アネッテと希望の方程式   作:革新的甲殻類

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1-20「五人の魔法少女」

 

 

春の夕暮れが見滝原の街を柔らかな橙色に染め始めていた。

「饗宴の魔女」との激しい戦いを終えた五人の魔法少女たちは、マミの案内で彼女のアパートへと向かっていた。

 

先頭を歩くマミの金色の巻き毛が夕陽に照らされて輝いている。

彼女の後ろをまどかとさやかが並んで歩き、少し離れてアネッテとほむらが続いていた。

 

「あの...本当に大丈夫?」

 

ほむらが小さな声でアネッテに尋ねた。彼女の紫色の瞳には不安が浮かんでいた。

 

「もちろん!あの共闘で私たちはすごく仲良くなったじゃない。もうあなたのことは信頼してるよ」

 

アネッテは明るく答え、ほむらの肩を軽く叩いた。

 

「それに、魔女に関する不思議な現象も調査するには、みんなの力が必要だと思うんだ」

 

ほむらは小さく頷いたが、その表情には迷いが残っていた。

 

最近のループでは、過去の幾多の時間軸での苦い経験からか、自ら能力を他の魔法少女たちに明かすという発想が消えて久しかった。彼女の時間停止と武器庫の存在は、他の魔法少女たちには不信感を招き、時には敵対関係にまで発展することがあまりにも多かったのだ。

 

特に彼女の"武器庫"の存在は、しばしば警戒心を引き起こした。

実銃や兵器で戦う魔法少女というのは、『魔法少女かくあるべし』と考える魔法少女相手には特に受け入れ難い存在なのだから。

 

今回はアネッテという変化があった。

彼女の存在によって、これまでの時間軸とは異なる可能性が開けている。

 

しかし、数え切れないループを繰り返してきたほむらは、これまでに積み上げてしまった人間不信な思考からまだ完全には抜け出せていない。

 

 

「ここよ」

 

マミが小綺麗な集合住宅の前で足を止めた。エレベーターで上階へと向かい、廊下の奥へ進む。マミが鍵を回し、ドアを開けた。

 

「ようこそ、みなさん」

 

部屋は清潔で上品な雰囲気に満ちており、テーブルには既に紅茶のセットが準備されていた。

窓から差し込む夕陽が部屋を温かなオレンジ色に染めていた。

 

アネッテは部屋の装飾品や調度を興味深そうに観察していた。

科学者の目は日常の些細なものにも向けられていた。

 

「とても快適な空間設計ね。光の入り方まで計算されているわ」

 

彼女のコメントにマミは少し驚いたような、そして嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「そこまで意識していたわけではないけれど…ありがとう」

 

一方、ほむらだけは警戒心を解かず、窓の外を時折チラリと見ていた。

 

アネッテはそんなほむらの緊張を感じ取り、そっとほむらの手を握った。

目と目が合い、無言の励ましが伝わる。ほむらの表情が少しだけ和らいだ。

 

「さあ、みんな座って」

 

マミの声で全員がテーブルを囲んだ。丸いテーブルに五人が揃うと、不思議と運命的なものを感じた。これまで個々に、あるいは小さなグループで戦っていた魔法少女たちが、初めて「チーム」として集うのだから。

 

「今日はまどかさんとさやかさんが来る予定だったから、ケーキを用意していたの。思わぬゲストも増えて嬉しいわ」

 

マミが立ち上がりキッチンに向かうと、しばらくして美しく盛り付けられたショートケーキと小さなタルトを持って戻ってきた。シンプルながらも洗練されたデザートは、まさにマミの人柄を表しているようだった。

 

「わぁ、おいしそう!」

 

まどかが目を輝かせた。さやかも「マミさんの手作りスイーツは絶品だよ」と興奮している。

 

マミが微笑みながら紅茶を注ぎ、ケーキをそれぞれの皿に分けた。一口食べると、繊細な甘さと上品な香りが口いっぱいに広がる。

 

「すごく美味しい!」

 

アネッテは心からの感嘆の声を上げた。ほむらもわずかに頬を緩めて頷いた。

 

しばらくは和やかな雰囲気でケーキと紅茶を楽しんだが、全員が緊張感を抱えていることは明らかだった。今日の「茶会」が単なる社交の場ではないことを、誰もが理解していた。

