アネッテと希望の方程式   作:革新的甲殻類

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1-8「調査」

見滝原の夜は不思議なほど静かだった。街灯の光が窓から差し込み、暁美ほむらのアパートの一室に長い影を落としている。彼女はその薄暗い部屋の中心に立ち、壁一面に貼られた情報の海を前に、深い思考に沈んでいた。写真、手書きのメモ、地図、新聞の切り抜き、病院の記録の複写--それらは全て、赤い糸で繋がれ、一人の少女を取り巻くように広がっていた。

 

「蒼春アネッテ...」

 

ほむらは低く、ほとんど聞こえないほどの声で呟いた。長い黒髪が顔を覆い、紫色の瞳は冷たく輝いていた。時間を何度も何度も遡るたび、まどかを救うという唯一の目標のために、彼女は徐々に感情を殺し、冷徹な戦略家となっていった。しかし今、この新たな変数の出現に、彼女は計算外の混乱を覚えていた。

 

まどかに接触しないキュゥべえ。

 

これまでの全てのタイムラインで、キュゥべえはまどかに契約を迫り、彼女を魔法少女にしようと画策してきた。しかし今回に限って、彼はまどかに近づこうとさえしない。それはつまり、まどかが魔法少女になる可能性が低くなるということだ。ほむらにとって、それは望ましい結果のはずだった。

 

「なのに...」

 

彼女は机に広げられた手帳を見つめた。そこには無数のループで集めた情報が記されていた。しかし、今回のループは何もかもが違っていた。物事はあまりにもスムーズに進みすぎていた。何かが根本的に狂っている--彼女はそう感じずにはいられなかった。

 

「全ては彼女と関係している...間違いない」

 

ほむらは壁の中央、赤いピンで留められた一枚の写真に視線を向けた。病院の窓越しに遠くから撮影された、明るい笑顔の栗色の髪をした少女。埼玉県月影町からやってきた転校生。見滝原大学のロボット工学シンポジウムに参加するために家族で訪れていた16歳の少女。そして--魔法少女。

 

「あなたは一体...何者?」

 

---

 

調査は簡単ではなかった。あらゆる情報を集め、全ての可能性を検討する必要があった。

 

まず、見滝原総合病院の患者記録から始めた。真夜中、時間を止める能力を使い、無人となった病院の管理室に忍び込む。フラッシュライトの弱い光の下、ほむらは素早く電子カルテシステムにアクセスし、必要な情報を探していった。

 

「蒼春アネッテ、16歳」彼女は画面の情報を小さな声で読み上げた。「診断名:過労と栄養失調。三日間の意識不明状態、その後自然回復。特別な治療は必要なし。紹介元医師なし。保護者:蒼春健太郎(父)、蒼春リーゼル(母)。住所:埼玉県月影町柳通り5-16...」

 

ほむらは情報を手帳に素早く書き写した。注目すべきは「三日間の意識不明状態、その後自然回復」という記述だった。魔法少女としての経験から、ほむらはこの状態がソウルジェムが完全に穢れる直前の状態に酷似していることに気づいた。

ソウルジェムが完全に直前、魔力不足でほとんど行動不能となり、場合によっては昏睡に近い状態になる。

そしてそのまま濁りが最大に達すると、例外なくソウルジェムが活性化したグリーフシードに変化して魔女化する。

それが魔法少女のありふれた最後のはずだった。

 

「ソウルジェムの穢れが自然に抜けていったとでも言うの?...」

 

これは非常に異例のことだった。ほむらはシステムからログアウトし、さらなる調査の必要性を感じた。

 

翌日の夕方、見滝原大学図書館に忍び込んだほむらは、先日開催されたロボット工学シンポジウムの記録を探し出した。プログラム冊子とアブストラクト集をコピーし、参加者リストから重要情報を抽出していく。

 

「招待講演者:リーゼル・蒼春(旧姓ヴォルフ)、独日ロボット工学共同研究プロジェクト代表」という情報を発見。講演内容の抄録から、彼女が先進的なロボット制御システムを研究しており、大手電機メーカーNTアドバンス・リサーチの研究所と産学連携プロジェクトを進めていることを突き止めた。

 

「父親も同じ会社か...?」ほむらは眉をひそめた。「電子機器設計者...」

 

一週間かけて、ほむらは蒼春家についての情報を粘り強く集めていった。日中は学校生活を送りながら、放課後から深夜にかけて調査を続ける。時には魔女との戦いに時間を取られることもあったが、彼女の目的意識は揺らぐことなく、少しずつ蒼春アネッテの輪郭が浮かび上がってきた。

