甲殻大怪獣ザリラvs宇宙怪獣ネビュラー   作:佐藤特佐

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ending

 

 青函トンネルを抜けると、広大な田園風景が窓の外を流れていた。夏の盛りも過ぎ去り、だんだんと暑さが収まってくるこの季節、青々と茂る稲が美しい。稲の上に広がる青空には雲一つなく。懸念されていたネビュラー災害の余波による異常気象もなく、今年の秋は美味しい新米が食べられるだろう。

 

『本日も東北-北海道リニア新幹線をご利用いただきありがとうございました。まもなく終点・新函館北斗駅~。』

 

 さすがリニア動力だけあって早いもんだな。私は机に載せていた飲み物や本をリュックに突っ込んで、降りる支度を始めた。

 

 私は桂木 悠。2度の怪獣大戦に最前線で巻き込まれた張本人だ。というより、私の心に共鳴して(?)甲殻怪獣ザリラが出てきたのだから、元凶と言ってもいい気もするが。

 まぁそれは良いとして。私は今も、ザリラと心が繋がっている。でもそれは、私にはザリラの声が聞こえるとか、私にはザリラが見えるとか、そういうものじゃない。根拠は無い。でもなぜだか信じられるんだ。私たちがまた何か「抗いがたい理不尽な力」に襲われても、ザリラは駆けつけてきて戦ってくれる、とね。それに私は2度もザリラと一緒に戦って、強くなることができた。生半端な理不尽くらい自力で返り討ちにしてやるわ。……そのくらいの気持ちで生きてた方が、断然気が楽だって分かったし。

 

 

 ホームに降り立つと、そこは久々の北海道の大地だ。

 新函館北斗駅。黒を基調とした、こじんまりとした簡潔な駅舎が美しい。そんなことを思いながら建物を出ると、駅前のベンチに腰かけていた人物がこちらに手を振ってきた。あそこにいたか。

 

 私が駆け寄ると、彼……岩崎さんは笑顔で迎えてくれた。

「久しぶりだな桂木さん。函館にようこそ。」

「お待たせしました~。ようこそって、岩崎さん函館市民じゃないでしょ。」

 そんなことを言って笑い合う。彼の笑顔は、作り物ではなかったように思う。それは私を安心させるのに十分だった。

 「で、腕はもう大丈夫なのかい?」との質問に、私は半袖を捲って見せる。傷跡は残っているけど、それも塞がってきた。もう痛くない。

 私たちは路線バスに乗り込み、あれからの日々のことを語り合った。

 

 

 「後始末が一段落したらどこか出かけないか」という誘いを受けたのは、ネビュラー事件が終結して少しの時だった。

 お互い多忙な時期を過ごした。私は軍の聞き取りと科学機関での調査のためにお堂参りをする羽目になった。頭ガチガチのおじさんに何回も同じ話を聴かせる、あんなのもうやりたくない。岩崎さんは軍上層部や政府への報告に奔走したらしい。そんなことに費やす毎日、考えただけでも虫唾が走る。

 それらも一段落し、ようやくこうして再会する手筈を整えることができた。函館に行こうというのは自然に決まったと記憶している。最後の戦いの場、というのもあるだろうが、何より静かで美しい景色に飢えていたのだと思う。

 

 

 五稜郭に到着した。星屑作戦で利用した戦車やランチャーは影もなく、そこにあるのは歴史的な建造物とそれに見入る観光客の姿であった。それで良いのだ。元通りの、普段の函館を見たかったから。

 

 五稜郭タワーは思った以上の高さだった。展望デッキからは、星型の堀の形が良く観察できた。五稜郭公園を行き交う人々が、小さく、しかしはっきりと見えた。

「すげえな、俺たちあそこにいたんだぞ。……あれ、遠回りしてたんじゃね?」

 などと言いながら指差す岩崎さん。高いところから見ると、いつもと違う見え方がして面白いんだよね。

 

 私たちは展望デッキの北側に歩みを進めた。ここから見えるのは、まさに星屑作戦から植物型ネビュラーとの戦いまでが行われた地域だ。

 あちこちで工事用車両が行き来し、クレーンが建物を直していた。まだ砂利での仮舗装の場所や、解体作業中の建物も見える。そのさらに奥では、重機だけでなく軍用ジープやヘリコプターも集まって、巨大な“金属の塊”の撤去が進行していた。すなわちネビュラーの死体処理である。

 ニュースでしか見聞きしたことのなかった風景が、そこにはあった。

 

