甲殻大怪獣ザリラvs宇宙怪獣ネビュラー   作:佐藤特佐

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最終話 星が墜ちる

 

 

 

 大破したパワードスーツから降りると、助けた機体の隊員が駆け寄ってきた。

 

「隊長、本当にありがとうございました…。」

 

 しかし俺は上の空だった。あの巨大な宇宙怪獣を倒した方に気を取られすぎていた。それも俺たちの手で。……それが信じられなかった。何回も瞬きしてみるが、目の前の風景は変わることがなく。巨大な金属の塊が煙を噴き上げていた。

 

「やった……のか?」

 

 案外呆気ないものだった。もっと大変なことになるものかと思っていた。函館市街地は北側の一部区画を除いてほぼ無傷、軍としても負傷者は居るものの戦死者は無し。あまりに「想定内」だった。想定内過ぎて勝利の実感がわかない。素直に喜べない自分がいた。

 しかしその思いは搔き消されることとなる。

 

「岩崎さん!」

 

 馴染んだ声に目線を上げた。雪上車から降りて走ってくる、黒いコートの人影。走り寄ってくる彼女の声と姿を一目見ただけで、俺の心は安心感に包まれたのだ。親友が帰って来てくれた。

 

「桂木さん!」

 

 大破したパワードスーツの前で、俺たちは向かい合った。桂木さんの目には涙が溜まっていたが、しかしその表情は明るかった。

 開口一番、俺は伝えようと思っていたことを口にした。

 

「ありがとう。」

 

 「何が?」と首を傾げる桂木さんに向けて言葉を続ける。

 

「作戦中、あなたの思いに助けられた。誰一人死なせない、何が何でも立ち向かう。ザリラにそう念じていたんだろう?」

 

 はじめきょとんとしていた彼女は、少しして理解したようで、溢れんばかりの笑顔で頷いた。

 

「私、やっと岩崎さんの隣に立てた気がします。これもザリラのおかげですけどね。」

 

 二人でザリラの方に視線を移した。

 

 

 

 ……その時だった。

 

 

 

「エネルギー反応を検知!」

 

 作戦指揮所に備え付けられていたモニターに警告の表示が映し出された。同時に耳障りの悪い警報が鳴り響く。

 

「何事だ⁉」

 

 指揮所に駆け込むと、観測係の隊員が真っ青になりながら掴みかかってきた。その様子からただものではない何かを感じる。

 観測係が訴えかけてくる。

 

「地下にエネルギー反応…!これは強い磁力を持った液体金属の流動としか考えられません。それも物凄い質量の……」

 

 地下に大質量の液体金属なんぞ有ってたまるか。

 

「一体何が起きてるんです?」

 

 そう尋ねてくる桂木さん。

 

「分からん。しかしこれは大事になりそうだぞ……」

 

 

 

ドォォォン

 

 

 地震のような揺れが伝わってきた。いや違う。地下を何かが蠢いているような、気持ちの悪い振動だ。

 何が起きているのかこの目で確認すべく、外に飛び出した俺たちが見たものは。

 

 

 ザリラが宙に縛り上げられていた。地中から出現した無数の「蔦」によって。

 そう、蔦……。そう呼ぶしかないと思う。まるで触手のように縦横無尽に躍り出たそれらは、ネビュラーと同じ金属光沢を放っていた。金属の触手とでも言うべきそれらは、ザリラをぐるぐるに巻き上げると、きつく締め上げ始めた。

 

【ギィイ⁉】

 

 自由を奪われた状態での締め上げに、たまらずザリラは悲鳴を上げた。甲殻が軋む音が聞こえてくる。マズい。

 

 先端が尖った形状に変化した蔦が、勢いよく突き立てられた。ザリラの胸に穴が穿たれる。3本の蔦が背中側まで貫通。血液が流れ落ちる。ザリラの動きは完全に封じられた。

 

「何なんですあれ⁉」

 

 桂木さんの声は悲鳴に近かった。

 俺だって何なんだかわからない。一体何が起こっているのか思考した俺の脳に、いつか交わしたやり取りが蘇ってきた。

 

『その“何か”がネビュラー第三形態の可能性もあるな。』

 

