甲殻大怪獣ザリラvs宇宙怪獣ネビュラー   作:佐藤特佐

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第10話 星屑作戦(後編)

 

 光のカーテンを纏うネビュラー。赤や緑に光り輝くオーロラは、必殺の一撃「粒子熱線」発射の予兆であった。

 ネビュラーの周囲には既に金属粒子が集約されていた。強力な磁場によって制御された粒子がどんどん加速されていく。やがてネビュラーの頭部付近に、一つの眩い光点が発生。それは明るさを増しながら大きくなってゆく。

 

 鬱陶しい敵を、全部まとめて焼き尽くす。

 

 周囲の粒子の殆どを搔き集め、文字通り最大出力でもって粒子熱線が放たれた。世界を真っ二つにするかの如き一撃だ。超高速の粒子の運動エネルギー、大気との摩擦による熱エネルギー、その両方を内包した熱線は、狙いを誤ることはなく。

 

 ザリラはくるりと回転し、敵に背を向ける。背面の分厚い甲殻で防御することを図ったのか。

 そこに一直線に突き刺さる粒子熱線。ザリラの姿は眩い閃流の中に吞み込まれ……!

 

 

 熱線が放射状に拡散した。幾つもの細い閃流となって四方八方に流れていく熱線。その分岐点、放射状の起点に立ち尽くしている巨体……甲殻怪獣ザリラだ!

 ――ザリラが、熱線を受け流している!

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 パワードスーツの計測器には、エネルギー量測定不能を示すエラーが表示されていた。

 

 空に幾つもの閃光が迸る。ザリラにぶつかり拡散する熱線を見上げると、それはオーロラよりも美しい、まるで流星のように見えた。

 

「さすがだザリラ……やりやがったな。」

 

 

 甲殻怪獣ザリラの誇る甲殻装甲であっても、粒子熱線を防ぐことは不可能だ。ではどうやって?

 

 今までも述べてきたように、粒子熱線の原料となるのはネビュラーが大気中に放出したと思われる微細金属粒子である。これを収集し、粒子加速器によって加速。ここで加速した粒子を標的に向けて飛ばし、衝突の際のエネルギー伝達による破壊を目的としている。これはさながら簡易的な荷電粒子砲とも言えるだろう。

 荷電粒子砲には欠点も存在する。例えば「磁場の影響を受けやすい」ことだ。荷電を帯びた粒子を飛ばすという性質上、磁場の影響で粒子の軌道が曲げられてしまう。ネビュラーは自身の周囲に強力な磁場を形成し、地球の磁場による粒子軌道の屈曲を防いでいる……磁場偏向フィールドとでも呼ぶべきか。

 

 一方の甲殻怪獣ザリラにも、磁場を形成する能力が備わっている。閃熱光弾だ。高温プラズマの弾を敵にぶつけるというこの技を実現するため、ザリラは閃熱光弾発射時に、自身の前方に直線的な磁場を形成する。プラズマはまるでレールの上を滑るかのように、この磁場に沿って飛んで行くというわけだ。

 

 

 さて今回、ザリラは本来前方に向けて展開する磁場を、自身の身体を包み込むように球形に展開した。そこに粒子熱線が直撃しても、磁場によって直進を阻まれ、粒子を明後日の方向に弾き飛ばすことができるのだ。

 さながら磁場のバリアである!

 

 

 熱線の放出が止まった。大気中の金属粒子を発射するという以上、一定以上の粒子を収集できなければ再発射できない。つまり連射性に欠けるというのがこの熱線の欠点だった。

 俺たちはそこを突くことにした。次弾装填が間に合わない今なら、一気に接近して、吸着地雷を敷設できる。熱線を無駄打ちさせる役が必要だったのだ。そしてザリラは見事に役目を果たしてくれたってわけだ。

 

 大気中の金属粒子濃度が下がり、無線が回復した。これである程度……五稜郭の作戦指揮本部や各遊撃隊とは通信ができるだろう。

 俺は無線機を手に取ると、仲間のパワードスーツに向けて指示を出す。

 

「PS隊、強襲開始!全機我に続いて突入せよ!」

 

 

 手元のスイッチを捻り、歩行モードからキャタピラー走行に切り替える。パワードスーツの足の下に装備されたキャタピラにより、まるでローラースケートのように地面を滑ることができるのだ。

 

 メーターは時速85キロを差していた。後ろに飛び去っていく景色。函館の街中を、25機のパワードスーツが疾走する。あとに雪を舞い上げながら。

 