 

健太郎は電子機器設計の専門家で、多数の特許を持つベテランエンジニア。リーゼルはドイツ・ミュンヘン工科大学出身のロボット工学者で現在は東京の私立大学教授。二人は国際学会で出会い、結婚した国際カップル。弟のルカは13歳で月影中学に通学中。蒼春家は月影町の閑静な住宅街にある、少し変わった造りの家に暮らしていた。

 

「魔法少女としての能力は...」

 

ほむらは壁に貼った情報群を眺め、眉間にしわを寄せた。この部分が最も難しかった。アネッテの魔法の特性は何か?彼女はどんな願いを叶えてもらったのか?そして、最も重要な疑問--なぜ彼女は魔女化せず、なぜこのタイムラインでキュゥべえはまどかに接触しないのか?

 

情報が不十分だった。ほむらは直接観察の必要性を感じていた。アネッテが月影町に帰ったというのなら、そこまで足を運ぶしかない。

 

---

 

週末、ほむらは制服を着替え、バックパックに必要な装備を詰め込んだ。少し大きめのサングラスと帽子で変装し、見滝原駅から電車に乗り込んだ。3時間かけて、彼女は埼玉県月影町に到着した。地図と集めた情報を頼りに、蒼春家の住む住宅街へと向かう。

 

閑静な住宅街の一角にある、モダンな二階建ての家。白い壁と木製の外観が特徴的で、ドイツと日本の建築様式が融合したような独特の雰囲気を持っていた。庭には少し変わった形の風車や、小さな噴水、そして...小型ロボットが草刈りをしていた。明らかに家族の誰かの発明品だろう。

 

ほむらは公園のベンチに座り、遠くから双眼鏡で蒼春家を観察した。日曜の午後、アネッテは庭に小さな机を出して何かの工作に熱中していた。細かな金属パーツと工具が机の上に散らばり、彼女は時折スケッチブックに何かを書き込みながら、小さなデバイスを組み立てていた。時々嬉しそうに手を叩き、満足げに笑う姿。彼女の近くには白い影--間違いなくキュゥべえが座っていた。二人は会話を交わしているようだった。

 

アネッテが組み立てているものが何なのか、ほむらには特定できなかったが、その様子から何か特別な装置を作っているようだった。会話の断片から、それが「ソウルトレーサー」と呼ばれる装置らしいことが分かった。魔法少女や魔女の魔力波動を検知できる装置のようだ。

 

「他の魔法少女を見つけるための装置...?」ほむらは眉をひそめた。

 

夕方になり、アネッテは作業を中断して家の中へ戻っていった。ほむらはさらに数時間観察を続けたが、彼女が再び外に出てくることはなかった。

 

夜になり、ほむらは月影町の街中をパトロールすることにした。この町にも魔女はいるはずだ。そしてもしかしたら、アネッテの戦闘を観察できるかもしれない。

 

月影町の外れにある廃工場地帯で、ほむらは魔力の残滓を感じ取った。ここで何かが起きたのは間違いない。工場内部に入ると、壁には何かが激しくぶつかった痕が残っていた。床には金属の欠片が散らばり、魔女との戦闘の跡を物語っていた。

 

さらに探索を続けていると、突然、遠くから魔力の波動を感じた。別の工場からだ。ほむらは素早くその方向へ向かった。

 

工場の入り口には既に魔女の結界が形成されていた。薄暗い入り口からは不気味な歯車の音と金属のきしみが聞こえてくる。ほむらは盾に手をかけ、いつでも時間を止められるよう準備しながら、慎重に中に足を踏み入れた。

 

一歩踏み込んだ瞬間、周囲の景色が歪み、現実が崩れていく。結界内部は奇妙な機械と歯車で満ちていた。天井からは巨大な振り子が揺れ、壁には無数の時計が逆回りしている。まるで巨大な時計の内部か、狂気の発明家の工房のようであり、どこからともなくカチカチという音が響き、金属製の歯車が無秩序に回転していた。床は透明な歯車の上に浮かんでおり、下を覗くと無限に続く機械仕掛けの底なし沼が広がっていた。[

 

「この結界...」ほむらは静かに呟いた。彼女は数えきれないほどの魔女と戦ってきたが、それでも毎回、結界の異様さに戸惑いを覚える。この空間は魔女の内面世界の反映だ。かつて人間だった魔女の願いと絶望が歪んだ形で具現化している。

