなら、時臣が気付かないといった事はないだろう。ウッカリを発動させない限り、という注釈は付くが。
「とはいえ、何でも知識が得られた訳じゃないです。むしろ、得られた知識は言語関係くらいでしょうか。先ほどお父様と話した不動産関係の知識は無かったですし」
「都合よく何でも知識が得られた、という訳ではないのね……」
間桐での恐ろしい環境で得られたのは、『絶対に諦めない意思』と『未来を切り開く思考』と『成熟した精神』と『高い言語能力』だ──後は異常なまでの痛覚耐性か──。
つまり、全て
「いっその事、養子先で不思議パワーに目覚めたら、桜はもっと楽できたのに」
妹の苦労を思ってぼやく凛に、桜は軽く苦笑する。
「現実はそう都合良くいかないという事でしょう。私自身、
「……そこで期待しないのが、桜の凄い所だと思う」
……もし、運命の女神とやらがいるとしたら、その意思は『不思議パワーの覚醒などに頼らず、自分の創意工夫で何とかしろ』といった所か。
あの間桐の蟲蔵を考えると、あまりに理不尽な要求──まあ仮定の話だ──であるが……
結果として何とかなったのだから、それで良しとするしかない。
「それでも、言語能力が飛躍的に上がったのはかなり大きいですよ。論理的に考える能力が向上しますし、書物からの知識の吸収がスムーズにいきますので。研鑽を積むには、最適な能力向上かと」
「書物を読めるのは、有り難いわよね。私なんか、まだ難しい本は読めないし……」
父の工房に置かれている魔導書が読めず、ガックリと落ち込んだのは記憶に新しい。というか、思い出すとまたガックリきてしまう。
そんな姉を励ましながら、桜は続ける。
「せっかく得られた
『手軽に不思議パワーで最強!』なる都合の良い考えなど、桜の中には全く無かった。絶無と断言出来る。
そもそも、楽して他者にマウントを取るなど論外だ。
生きる事と真摯に向き合い、命を完全燃焼させて人生を歩んでいく。それが、桜の姿勢だ。
「桜は前向きね……その考えには、私も同感よ」
そして、そんな妹の姿勢を凛は好ましく思った。前向きな姿勢は、自分も望む所だ。
さて、2人で話し込んでいるうちに、それなりに時間が経っていた。
姉妹だけの会話は大切だが、1階にいる両親──特に父親──をこのまま放っておく訳にはいかない。
気持ちが落ち着いた凛は、意を決する。
「……これ以上は、時間を空けたくないから。お父様と話してくる」
「うん、そうですね。私も一緒に行きます」
凜を元気づけたので、姉に続いて下へ戻る事にする桜。
2人で部屋を出たところで、念のため凛に確認する。
「助けは、いる?」
短く、口調を戻す桜。
妹の気遣いに……凜は首を横に振る。
「ううん、大丈夫。自分の力で謝るから」
「分かった。頑張って」
こくりと頷いて、1階へと降りていく凜。
姉の後ろに続きながら、桜は思う。
(大丈夫。心配はいらない。だって、この人は──)
姉へ信頼を向けながら、先程伝えた事を、内心で繰り返す。
(私の、自慢のお姉ちゃんだから)
姉妹の絆は……替えの利かない、桜にとっての宝物だ。
◆◇◆
場所は変わって、冬木から東に遠く離れた日本の首都『東京』。
その住宅街にある家──裕福な家庭なのか建物は大きい──の一室にて、1人の少女が机に向かって作業をしていた。
原稿用紙の上で筆を動かしていたが、左端から3列目ぐらいの位置で筆を止め、「ふぅ……」と軽く息を吐く。
「次の巻の執筆は、これで完了ね」
そう呟く少女は、外見からして中学生といった所か。
砂金の如く薄い金髪に、宝石のような蒼い瞳を持つ、麗しい少女であった。顔の造形はどこか人間離れしたものを感じさせるが、感情に乏しい訳でない。むしろ、可憐ながらも大いなる活力を感じさせてくれる。
「2年前に執筆し始めて、もう6巻になる。ふふふ……筆が乗って仕方ないわ。何事もやってみるものね」
今回も渾身の出来だと、頬を綻ばせる少女。先ほど軽く息を吐いていたが、疲れなど全く感じさせない。
そんな彼女に対して、後ろから声が掛けられる。
「沢山売れてるのに、他の人名義で小説を出し続けるんだね」
その声に少女が振り向いて名前を呼んだのは、彼女より年下の少女であった。今年で小学4年生になる、彼女の妹だ。
日本人として一般的な黒髪で、その雰囲気は凡人的なものという、姉とは全く異なるタイプの少女だ。
卑屈な感じは見られず、また姉妹仲が悪い様子は
「名前を出さない事に意味があるの。ほら、ゴーストライターって、どこか乙女心をくすぐられるでしょう?」
「ええぇ……乙女心、くすぐられるかな……」
姉の感性が理解できず、妹は首を捻る。完璧超人でありながら、こういう所はよくわからないと常々思う。