 

マミが紅茶カップを置き、静かに口を開いた。

 

「では、改めて…今日はみなさんに集まってもらって本当にありがとう。特に暁美さんとアネッテさん、初対面なのに戦いに加わってくれて心強かったわ」

 

まどかとさやかも頷いた。

 

「まずは、きちんと自己紹介をしましょうか。魔法少女として、互いのことをもっと知っておいた方がいいと思うの」

 

マミの提案に、全員が同意した。

 

「じゃあ、私から始めるわね」

 

マミは背筋を伸ばし、少し緊張した面持ちで話し始めた。

 

「巴マミ、見滝原中学校の三年生。魔法少女になったのは約三年前…家族との交通事故がきっかけだった」

 

彼女の声は少し震えていた。

 

「両親を失い、自分も瀕死の重傷を負って…その時、キュゥべえと出会ったの。私の願いは単純だった。『生きたい』…ただそれだけ」

 

静かに語るマミの言葉に、部屋の空気が重くなった。

 

「それからあとは、他の魔法少女とチームを組むこともあったのだけど...ここ数ヶ月は一人で魔女と戦ってきたわ。長い間、誰にも私の戦いを理解してもらえなかった…」

 

彼女は少し寂しげに微笑んだ。

 

「でも最近、まどかさんとさやかさんに出会って、そして今日は五人で力を合わせて魔女を倒せたことは、私にとってとても…」

 

彼女は言葉を詰まらせた。長く孤独な戦いを続けてきたマミにとって、仲間との戦いがどれほど意味を持つか、言葉にするまでもなかった。

 

「マミさんの戦い方、本当にきれいです」

 

まどかが優しく言った。さやかも熱心に頷いた。

 

「私の能力は主にリボンを操ることね。拘束や防御、そして武器の具現化…特にマスケット銃を召喚するのが得意よ。最大の技は『ティロ・フィナーレ』。今日も使ったから見てくれたと思うけど」

 

まどかとさやかは「すごかったです!」と声をそろえ、アネッテとほむらも頷いた。

 

マミは少し照れたように微笑み、まどかの方を見た。

 

「次は、まどかさんの番ね」

 

まどかは小さく手を挙げた。

 

「えっと、私は鹿目まどか。見滝原中学校の二年生です。魔法少女になったのはつい最近で…」

 

彼女は少し恥ずかしそうに続けた。

 

「通学路で交通事故に遭った子猫を見つけて。もう助からないって言われたけど、どうしても救いたくて…それで『この子猫を助けたい』って願ったんです」

 

部屋の空気が少し和らいだ。

 

「その後、さやかちゃんといた時に初めて魔女に出会って。全然戦えなかったんだけど、マミさんが助けてくれたんです」

 

まどかはマミに感謝の笑顔を向けた。

 

「ピンク色のソウルジェムをもらって、弓矢を使えるようになりました。まだうまく使えないけど…でも、誰かの役に立てるなら、頑張りたいと思います」

 

まどかの純粋な言葉に、マミはやさしく微笑んだ。

 

「まどかちゃんの願いってとっても優しいね」

 

アネッテが暖かい声で言った。まどかは少し照れた様子で頬を赤らめた。

 

「その猫、元気にしてる?」とアネッテが尋ねると、まどかは嬉しそうに頷いた。

 

「うん!今はうちで飼ってるよ。名前はエミーって言うんだ」

 

次にさやかが勢いよく立ち上がった。

 

「よーし、次は私の番!美樹さやか、まどかと同じクラスの二年生!」

 

彼女は気合いを入れるように自己紹介を始めた。

 

「まどかが魔法少女になってから間もなく、私も魔法少女になったんだ。マミさんの戦う姿を見て、こんなにカッコいいなんて思わなかった!」

 

さやかは目を輝かせながら続けた。

 

「私の願いは『困っている人を助けられる魔法少女になりたい』。マミさんみたいな素敵な魔法少女に憧れて…」

 

さやかは少し照れくさそうに頭をかいた。その素直な憧れの気持ちは、彼女の明るい性格をよく表していた。

 