 

ほむらは時計の音に紛れて前方から聞こえる戦闘音に耳を澄ませた。金属がぶつかる音、何かが爆発する音、そして若い女性の声。アネッテだろうか。彼女は音の方向へ静かに進み、巨大な歯車の影に身を隠しながら近づいていった。

 

空中に浮かぶ巨大な歯車の上を飛び移りながら、ほむらは前方の広がる空間に辿り着いた。そこで彼女は初めて、戦闘中のアネッテの姿を目の当たりにした。

 

エメラルドグリーンの魔法少女衣装に身を包んだアネッテが、異形の魔女と対峙していた。彼女の衣装はラボコートを思わせる上着に、短めのプリーツスカート、そして膝までの長さのブーツという、科学者と少女の要素が融合したデザインだった。栗色の髪は風になびき、真剣な眼差しで魔女を見据えている。

 

魔女は巨大な機械仕掛けの蜘蛛のような姿をしており、八本の脚はそれぞれ異なる道具や武器になっていた。中央部には大きな歯車の集合体があり、そこから青白い光線を放っている。使い魔たちは小さな歯車や時計の形をしており、まるで歯車仕掛けのネズミのようにアネッテの周りを取り囲むように群がっていた。

 

アネッテの手には銃のような武器が握られていた。一見すると大型拳銃のようだが、通常の銃とは明らかに違う。武器の側面には緑色の光の回路のようなものが浮かび上がり、銃身からは微かに青白い光が漏れている。彼女は落ち着いた様子で魔女と距離を取りながら、その武器で使い魔を次々と撃ち抜いていた。

 

「マグネティック・スキャナー、起動」

 

アネッテが静かに言うと、彼女の周囲に緑色の光が広がり、魔女の周囲を走査するようだった。まるでコンピュータによる分析画面が目の前に展開されているかのように、彼女は何かを見つめ、考えを巡らせている。

 

「うーん、この魔女のパターン、前に見たやつに似てる...」アネッテは眉を寄せながら呟いた。

 

突然、魔女が前脚から鋭い光線を放ち、床を焼き焦がしながらアネッテに迫る。アネッテは素早く横に跳躍して避けた。彼女の動きは洗練されており、計算されたものだった。

 

「危ない!でも...構造解析、オッケー!弱点、見つけた!」

 

彼女の手にある銃が緑色に輝き、連続して魔力弾を放つ。光条が空気を切り裂き、魔女の足の一本に命中した。魔女が痛みに悶える。それでも、一本の足が損傷しただけで大きなダメージにはなっていないようだ。

 

「やっぱり、この武装じゃ本体にはダメージ与えにくいか...」アネッテは困ったように唇を噛んだ。

 

魔女の周囲に十数体の使い魔が現れ、一斉にアネッテに向かって突進してきた。彼女は手にした銃—ほむらの観察では恐らく彼女の標準装備である—を素早く動かし、的確に一体ずつ撃ち抜いていく。弾丸ではなく緑色の光線のようなものが銃口から放たれ、使い魔に命中するたびに小さな電磁パルスのような波動が広がる。

 

ほむらは興味深く観察を続けた。アネッテの戦い方は彼女が知る他の魔法少女たちとは明らかに違う。マミの優雅さも、杏子の荒々しさも、さやかの直情的な勇敢さもない。それは冷静な分析と効率を優先した、科学者のような戦い方だった。

 

「片手でも使い魔程度なら対処できる...」ほむらは思った。「彼女の武器はかなり汎用性が高い」

 

突然、魔女が怒号のような音を上げ、天井から無数の歯車を落下させた。アネッテは素早く身をかわしながらも、一つの歯車が彼女の肩をかすめ、バランスを崩す。彼女は一瞬苦痛の表情を見せたが、すぐに態勢を立て直した。

 

「くっ...近接戦は避けたいところだけど」彼女は肩を押さえながら言った。「この距離じゃハンドコイラーの威力が足りない...」

 

ほむらはその言葉を聞き取った。「ハンドコイラー」—それが彼女の持つ拳銃型の武器の名前なのだろう。

 

次の瞬間、アネッテの手にある武器が光を放ち、形状が変化し始めた。拳銃のような形状から、より細長い銃へと変形していく。銃身が伸び、照準装置が展開され、一瞬でライフルのような形状へと変貌した。その変形の過程は、まるで武器自体が生きているかのようだった。

 

「遠距離から行くよ!」

 