 

 震える操縦桿を手で押さえつける。前方を映すモニターには、ネビュラーの巨体があった。そしてネビュラーに立ち向かうザリラの姿も。ザリラは圧倒的に不利な体格ながら、何度押し退けられても、再びネビュラーに立ち向かっていく。

 目の前で展開される怪獣同士の戦い。今から俺たちはこの渦中に飛び込まねばならないんだ。

 

 ザリラパンチが炸裂。ネビュラーは押し返され、大きくよろめく。同時に二体の怪獣の間に隙間が生まれた。チャンスだ。

 

 

「今だ!第一部隊突撃せよ‼‼‼」

 

 

 操縦桿のスイッチを押すと、機体のバックアップユニットに装備されているロケットエンジンからの噴射が始まる。同時に思いっきりシートに押し付けられる感覚が思考を支配する。パワードスーツが、空を飛んでいる。目指すはネビュラーの胸部から脇腹にかけての高さ。限定的な飛行能力ではあるが、これに頼らざるを得ない。あんまり使いたくはないのだけど。

 

 ものすごい揺れに襲われる。

 

 画面いっぱいに映る金属光沢。ネビュラーの体表が目と鼻のすぐ先にあった。このままでは衝突する――!

 

 

ガキン!

 

 

 鈍い音と共に、俺の機体はネビュラーに打ち付けられた。しかし同時に、ロボットアームの右手が適度な凹凸を握った。再び激しく揺さぶられ衝撃が襲い来るが、なんとか左手でも突起を掴むことに成功。あらかじめ設定しておいた着陸プログラムが役に立った。辛うじて肉薄成功だ。

 

 

ガチャン!

 

 

 岸壁などに貼り付くのに使用される「固定銛」が機体の左手から打ち出された。ネビュラーの表皮に突き刺し、機体を固定するのだ。これで余程のことがない限り振り落とされずに済む。

 

 振り返ると、続いて他の機体もネビュラーに張り付けたようだ。第一波の12機は全機着地成功したらしい。

 

「よし、地雷を敷設しろーー!」

 

 

 アワードスーツの腰には、灰色をした円盤状の物体が左右3個ずつ装着されていた。今回のメインウェポン、0式対艦吸着地雷だ。磁力により船舶に吸着させて爆発させ、船底を破壊することを目的としたこの武器は、磁気性金属で構成されたネビュラーに対しても吸着できるはずだ。

 

 操縦桿を操作し、ロボットアームで地雷を掴む。メインモニターには既に、敷設に最適な箇所――凹凸の少ない部分が表示されていた。表示の個所めがけて地雷を押し付ける。ガクン、という感覚が機体越しにも伝わってきた。地雷に内蔵された永久磁石により「吸着」できたらしい。

 

「いけるぞ!」

 

 パワードスーツの指で安全スイッチを解除し、手を放す。緑色のLEDライトが赤の点滅に変わった。良し。一つ目の地雷の設置が完了した。

 

 行ける。このまま次の地雷も――。

 

 

ッガーーン!!

 

 

 物凄い衝撃!機体が激しく揺れ、危うく頭をぶつけそうになる。

 見ると、ネビュラーとザリラが激しく取っ組み合っているではないか。視界いっぱいに展開される怪獣同士の戦い。幸いネビュラーはザリラ相手に手一杯で我々に構う余裕はないようだ。でも、文字通り俺たちは「怪獣バトルの真っただ中」に居る。一刻も早く敷設を完了せねば。

 

『ぎゃぁぁ!!!』

 

 無線越しに聞こえてくる悲鳴。数機のパワードスーツが衝撃により振り落とされてしまったらしい。

 

「くっそぉぉぉ!」

 

 残りの地雷も手当たり次第に敷設する。吸着させる要領がだんだんわかってきた。時折激しい振動に見舞われる中、俺たちはパワードスーツを操って必死に地雷を貼り続けた。6つ目、最後の一個を設置する頃には、気づけば辺り一帯あちこちに地雷が置かれていた。

 手元の時計を見ると、時刻は8時17分を差している。時限爆破を設定した8時25分まで、8分ある。行けるか。

 

『隊長、第一部隊、残存10機全機の作業終了しました!』

 

 振り落とされた2機を除く全機が全弾設置したとすると、これだけで60発の地雷が設置されたことになる。十分なダメージが期待できる。

 

「よし、第一部隊は離脱!離脱完了次第、第二部隊は突入せよ。衝突に注意しろー!」

 

