アネッテと希望の方程式   作:革新的甲殻類

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1-9「ソウルトレーサー」

月影町の静かな住宅街、星々が瞬く夜空の下、蒼春家の二階にあるアネッテの部屋の窓からは柔らかな光が漏れていた。時計の針は既に夜の11時を指しているというのに、部屋の主は全く眠る気配を見せていない。机の上にはさまざまな電子部品や工具、配線が散らばり、その中心にはある装置が置かれていた。

 

「よし、これで完成!」

 

アネッテは両手を高く上げて伸びをしながら、満足げな笑みを浮かべた。何日もかけて取り組んできた彼女の最新の発明品が、ついに形になったのだ。机の上に置かれた小さな装置—拳ほどの大きさの金属製装置を誇らしげに眺める。装置の表面には精密な回路パターンが刻まれ、宝石のようなエメラルドグリーンのLEDが規則正しく点滅している。装置の一部はガラス素材になっており、内部の複雑な機構を垣間見ることができる。

 

「これが『ソウルトレーサー』の試作品第一号!」彼女は装置を両手で優しく持ち上げ、光に透かして眺めた。「魔法少女の魔力波動を探知する世界初の装置だよ!」

 

アネッテの緑色の瞳はキラキラと興奮で輝いていた。見滝原の病院から退院して以来、彼女は魔法少女と魔女の関係について徹底的に研究を始めていた。キュゥべえから得たショッキングな情報—魔法少女が魔女になるという残酷な真実—と自分自身の特異な体験を基に、彼女は独自の理論を構築し続けてきた。そして今、その理論を検証するための装置をついに完成させたのだ。

 

「理論上は、これでソウルジェムから放出される魔力波動を検知できるはず」アネッテは装置の側面にある小さなダイヤルを微調整しながら言った。「感度を上げれば、他の魔法少女を見つけられるかもしれない。魔女の結界だって事前に探知できるかも!」

 

研究ノートを開き、最後のデータを書き込みながら、彼女は作業台の隅にセットした小さなスピーカーから流れるソフトなジャズに合わせて体を揺らした。音楽を聴きながらの研究は、彼女のリラックス法の一つだった。

 

アネッテは慎重にソウルトレーサーのスイッチを入れた。球体が小さく震え、内部から柔らかなハミング音が鳴り始めた。LEDの点滅はより鮮やかに、より規則的になっていく。

 

部屋の窓辺に静かに座っていたキュゥべえが、少し興味を示したように耳を動かした。彼の赤い瞳はアネッテの動きを観察していた。

 

「アネッテ、君は本当に珍しいタイプの魔法少女だね」彼は首を傾げながら言った。「他の魔法少女とはまるで違う」

 

「そう?」アネッテは一瞬手を止め、首を傾げた。ショートヘアから伸びた栗色の前髪が彼女の目元を掠める。「私、何か特別なことしてるつもり?みんなこうじゃないの?」

 

「君のように魔法少女システムそのものに興味を持ち、科学的に解明しようとする者はめったにいない」キュゥべえは平坦な声で説明した。「ほとんどの魔法少女は、システムの仕組みよりも魔女との戦いや日常生活に関心を持つ。科学的な好奇心を持ち続ける魔法少女は、私の経験上、非常に稀だ」

 

「だって面白いじゃん!」彼女は明るく笑い、椅子をくるっと回した。「魔法とか魔女とか、異次元空間とか、不思議なことだらけなのに、調べないなんてもったいないよ。科学の宝庫だよ、これは!」

 

アネッテは立ち上がり、窓際に歩み寄った。キュゥべえの横をすり抜け、夜空を見上げる。満月が雲間から顔を覗かせ、静かな住宅街を銀色の光で照らしていた。

 

「ねえ、きゅうべえ」彼女は唐突に質問した。「他の魔法少女って、見滝原にもいるの?」

 

「ああ、何人かいるよ」キュゥべえはアネッテの方を見ずに答えた。

 

「会ってみたいな」アネッテは興味深そうに言いながら、ソウルトレーサーを窓の方に向けた。装置から柔らかなビープ音が鳴り始めるが、信号は弱い。「他の魔法少女はみんな私と同じなのかな?それとも全然違うのかな?でも、月影町でも魔女は現れるし、当分は見滝原に行く予定もないしなぁ...」

 