 巨大ネビュラーと初めて対峙した時、氷室准将と交わした会話だ。電波妨害を引き起こすだけの金属粒子を散布するには、大型ネビュラーだけでは容積が足りないと言った。我々は他のネビュラーの存在を予見していた。しかし、実物は想像の範疇を超えた存在であったのだ。

 

「俺たちは勘違いしてたんだ。大型個体が統括者だと錯覚していた。本当の意味で全てを統べる者は他に居たんだ。奴ら金属生態系を支える基盤……植物型ネビュラーが。」

 

 

 再び地響きが地を唸らせる。程近い丘が吹き飛ばされた。土砂と岩石が崩れ落ちる中を、巨大な影が遡ってゆく。青緑色で金属光沢のあるそれは、いくつもの蔦が絡み合って構成された、巨大な塔であった。

 

「あれが植物型ネビュラーの中心部か……」

 

 ものの数分で高さ百数十メートルまで立ち昇った塔。地下でこれだけ成長していたのだ。気づけなかった。まさかこんなものが地下で蠢いていたなどとは。

 その洞からは赤い光が漏れ出し、規則的に明滅している。周囲には蒸気が立ち込め、それが高温であることを示唆していた。

 

 

ドクン ドクン ドクン

 

 

 ネビュラーの塔の方から周期的に聞こえてくるこの音は鼓動なのだろうか。それとも別の何かなのか。

 霧を纏うその姿を前に、俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 

「エネルギー反応増大中、流入質量も増加!」

 

「一体何が始まるというのだ…」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 ネビュラーの本体は、地中に蔓延る菌糸のようなものだった。

 

 隕石によって地球に辿り着いた菌糸の破片は、地球の地下に根を下ろし、地殻やマントルに含まれる金属を取り込んだ。これを原料に、今や北海道全域を網羅する菌糸状の地下ネットワークを作り上げた。無尽蔵にある資源を活用し、金属粒子の散布や電磁波を発生させるなど、自らの生存に適するよう惑星を改造したのだ。

 

 人々は地上で暴れる怪獣を「ネビュラー」と呼んだ。しかしそれは本当の意味での「ネビュラー」の一部でしかない。ネビュラーが自らの菌糸網を守るために作った用心棒でしかない。人類は、ザリラは、それに気を取られ、戦い、勝った気になっていた。

 

 ネビュラーの計画は壮大だった。大気組成を変えることで地球の生物を根絶やしにし、作り上げた手先で歯向かってくる敵を殲滅し、地球全土を自らのネットワークで包み込み――すなわち地球を同化して。無尽蔵の資源と圧倒的な情報網を武器に、地球を掌握する。個体として生きることしかできない地球生物の前では、ネビュラーは無敵なはずだった。地球はネビュラーの千年王国になるはずだった。

 

 しかし失敗だ。先兵はすべて倒され、それによりテラフォーミングは妨害されてしまった。もはやネビュラーの本質が露見する、再び戦いを挑んでも効果的に制圧されてしまうのは時間の問題だった。

 

 

 何がいけなかったのだろうか。ネビュラーは巨大な脳神経とでも言うべきそのネットワーク網を活かして思考する。原生人類の科学力が高かったのか。怪獣という予定外の敵が良くなかったのか。侵攻する速度が遅かったか。しかしいずれも、ネビュラーが納得する答えではなかった。

 

 いずれにせよ無念だ、というのがネビュラーの心境だった。せっかく辿り着いた新天地を征服できなかった。千年王国の夢が崩れ落ちた。それはやはり悲しく、悔しい。涙を流さないネビュラーであっても、その菌糸網が悲しみの感情を奏でていた。

 しかし、無念はあっても「諦め」はしていない。生物の本能である「種の存続」。この個体群は今まさに滅亡の危機にあった。だからネビュラーは深い無念と同時に、何としてでも集団を存続させるという決意があった。いや、ほとんど意地だったのかもしれない。しかしその意地、生きようとする意志こそが、この宇宙に生きるすべての生命の本質なのかもしれない。

 