 スイッチを捻ると、ネビュラーの体表に機体を括りつけていた固定銛が解除される。機体はほぼ落下する形でネビュラーから離脱した。体が宙に浮くような、気持ちの悪い感覚……。

 空中で何とか体勢を立て直し、ロケットエンジンを噴射。みるみる地面が迫ってくる。墜落を完全に防ぐことはできず、スピードを落とした状態で、機体は地面に叩きつけられた。舌を嚙み切らぬよう歯を食いしばる。墜落の衝撃が全身を叩くが、操縦桿だけは放さない。

 

 俺の機体は戦場から数百メートルの距離、雪原……おそらくは耕作地に雪が積もった場所に落下した。硬い建造物の無い広い場所があって幸いだった。周囲には他の機体も降りて来ていた。

 

「……死ぬかと思ったぜ。」

 

 

 息を切らせながらコックピットから顔を出すと、冷たい吹雪が突き刺してきた。生きている。そのことに安堵を感じる。深い溜息を吐くと、白いモヤモヤが飛び出し、拡散していった。

 手で吹雪を防ぎながら戦いの現場の方を見る。取っ組み合うザリラとネビュラー。そこで煌めく光点――地雷設置のために突撃したパワードスーツ第二部隊。

 揺れと、轟音と、火薬の臭いと……。

 

 

 手元の時計を見る。ちょうど8時22分になった。あと3分でいよいよ……。

 

 

『第二部隊、地雷敷設完了。離脱します!』

 

 通信が聞こえてきた。よし、間に合ったか。見ていると、パワードスーツが複数、ロケットを逆噴射しながらネビュラーから離れていくのが見えた。

 1発で艦艇に穴を開ける爆薬を120個同時に炸裂させる――。さすがのネビュラーでも、大ダメージは必定のはずだ。

 

 その時だった。

 

『23番機、離脱できません!』

 

 悲鳴に近い通信が割り込んできた。突入したパワードスーツの内1機が、離脱できないトラブルに見舞われたという。すかさず双眼鏡を取り出し、ネビュラーの体表の方を覗くと、たしかに1機のパワードスーツが未だに貼り付いているのが見えた。

 

『爆破に巻き込まれるぞ、もたもたするな!』

『しかしッ!』

『マニュアルでもダメか⁉』

『ダメです、言うことを聞いてくれません!!』

 

 傍受した内容からして、おそらくパワードスーツの油圧系統がやられている。ネビュラーの体表に固定銛を打ち込んだ後、衝撃か何かでパーツが破損し、油が流出したのだろう。このままでは2分30秒後に迫った一斉爆破に巻き込まれてしまう。

 爆破は通信不良でも確実に起爆するよう時限式に設定した。遠隔操作して爆破を中断するのは不可能だ……。

 

 

「待ってろ、俺が助けに行く!」

 

 無線機に向かってそれだけ叫び、コックピットの扉を閉めた。計器を確認する。ロケット燃料は残り48%……行けるか。いや、行くしかない。地面に跪く形で停車していた機体を、二本足で立ち上がらせる。落下の衝撃でダメージを受けたのだろう、左腕から若干煙が上がっているが、気にしない。

 

「もう少しだけ頑張ってくれ。」

 

 パワードスーツを急発進させる。機体はキャタピラー走行モードで、雪原を滑るかのように走った。ネビュラーとザリラが対峙する真っただ中に向けて。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 ザリラとネビュラーの戦いは膠着状態であった。ネビュラーの粒子熱線が有効打とならなかった後、ネビュラーは積極的な攻勢を避けた。対するザリラも体格で大きく劣るため、なかなか手を出せずにいた。時折ザリラが接近して殴り込んではネビュラーが押し返す……の繰り返しであった。

 そのおかげでパワードスーツ部隊が敵に気づかれずに吸着地雷を設置できたのではあるが。

 

 

【グギギギギ】

 

 ネビュラーが呻いた。その声はまるで戦いが膠着していることへの苛立ちを含んでいるかのようだった。

 

 付近の雪原で異変が起き始めた。雪を押し退けて、何かが這い出して来る。あちらこちらから。まるで春の大地から生命が芽吹くかのように。

 尖った脚が地面を踏みしめる。金属光沢を放つボディ、爛々と輝く赤い複眼。小型群生ネビュラーの大群が姿を現した。雪の中から無限に湧き出してくる。ザリラにとっても国防軍にとっても、これは想定外の事態だった。思わず後退りするザリラ。しかしネビュラーは構うことなく。

