ようこそ雪のいる教室へ 作:きーちゃん
「綾小路くん、昨日振りだね」
「お前は、椿だったな」
昼食をとろうと食堂に行ったら偶然綾小路と出会った。
「食堂はよく利用してるの?」
「重宝している。自炊もできないしな」
確かにホワイトルームで料理は教えられてないな。料理も立派な技能なんだから身につけさせてもいいと思うけど。
「椿もここでよく食べてるのか?」
「そうだね。楽だしボリュームあるし出来立てを食べられるから気に入ってるよ」
「……そうだな」
綾小路は頻りに頷いている。しっかりここで美味しいものを食べているようだ。
ホワイトルームは健康だけを考えた味気ない食べ物のみを毎日食わされていた。それしか知らなければ何とも思わないかもしれないが、一度ちゃんとしたものを食べたらあの生活はなんて質素だったのかと愕然するだろう。
「? 券売機行かないの?」
「あぁいや、ちょっとな」
中に入ったものの壁際に立って周囲の様子を窺ってるから聞いてみると歯切れ悪そうにしている。
「オレのことは気にしなくていいぞ」
「……もしかして過去問を?」
「!」
食事の注文をしている人たちを観察しているからもしやと思ったが正解だったようだ。そういえばDクラスは昨日図書館でテスト範囲が変わったことを知ったんだったか。
「椿たちは既に入手済みなのか?」
「ううん。Bクラスはずっと勉強してるから過去問がなくても乗り切れるよ」
「それは……いいことだな」
何とも言えない顔をしている。多分Dクラスはcpだけじゃなくて学力の面でも苦労が多いのだろう。
それにしても、初めての学校で特にひどいDクラススタートというのは気の毒だ。可哀想に思った俺は勝手に綾小路に着いて回ることにした。
「あっ、あの人いいんじゃない?」
「あぁ。オレもそう思った」
二人で意見が揃った人は、俺が最初に頼んだことのある無料の山菜定食を持っている上級生らしき人だ。
綾小路が足早に近寄っていくから俺も付いて行く。「いつまで来るんだ?」という視線は気付かないふりをしておく。
「すいません。先輩、ですよね」
「……なんだお前たちは」
彼は箸を手に持ってこれから食事というタイミングで声をかけられたわりに不機嫌になってはいなかった。ここから得られた情報として俺たちが裏をもって接触してきたことを察していそうだ。
「Dクラスの綾小路です」
「同じくDクラスの椿です」
ここはBと名乗らない方がいいと思いクラスを偽る。
先輩は俺の嘘に気付くことなく流した。
「先輩もDクラスですよね?」
「……それがどうした」
「無料の山菜定食を食べる人は限られていますから」
要するにお前ポイント弱者だろと言うことだ。
ここで先輩は少し苛立ちを露わにして席を立とうとするが綾小路が用件を持ちだした。
「先輩が1年の時に行われたこの時期の中間テストの問題を持っていませんか。それを譲ってもらいたいんです」
「……いくら払える」
「10000。これが上限です」
「無理だな。最低でも25000……いや20000は出してもらう」
俺の方を見ながら逡巡して訂正した。自分で言うのはあれだが、やはり可愛い女の子の前だと優しくなるんだな、男って。
その先輩の様子を見て綾小路が強気に出た。
「いえ。10000ポイントが限界です」
「おまえっ、交渉ってものを知らねえのか」
「先輩……私たちポイントが枯渇してるんです。聞いてませんか。Dクラスが0cpだっていうの」
「それは……聞いたことあるが」
「テストを乗り越えたら希望は見えてくるんです。後輩を助けると思って、お願いできませんか?」
俺が内心ゲロ吐きながら先輩の手を両手でぎゅっと握って色仕掛けもどきをしたら折れてくれた。
「ぐっ、……わかった。10000ポイントで手を打ってやる」
「ありがとうございます。ついでと言ってはなんですが、小テストの答案も付けてくれませんか」
「あぁっ? ああもうつけてやるよ! それで満足か!?」
「はい。本当にありがとうございます」
もう自棄になったようで、結構図々しいおまけもつけてくれることになった。
先輩はもうここにいたくないとばかりに席を立つと離れた所に行った。
「椿も、助かった。よく話を合わせてくれたな」
「私が勝手についてきたからね。足を引っ張らないようにやっただけだよ」
「出来過ぎだ。2万弱は見ていたがまさか1万で済むとは」
「あれも立派な交渉術だよ。これからは一人でやるんじゃなくて、昨日の可愛い子たち連れてくるといい」
俺は綾小路に5000ポイントを送る。
「……これは?」
「私もポイントを用いた取引は初めてだったからその勉強料。遠慮せずに受け取りなよ。Dクラスがポイント枯渇なのは本当でしょう?」
「そうだな。ならありがたく貰うぞ」
その後はあの先輩から送られてきた小テストを見て全ての問題が同じであることを確認した。信用し過ぎるのもよくないが、この分だと中間テストも確定的だろう。
そんな確信を二人でして別れた。