ドラゴンボールZ ~未来の戦士の戦いの記録~   作:アズマオウ

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サタンと17号との戦いです。
名勝負になりそうですね(錯乱)。





決闘

 次の日が来た。パパが決闘を申し込んだ日が、訪れた。

 私には何の変化もない。私はいつも通り学校に通い、悪者を蹴散らす。ただそれだけだ。

 私は自分のジェット機を使って学校まで飛んでいき、校門前に降りる。そこで私の友人達と校舎へ入り、談笑を交わしながら教室の椅子に座る。

 ふと隣に目を向けると、例の転校生がいた。どうにも近寄りがたい雰囲気を醸し出している。目つきは鋭く、じっと教卓の方を睨んでいる。

 

「ねえ……なんか感じ悪くない?」

 

 右隣りのイレーザが囁く。私は同意の首肯を返す。

 そう、感じが悪い。まるで尖ったナイフのようにあらゆるものを切り付けようとする意思がかいま見える。なぜそんな目ができるだろうか。

 思慮にくれている間にチャイムが鳴り、授業が始まった。生徒は黙り、ノートを取るのに一生懸命だった。しかし、ただ一人転校生は再び熟睡していた。しかも、すごく気持ち良さそうに。

 

「悟飯君! 悟飯君っ!!」

 

 見かねた先生が声を張り上げて彼を起こす。しかし、この日は起きることはなかった。その次の授業も、移動教室の時も、彼はずっと寝ていた。

 気づけば放課後のチャイムが鳴っていた。相変わらず彼は寝ていた。教室にいた私はため息をついて彼の寝顔を見る。朝と全く変わらない、心地良さそうな寝顔。彼は知らないだろう。全ての先生に見捨てられていることを。自業自得ではあるけれど、哀れではある。

 教室には数人の生徒がいて、これからクラブに向かうものや勉強するものまで様々だった。私はクラブには所属していないので、このまま帰るのだが。

 

「……起こしてやるか」

 

 私は小さく呟いた。別に不良生徒なんて放っておいて構わないけど、もし彼がこのまま起きなければ目覚めが悪い。私は彼の肩に触れ、起こそうとした。

 

「―――!?」

 

 そこで私は息を呑んだ。肩に触れ、起こそうとした手が止まる。

 彼の肩が、異常なほどに堅いのだ。肩凝りとかそういった類いではなく、締まっているのである。石のように堅く、重さがある。それでいてさわり心地は無駄な抵抗がなくすんなりするものだ。

 以前世界チャンピオンの父の肩を揉んだことがあった。その時に触った父の肩は鍛えられていて凄く堅かった。けれど今の彼はその比じゃない。まるでこの十数年間、肩だけ鍛えて来たような、というかそうとしか考えられない肩の堅さだ。ただ、一体どうしたらこんなに屈強な肩に出来るのだろうか……?

 私は気になった。彼は何者だろうか。とりあえず止めていた手を動かし、彼を揺すった。

 

「ぅ……うん……」

 

 すると、効を奏したのか転校生は呻きながら目を開けた。突っ伏していた机から頭を離し、呆けた眼で辺りを見回した。数秒間そのままだったが、転校生はようやく私に視線を向けた。

 

「あ……君は……」

「おはよう孫悟飯君。よく眠れたかしら?」

「え……?」

 

 転校生はいまいち状況を理解していないらしい。だから私は、彼のしでかしたことをストレートに教えてあげた。

 

「あなた、今日一日中寝てたのよ」

「え……そうだったんだ」

 

 転校生は自分の机を見る。一時間目の教材がそのままになっていて、ノートには涎の後がしっかりと着いていた。転校生はそういうことかと納得し、頭を掻く。

 

「弱ったな……これじゃあ留年確実だ」

「明日からはちゃんとしなさい。じゃないと、とっちめるわよ」

 

 私は自分で言ってはっとした。なぜ私はこいつにここまで世話を焼いているのだろうかと。

 別に関わらなければいい話だ。それに男になんて興味ない。でも、何でだろうか。

 

「……今日はありがとう。じゃあ俺はこれで」

「……じゃあね、明日は真面目にやってね」

 

 転校生は荷物を持って教室から出ていく。私もそれを見送り、荷物の整理を始めた。

 

「私らしくないな……」

 