 

 小型群生体が宙に浮いた。浮遊する彼らは、大型ネビュラーの周囲に滞空する。大型ネビュラーの発する強力な磁場が、磁気性金属で構成される小型群生体の浮遊を可能にしているのだ。群生体たちは態勢を変え始める。脚を前方に伸ばし、身を屈め、空気抵抗の少ない流線形状に。まるで槍の如く。

 

 

【ギギィ!】

 

 

 刹那、目にも留まらぬ一撃がザリラの甲殻に突き刺さった。貫通されるには至らないものの、鉄壁の防御が大きく抉られた。続けざまに放たれる2撃、3撃。その武器の正体を見定めたザリラは驚愕した。

 

 弾は小型群生体そのものだった。自ら武器に適した形に変形し、敵に突っ込む……。

 集合体意識であるネビュラーにとって、個々の肉体は意味をなさない。自己犠牲といったものでもない。ただ武器になり得るもの、使えるものはすべて使うというのが、ネビュラーの本能なのだ。

 数トンはある小型個体を超音速で衝突させる。その威力が並外れたものだというのは言うまでもない。

 

 数百発の自爆攻撃を受け、ザリラの甲殻はボロボロになった。風を切る音はさながら恐怖を助長させる音楽の様で、無限に湧き出してくる様子は神が生命を創造しているかのようだった。ザリラだけではない。怪獣同士の戦いを、爆破作戦の推移を、そして岩崎大佐による救助作戦を見守る兵士たちに対しても、底知れぬ恐怖を与えるのに十分だった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

「やりやがるな…」

 

 突入する小型個体の射線に入らないようにしながら、俺は機体をネビュラーの巨体に沿って上昇させた。行く手に立ち往生したパワードスーツが見えてくる。手元の時計によれば爆破まであと1分……かなり危うい。

 

 と、目の前の「壁」が動いた。何事かと確認すると、ネビュラーが身を捩ったらしい。そして奴はこちらを見ていて……。

 目が合ってしまった。確実に視線の交錯が起きてしまった。頬を冷や汗が伝っていく感覚が妙に鮮明に感じられた。

 

 次の瞬間、ネビュラーは前足で宙を薙いだ!パワードスーツを叩き落とすつもりだ。鞭のように放たれた腕は至近距離を通過していったものの、その風圧だけでも十分な凶器になり得る。乱気流に呑み込まれ、機体は錐揉み回転しながら落下していく。混濁する意識の中操縦桿に手を伸ばす。上に行かなければ。助けに行かなければ。

 しかし、ダメだった。機体はもはやコントロールを失っていた。薄れゆく視界の中、爆破までのカウントダウンが残り30秒を切ったのが見えた。

 

 

 その時。

 

 

 岩崎さん、上を見て。

 

 

 どこからともなく声がした。間違いなく、桂木さんの声だった。彼女はここに居ないはずなのに、どうして……。

 

 

 いつの間にか再起したザリラが、大型ネビュラーに一撃を喰らわせた。パワードスーツの撃墜に注視していたネビュラーは完全に不意を突かれる形だった。ザリラの右ストレートが炸裂。ネビュラーは上体を仰け反らせる。

 

 と、何かが墜ちてきた。剥離した皮膚片?……いや違う、故障したパワードスーツだ!

 

 ザリラがぶん殴った衝撃で、銛が外れて落っこちてきたのだろう。桂木さんの声で聞こえた「上を見て」。あれは幻聴なんかじゃなかったんだ。彼女の意識がザリラに伝えられて、そしてザリラがそれを実行した。

 

 落ちてきた機体を空中でキャッチ。もう時間がない。前線から程近い場所に着地する。燃料は底を尽きかけていた。文字通り、間一髪。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 ネビュラーはその巨体でザリラを押し退けた。成す術もなく、ザリラはひっくり返る。2万5千トンの衝撃が地面を揺らした。

 ネビュラーの周囲にオーロラが発生し始めた。必殺技「粒子熱線」発射の構えだ。倒れてもがくザリラに照準を合わせ、粒子はその加速を増してゆく。

 

 タイマーが0になったのはその瞬間だった。

 

 

ッドォォォン!!!!!