「武器は剣で、回復魔法も使えるんだ。まだまだ修行中だけど、正義の味方として困っている人を助けるために頑張るよ〜!」

 

さやかの元気な宣言に、マミとまどかが優しく微笑みかけた。

 

一方、ほむらの瞳に一瞬の驚きが走った。

 

彼女がこれまで経験してきた無数のループにおいて、美樹さやかの願いはほぼ例外なく「上条恭介の腕を治す」ことだった。

 

天才バイオリニストの少年のために自らの願いを捧げることが、さやかの変わらない選択だったはずなのに。

 

ほむらの頭の中では、急速に思考が駆け巡っていた。上条恭介との関係性に何か変化があったのだろうか。このループでは事故が起きていないのか、あるいはそもそも二人が出会っていないのか。

さやかの願いが変わるほどの大きな変化は、これまでのループでも極めて稀だった。

 

それに加えて、さやかが魔法少女になるということは、数週間以内に絶望へと至って魔女化する道への一本道に入ったことを意味していた。

......少なくとも、これまでのループではそうだった。

 

ほむらの表情に浮かんだ一瞬の動揺は、その無表情なミステリアスな雰囲気のおかげで、アネッテ以外には気づかれなかった。

 

時間を何度も遡ってきた彼女は、疑問を口にはせず、喉の奥に押し込んだ。その代わりに、この新たな展開が持つ意味を静かに分析し続けた。

 

願いの変化は、このループが従来と異なる道を進む可能性を示している。

それは不安と同時に、小さな希望も意味していた。

 

(正義の味方…ね)

 

ほむらの心の中のつぶやきには、複雑な感情が込められていた。これまでのループでは、さやかのその「正義の心」こそが彼女を絶望へと導いていった。しかし今回は、願いが違う。

それは運命も違うということなのかもしれない。

 

アネッテはほむらのその反応に気づき、さりげなく話題を進めた。

 

「じゃあ次は私の番かな?」

 

彼女は皆の注目を集め、明るい声で話し始めた。

 

「蒼春アネッテ、月影高校の一年生。月影町から来たよ!」

 

「高校生なの!?」

 

さやかが驚いた声を上げた。まどかも目を丸くした。

 

「あ、そうなんだ。中学生にしては大人びてるなと思ったけど…」

 

マミも少し驚いた様子で言った。

 

「うん、でも心は中学生くらいかも!」

 

アネッテは冗談めかして笑った。

 

「月影町って遠くない?」

 

まどかが尋ねた。

 

「電車で1時間半くらいかな。片道だと結構な時間だけど…」

 

アネッテは少し考え込むような仕草をした後、明るく笑顔を戻した。

 

「でも、みんなみたいな仲間に会えるなら、全然苦じゃないよ!それに電車の中なら色々考えたりできるし」

 

彼女は熱心に手振りを交えながら続けた。

 

「それにいつか、もっと効率的な移動手段も開発したいなって思ってるんだ。私の頭の中にはすでにいくつかアイデアがあるんだけど…まだ試作段階っていうか、構想段階っていうか」

 

少し照れたように頬をかく姿に、マミは優しく微笑んだ。

 

「あなたの知性があれば、きっとすごいものができるでしょうね」

 

「うん、いつか必ず見せるよ!」

 

アネッテは目を輝かせて答えた。

 

「私が魔法少女になったのは約1年前だよ。ほむらちゃんよりは新米かな」

 

「暁美さんは?」

 

マミが今度はほむらの方を見た。

 

「約2年前よ」

 

ほむらは簡潔に答えた。マミは少し驚いたように目を見開いた。彼女は見滝原で活動する魔法少女をほぼ把握していたつもりだったが、ほむらの存在は知らなかった。

 

「2年前…そんなに長く?でも見滝原では見かけなかったわ」

 

「別の街で活動していたの」

 

ほむらは穏やかに答えたが、それ以上の詳細は語らなかった。

短い言葉の中に、さらなる質問を遮るような微かな壁を感じさせた。

アネッテはその場の空気を読み取り、さりげなく話題を変える。

 

「私の願いは『どんな状況でも最適な道具を作れる力』。それで得たのが『マグ・アームズ』というこの武器システム」

 