 私はふと、呟いていた。素行不良に対しては厳しく突っぱねていたのに。彼なんてまさに素行不良の鏡なのに。どうしてだろうか。

 まあ、いい。きっと今日の私はどうかしてたんだ。

 私も教室を出ようと足を向けた。

 すると腕時計型携帯電話からピピッと軽快な音が鳴った。私は普段警察の代わりに悪い奴をとっちめているため、こうして警察や軍から連絡が入ることが多い。また強盗かとため息を突きながら応答ボタンを押す。いい加減私抜きでもやってほしいものだ。

 

「ああ、ビーデルさんですか」

「どうしたの?」

 

 画面に写っているのは警察だ。やはりと思い、ため息をつく。ただ、画面に写る警官の顔は笑顔だった。事件ではないのか?

 

「実は、あなたのお父さんのミスターサタンが人造人間とこれから戦うんですよ。見に行かれたらどうですか?」

「パパが? ああ、そういえば宣戦布告したって行ってたわね。暇だし、行こうかしら」

「分かりました。まだ人造人間は現れていませんのでサタンシティの噴水前までお越しください」

 

 そういうと警官は電話を切った。私は学校を出て、サタンシティの噴水前まで向かう。

 そこにはすでにたくさんの人が集まっていた。なかにはうちの学校の生徒がいた。

 

「あ、ビーデル!」

「イレーザ! 来てたの?」

 

 私の親友のイレーザもその場にいた。イレーザは嬉しそうに頷く。

 

「シャプナーも来てるわ」

「へえ。ねえ、パパは?」

「中央の噴水の近くにいるわ。会いに行ったら?」

「そうさせてもらうわ」

 

 私は人混みの中に入り込み、どうにかパパのいる場所まで向かう。すると―――。

 

「っ!?」

 

 私は目を見開いた。あの人混みの中に、孫悟飯もいたのだ。しかも、かなり険しい表情だ。みんなお祭り気分で盛り上がっているのに、一人だけ神妙な空気を纏っている。

 話しかけようか迷ったが、とても近寄れない雰囲気だ。私は見なかったことにしてパパのところに向かう。

 

「おう、ビーデルか」

「パパ、自信は?」

 

 私を見つけたパパは、ジェスチャーで私を招き入れる。噴水の近くで両手を腰に添えて自信たっぷりに胸を反らす。

 

「愚問だなビーデル。パパが勝てない相手などいない。それは知っているだろう?」

「油断はダメよ。頑張ってね」

「分かった。下がっていろビーデル」

 

 パパはそういうと息を整える。ストレッチも念入りに行い、人造人間の到来を待った。

 そして数分後―――。

「あっ、人造人間が来たぞー!!」

 

 観客の一人が大声で叫んだ。それにつられてみんなの視線がサタンから離れる。町の入り口から歩いてくる二人組。あれは、間違いない。人造人間だ。

 男女二人組で、それぞれ17号、18号というらしい。一見私たち学生と観間違えるほどに若い。けれど心は残酷だ。

 

「ついにお出ましか……」

 

 パパはニヤリと笑う。観客もそれにつられてにやっと勝ち誇る笑みを浮かべる。

 

「お前たちもここまでだ!!」

「許さねえからな、泣いて謝っても許さねえからな!!」

「死ねよガラクタどもが!!」

 

 人造人間たちに皆が暴言を吐く。パパという後ろ盾がいるからこそだ。ただ、近くにいる孫悟飯は口を固く結ぶだけだ。

 数多い暴言を受けながら人造人間はパパの目前に立つ。ずいぶんと余裕そうだ。男の方がパパに近寄り数メートルの距離しかない。

 

「よう、人造人間ども。ここに来たからには、覚悟は出来ているだろうな?」

「なんの覚悟だよ?」

 

 男の方は挑戦的な眼差しでパパを眺める。ずいぶんと端正な顔立ちだが、やっていることは悪魔だ。

 パパはそれには直接答えず、あらかじめ噴水の近くに用意してあったバッグから何かを取り出した。瓦だ。それも合計15枚。パパの足元にそれを置き、一つ一つ丁寧に積み上げていく。

 

「……?」

 

 人造人間は不思議そうに見つめるが、この場にいる人は全員が気づいていた。これからパパのやろうとしていることに。

 パパは息をゆっくりと吸う。そして、大きく吐く。気合いは十分に入った。パパはじっと瓦を見つめる。場は静寂に包まれる。

 カッとパパの目が開き―――。

 

「てやぁぁっ―――!!!!」

 

 パパは手刀を構えて、勢いよく瓦のタワーに降り下ろす。命中した瓦は包丁で食材を切るように何の抵抗もなしに割れていき、次々に瓦が崩れていく。結果は14枚。僅かに一枚残しただけだった。

 

「ふぅ……」

 

 パパは手を擦りながら視線を人造人間に向ける。そしてにやっと笑い。

 

「貴様ら、この瓦が見えるか? ……これが貴様らの数分後の姿だ」

 

 わああああああああっっ!!