アネッテは高所へと飛び上がり、巨大な時計の文字盤の上に着地した。彼女は新しい武器を構え、慎重に照準を合わせる。ほむらはその武器を見て、自分の持つ武器庫の中のライフルを思い出した。しかし、アネッテの武器は明らかに違う。通常の弾丸ではなく、何か別のエネルギーや力を利用しているようだ。

 

「あれは...電磁力で弾を撃ち出す装置?」ほむらは眉をひそめた。彼女は様々な武器を使いこなしてきたが、アネッテの武器は見たことのない技術だった。

 

魔女が大きく身を揺らし、背中から複数の砲塔のような突起を出現させると、青白い光線の嵐がアネッテに向けて放たれた。アネッテは冷静に状況を判断し、文字盤の周囲を素早く動きながら攻撃を回避する。彼女のライフルから緑色の光条が放たれ、魔女の砲塔の一つに命中した。砲塔が爆発し、魔女が悲鳴を上げる。

 

「よし、当たった!」アネッテは一瞬喜びの表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。「でも、まだ本体にはダメージが...」

 

彼女はライフルを連続して発射し、魔女の砲塔を次々と破壊していく。魔力を込めた光線が魔女の装甲を貫き、一部を破壊するが、決定的なダメージには至らない。魔女の中央部にある核—おそらく弱点—は、厚い装甲に守られているようだった。

 

「んー、効果いまいち...こいつ、耐性あるのかな」彼女は少し首をかしげ、唇を噛んだ。「こうなったら...武装、チェンジ!」

 

再び彼女の武器が光に包まれ、変形を始める。ライフルのような形状からさらに大型の、ほとんど砲台のような形へと変わっていく。二本の支柱が展開し、地面に固定され、銃身はより太く、より長くなった。緑色の魔力回路が武器全体を覆い、エネルギーが集中していくのが見える。

 

ほむらは目を細めた。あれは明らかに対物ライフルより大きな火力を持つ武器だ。彼女がこれまで見たことのないタイプの兵器だが、その威力は想像できる。「彼女は状況に応じて武器を変形させるのか...」

 

「これは想定外だけど...予測可能な範囲内だよ!」アネッテは大型の武器を調整しながら言った。

 

魔女は巨大な歯車を盾のように前に展開し、中央のコアを防御しようとしている。同時に、周囲の使い魔が一斉にアネッテに向かって飛び掛かる。彼女は窮地に立たされているように見えた。

 

「邪魔しないでよ!」

 

アネッテは左手を横に振り、緑色の光の糸が指から伸びた。それは空間に浮かぶ金属片や歯車を引き寄せ、瞬時に小型の装置を形成する。その装置が展開すると、円形の電磁波のようなものが放出され、使い魔たちの動きを鈍らせた。片手で大型武器を支えながらも、もう一方の手で別の装置を展開する器用さにほむらは驚いた。

 

「電磁波干渉、効いてる!よーし、次のステップ!」

 

ほむらは驚きを隠せなかった。アネッテの能力は単に武器を変形させるだけではなく、周囲の素材を使って即興的に装置を作り出す能力も含まれていた。それは「どんな状況でも最適な道具を作る」ための魔法なのだろうか。彼女の願いは科学者としての才能に関連したものなのかもしれない。

 

魔女が怒り狂ったように全身を震わせ、結界全体が揺れ始めた。天井からは大きな機械部品が崩れ落ち、床は歪んでいく。アネッテは大型武器を構える位置を素早く変え、姿勢を低くした。その重そうな武器を片手で構え、もう片方の手でコントロールパネルを操作する姿は、まるでベテランの兵士のようだった。

 

「チャージ完了、いくよっ!」

 

大型の武器から強烈な緑色の光線が放たれ、魔女の展開していた防御を強引に破壊していく。歯車の盾が粉々に砕け散り、魔女の前面装甲に亀裂が走る。しかし、核心部分はまだ無傷のようだ。

 

アネッテの額には汗が浮かび、ソウルジェムが少し濁り始めているのがほむらには見て取れた。大型武器の連続使用は魔力を大量に消費するようだ。アネッテも限界を感じているのか、額の汗を拭いながら状況を分析していた。

 

「まだかなりパワーが残ってる...もう一段階、上げないと」

 

アネッテは武器を肩に担ぎ、跳躍して別の位置に移動した。魔女の攻撃が彼女の後を追い、床を砕いていく。彼は再び腰を低くし、武器を構えた。

 