「私は別に、作家になるつもりは無いのよ。今書いている作品を書きたくて、作家の真似事をしているだけだから」
そう宣う姉であったが、彼女の執筆活動の成果を知る妹は、思わずジト目になってツッコミを入れる。
「真似事とか言いながら、普通にこの小説ベストセラーになっているよね?」
「もちろん、書くからにはそれぐらい達成しないと。中途半端に終わらせたら勿体ないじゃない」
「ベストセラーって、狙って出せるものじゃないんだけど……」
それが出来てしまう当たり、この姉はバグっていると思う妹。まあ、よくある事なので慣れてはいるが。
そんな姉の小説で、すでに発売済みの巻をペラペラと捲りながら、妹はずっと気になっていた感想を口にする。
「それにしても……お姉ちゃんの作品に出てくる妖精、なんかエグイよね……」
妖精ってここまで酷いモノだっけ、と思わずにはいられない妹。未熟な身であっても神秘の知識があるだけに、その辺りは気になってしまう。
それに対して姉は、『実際は違うわよ』と返す。
「物語としてのスパイスは加えているわ。流石に実際の妖精は、ここまで邪悪じゃないもの」
「やっぱりそうかぁ……実際の妖精がこれじゃあ、幻想が壊れちゃう」
妹がそんな感想を零すと、姉の少女はクスリと微笑を浮かべる。
「あら。妖精が無垢で残酷だというのは、現実でも同じよ。人間とは根本的に精神構造が違うから、恐ろしい存在なのはあまり変わらないわ」
「それは私も学んだけど……ひょっとしてお姉ちゃん、妖精に含むところない?」
「ふふふ、別にないわ。
「なんか意味ありげな言い方だね……」
姉の思惑が気になるところだが、答えてくれなそうだと思って追求を諦める妹。
ここら辺、伊達に同じ屋根の下で生活してきた訳ではない。
そんな妹に
そして、彼女は衣装棚から他所行きの上着──もちろん女の子向けのもの──を取り出し、服の上から羽織る。
「お姉ちゃん、どこか行くの?」
妹の問いかけに、姉は買い物にでも行くかのような気軽さで答える。
「ええ。大事な用事があるから、しばらくは西日本に滞在するわ」
「西日本!?しかも、しばらくって!?」
いきなりの長期外出の宣言に、大声をあげて驚愕する妹。
だが、彼女の驚きはまだ止まらない。
「そうね、だいたい1年少々かしら」
「1年少々!?そんな長い外出をして、学校はどうするの!?授業とか受けられないよ!?」
妹が当たり前の突っ込みをするが、その程度でこのトンチキな姉は揺らがなかった。
「すでに休むと伝えてあるわ。その期間の授業内容は論文を提出して、
「ちゅ、中学生の身分で、論文を提出して1年少々の長期休みをもぎ取るって……やっぱりお姉ちゃんはおかしいと思う」
きっと論文を出すだけでなく、学校に色々と手を回したのだろう。
つくづく、この姉はおかしいと思う。
「出版社の方にも伝えてあるから問題ないわ。そこまで考えて原稿を執筆したし」
「……そこまで段取り立ててるんなら、前もって教えてくれても良かったのに……」
そう妹が唇を尖らすと、姉は悪戯っぽい表情を浮かべてこう宣う。
「ほら。サプライズって大事じゃない」
「そんなサプライズ、必要ないって……」
ガックリと来る妹。
このトンチキな姉に振り回されるのは、相変わらずであった。
まあ、これ以上姉にアレコレ言っても仕方ない。諦めが肝心だ。
何とか気を取り直し、妹はその長期外出の用事に付いて聞いてみる。
「まあいいや。それで、最初は何をやってくるの?」
「そうね。まずは……」
妹にそう聞かれて。
答える姉の口元の笑みが……より深くなる。
「将来子供たちに良くない事をする
可憐でありながらも凄みのある笑みを湛えて、宣言する中学生の姉。
それを聞いて、小学4年生の妹は悟った。
(あ。そのひと死んだ)
しかも、あの姉の顔を見る限り、さぞかし凄惨な末路を辿る事だろう。
一体どんな惨劇が舞い降りるか……想像するだけで背筋が寒くなる。
(……うん。これ以上は、考えるの止めよう)
自らの精神衛生管理を優先し……妹は考えるのを止めた。
ちなみに、凜がトッキーから悪い影響を受けて冷酷な魔術師になりそうだったら、桜は拳を交えてでも止めて凜を真っ当な方へ引っ張るので。
寛容な桜や親孝行な凜を見て、『トッキーのやらかしがあれで許されるんかい!』『なんて娘達に恵まれた野郎だ、クソがぁ!』と思われた方。
はっはっはっはっは、あの優雅への試練が全て終わったと考えるのは、全くの早計ですぞ。
型月時空には並行世界なるものがあってですねぇ、そこからの来訪(これ以降は自主規制)
そして最後の方に出てきた、なんかゴーストライターをやっている女子中学生。
随分とぶっとんだ御方のようだけど、これでも姉という立場な模様。
なんか