 金属菌糸網は、ただの情報網・思考回路ではない。情報のネットワークであると同時に、物理的なネットワークにもなり得るのだ。だから小型群生体を生成し地中から出現させたり、広範囲に金属粒子を散布したりすることができていた。今、このネットワークはパイプの役目を果たしている。液体状態の宇宙金属ネビュリウム――ネビュリウムの同位体で通常液体で存在する金属――が、このパイプを通って集約されつつある。ネビュラーの塔が出現した場所・函館に向けて。

 

 ネビュラーの塔のもとに集約された液体ネビュリウムは、塔の根本、樽のように一段と太くなっている場所に集められる。ここで間もなく訪れる「その時」を待つのだ。

 

 絶対に生き延びる。その決意と共に、ネビュラーは最後の抵抗への準備を、着々と進めていた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「流入する質量増大中。塔内部で高エネルギー反応……中性子を作ろうとしている……?」

 

 モニターに食い入っていた兵士の言葉に、俺は絶句する。

 中性子を作ってどうするんだ。奴が何を企んでいるにせよ、一刻を争う事態なのは間違いない。しかしネビュラーが何を謀っているのか不明な今、下手に手を出すわけにもいかない。

 

「岩崎さん、アレなんでしょう?」

 

 桂木さんが指差す方向を見る。

 ネビュラーの塔の一番上に、見たことのない構造物があった。黒い球体がいくつかはめ込まれたそれは、例えるならハスの種に似ていた。

 

 ここで俺はハッとする。

 

 

――種。

 

 

 生命は生き残るために。

 ネビュラーは、もう地球に活路はないと判断したのだろう。奴は地球に根を張ってしまったためどうしようもないが、諦める気はないらしい。

 

 種に自身の遺伝子を書き込んで宇宙に飛ばすのだ。再び永い放浪の旅に出ることになる。しかし、それでいいと奴らは思ったのだろう。地球でこの系統を絶やしてしまうよりかは、また他の星に辿り着ける方に賭けて。僅かな可能性であっても生きるために。

 

 しかし問題は、どうやって種を宇宙まで飛ばすか、だ。

 奴らは爆発を利用する気だ。中性子、液体金属の流入、そしてあの構造物。集約した液体ネビュリウムに中性子を与えて放射性同位体を生成し、それを臨界点まで濃縮。それは即ち……。

 

 

 

「奴は核爆発で種を宇宙に飛ばす気だ。」

 

 そう口走ると、周囲でざわめきが起こる。

 

「あれだけの体積のある奴だ、生成される放射性物質の量は半端なモノじゃないはずだ。なんとしてでも止めなければ、文字通り地球に穴が開くぞ。」

 

 核分裂反応が起きた場合、僅か数キログラムの核物質の反応でも、都市一つを壊滅させるレベルの被害が発生する。ネビュラーの用意するであろう核物質の量は数キログラムなどでないことは目に見え切っている。数十トン、数百トン規模だろう。そうなれば……。

 

 

「しかしどうやって阻止するんです!」

 

 それは隊員の悲鳴だった。俺だって阻止の方法が分かれば直ぐにでも実行しに行く。しかしどうやって……。

 

「ちぃ」

 

 せっかくここまで戦ってきたのに。生き延びてきたのに。……やっと本当の意味で、生きていると思えたのに。何もかもが、ここまでのすべてが無駄になってしまう。あと数分後に訪れるであろう死の恐怖ではなく、意味のなく人生が終わる方が怖かった。こんなところで死んでたまるか。何とかして、何とかして……。

 しかし、思考は虚しく宙を走るだけだった。警報音とザリラの甲殻が軋む音が静寂を飲み込んでいく。

 

 

ザ…ザザ……ザザザ

 

 無線が雑音を鳴らした。雑音はやがて、聞き取れる言葉へと変貌していく。

 

『こちら護衛艦ながと艦長だ。状況は聞かせてもらった。我々で、世界を救ってみたくないか?』

 

 護衛艦ながと?じゃあ、通信障害が収まったのか……?