アネッテは話題を戻し、手のひらを開くと、緑色の光が集まり、複雑な機械の形に変化した。

 

「電磁力を操る武器で、状況に応じて形を変えられるんだ。基本的にはこの『ハンドコイラー』という銃から始まり…」

 

彼女は熱心に自分の武器について説明し始めた。その様子はまるで科学発表会のようだった。

 

「『コイルガン』という原理を使って、金属片を電磁力で加速させて発射する仕組みなんだ。魔力を電磁エネルギーに変換して…」

 

科学的な専門用語が飛び交い、まどかとさやかは完全に置いてけぼりになった様子だった。

マミも少し困惑した表情だが、礼儀正しく聞いている。

 

一方、ほむらは小さく微笑んでいた。

アネッテの科学への情熱はこの約10日間で十分に理解していたからだ。

 

「…というわけで、科学と魔法を融合させた戦い方をしているんだ。あ、長くなっちゃった?」

 

アネッテは自分の熱弁に気づいて恥ずかしそうに笑った。

 

「いいえ、とても興味深かったわ」

 

マミは感心した様子でアネッテを見つめていた。

 

「素晴らしい能力ね。今日の戦いでもとても頼もしかった」

 

アネッテは照れくさそうに頬をかいた。

 

「ありがとう。でも、みんなの連携があったからこそだよ」

 

沈黙が流れ、次はほむらの番だと全員が気づいた。テーブルの周りの空気が微妙に変わる。

ほむらは表情を引き締め、茶杯に手を添えたまま動かなかった。

彼女の指先がわずかに震えているのに、アネッテだけが気づいた。

 

「…」

 

ほむらが言葉を探している間、アネッテは彼女の肩に優しく手を置いた。

それは「大丈夫、ここは安全だよ」というサイレントメッセージだった。

ほむらは短く息を吸い、ゆっくりと茶杯を置いた。

 

「暁美ほむら。見滝原中学二年生。一昨日転校してきたばかり」

 

彼女の言葉は淡々としており、感情を極力抑えたものだった。

しかし、その抑制の下には複雑な緊張と不安が渦巻いていた。

 

「私は…」

 

ほむらは一瞬言葉に詰まった。

これまでの無数のループで、彼女は自分のことを話す機会がほとんどなかった。

そして話したとしても、それは通常、警戒と疑いの目で見られるものだった。

 

視線を落とし、声を低くして続けた。

 

「私の願いは…大切な人を守ること。それ以上は言えないわ」

 

部屋の空気が少し緊張した。

マミが困惑した表情を見せたが、強くは問わなかった。

アネッテがさりげなく話を促す。

 

「ほむらちゃんの能力はすごいんだよ。みんな、今日の戦いでも見たでしょ?」

 

ほむらはアネッテに感謝の視線を送り、わずかに勇気を得たように見えた。深呼吸して、より詳しく説明し始めた。

 

「能力は時間操作。短時間だけど時間を止めることができるの。この盾を回すことで発動するわ」

 

彼女は左腕の盾を示した。紫色の砂時計のようなデザインが施されている。

 

「時間が止まっている間は私だけが動ける。でも、直接触れたものしか動かせないという制限があるの」

 

マミの目が大きく見開かれた。

 

「時間操作…そんな能力があるなんて知らなかったわ」

 

「すごい!」

 

さやかが感嘆の声を上げた。まどかも「ほむらちゃん、本当にすごいね」と優しく言った。

 

ほむらは彼女らの反応に少し戸惑った様子だった。

これまでのループでは、しばしば彼女の能力は警戒され、時には恐れられることもあった。

初期のループに至っては、固有魔法が時間停止のみで攻撃力が欠如していたのを嘲笑されることすらあった。

しかし今回は、純粋な驚きと賞賛を受けている。

 

それでも、まだ話さなければならない部分があった。彼女は一瞬アネッテの方を見た。アネッテは小さく頷き、励ますように微笑んだ。

 

「あとは…」

 

ほむらは言葉を選びながら、慎重に続けた。

 

「この盾の中には…様々な武器を保管しておける」

 

彼女は盾を見せた。内部が不思議な空間になっているようだった。

 

「主に…銃器類ね」

 

