ようこそ雪のいる教室へ 作:きーちゃん
対策会議を開いた翌日から俺たちBクラスは中間テストに向けて勉強会を行った。
学力に不安が残る生徒は成績優秀者が見て、中間に位置する生徒たちは各々勉強する方式だ。幸いこのクラスの学力最低値はそこまで悪いものではないし、成績不良者の数は少ない。正直そこまでみんなが心配するほど過酷なものではない気がしている。
「これはこう、かな」
「あっほんとだぁ! ありがとう雪ちゃん」
先日の小テストではあまり良い点数とは言えない網倉に教えている。
前世だとテストの度にひいひい言って凌いでいた記憶があるが今世では教える側に回ってしまうとは。それに雪は天才肌ではなく努力の人だったようで沢山の勉強をこなした記憶がある。人に教えるには持ってこいの人材だ。
それにしても網倉はヘルプを求めてばかりだが考えているのだろうか。
「なぁ、網倉と椿の距離近くね?」
「あぁ。てか網倉が寄ってるんだよ。くそ、羨ましい……」
なんか男子がヒソヒソ話をしているが無視だ無視。あいつら成績不良者だろ。
「それでよぉ――」
「おお――」
少し雑談が混じりつつも順調に勉強を進めていると、廊下から大きな話し声が聞こえてきた。
最初は誰も気にしなかったが外の声は収まるどころか大きくなる一方で、勉強している生徒たちのイライラが溜まっていった。
「ねえちょっとうるさくない?」
「うん。もう少し静かにしてくれないかな」
次第に手が止まりはじめ勉強どころではなくなりだした。集中が切れてきてこのままではあまりよろしくない。
「俺が見てくる」
黙々と勉強していた神崎が勢いよく立ち上がると教室を出て行った。あいつ、鬱憤溜めてたのか。だとしたらやばいな。
俺は神崎の後を追おうとドアに手をかけた所で廊下から怒声と思しき声が聞こえてきた。
「みんなは教室にいてね」
余計な混乱は招きたくなかったから生徒たちを中に押し留めて、廊下に出ると少し離れた所に神崎を発見した。その近くでは不良然とした男が二人立っていてひどく驚いたようにしていた。
「神崎くん? どうしたの?」
俺が声をかけると神崎はハッとした顔をしてばつが悪そうにした。
詳細を聞き出そうとすると廊下の奥から間延びした声が聞こえてきた。
「ちょっとちょっと~? すっごい大きな声が聞こえてきたけどなに~、揉め事?」
星之宮だ。放課後の時間になぜここにいるのかわからないが最悪のタイミングであることは明白だ。
「先生! 俺たち急に彼に怒鳴られたんです!」
「君たち、誰?」
「俺、いえ自分はCクラスの近藤です」
「僕もCクラスの野村です」
こいつらがさっきまで廊下で騒いでいたのだろう。そこに神崎が行ったが何かをして怒りを買った。流石に神崎も出会ってすぐに怒鳴ることはないだろう。何か事情があるはずだ。
「で、神崎くん? この子らが言ってるのは本当?」
「……怒鳴ったのは本当です。ですが、二人の大きな話し声が教室の中まで聞こえてきて、勉強中だったのもあり注意したのですが、勉強する俺たちを無駄な努力をするがり勉集団と馬鹿にしてきて、ついカッとなって……」
なるほど。それは怒るわけだ。偏見だがこいつらは勉強をしている風には見えないから余計に腹立たしいだろう。
「ふぅーん? 食い違いが起こっちゃったねぇ。どっちが正しいかな」
「ん?」と星之宮は首を傾げつつも俺の方をチラチラと見てくる。何とかしろと目で言ってきている。
「先生。その時私は偶然スマホで録音していたのですが証拠になりますか?」
「はっ?」
「あら、そうなの?」
「はい。英語のリスニングのために録音機能を使用していました。私の声が混じっていますが……」
「あーそれは大丈夫よ。最近の技術って凄いから一部の音声の抽出とかできるらしいの。時間をくれたらできると思うから、ちょっとの間スマホ借りていい?」
「はい。お願いします」
どんどん自分たちの立場が悪くなっていくことに気付いた近藤たちの顔色が悪くなっている。今彼等は必死に打開策を考えているだろう。
「ならそういうことでいいのかな? 今ならちょっとしたいたずらってことで済むけど」
「あ、ははは……思えば僕たちにも非はあったり、なんて……あーそのぉ、」
俺は神崎に目配せをすれば頷いて口を開いた。
「今回はどちらも非を認めることで済みませんか?」
「私としてはこの場で収まることが理想だけど……」
「はい! それでお願いします!」
両者がこの場で謝ることで今回の件は無事終息した。
近藤と野村は一瞬で逃げて行った。
「一件落着~!」
「はぁ……」
俺に抱き着いてくる星之宮はのんきなもんだ。平気でBクラスを贔屓して、今後不利にならなければいいが。