ようこそ雪のいる教室へ 作:きーちゃん
11話
5月1日。この学校での生活もひと月が経った。
俺はスマホを点けてポイント振り込み履歴を確認した。そこには0時ちょうどに6万5000ポイントが振り込まれたことが表示されていた。
「思ったよりも減っているな」
4月の最後の週になってくると学校への慣れからか授業中にちょっとした私語や居眠りが目立つようになっていた。
しかし教師は誰一人として注意をすることはなかった。精々が眠っている生徒を心配する程度だ。それも大丈夫だとわかれば興味を失ったようにしていた。
このことからもポイントに影響していることは察していた。注意することはできたがしなかった。一度痛い目を見たほうが後々いいと思ったからだ。
「みんな混乱してるな」
俺たち生徒がよく利用しているメールアプリにはひっきりなしに通知がきていた。
個人の方で俺に聞いてくる子もいたが基本はBクラスグループで情報交換が行われていた。内容を精査していくと、支給されたポイントの報告からなんで? と言った純粋な疑問、交友関係の広い生徒から提供された他クラスのポイント事情まで様々だ。
Dクラスの0ポイントという情報には思わず笑ってしまいそうになった。ただチャットには可哀想という声で溢れていて身から出た錆とは思ってなさそうだ。
俺はそろそろ通知も鬱陶しくなってきたから「HRの時間に先生に聞けばいいと思う」と一文打った。
*
「みんなおはよ~」
いつもの雰囲気で星之宮がやってきた。生徒たちは穏やかに返しているが質問したくてうずうずしている。
「今日から5月だねみんな! 学校には慣れたかな? 彼氏彼女はできた? 先生気になるっ!」
ボケてるのか天然なのか知らないが空気が読めてないことはわかった。どんどん冷えていく教室の中で星之宮のほんわかとした声が響く。
「雪ちゃんはどう? 彼氏できた? 隣の席の神崎くんとかクールイケメンで良さげだけど、そこんとこどう思ってるの?」
突然俺に切っ先が向いた。この人俺になんか言いたげだ。
流れ弾を食らった神崎は面白いくらいに肩を震わせこちらを見ている。それと何故か渡辺も。
「私では神崎くんに釣り合わないと思います。それよりも先生こそ大丈夫ですか? 仕事に真剣なのはいいことですがチャンスを逃しますよ」
「ごふっ……」
星之宮が吐血して倒れ伏した。どうやら最近破局した噂は本当だったようだ。
「よ、容赦ないね……」と近くに座る二宮が引き攣った顔をして言っている。
「神崎くんごめんね」
気まずそうにしている神崎にウィンクをして謝る。
「うっ……い、いや、俺の方こそ釣り合ってないというか……」
目を逸らしてゴソゴソと呟いている。挙動不審だ。
「ま、まぁ冗談はおいといて、本題に移ろうか……」
自分から振っておいて手痛い反撃を喰らった星之宮は決してこちらを見ずに話を進めた。これはまた嫌われたかもな。
「とりあえずこれがみんなの知りたいことかな」
そう言って黒板に大きな紙を貼りだした。そこには各クラスのポイントが記載されておりBクラスは650だった。
「これが今月支給されたポイントなんですか?」
「そうだね。みんなが気を抜かずに授業を受けてたらもう少し多かったかもね~」
一之瀬の疑問に答えていく。さりげなく公開された情報に身に覚えのある生徒は気まずさから身体を小さくした。
「こういったことは事前に教えてもらうことはできなかったんですか?」
「聞きに来たら教えたよ。でも殆ど誰も聞きに来なかったからね。一から十までこっちから教えることはないから。疑問があったら聞けってそれ社会の常識なんだ。ここは会社じゃないけどね」
頭の回る生徒は薄っすらとだが疑問を残していたことだろう。だがそれを放置してしまったからポイントを減らしてしまった。一之瀬なんかは苦い顔をしている。
だがダメージが少なくて良かった。しかし0ポイントのDクラスは後悔しか残らないだろうな。
「それと、この学校は優秀な人ほど上のクラスに配属されてるんだ。Aから始まって我らがBクラスは二番目。5月でクラスが変わるなんて波乱も起きなかったね」
「クラスが変わる……?」
「うん。このクラスポイントの数字によって上にも下にもいくよ。この制度にも理由があって……」
そこで一度溜めた。
「この学校が謳う『望む進学先・就職先に100%叶う』、これ半分嘘ね。Aクラスしか効かないから」
今日一番の爆弾が投下された。
ここまで一之瀬が矢面に立っていたことで平静を保っていた生徒たちもこれには驚きを隠せず、阿鼻叫喚とした。
「ちょ、知恵ちゃん先生っ、そんなの聞いてないですよ」
「うん。言ってなかったからね」
憤慨する生徒に星之宮はどこまでも淡々としていた。
「だってねぇ。ただ三年間学校通うだけでどこでもいけるなんて旨い話あるわけないでしょ。この学校に入るのは狭い門だけどここから先は更に狭い門だから。大丈夫。Aクラスの背中は見えてるからみんなならいけるよ」
どこまでも根拠のない言葉を言う星之宮はどこか自分に言い聞かせるようでもあった。
雪:また嫌われたかもな。
→嫌われました。クラスのために全く行動しない雪ちゃんにもどかしさを覚えた星之宮は意趣返しのつもりで絡みましたが、あの子を普通の学生と思うなかれ。大ダメージを受け消えない傷を刻まれました。