言葉が出るとすぐに彼女は皆の反応を観察した。

過去のループでは、ほむらが実銃を使用することに対して理解が得られることはほぼ無く、その異質さからしばしば不信感や恐怖を招いた。

特に美樹さやかは警戒心を剥き出しにしたり、「魔法少女のあるべき姿」という観点から彼女を批判することが多かった。

 

「えー!本物の銃?」

 

さやかが目を輝かせて前のめりになった。興味津々の様子だ。

 

「どんな種類があるの!?」

 

「拳銃からライフル、時には…もっと大きな武器も」

 

ほむらは慎重に言った。

 

「すごい!」

 

まどかも感嘆の声を上げた。「ほむらちゃんはどうやってそんな武器を使えるようになったんだろう」という素朴な驚きだった。

 

マミは少し驚いたが、批判的ではなかった。

 

「なるほど…固有魔法が時間停止だから、攻撃手段を魔法以外に頼るしかないのね。少し驚いたけど、同じ銃使いとしては親近感が持てるわ」

 

マミも戦術として評価しつつ、その手法について何も批判的な態度を取らなかったどころか、理解を示して共感までしてしまった。

 

予想以上の好感を受けて、ほむらは目をぱちくりさせる。

固く強ばっていた肩の力が抜け、小さく息を吐き出す様子から、目に見えて緊張が解けたのがよく分かった。

 

アネッテはそうした彼女の反応に安堵の表情を浮かべた。

 

「ほむらちゃんは私と同じく、常に効率的で戦略的な戦い方をするんだよね」

 

アネッテは親しげにほむらの肩に手を回した。

 

「この何日間か一緒に戦ってるけど、本当にほむらちゃんは強いんだからね!」

 

ほむらは少し照れたような、そして感謝するような表情でアネッテを見た。

彼女たち2人の間には既に固い絆が生まれていることが伝わってきた。

 

自己紹介が一巡し、部屋の雰囲気はより和やかになっていた。マミが再びケーキを切り分け、紅茶をお代わりした。

 

「みんな、いろんな願いを持って魔法少女になったのね」

 

マミがしみじみと言った。

 

「でも、私たちにはソウルジェムという共通点がある。それぞれ色は違うけど、私たちを魔法少女たらしめるもの…」

 

アネッテが突然身を乗り出した。科学者としての好奇心が抑えきれない様子だった。

 

「そういえば、ソウルジェムって不思議だよね。物理法則的に説明できないくらい高密度のエネルギーを内包してるし、私たちの魂の—」

 

 

—カシャン!

 

 

ほむらがカップを落とし、派手な音と共に紅茶がテーブルにこぼれた。

 

「あ、ごめんなさい。手が滑ったわ」

 

彼女は慌ててナプキンでテーブルを拭き始めた。アネッテの目が大きく見開かれ、彼女は言いかけた言葉の危うさに気づいたようだった。

 

「大丈夫?」

 

まどかが心配そうに尋ねた。

 

「ええ、ただの不注意よ」

 

ほむらの冷静な声には、わずかに緊張が混じっていた。アネッテと目を合わせ、小さく首を横に振る。「まだその話はダメ」という無言のメッセージ。

 

アネッテは「あはは、私ったら科学的な話を始めるところだった。みんな退屈するよね、ごめん」と取り繕った。

 

マミは紅茶を一口飲み、カップを丁寧にソーサーに置くと、少し躊躇うように言葉を選びながら話題を切り出した。

 

「ところで、最近気になることがあるの」

 

彼女の声色が変わり、眉間にかすかなしわが寄った。室内の空気が一瞬で引き締まる。その表情は、いつもの優雅な巴マミではなく、幾多の魔女との戦いを生き抜いてきたベテラン魔法少女としての顔だった。

 

「見滝原市での魔女の出現率が急増しているわ。しかも、今日のような強力な魔女も増えているように感じるの」

 

マミは窓の外を見やりながら、静かに続けた。

 

「通常なら、一週間に一体、多くても二体程度しか出現しない筈なのに…ここ数週間は、ほぼ毎日のように新しい魔女の気配を感じるわ。それも、以前より明らかに強力な個体が多い」

 

その言葉を聞いたほむらは、僅かに前のめりになり、紫色の瞳に鋭い光を宿らせた。彼女も同じことを感じていたのだ。口元を引き締め、わずかに頷く。

 