 

 

 巨大な火球が怪獣の巨体を包み込んだ。120発以上の対艦吸着地雷の一斉爆破。分厚い船底をぶち抜くために設計されたこの兵器は、巨大ネビュラーの胸から脇腹にかけてを抉り取った。爆発の炎に混じってネビュラーの皮膚片が飛散する。

 

 

【グオォォオォ……】

 

 

 煙を吹き上げながらよろめくネビュラー。戦車の砲撃も相手怪獣の打撃も無力化してきた装甲が剥がれ落ちた。それは即ち、今までの防御力が失われたということに他ならない。

 

 

 すかさず砲撃が開始された。残存する戦車や自走砲の総力を挙げた集中砲火だ。徹甲弾はネビュラーの身体を貫通して炸裂し、榴弾は抉れた肉体に火を放つ。薄暗い靄の中、突っ込んでいく弾丸の軌跡が光の筋となって見えた。筋はあらゆる方向から放たれ、ネビュラーに突き刺さってゆく。その巨体すらも覆い隠す黒い煙が立ち込めた。

 それは正真正銘、人類の意地を見せつける反撃だった。今まで徹底的に蹂躙されてきた軍の、踏み躙られてきた隊員たちの思いが込められていた。絶対許しちゃいけない。アイツはここで倒さねばならない。それが俺たち国防軍の……いや、この星に生きる者の一員としての使命なんだ。それが彼らの総意だった。

 

 

 集中砲火を喰らってもネビュラーは生きていた。ボロボロになった上体を曝け出しながらも、ゆっくりと回頭する。無表情なはずのその顔からは、しかし確かな意思が感じられた。

 

 「恨み」「憎しみ」「報復」。

 

 あらゆる怒りを煮えたぎらせ、ネビュラーが戦車隊を睨みつける。もはや粒子熱線を撃つ余力はない。しかしそれでもなお戦おうとする執念が突き動かしていたのだ。国防軍の陣地・五稜郭に向け、ネビュラーは吠え掛かった。

 

 

ジッジジジジ……

 

 

 青白い発光が辺りを照らし出した。風に舞う雪や積雪に反射し、逆光で銀光が起きる。そして発光の根源である大怪獣が立ち上がった。

 ボロボロになった赤黒い甲殻には無数の傷跡があった。しかしそれでも、その大怪獣の目は輝きを失わない。両手の鋏を開いて威嚇し、ネビュラーの前に立ち塞がる。

 

 甲殻大怪獣ザリラが、侵略者に引導を渡す時が来た。

 

 今やザリラの周囲にはスパークが纏わり付いている。膨大なエネルギー照射で周囲の大気がプラズマ化しているのだ。地面にどっしりと構えたザリラ。チャージに伴う磁場の発生により、周囲の電線から火花が散り、軍のコンピュータ類も砂嵐を表示し始めた。

 

 

 この星を守るため。結果的にとはいえ手を握ってくれた国防軍のため。

 そして何より、ザリラが自身に課した使命――思いを共有する人の未来を守る――ために。

 

 ザリラには聞こえていた。戦場から離れたところから呼びかけてくる「思いを共有する人」の声が。

 

 

――いけ、ザリラ‼‼‼

 

 

 

 カッと目を見開いたザリラ。チャージされたエネルギーは口に集約される代わりに、掲げた右の鋏に集中した。ザリラの右手はプラズマの輝きを纏いながら、熱量により濛々と煙を上げる。半ばプラズマ化した鋏で敵を切り裂く必殺技・熱刃斬撃。

 ザリラは大きく振りかぶり、敵の間合いに迫る。狙うは爆破で脆くなった部位。ネビュラーは長い腕で迎撃しようとするも、ザリラは寸前で回避。肉薄したザリラは、ついにプラズマの刃を突き付けた。

 

 

 

――――――ッ!!!!!!!!!!

 

 

 それは爆発ではなかった。貫かれたネビュラーの身体のあちこちで、細かい火花が散った。夏の終わりの線香花火のように。火花は連鎖して広がっていき、その部分から表皮の色が変わっていく。鮮明な金属光沢が消え、錆色に。

 静かな最期であった。

 ネビュラーは遂に地面にひれ伏した。その姿に生命の面影はなく、ただただ巨大な金属の構造物が横たわっているだけである。

 

 

【ギィィィィィィイイイ!!】

 

 

 勝利の咆哮を上げるザリラ。同時に国防軍の陣地でも歓声が上がった。強力な敵・宇宙怪獣ネビュラー、撃滅成功。未だ続く通信不良の影響でその報を入れられないのが残念だが、しかしやったのだ。勝ったのだ。

 




次回、最終話「星が墜ちる」に続く
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