ほむらは状況を冷静に分析していた。もしかしたら介入すべきかと一瞬考えたが、アネッテはまだ余力を残しているようだ。彼女の戦い方を完全に把握するためには、最後まで観察を続けるべきだろう。

 

武器の側面にあるコントロールパネルのようなものを操作すると、アネッテの武器から機械的な音が鳴り、バレルが回転し始めた。装置全体が震え、魔力が集中していくのが見える。これが彼女の最後の切り札なのだろうか。

 

「出力上限まで上げる...最終形態、いくよっ!」

 

砲身に沿って緑色の魔力回路が明るく輝き、装置全体が震えるほどのエネルギーが充填されていく。アネッテが集中すると、彼女の周りの空気が歪み、武器から放たれた強力なエネルギービームが魔女を貫いた。光線は魔女の核心部を直接貫き、その存在を根こそぎ打ち砕いた。

 

衝撃波が結界内を駆け巡り、ほむらは盾で顔を守った。まばゆい光が消えると、魔女の姿は既になく、結界が崩れ始めていた。跡には黒いグリーフシードが残されている。

 

「必殺の方がかっこいいし、確実だよね!」アネッテは自分に言い聞かせるように呟いた。

 

アネッテは武器を元の小型の形状—おそらく「ハンドコイラー」と呼ばれる拳銃型の装置—に戻し、ホルスターに収めると、小さな装置を取り出してグリーフシードを回収した。彼女は真剣な表情でそれを観察し、データを記録しているようだった。

 

「よし、これも研究データとして使えるかな」彼女は少し微笑みながら、グリーフシードを眺めた。「マリエのためにも、しっかり調べなきゃ」

 

彼女はグリーフシードを自分のソウルジェムに当て、浄化させた。濁りが消え、エメラルドグリーンの光が鮮やかに戻る。そして彼女は深呼吸をし、疲れた表情を一瞬見せた。戦いは簡単ではなかったのだろう。通常の使い魔程度ならば「ハンドコイラー」だけで十分だが、強力な魔女相手には「コイルライフル」や「重コイルガン」といった強力な武装が必要なようだ。

 

結界が完全に消失し、彼らは再び廃工場の中に戻っていた。アネッテは周囲を見回し、何も見つからないことを確認すると、魔法少女の姿から普段の制服姿に戻った。彼女はポケットに何かをしまい、出口へと向かっていった。

 

ほむらは影に身を隠したまま、全てを観察していた。アネッテの能力は明らかに電磁力を操る何かだ。彼女は「マグ・アームズ」という言葉を使っていた。恐らくそれが彼女の魔法システムの名前なのだろう。

 

彼女は最初に「ハンドコイラー」と呼ばれる拳銃型の武器を使用し、状況に応じて「コイルライフル」へと変形させ、最終的には「重コイルガン」と思われる大型武器で決着をつけた。これらはすべて同じ武器が変形したものなのか、それとも別々に召喚したものなのか。いずれにせよ、状況に応じて武器の形態を変化させ、さらには周囲の素材を使って即興的な装置まで作り出せる。それは科学の知識と魔法の力が融合した、極めて柔軟な戦闘スタイルだった。

 

マミの無数のマスケット銃とは違い、アネッテの武器は常に進化し、状況に適応していく。それは彼女の願いが「最適な道具を作る力」や「電磁武器を作る能力」に関連していることを示唆していた。

 

さらに、「マリエ」という名前が気になる。彼女の大切な人なのだろうか。そして彼女がグリーフシードを研究しているという点も見逃せない。通常、魔法少女はグリーフシードを単にソウルジェムの浄化に使うだけだが、アネッテは研究目的で収集しているようだった。

 

しかし、最も重要なのは彼女の戦い方の特徴だ。アネッテは常に距離を取り、分析してから行動する。彼女は戦闘中も冷静さを保ち、科学的な思考で最適解を導き出そうとしていた。それでいて、「よーし!」や「いくよ!」という少女らしい掛け声もあり、完全な機械のようではない。彼女は科学者であり、同時に感情を持った少女でもあるのだ。

 

ほむらは廃工場を後にしながら、アネッテという謎の魔法少女についての新たな情報を整理していた。今夜の観察で彼女の戦闘能力についてはある程度把握できたが、彼女の目的や、魔女化しなかった謎、そしてキュゥべえがまどかに接触しない理由はまだ闇の中だった。

 

更なる調査が必要だ。ほむらはそう決意を固めた。

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