「そう…私も同じことを考えていたわ」

 

「ほむらちゃんまで...」

 

まどかが不安そうに小さく震える声で尋ねた。

彼女の大きなピンク色の瞳には心配の色が浮かんでいる。

小さく握りしめた手は、震えているのを抑えようとしているかのようだった。

 

さやかも険しい表情になり、前髪を手で払いのけながら身を乗り出した。

 

「魔法少女になってから毎日のように魔女退治って感じだったけど、前からそうってわけじゃないのね…」

 

彼女は腕を組み、無意識に膝を揺らしていた。

 

「あたしもまどかも、まだまだ初心者だってのに...魔女のやつ、もう少し手加減してくれっての」

 

さやかにとっては、まだ魔法少女としての経験が浅く、「普通の魔女」と「強い魔女」の判断基準もよくわからない。

しかし、マミとほむらという経験豊富な魔法少女の言葉に不安を隠せない様子だった。

 

「でも、まどかさん、さやかさん、あなたたちは魔法少女になったばかりなのに、今日のような強力な魔女との戦いでもしっかり戦えていたわ。それはとても素晴らしいことよ」

 

マミの褒め言葉に、まどかは照れくさそうに頬を赤らめ、さやかは少し誇らしげに胸を張った。

 

「えへへ…でも、マミさんとほむらちゃんとアネッテちゃんがいなかったら、勝てなかったと思います」

 

まどかは謙虚に答えた。彼女は自分たちが魔法少女になったばかりの「ぺーぺー」であることをよく理解していた。

ピンク色のドレスに身を包み、弓矢を手に戦う彼女だが、その実力はまだまだ未熟だと自覚している。

 

「いやいや、まどかの矢は正確だったし、すごく助かったよ!」

 

さやかは親友の肩を叩きながら元気よく言った。

彼女自身も青い衣装に身を包み、剣を振るう姿は勇ましかったが、経験不足は否めない。

 

「でも、確かに…魔女がどれくらい強いのか弱いのか、まだよくわからないかも。魔法少女になって一週間だし」

 

さやかは少し照れながら頭をかいた。彼女の正直な言葉に、マミとアネッテは小さく微笑んだ。

 

「それって、何か理由があるの?魔女が増えてるのって」

 

さやかが身を乗り出して不安そうに尋ねた。彼女の青い瞳には純粋な好奇心と警戒心が混じっている。

 

アネッテとほむらが再び視線を交わした。二人は何かを知っているようだった。アネッテの表情には科学者としての推測と、友人としての心配が入り混じっていた。ほむらは無言のまま、わずかに頷いた。

 

「詳しいことはまだわからないけど」

 

アネッテが慎重に言葉を選んだ。彼女は真実のすべてを語らないよう気をつけていた。

 

「キュゥべえに聞いても明確な答えは得られなかった。でも、私とほむらちゃんで調査を進めているところなんだ。何かわかったら、みんなにもすぐに共有するよ」

 

アネッテの言葉には、まどかとさやかを不必要に心配させたくないという配慮が滲んでいた。しかし、彼女とほむらが魔女の異変について何らかの推測を持っていることは明らかだった。

 

「私たちにもできることがあれば言ってよ」

 

さやかが真剣な表情で言った。彼女の目には確固たる決意が浮かんでいた。魔法少女になって間もないながらも、「困っている人を助ける」という彼女の願いに偽りはない。まどかも小さく、しかし強い意志を持って頷いた。

 

「そうだよ。私たちにできることがあれば…」

 

彼女の声は小さいながらも、その中に揺るぎない意思が感じられた。

 

「もちろん」

 

アネッテは優しく微笑んだ。彼女の緑色の瞳が温かく輝く。

 

「今日みたいに、みんなで協力すれば怖いものなしだよ。まだ解明できていないことは多いけど、一つずつ理解していきたいな。五人なら、きっと何があっても大丈夫」

 

アネッテの言葉に、部屋の空気が少し和らいだ。

窓から見える夕空は次第に暗さを増し、街灯が一つ、また一つと灯り始めていた。

 

 




今月中には第1章が終わらせられそうな予感
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