 

『岩崎大佐。考えがある。手を貸してくれ。この艦には氷室准将以下撤退した友軍も乗っている。』

 

 准将が……!彼も護衛艦ながとに乗っているのか。そして艦長の言う考えとはいったい――。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 微細粒子の放出が止まったことで、空は徐々に元通りになりつつあった。僅かに輝きを取り戻した函館湾に、一隻の軍艦が侵入してくる。高く聳え立つ艦橋が美しいこの艦の名は「ながと」。旧帝国海軍の戦艦から艦名を受け継ぎ、不屈の意思を持ってここまで来た。

 前部甲板に2基搭載された連装レールキャノンが右舷に指向された。その様子を環境から見守る二人の高官が居た。一人は艦長。もう一人は、北海道からの撤退を主張しこれを実行した氷室准将である。二人は旧知の仲だった。

 

「始めるぞ。良いんだな?」

 と艦長。氷室はただ黙って頷く。

 

 4門のレールキャノンは函館市街地、ネビュラー植物体に絡められ、貫かれた大怪獣ザリラに向けられていた。

 

「自動追尾よし、電力チャージ完了。」

「射撃開始!」

「撃ち方始め!」「撃ち方始め!」

 

ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ

 

 従来の火砲より静かに、しかしものすごい速度で射撃が始まった。ローレンツ力によって加速された弾丸は、マッハ5という超音速で大気を切り裂き、一瞬後には目標の寸前まで迫っていた。

 

 縛り上げられたザリラ……を掠め、弾丸はネビュラーの蔦に突き刺さった。狙いは寸分の誤差もなく。超音速の衝突を受けた蔦は、あっけなく両断された。まるで血の如く流れ出る液体ネビュリウム。

 続いて別の蔦に対しても射撃が実施される。こうして一本ずつ拘束は取り除かれてゆく。

 

 護衛艦ながとの艦長は、隣で仁王立ちする氷室准将にそっと目を遣った。彼は笑顔だった。視線を向けられていることに気が付いた氷室が口を開く。

「国防軍の責務は国を守ることだ。それを果たしているだけさ。」

「そういうことにしといてやるよ。」

 艦長はそれだけ言葉を返し、そして再び視線を陸地の方に戻した。拘束から解き放たれたザリラが、その巨体を起こそうとしている。

 

 艦長は思う。氷室も、本当はザリラが諸悪の根源でないことなど分かっていたのだ。しかし、怪獣の戦いに巻き込まれて部下を大勢失った彼にとって一番憎みやすいのは怪獣であり、未だに生きているザリラだったのだ。でもこうして未来を思って行動すると、自ずと過去は清算されていく。氷室はやっと本当の世界を見られたのではないか。艦長はそう思って止まなかった。

 

 

 立ち上がったザリラ。大型ネビュラーとの激闘に加え、植物型ネビュラーの急襲を喰らい、身体はボロボロであった。しかしそれでも、その足取りは揺らがない。守るべき人からの意思が、既に届いていたのだから。

 その意思を実行すべく。ザリラは地面に足を喰い込ませた。ザリラの身体に、プラズマのカーテンが纏わり始める。青白いオーラを放ちながら標的を見定めた。発光は一段と明るさを増し、ザリラの目からも青い光が漏れ出した。間違いなく過去最大級のエネルギー量。最大出力の閃熱光弾がチャージされつつあった。

 

 

 

『ネビュラーが核爆発を引き起こすには、ため込んだ液体金属に中性子を照射し、放射性同位体にしなければならない。奴が放射性同位体を生成する前に破壊するんだ。』

 

 艦長からの通信を聴いた岩崎。彼にだってそのくらいは分かるが、破壊する手段がないのだ。戦車やパワードスーツはほぼ残弾無し、あったとしてもあれだけの質量の物体を破壊できるはずがない。

 

『ながとの砲撃で甲殻類型怪獣を開放する。アイツの高熱プラズマ攻撃なら……』

 

「なっ!」

 

 岩崎は驚きを隠せなかった。軍が、甲殻怪獣ザリラとの共闘を選んだのだ。軍とは

相反するはずの「個人の意思」によって動くザリラを信じてくれた。折り合いをつけることができた。彼にはそのことが大きな一歩のように感じてならなかった。

 

 

