ようこそ雪のいる教室へ   作:きーちゃん

17 / 34
17話

 星之宮が教室に入ってきたのを生徒たちはすぐに察知して視線を向ける。先日中間テストが行われ、今日が結果告知だと言われていたからみんな気になっているのだ。

 

「はーい。みんなも知ってると思うけど今からテスト結果を発表してくよー」

 

 星之宮の様子はいつもと面白いほど変わらない。これで急に誰かが退学ですなんて言われたら信じられなくなるが、黒板に張り出されていく点数を見る限り生徒たちの点数はどれも高い。ずっと行ってきた勉強が実を結んだ結果となった。

 

「赤点は誰もなしで退学者もなし! みんな頑張ったね~」

 

 純粋な称賛の声にみんなの張り詰めていた表情が緩んでいった。

 

「今回のテストで退学者を出さなかったご褒美として、夏休みにバカンスに行けるからみんな楽しみにしててね」

「えっ! バカンス!?」

 

 思わぬサプライズに驚きと歓喜に満ちた声が辺りから聞こえてくる。

 

「そうよ~。海を堪能しながらビーチでキャッキャウフフってね。気になるあの子のちょっとエッチなビキニ姿を拝めたり……」

 

 どこか危ない目をした星之宮につられて男たちがごくりと唾を飲む。

 ただ、頭の回る生徒は感情を爆発させずに冷静に分析している。

 

「先生。そのバカンスというのは期間はどれほどでしょうか。また、cpは変動するのでしょうか」

 

 浜口の質問にみんなハッとなり固唾を吞んで見守る。この学校が生徒たちに無条件の休暇を与えるのかどうかということに気付いたのだろう。

 

「日程は、1週間以上は少なくともあったかな。cpについては、みんながちゃんとやってたら大丈夫なんじゃない?」

 

 なんとも曖昧だがあっちも教えたくても教えられないのだろう。でもその中でも情報は含まれている。

 1週間以上となるとなにかしらのイベント、cpが大きく動くような催しが実施されてもおかしくない。また、この学校のポイント周りの情報が極秘なことを考えるに外部の人間と接触する機会はなさそうな気がする。そうなると貸切で施設を利用するのか、はたまた無人島にでも行くのか。

 

「今回はみんなよくやったから自分を褒めてあげてね。あ、でもこれから授業があるから準備も忘れずに」

 

 正直ここまでの情報でお腹いっぱいでこれから授業を受ける気にならない。だがクラスの誰かが赤点じゃなくて良かった。もしそうなっていたら今日の授業の雰囲気は最悪だったろう。

 そういえば他のクラス、特にDクラスは大丈夫だろうか。過去問は綾小路が入手したからちゃんと共有に成功していたら大丈夫だと思うが少し不安だ。

 

「雪ちゃんちょっとだけいい?」

 

 そこで星之宮から招集がかかり、一度教室を出ることになった。

 

 

 

 

「どうしたんですか? 教室から離れて」

 

 連れられるがままに廊下を歩いて行く。横を歩く星之宮は先程の陽気な雰囲気は鳴りを潜め神妙な顔をしていた。

 

「雪ちゃんってさ、とっても優秀なのに馬鹿だよね」

「はい?」

 

 褒めと罵倒を一緒にくらって困惑を隠せなかった。

 

「雪ちゃんはこの学校の歴史の中でも群を抜いて優秀な子って言われてるんだよ。それこそ歴代最高の生徒会長と言われてる堀北くんの入学当初と比較してもね」

「ありがとうございます?」

 

 あの生徒会長はそんなに凄い人なのか。確かに雰囲気は凄まじかったのは覚えている。

 

「だからね? 君はクラスの子と一緒に前だけを向いてほしいな。あんなDクラスの子を助けてないでさ」

 

 なるほど。綾小路と一緒に過去問を得たことは筒抜けらしく、それが星之宮は気に食わないようだ。他の教員は知らないが星之宮はAクラスに並々ならぬ思いを抱えてそうだもんな。それは今までの行動の節々に感じられたし実際生徒に言い聞かせるように日頃から呟いている。

 

「これは雪ちゃんのためでもあるよ? これからもそんなスタンスでいたらクラスから信用されなくなっちゃう」

 

 そのリスクは確かにあるだろうな。クラス問わずこの学校の生徒はみなAクラス卒業のみを目指していて、俺みたいなのは異端だ。

 

「私の言いたいことはこれだけ。あんまり生徒を誘導するようなことは言ったら駄目なんだけど雪ちゃんのことは大切に思ってるからさ。ね?」

 

 ポンポンと俺の頭を撫でるようにしてから星之宮は来た道を戻って行った。

 

「どの口が言うんだか」

 

 俺を大切に思ってるのはAクラスを目指せる人材だからだろ。あの人も人間ということなんだろう。結局自分の理想を叶えたいだけだ。大人の事情を子供たちに押し付けないでもらいたいものだ。

 

「俺も戻るか。……ん?」

 

 教室へ戻ろうかというところで奥から綾小路と図書館で見かけた黒髪の女の子が歩いてくるのが見えた。女の子の雰囲気は少し暗く、またピリピリとしていた。

 綾小路が俺のことを見て目をぱちくりとさせると、駆け寄ってきた。その目は「丁度いいところに」と言わんばかりだ。

 俺はまたしても星之宮の機嫌を損ねそうだと予感した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。