「甲殻怪獣ザリラによる高温プラズマ攻撃により、植物型ネビュラーが図った放射性ネビュリウムの生成及び濃縮は阻止された。放射性物質の発生は防げたが、その代わりネビュラーども数万トン分の金属ゴミが残っている。大気中に放出された微細金属粒子、地中に巡らされた菌糸状金属と相まって、広範囲に大量の金属汚染が発生してしまった。これを何とかしなきゃならないんだ。」

 そう語る岩崎さんの目は真っすぐだった。

 

 私が生まれるずっとずっと前、私の地元は未曽有の大災害に見舞われたそうだ。大地は裂け、海は荒ぶり、そして文明が築き上げた技術がその限界を露呈した。歴史や文化が、自然環境が、そして人々の生活や人生そのものが、大きく歪められてしまったのだ。

 でも、先人たちは歩みを止めなかった。だから今の街があり、私が生活できている。それは人の力に他ならない。今度もまた立ち直れる。

 

 でも、どうしても元通りにならないものもまた存在する。かけがえのない人や物や時間……。それらはどれほど復興が進もうが戻ってきちゃくれない。

 

 私たちはその場で両手を合わせ、そっと目を瞑った。ネビュラーにより奪われた全ての「唯一無二」が、せめて安らかに眠ることを祈って。

 密閉ガラスの展望台だけれども、どこから風が吹き込んできたように感じたのは、私だけだっただろうか。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 函館に来たもう一つの目的、それは夜景を見ることだ。

 函館山の展望台は強風が吹き荒れていた。風に耐えながら屋外展望台で待っていると、やがてだんだんと辺りが暗くなり始めた。

 

「……きれい。」

 

 二つの海に挟まれた街並みが、黄金の宝石のように輝いていた。まるで光が海に束ねられているかのようにも見える。視界が黄金色で染め上げられてしまいそうだ。暗くなるにしたがって増してゆく光。それは紛れもなく、この街で生きている人たちの光だ。

 そっと隣の岩崎さんに目を遣ると、彼も目を輝かせながらこの黄金を眺めていた。

 

 岩崎さんは実は意外と繊細な人なんだと思う。仲間思いだから、あんまり心配を掛けたくなくて、何でも心にしまい込んじゃうような。あの時私にだけ話してくれた、大切な人を助けられなかった話。それを聞いて思ったんだ。なんて誠実な人だろうって。

 

 極論を言えば「別に他者が傷ついてても自分に実害が出なけりゃ良い」くらいでも生きていける。でも彼はそれを善しとしなかった。好きだから、一方通行の気持ちでも彼女を想い続け、そして何もできなかった自分に責任を感じていた。こんなことができるのは本当に真っすぐな人だけだろう。

 そんな岩崎さんのことだから、今回の騒動についても「助けられなかった人がいた」「もっとこうしていれば違ったのかも」なんて思ってるかもしれない。昼間にタワーからあの光景を見ていたのだから尚更。だから私は、岩崎さんにこの景色を見せたかった。確かに失われたものもある。でも、あなたはこんなに美しい宝石を守ることができたんだよ、とね。

 

 岩崎さんは分かってくれたかな。もう一度そっと視線を移すと、彼は笑顔で、しかし目に涙を浮かべながら眼下の宝石を見つめていた。……聞くまでもないな。

 

 私にとって岩崎さんは、二度も一緒に戦い抜いた戦友で、こんな自分のことを理解しようとしてくれる唯一無二の人間。かけがえのない人だ。だからできれば、彼も幸せであってほしい。

 そのために私ができること。例えば隣に並んで、同じ風景を一緒に眺めること。そんな些細なことでもいい。相手を心から思う気持ちがあれば、愛があれば、どうでも良いんじゃないのかな。それが「心友」の在り方なのだと思う。

 

 

 気が付くと、空には満天の星空が広がっていた。

 

 街の光の数だけ人生があり、星の数だけ夢がある。無限に広がるこの世界は、悲しいことや苦しいことも多いけれど、素晴らしいものもたくさんあるはずだ。それをどれだけ見つけられるかで、見える夜空の星の数は変化する。

 今日の私には、素敵な星の海が見えました。あなたはどうですか?

 

 

 ――そっか。来てよかった。

 

 

 

【完】

 

 

 

【挿絵表示】

 





「甲殻大怪獣ザリラvs宇宙怪獣ネビュラー」はこれにて完結です。最後まで読んで頂きありがとうございました。
お楽しみいただけたでしょうか。少しでも「面白かった」と感じる人が居るならば、作者としてはとても救われる思いです。今日のあなたに星の海が見えることを、心から祈っています。
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