 その瞬間、野次馬が沸いた。痺れたのであろう。私ですら、すごいと思ってしまった。

 人造人間の方に視線を動かす。目を大きく見開き、言葉を発せずにいた。呆れているのか、それとも怖じけついているのか。私は後者だと思う。

 パパも随分得意げに歯を見せる。調子乗りすぎかもしれないけれど、珍しく嫌な気持ちはしない。人類の敵である人造人間が、今ここで倒されるからだ。

 決め台詞を言い終えて、パパは構える。それに対し、人造人間たちはただ笑うだけだった。

 

「どうした? 恐怖でおかしくなったのか? 無理もないだろう。この世界最強の格闘家であるミスターサタンを目の前にしているのだからな」

 

 パパの挑発に対しても耳を貸さなかった。代わりに、仲間である女のほうに話しかける。

 

「おい、少し遊んでやろうぜ?」

「好きにしなよ」

 

 その会話で、一瞬場が凍る。そして、かすかな失笑が漏れた。私ですら、少し笑ってしまう。

 

「おいおい、何が遊んでやるだよ」

「お前たちは遊ばれる側だろ?」

「サタンさん早く殺してください!!」

 

 野次馬たちが騒ぎ始める。パパはそれをなだめるように両手をあげる。

 

「遊ぶだと? とうとう頭までイカレちまったのか。残念だ、同情だけはしてやろう」

 

 パパが静かに諭すように言う。人造人間はパパをじっと見つめ、ニヤッと笑う。パパも、同じく笑う。

 

「……?」

 

 パパの目が一瞬細められる。見ると、人造人間が手をクイッと動かしている。招いているのではない。

 かかってこい、という意味だ。

 

「クックック……面白い」

 

 パパはかすれた笑いをあげる。そして、ぐっと足に力を込めるのが見えた。

 

「望み通り、叩き潰してやる―――」

 

 パパが飛び掛かろうとしたその直後。

 

「よせっ!!!!」

 

 鋭い声が飛んできた。

 私も含めて、大勢の人がそちらを振り返ると。

 そこには、例の転校生がいた。私服姿で、私のパパを厳しく睨んでいた。

 まるで、全員が冷や水を浴びせられたかのように、空気は極限にまで冷え切っていき、困惑の目線が彼に照射された。現に私も大いに困惑している。

 

「おや、孫悟飯じゃないか。生きていたなんてな」

「ああ。テレビでお前たちがここに現れるって聞いたからな」

「そうか。そりゃあうれしいな。いい暇つぶしにはなりそうだ」

 

 人造人間と、孫悟飯の会話をみんなが静かに聞いていた。しかし―――。

 

「お、おい!! 私を無視するな!! こいつらとは私が闘うんだ、だから―――」

「止めておくんだな。お前じゃ勝てない」

 

 その言葉で、再び場が凍った。そして―――。

 どっと笑いが起こった。私は笑いはしなくても、言葉が出なかった。彼は何を言っているんだ。お前じゃ勝てない? 何を根拠に?

 パパはまたもや両手をあげてなだめると、静かに孫悟飯に語り掛ける。

 

「おいおい、ジョークもほどほどにしておけよ。最近はそういうのが流行っているのか?」

「冗談じゃない。あんたと人造人間じゃ、レベルが違いすぎるって話だ。瓦を割った程度じゃ勝てるわけない。悪いことは言わないから、今のうちに逃げるんだ。じゃないと、死ぬぞ」

 

 なおも孫悟飯は主張を曲げない。それがますます失笑と怒りを買うというのに。

 

「いい加減にしろ……。さてはお前、このミスターサタンを知らないド田舎ものか? だとしたら口を慎んでくれ」

「ああ、俺はあんたのことなんて知らない。ただ、お前じゃ勝てないことは分かっている」

 

 孫悟飯は言うのをやめない。いい加減みんなも腹が立ってきた。私が何か言ってやろうと、詰め寄ろうとしたその時。

 