 閃熱光弾のチャージを続けるザリラに地下から忍び寄るものがあった。植物型ネビュラーの蔦だ。ネビュラーは既に自らの危機を悟っていたのだ。敵を再び拘束し滅多刺しにすべく飛び出した蔦群は、しかし、1本たりともザリラに接触することはなかった。

 ザリラの足元にはパワードスーツ部隊が待ち構えていた。隊長の岩崎大佐を始めとした彼らは、パワードスーツの保有する白兵戦用武器「近接戦闘ブレード」でもって、地中から躍り出た蔦を切り刻んだのだ。正に古代の侍の如く。

 蔦の脅威からチャージ中のザリラを守る。それが彼らの使命だった。燃料が残りわずかでも、ブレードが刃こぼれしても、彼らは刃を振り回し続けた。ヒットするたびに蔦の破片が宙を舞い、液体金属の血液が弾け飛ぶ。

 

 

 ネビュラーは異変を察知した。いくら蔦を出しても、相手怪獣の脚元に集まった駆動体たちに破壊されてしまう。なぜだ。なぜあの駆動体の操縦者たちは、身を挺してまで奴を守るんだ。これまでの戦いでもそうだった。傷ついた者を庇い、戦力にならなくても手を貸し、根拠もないのに互いを信用して。なんと非合理的で、意味不明で、面倒臭くて、厄介で……。

 ネビュラーは終ぞ理解することがなかった。完全には繋がれなくても気持ちを通わせ、歩み寄り、寄り添おうとするその姿勢を。目に見えず、計算もシミュレーションもできない心の繋がりを。繊細で、非論理的で、言葉で説明のできない思いを。それは全て人間にしかわからない「人の感情」。あるいは、初めから集合体としての生命であったからこそ、他者を信頼するという概念すら気づかなかったのかもしれない。

 

 

 

――――――ッ‼‼‼‼

 

 

 ザリラの口から閃光が迸った。それは数万の稲妻を束ねたかのような、蒼白の一閃だった。磁場に包まれた高熱プラズマの塊は大気を切り裂いて直進、その熱量により加熱された空気も発火・プラズマ化し、ザリラからネビュラーの塔までを結ぶ閃流が形成されたのだ。

 閃熱光弾は狙いを過たず、ネビュラーの塔の中央に直撃した。宇宙重金属ネビュリウムの分厚い装甲も、自重を支える内部構造も、精巧な中性子発生器官も、全てが焼き貫かれる。熱によって膨張したネビュリウムは一瞬の内に気体へと昇華し、その体積は火球へと変貌して周囲を飲み込んでゆく。

 

 中央部で大爆発を起こした塔は、業火に包まれながら燃え落ちてゆく。加速中だった中性子は、爆発によって生じた穴から上向きに放たれ、宇宙へと伸びる光の柱を形作った。それは墓標のようでもあった。やがて光の墓標は途切れ、代わりに黒煙が線香の煙の如く靡いた。 

 爆発で飛散した破片は、炎の尾を引きながらゆっくりと降り注いだ。それはまるで夜空を駆ける流れ星のようであった。惑星を飲み込み、自らが“星”になろうとしていたネビュラー。あるいはそれは、本当に星の残骸と言えるのかもしれない。星が墜ちる光景だったのかもしれない。

 

 

 

 ネビュラーの最期を見届けた兵士たちは、誰からというわけでもなく姿勢を正すと、共闘した甲殻怪獣ザリラに向かって敬礼した。星屑作戦を戦った陸上部隊だけではない。護衛艦ながとでも、総員が甲板に出て敬礼を送った。もちろん艦長と氷室准将も。

 それは最大限の敬意だった。偶然目的が一致しただけとはいえ、部隊は怪獣と共闘し、作戦を成功に導くことができた。歪で曖昧だけれども、たしかに我々は「仲間」だった。それは不変の事実だし、誇れるものなのだと思う。

 

「ありがとう。」

 その背を見送る桂木 悠は笑顔だった。彼女の隣では親友の岩崎大佐が、そしてその隣では彼の同僚たちが、去り行くザリラを見送っていた。

 

 ザリラは函館湾に去っていった。赤い甲殻が波に隠れるその時まで、いや、完全に見えなくなってからも、隊員たちは敬礼を止めなかった。

 




endingに続く
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