ようこそ雪のいる教室へ 作:きーちゃん
「おはよう渡辺!」
「おはよう柴田!」
走り終えた後一度部屋に戻ってシャワーを浴びていたら時間が少し危うく、急いで教室に駆け込むとBクラスのお調子者担当の二人が満面の笑顔で挨拶していた。
周りを見てみてもどこか男子は浮足立っているように感じた。頻りに女子に視線を投げては逸らしてを繰り返している。
「おはよう、神崎くん。今日ってなんかあったっけ」
「あ、ああおはよう椿。あー……今日は水泳があったかな」
「なるほどね。それで」
隣の席の神崎に聞いて、男子の様子に納得した。
「……椿は不快じゃないのか?」
このクラスは男女ともに気軽に話している姿が見られるがそれでも今の男子を見て嫌な気持ちになっている生徒もいる。そんな人たちを見ながら神崎は聞いてくる。
「んー確かに見られることに良い気はしないけど、男の子もそういうお年頃でしょ?」
「そういうお年ッ、いやまぁそうだが……」
あれらと一緒にされるのは嫌だけど女子の水着は気になる、そんな様子の神崎は遠い目をしていた。
「水泳か……」
”雪”が得意だった、それこそ綾小路清隆にすらも勝っていた水泳。これがあるから今日は早く目覚めたのか。無意識の内に水泳の授業を楽しみにしていたのだろう。
*
水泳の授業がこれから始まるから更衣室で着替える。あまり周囲を見ないように。
周りは女子生徒たちが遠慮なく制服を脱いでいる。それなりに時間が経ったから自分の身体は流石に慣れたが他人となると別だ。とても申し訳ない気持ちになる。
「わ、雪ちゃんスタイルすご! 運動やってたの?」
近くにいた網倉が驚いたようにしながら近づいてくる。
「昔水泳をやってたから」
「そうなんだ。えー凄いなぁ。やっぱり雪ちゃんって憧れちゃう」
俺の後ろから抱き着いてきた網倉はなんだか危ない目をしていた。
「ちょ、ちょっと?」
「えへへ」
どんどん俺の身体を触る手付きが怪しくなっていき、流石に逃げるかと考えだしたら助け船が出された。
「はーい雪ちゃんが困ってるからやめようねー」
子供をあやすように網倉を引きはがした一之瀬に俺は感謝の意を伝え更衣室を出た。
プールサイドに出ると数人の女子と、男子は全員いた。男子は既にプールに入ってはしゃいでいるが、女子を意識していることは明白でそれを感じ取った女子たちが何故か俺のもとに来た。
「ごめんね。椿さんがいてくれたらなんか安心して」
俺にはそんな雰囲気があるらしい。網倉もそうだが妙に懐かれるな。高円寺はいらないが。
「おい渡辺、椿さん来たぞ……」
「お、おう」
渡辺が挙動不審になりながら俺のことを見てきている。柴田と何か会話しているが距離があってわからなかった。
暫く待っていると残りの女子たちがやってきた。
皆魅力的だがやっぱり一之瀬が頭抜けているな。このクラスの男女比は半々だが、男子の視線の殆どが一之瀬に向かっている。確かに一之瀬みたいのがいたら気になってしまうのはわかるが。女子ですら一部羨望の眼差しを送るものもいる。
「お前ら集合しろー」
招集がかかったため教師のもとに集まる。
如何にもなマッチョ体型で一目見ただけでも体育教師だとわかる。
「欠席者ゼロか。うん、流石はBクラスだな」
感極まったように頷く先生は不思議なことを言う。Bクラスと欠席ゼロになんの繋がりがあるというのか。
「早速だが、皆には泳いでもらう。もちろん今泳げない奴がいても、俺が夏までに泳げるよう指導する」
部活動を除いて学校の敷地外に出ることを禁じている学校がなにを言ってるのだろう。これでは夏にイベントがあると言ってるようなものだ。
とりあえず先生の指示通りに泳いだ。一部先生の補助などがあったが大半が泳げるようだ。
「よし。いい感じだ」
先生は満足そうに頷いた。
「ではこれから男女別に50メートルを競ってもらう。1位を取った生徒には5000ポイントの支給だ。逆に最下位だった者は放課後補習を与えるから頑張れよ」
その宣言に運動が得意な生徒からは歓声が、得意でない生徒からは悲鳴が上がった。
放課後の時間に水泳の補習なんて嫌だとみんな奮起している。
それからレースが始まったが結果から言うと、男子は柴田が女子は俺が1位だった。俺は自分の実力ではないが言わずもがな、柴田はサッカー部で早くも頭角を現している逸材らしく水泳もできるようだった。
ここの雪ちゃんは若干愛され気味。本人は自覚してないけど何でも卒なくこなす器用さとクールな感じが高嶺の花を演出してるけど、目を合わせて話を聞いてくれるしどこかお姉さん味のある所が人気らしい。