「いいじゃないか孫悟飯。この男にやらせてやれよ。自己責任だ」

 

 男の人造人間が孫悟飯に提案した。悟飯は相変わらずきつい視線を向け続けたが、ため息をついた。

 

「……チッ、初めて貴様らと意見が合ったな。分かったよ……ただしこれだけは約束しろ。殺すなよ」

「善処するよ」

 

 そういうと孫悟飯は口を結んで黙り込んだ。

 私は大いに腹が立った。なぜ、パパをそこまで馬鹿にするだろうか。人間的には確かに立派とは言い難いが、それでも強いところは尊敬できる。なのになんでそこまで馬鹿にするんだろう。

 気づいた時には、私は彼の胸ぐらをつかんで、野次馬が作る群れから引きずり出していた。

 

「あなた、一体どういうつもり? パパに何か恨みでも?」

「恨んでいるんだったらああいうことは言わないさ」

 

 私が低く脅すように言っても、まるでひるまない。目は真剣だが、それが余計に私の怒りを加速させる。

 

「パパは世界で最強なのよ? 死ぬはずがないし、絶対勝てるわ」

「……」

 

 孫悟飯は黙った。何も言い返すことがないのか。鼻を鳴らして、踵を返そうとしたその時。

 

「あいつは甘く考えすぎているんだよ……奴らは化け物なんだ」

 

 かすれた声が、背中に突き刺さる。おまけに歯ぎしりも聞こえる。

 私は振り返る。彼の顔は、ぎょっとするほどまでに険しかった。とても声をかけたいとは思えないほどに、ゆがんだ表情。私は逃げるようにパパのもとへと向かった。

 パパはすでに構えなおしており、ニヤッと再び決めた笑いを浮かべる。

 

「まったく……さっきのクレイジーな若造のせいで遅れてしまった。しかし問題はない。今ここで、貴様を倒してやる」

「ならこいよ。こっちは退屈なんだ」

「ふっ、それがいつまで続くか……」

 

 パパはじりっと足を引く。今度こそ飛び出す。

 

「試してやろう!!」

 

 パパは思い切り地面を蹴った。ものすごい速度で人造人間へと迫る。ストレートを決めるつもりなのだろう、まっすぐにこぶしを構え、胸板に視線を合わせている。

 

「喰らえっ!! サタンミラクルジャイアントスーパーアルティメットパーンチ!!!!」

 

 ものすごく長い技名を叫びながら、渾身のストレートを放った。手ごたえある打撃音が響く。これは決まった。確信した。ダウンは確実に取れるだろう。

 

「…………っ」

 

 人造人間は目を大きく見開き、腹をわなわなと震える手で押さえる。そして、数歩後ずさった。

 

「が、あああ……ば、馬鹿な……」

 

 涎を垂らしながら、膝まつく。空気を求めるように喘ぎながら、必死に呼吸しているのがわかる。その様子を見てパパは勝ち誇るような笑みを浮かべた。

 

「こんなものか? 手ごたえがないな……まあ、このミスターサタン様の敵ではないということだ、はーっはっはっは!!」

 

 パパの勝ち誇った笑みに人造人間は何も返せず、なおもあえぐ。このままとどめを刺せば―――。

 

 

 

 

「何ふざけているんだよ17号。演技はやめな、つまんないから」

 

 え。

 瞬間的に時間が止まる。演技? つまんない?

 はったりか? どういう意味なんだ?

 パパも目を見開いていたが、鼻を鳴らす。

 

「ふん、無理な話だ。あまりのミスターサタンの必殺技が強力すぎて、起き上がることすらできない」

 

 パパはそういうけれど。

 何か嫌な予感はした。

 

『あんたと人造人間じゃレベルが違いすぎる』

 

 ふと、孫悟飯の言葉を思い出す。彼の言葉は嘘っぱちだと思っていたが。

 まさか、それは本当のことだったの―――?

 

「全く……少しは楽しもうって気にはなれないのかな? 18号」

 

 パパの一撃を食らった人造人間は―――何事もなかったかのように立ち上がっていた。傷はおろか、疲弊した様子すらない。あまりにケロッとしすぎていて気持ち悪い。

 

「さて、ゲームの続きだ」

 

 人造人間は、舌で唇をなめながらパパに言った。

 

 




次は孫悟飯との戦いですね。
でひゃ、感想などお待ちしています。

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