彼女は装置のディスプレイを注意深く観察し、微かに首を振った。「まだ調整が必要かも。感度が低すぎるみたい。このままじゃ近距離でしか探知できない」

 

アネッテは再び作業机に向かい、精密ドライバーや半田ごてなどの工具を手に取った。彼女の周りには電子部品や金属片、配線材料、設計図などが創造的な無秩序状態で散らかっていた。部屋の壁には、手書きの設計図や理論式が書かれた紙が何枚も貼られている。計算式と図解が入り混じった研究ノートもあり、その中には「魔法少女・魔女変換理論」と題された複雑な図表も見える。彼女の父親から受け継いだ電子工学の才能と、母親譲りの機械設計の才能が融合した空間だった。

 

「もっと精度を上げれば、魔女の結界も事前に検出できるかもしれない」彼女は装置の裏蓋を開けながら熱心に説明した。「そうすれば不意打ちを食らわずに済むし、効率的に魔女退治ができるよね。時には予防的に動くこともできるかも!」

 

キュゥべえはアネッテの言葉に対して何も言わなかった。ただ赤い目で彼女の作業を静かに見守っていた。彼の思考は、人間には理解できない複雑な計算と観察で満ちていた。

 

「あとね、私が魔女化しない理由も調べたいんだ」アネッテは小さなはんだごてを操りながら言った。回路基板に微調整を加えていく。「自分のソウルジェムと通常のソウルジェムの違いを分析できれば、他の魔法少女たちも救える可能性があるんじゃないかな。魔女化の過程を止める方法が見つかるかもしれない」

 

彼女の科学的な好奇心は、純粋な探究心と他者を助けたいという願望が混ざり合ったものだった。アネッテは装置の内部で微調整を続けながら、次々と理論とアイデアを口にしていく。

 

しかし、彼女の言葉は突然、予期せぬ出来事によって中断された。ソウルトレーサーが急に強く反応し、エメラルドグリーンのLEDが激しく点滅し始めたのだ。装置からは高い音程のビープ音が急に鳴り出した。

 

「え?何これ?」

 

アネッテは驚いて手を止め、ソウルトレーサーを慎重に持ち上げた。機械からは小さな警告音が鳴り続け、ディスプレイには強い信号を示す波形が表示されている。

 

「これって...かなり強い反応だ!」

 

彼女は窓に駆け寄り、外の住宅街を見渡した。装置を様々な方向に向けると、特定の方角で反応が最も強くなった。静かな住宅街には特に変わった様子はない。街灯の灯りと月明かりに照らされた通りは平和そのものだった。しかし、装置は確かに何か—あるいは誰か—の存在を検知していた。

 

「これは魔法少女の反応?それとも魔女...?」アネッテは眉を寄せ、装置の示す方向を食い入るように見つめた。「でも、魔女ならもっと不規則なパターンのはず。これは...」

 

彼女は疑問と興奮が入り混じった表情で、しばらく装置と窓の外を交互に見つめていた。何かが、あるいは誰かが近くにいる。しかし、夜の闇の中にその姿を見つけることはできなかった。

 

「明日調査してみよう」彼女はついに決意を口にした。「今から飛び出すよりも、日光がある方が安全だし、データも取りやすい」

 

アネッテはソウルトレーサーのスイッチを切り、装置を大切そうにテーブルに置いた。しかし、彼女の好奇心は簡単には収まらなかった。窓辺に立ったまま、アネッテはしばらく外の暗闇を見つめ続けた。

 

彼女が知らないのは、その暗がりの中に、彼女を観察する別の存在—暁美ほむらの姿があったことだ。遠く離れた場所から、黒髪の少女が双眼鏡で彼女の一挙手一投足を見守っていたのだ。

 

「もしかして、明日は他の魔法少女と会えるかも...」アネッテは小さく呟いた。彼女の緑色の瞳には期待と好奇心が輝いていた。「どんな子なんだろう?どんな能力を持ってるのかな?」

 

彼女はまだ知らなかった—時間を超えてきた魔法少女が、すでに彼女の足跡を追い、彼女自身が原因となって世界の因果律が変化していることを。そして彼女たちの運命的な出会いが、世界の未来に大きな波紋を広げることになるとも。

 

アネッテがベッドに向かい、部屋の明かりを消す頃、窓の外では一羽のフクロウが静かに飛び立った。まるで、明日起こる出来事の予兆のように。

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